スタートアップのアイデア、プロダクト、チーム、実行力 パート2 (Startup School 2014 #02, Sam Altman)

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※前回の講義はこちら。

前回の講義に関する質問で、時間が無くてお答えできずにメールでいただいていたものがありますので、本日の講義に入る前にお答えしたいと思います。前回の講義に関して質問がある方はどうぞ。では、あなたから。

Q. ある市場が、現在急成長しており今後10年間もその勢いが続くかどうかは、どのように判断すれば良いのでしょうか?

A. 幸いなことに、学生の皆さんには、それに対する強みがあります。とにかく自分の直感を信じることです。年長者は、若者が使用しているテクノロジーについて想像しなければなりません。しかし皆さんは、自分や友人がやっていることを観察するだけで、ほぼ間違いなく年長者に比べて直感的に判断できると思います。ですから、自分の直感を信じ、自分がしていることについて考え、自分や同年代の人々が使っているものについて考えるというのが答えです。それが未来の市場につながると考えてほぼ間違いないと思います。

では、前回の講義に関する質問にあと1つだけ答えて本日の講義に入りましょう。

Q. バーンアウトすることなく、生産的であり続けるにはどうしたら良いでしょうか。

A. 下手な回答かもしれませんが、前に進み続けることです。学生であれば、「勉強にはもううんざりした。今学期の成績くらい下がっても構わない」と放り出してしまうこともあるでしょう。しかし、スタートアップを経営する上で難しいことは、これが現実であり、逃げずに向き合うしかないということです。休暇を取りなさいというのがよくある答えでしょうが、創業者にはそれは通用しません。理解し難いですが、全身全霊をかけて取り組むことです。

つまり、前に進み続けるしかないのです。人を頼ることはとても重要です。創業者が意気消沈するのは深刻な問題で、自分をサポートしてくれるネットワークが必要です。しかし、バーンアウトを乗り切る方法として言えるのは、とにかく試練に立ち向かうこと、うまくいっていない問題に取り組むことです。やがて事態は良くなるでしょう。

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前回の講義ではアイデアとプロダクトについてお話ししましたが、私が強調しておきたいのは、これらについて正しく理解していなければ、他のことを学んでも何の役にも立たないということです。

本日は、採用と実行について話をします。自分が採用した人間を「execute(処罰)」するようなことがないよう望みますが、時にはそういうこともあるかもしれません。

チーム

共同創業者

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では、共同創業者に関する話から始めましょう。共同創業者との関係は、会社全体にとって最も重要です。よく言われることですが、共同創業者との関係が悪化していないか注意し、そうなった時には直ちに対処しなければなりません。

これはその通りで、YCカンパニーの場合でも、スタートアップが早々に破綻する第一の原因は、共同創業者間の関係悪化です。しかし、どういうわけか、共同創業者を選ぶより従業員を採用することを重視する人が多いのです。それは間違っています!共同創業者を選ぶことは、スタートアップの一生において最も重要な意思決定の1つであり、その重要性を理解しておく必要があります。

学生は共同創業者選びが下手

学生は共同創業者選びが下手です。「自分はビジネスを始めたい、君もビジネスを始めたがっている、なら一緒にスタートアップを始めよう」といった具合に、学生は簡単に共同創業者を選びます。

まるで共同創業者向けの出会い系サイトのように、「私は共同創業者を探しています。お互いのことはよく知らないけど会社を始めませんか?」などと相手を探すのは愚の骨頂です。皆さんは人を採用する際にこんなやり方はしないと思いますが、人は往々にしてそのようにビジネスパートナーを選んでしまいます。

これは実に危険なことです。行き当たりばったりで共同創業者を選んだり、付き合いの浅い人や親しくない人を選ぶと、事態が本当に悪化した時にそうした経緯が仇となって、大抵は悲惨な結果に終わります。

あるYCのバッチでは、約75社中9社が、私たちとの面接からスタートアップ開始までの間に新しく共同創業者を雇いましたが、その9社全てが翌年中に破綻しました。共同創業者が互いを熟知していない会社は失敗することが多いのです。

共同創業者を見つける方法は「大学で探す」こと

共同創業者を見つける良い方法は、大学で探すことです。大学生ではなく、共同創業者もいないという場合は、ユニークな会社で働いてみるのも良いでしょう。FacebookやGoogleのような会社なら、Stanford大学と同じくらい多くの共同創業者にふさわしい人物が存在するでしょう。優秀でない共同創業者ならいない方がましですが、創業者が1人というのはやはり好ましくありません。

講義前、私はここにあるデータに目を通しました。ざっと数えたので見逃したものもあるかもしれませんが、YCカンパニーの中で企業価値がトップ20の大半は少なくとも2人の創業者がおり、創業者が1人である企業への資金提供は10社に1社程度だと思います。

つまり、知り合いを共同創業者にするのがベストで、その次が単独での創業です。学生がやりがちな、行き当たりばったりで選んだ共同創業者は最悪です。

共同創業者に求めるものは「粘り強く、臨機応変である」こと

有望な共同創業者や従業員について考えると、「自分が本当に求めているