スタートアップでの採用方法 (Sam Altman)

 

資金調達を終えたスタートアップにとって、次なる最大の問題は採用です。良い人材を雇うことは実に難しくもあり、実に重要でもあることが分かります。実際、創業者のやることの中で最も重要かもしれません。

採用がうまくいかなければ成功もありません。会社とは創業者が作り上げるチームによって生み出されるものです。独力で有力な会社を作り上げられるはずはありません。自分なら平凡な従業員を使って良い仕事をさせられる、と信じ込むのは簡単です。

これから採用についてのアドバイスをいくつか挙げていきます。

もっと多くの時間を割こう

採用にとうてい十分な時間を費やしているとは言えない創業者が圧倒的多数を占めています。自らのビジョンを把握して Product/Market Fit を実現したあと、採用には3分の1から2分の1の時間を採用に費やすべきかもしれません。これはばかばかしく聞こえるでしょう。いつだって他の仕事が山ほどあります。ですが、採用はあなたがやれることの中で最もレバレッジの大きいものです。また、素晴らしい企業は常に必ず素晴らしい人材を抱えています。

この作業は外注できません。人材を特定し、有力候補者に自社で働く気を起こさせ、面接に来る全員と会うことはあなたがやらねばなりません。会社の従業員が少なくとも500名になるまで、CEOまたは創業者が全ての候補者に面接を行うべきだと、Keith Raboisは確信しているそうです。

初めのうちは、嫌な仕事も自分でやってみよう

時間の使い方について言うと、誰かを雇う前に、あなたはそのロールを学ぶことに時間を使うべきです。ロールのことを理解していなければ、適切な人材を得ることは非常に難しくなります。この典型的な例は、ハッカーのCEOが自分の嫌な仕事をしたくないという理由で営業部長を雇おうと決めることです。これはうまくいきません。彼はまずその仕事を自分自身でやってみて、詳しく知る必要があります。そしてそれから、彼は取締役会や投資家に対し、最終候補者数名に関する意見を求めるべきです。

聡明で結果を出せる人材を探そう

特定の役割で必要とされるものには、必ず何かしらの特殊性があります。一方で聡明さと結果を出せることは最低要件でなければなりません。人々は驚くほどの頻度でこれらの要件を諦めています。そして予想通り、そのような雇用者はスタートアップの初期でいい結果を出しません (ずっと結果を出さない可能性もあります)。

幸運なことに、聡明で結果を出せる人を探し出すのは簡単です。

候補者がやってきたことについて、彼らの話を聞いてみましょう。最も印象的だったプロジェクトや最大の成功について尋ねてみてください。具体的には、普段は時間をどのように使っているか、先月中に終わらせたことは何かを尋ねましょう。成功したプロジェクトを自分の手柄にするのは簡単です。特定の領域について掘り下げ、その候補者が実際にやったことを尋ねてみましょう。あなたがいま抱えていて、面接の対象となっている役割と関連する問題をどう解決するかを尋ねましょう。

推薦状を確認する際に適切な質問を組み合わせれば、たいていの場合、彼らが結果を出せるかどうかについての十分な感触が得られるでしょう。そして通常、1時間の会話が終わるまでにはその知性を判断できます。その面接の中で何も学ぶことができなければ、それは良くありません。その面接中にあなたが退屈してしまうならば、それは実に良くありません。良い面接は質疑応答ではなく、会話のように感じられます。

スタートアップにおいては、あなたの雇うあらゆる人が3~6か月間のうちに新しい仕事に取り組んでいる可能性が高いことを肝に銘じてください。そうした環境に順応できるのは聡明で結果を出せる人間です。

面接を行う代わりに、そのロールのオーディションを受けてもらおう

これこそが私の行うアドバイスの中で最重要な戦術的要素です。わずかな面接を終えてみても、ある人と一緒に働くのがどのような感じかを知るのは困難です。その人と一緒に働いたあとでなら、その人と一緒に働くことがどんな感じかを知るのはかなり簡単です。

可能な時はいつでも (そして可能な場合がほとんどですが)、ある人を雇う前に1日か2日、あなたと一緒に仕事してもらいましょう。開発者と面接しているならば、実際の、しかし重要でないプロジェクトのためにコードを書いてもらってください。広報関係であれば、プレスリリースを書いてもらい、売り込み先の記者も割り出してもらいましょう。その人と請負契約を交わして、通常の請負業者に対するのと同じように、この仕事に対する報酬を支払ってみてください。

この人と一緒に働くとどんな感じなのか、その人はこの役割がどれほど得意なのかについて、ただ面接の中で得るよりもはるかにずっと良い感覚を得られるはずです。そして相手もあなたの会社で働くのがどういった感じなのかが分かるはずです。

候補者を調達する適切な方法に注目しよう

これはずばり言うと、基本的には「自分の個人的な人脈をもっと利用する」ということです。少なくとも従業員数が10の桁まで、私が今まで見てきた中で最も良い候補者の供給源は友人、そして友人の友人です。たとえこのような人々を得られるかどうかが分からなかったとしても、最高の人材をしつこく追い求めましょう。結果的に5%の時間を費やすことになったとしてもなお、そうする価値はあります。

私の知る最高のスタートアップはどこも、想像をはるかにしのぐ長時間をかけて、なんとかこのような人材を雇っています。最悪のスタートアップはそれをしないことの言い訳をするものです。

誰かを雇うときにその人が逸材だと確信したらすぐ、その人と膝を交えながら、採用を試みるだけの価値がある全員の名前をなんとか聞き出すべきです。これについてはかなり頑張らなければならないかもしれません。

素晴らしい人材を得るためには、引き抜かなければならないことも多くあります。そのような人は決して職を探してはいないので、採用活動は求職中の人だけに限らないようにしましょう。難しい問題なのは知り合いからの引き抜きについてはどうすべきかということです。これに対する見事な答えを私は持ち合わせていません。友人はこう言っています。「引き抜きはシリコンバレーでの人間関係においては子供の悪ふざけみたいなものだ」。

テクニカルリクルーターはかなり酷いものです。求人掲示板はもっと酷いのが通常です。カンファレンスは良いかもしれません。興味深い技術講演会を主催するのも技術者を雇うには良い可能性があります。あなたの会社がそれなりの地位を確立していれば、大学での採用活動もうまくいきます。

捜索範囲を自らの地域内にいる候補者だけに絞ってはいけません。サンフランシスコ・ベイエリアではこれが特に当てはまります。この場所では多くの人々が転職したがります。

候補者の調達は長期的投資だと考えましょう。今は仕事についての話すら交わさない誰かと、いずれ1年間以上一緒に過ごすことになるかもしれません。

候補者を見つけるためには投資家やその人脈を活用しましょう。投資家向け更新メールの中で、自分が雇わなければならないのがどういう種類の人間なのかを知ってもらいましょう。

ちなみに、もしも私が採用活動関連のスタートアップに積極的に関わることになったならば、私はできるだけそれを個人的人脈による採用方法に似せようとするはずです。なぜならそれが役立つと思えるからです。自社にいる全員がある候補者とどのように結び付いたのかを確認できるとともに、社内にいる人々の個人的人脈を検索できるサービス (LinkedInはセールスを雇う場合にはうまくこれをこなすかもしれませんが、開発者の場合にはあまりうまくいきません) がぜひ欲しいと思っています。

ミッションを設定しよう。そして、自分がどれだけ多くセールスしなければならないかに驚かないように

うまく採用するためにはミッションが必要です。候補者は素晴らしいチームと一緒に働きたがっているだけでなく、あなたの示したミッションを信じていなければなりません。例えば、「なぜこの仕事は自分が引き受けていたかもしれない他の仕事よりも大切なのか」などです。素晴らしいチームを暴走させずに仕事させるためには、人をワクワクさせるようなミッションを示すことこそがあなたのやれる最高のことかもしれません。

創業者としてのあなたは、誰もが自分と同じように会社にワクワクしていると思い込むことでしょう。実際には、誰もそうは思いません。候補者があなたの示すミッションにワクワクできるよう、多くの時間を費やす必要があります。

あなたが良い使命を設定し、それを受け入れさせるのが上手ければ、あなたは必要なレベルをわずかに超えた人材を得られるでしょう。とは言え、急成長するスタートアップでは、どのみち彼らはすぐに、自分自身でもあまり準備できていないな、と感じるような役割を割り当てられるはずです。

候補者と近づくのに役立つよう、取締役会や投資家たちを活用すべきです。

誰かを得ようと心に決め次第、接近モードへと気持ちを切り替えましょう。新規雇用者にとって直属の上司となる人物は (そして理想的としてはCEOも) その候補者と親しくなるためにできる全てをやるべきです。また、その人と大体1日1回は話した方がいいでしょう。

自分の好きな人材を雇おう

Stripeでは、このことを「日曜テスト」と呼んでいると思います。これは「この人物と一緒に過ごしたいから、という理由で、日曜でもオフィスに入る可能性は高いだろうか」というものです。あなたが一緒に働く人を好きであることは適切なタイプの社内文化にとってはかなり重要です。私がこれまで経験した中で、 私が好きでない以外の面において非常に良い候補者だった、という状況はたった数回だけです。一度だけ、そういった人物を雇いました。そしてそれは間違いでした。

そうは言っても、少なくとも考え方にはいくらか多様性が欲しいということを肝に銘じておきましょう。一律にもっていて欲しい特質 (誠実さ、知性など) もあれば、全範囲を網羅するようにもっていて欲しいものもあります。

採用のために文化的バリューを設定しよう

自分は文化的バリューにどうあって欲しいかを理解するために多くの時間を使いましょう (インターネット上には良い例がいくつかあります)。会社の全員がその文化的バリューがどういうものかを知り、それを受け入れている状態に必ずしましょう。雇う人は誰であろうと文化的に適合しているべきです。

Andrew Masonは次のように述べています。「バリューとは、利害の対立 (例えば、成長 vs 顧客満足) が発生している状況において、創業者のあなたが下すようなような決断を個人個人が下せるようにする意思決定の枠組みです」。

あなたのバリューを教条として扱いましょう。このバリューに従って候補者を選抜してください。他の部分が良い候補者でも文化的に適合していなければ諦める覚悟を持ちましょう。意見やある種の特徴に多様性がある (例えば、チームにおたくとスポーツマンの両方を欲しがる) のは良いことです。一方、スタートアップにおいて、バリューの多様性は悪いことです。

自分のやり方にこだわり過ぎるために、あなたのバリューを決して支持しない人々も存在します。もしかすると、あなたは最終的にそういう人々を解雇することになるかもしれません。

ちなみに、創業間もない頃にはリモートでの雇用を避けましょう。社内文化はまだ固まっていないときは、全員が同じ建物にいることが大切です。

妥協はしない

スタートアップでのつらい仕事においては、いつもすぐにでも人手が必要な状況になります。また、特定の仕事を終わらせなければならないため、そこまで聡明でない人や文化的に適合していない人を雇いがちです。創業間もない頃に関して言うと、決して妥協してはいけません。たった一つのだめな採用を長らく放置しておくことは会社を殺しかねません。平凡な人間を雇うくらいなら、取引を失ったり、製品やら何やらで遅れが出たりする方がマシです。

素晴らしい人は他の素晴らしい人を惹きつけますが、平凡な人物を建物内に招いてしまうと、そのような現象全体が解消されてしまうかもしれません。

待遇は惜しまないようにしよう。ただし、主にエクイティで

スタートアップではほぼ全ての面で節約すべきです。例外は素晴らしい人材への報酬です。

とは言え、気前よくすべきなのはエクイティの面です。理想を言うと、最終的に大体の相場よりもわずかに低い給料を支払いつつも、非常に太っ腹なエクイティ・パッケージを用意します。「経験を積んだ」人材は個別のバーンレートが高めなことも多く、彼らに多く支払わなければならないことも時にはあります。ですが、通常は素晴らしい会社が (経験こそが本当に重要となるいくつかの役割を除いて) 経験を積んだ人材によって作り上げられているわけではないことを肝に銘じておきましょう。

こう言うと批判を受けることは百も承知ですが、適切な戦略を言うと、もしあなたが相場よりも高い給料をもらいたいのであれば、エクイティ報酬のない大企業で働くべきです。

理想を言うと、その人がキャッシュフローについてストレスを感じないだけの十分な金額を支払うべきです。エクイティはより難しくなりますが、最初に採用する20名に適したルールは投資家たちが提案するもののおよそ2倍になると思われます。良好とは言え、絶対的ではないブレークアウトの軌道に乗っている会社の場合、私が見てきたおおまかな数字は最初のエンジニアには約1.5%、20番目には約0.25%というものです。ですが、かなり大きなばらつきもあります。

ちなみに、大きな成功を収めているYCカンパニーは全てのエンジニアで、事実上一律の給料となっていますが、うまくいっているようです。この人々がよそで得られるであろう給料よりも少ない額でありながら、明らかに彼らはその仕事を楽しみ、そのエクイティがかなりの価値になるだろうと確信しています。このような契約を結ぶタイプの人々こそ、スタートアップに欲しい種類の人材です。また、とても悪い事態が起こらない限り、現時点でのこのエンジニアたちは、他の場所で得ていたはずの高給をしのぐ金額を手にする方向へ向かっています。その労働環境がどれほどはるかに優れているかは言うに及びません。

あなたが多少の交渉をしなければならなくなる可能性は高いです。そのやり方を学びましょう。一般的に、誰かを得るために自社の報酬体系を実質的に破壊してしまうのは悪いアイデアです。うわさが立ち、全員に動揺が広がることでしょう。

赤信号を警戒し、自分の直感を信じよう

面接または交渉プロセスにおいて、あなたが警戒すべきこともわずかにあります。それは通常、その人がスタートアップでは成功しないということを示すものです。一例として、肩書への注目が挙げられます。そして、「私の組織には何名くらいの部下がいることになるだろうか」などといったことに注目するのはそれよりもずっと悪い例です。この手の注目点に関するセンスは極めて迅速に養われていきます。それを軽視しないでください。

うまく言葉にはできないけれど採用したいと思うのであれば、採用しましょう。

常に採用活動中でいよう

残念ながら、採用活動は取引活動のようにはいかないのが普通です。採用活動は常に行うものだと見なさなければなりません。今すぐ人を割り当てなければならない役割があるときに採用活動を開始する、というものではないと考えましょう。その過程では予測不可能なことがかなり多く発生します。今後2か月間は必要でないけれど、ある役割に最適な人を見つけたとしたら、やはりその人物は直ちに雇うべきです。

迅速に解雇しよう

十分なスピードで解雇している新人創業者にお目にかかったことはありません。そして、数年経ってからこの教訓を学んでいない創業者と会ったこともありません。

全ての雇用者を適切な状態にはできません。明らかにうまくいっていないとき、今後うまくいくようになる可能性は低いです。いずれ良くなるだろうという非現実的な望みに固執するよりも、すばやくたもとを分かつ方が関係者全員にとって良いことです。これはあなたが解雇しなければならない人物にこそ特に当てはまります。その人が2、3か月間、ただただあなたの会社にいたとしても、将来の面接では取るに足りない問題です。また、会社にいる他の全員はその人物がいい結果を出せていないことにあなたよりも早く気付いているかもしれません。

誰かを解雇しなければならないというのは創業者がすべきことの中でも特に嫌なものです。しかし、それには何とかけりをつけなければいけません。その方が事態を長引かせるよりもうまくいくと信じましょう。

採用プロセスについて、多少の厳密さを設定しよう

チーム全員に対して、各自が面接した全ての候補者に関わる採用/不採用の決定に積極的に関与させましょう。また、その意見も詳しく書いてもらいましょう。あなたが誤った場合、これはあとから振り返るのに役立ちます。候補者が帰ったあとで、面接チーム全体による簡単な対面での話し合いを行うと良いでしょう。

誰かにその候補者を昼食や夕食に誘ってもらいましょう。全員に対して時間に遅れず、面接やオーディションに備えておくように要求しましょう。全ての候補者があなたの会社に対して好印象を抱いたまま帰るように徹底してください。

面接はきちんと整理された状態にしておきましょう。例えば、面接プロセス全体を調整したり、取り上げたい全ての話題を確実に取り上げられるように徹底したり、全面接の終了後に行う会議に人々を招集したりといったことを一人の人物が行うべきです。また、「全会一致の賛成が必要か」など、採用か不採用かを決める方法についての一貫した枠組みも設定しておきましょう。

あなたのチームが行う仕事が素晴らしかったとしても、彼らが素晴らしい面談者ではない可能性があることも忘れてはいけません。面談のやり方を教えることが大切です。

雇わない

やると見栄えが良さそうだからというだけの理由で、多くの創業者たちが人を雇っています。そして、人々はいつも従業員の数を尋ねてきます。ほとんどの場合、企業は小規模であればあるほどうまくいきます。時間を使って自分に実行可能なプロジェクトや仕事の最小限について考え、できる限り小規模なチームにそれをやらせることには常に価値があります。

雇うために雇うのはやめましょう。「自分がやりたいことをするためには、他の方法がないから」という理由で人を雇いましょう。

 

幸運を祈ります。採用は非常に難しくも、とても大切な仕事です。そして人を雇ったあとは、その人を引き留めなければならないということも忘れないでください。従業員と連絡をとること、良いマネージャーであること、全員参加の定例会議を開くこと、人々が幸福かつ意欲をかき立てられた状態であるように徹底することなどを忘れずに実行してください。あなたの会社にはモメンタムがあるという印象を常に保ち続けましょう。それが有能な人材を雇い続けるためには大切です。人々に対してはおおむね6か月ごとに新たな役割を与えましょう。そしてもちろん、自社に有能な人材を引き込むことを重視し続けましょう。それだけで他の優秀な人材を留まり続けたいと思わせられることでしょう。

新たな才能ある人を常に特定し、昇進させていきましょう。新たな問題を解決することについて考えることよりもセクシーではないとは思いますが、これがあなたを成功に導くはずです。

この記事の草稿に目を通してくれたPatrick Collison、Andrew Mason、Keith Rabois、Geoff Ralston、Nick Sivoに謝辞を述べます。

 

著者紹介 (本記事投稿時の情報)

Sam Altman

Sam Altman は YC グループの社長です。彼は Loopt の共同創業者兼 CEO でした。Loopt は 2005 年に Y Combinator に投資され、2012 年に Green Dot に買収されました。Green Dot で彼は CTO を務め、現在は取締役です。Sam は Hydrazine Capital も創業しました。彼は Stanford でコンピュータサイエンスを学び、その間 AI lab で働いていました。 

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: How to Hire (2013)

FoundX Review はスタートアップに関する情報やノウハウを届けるメディアです

運営元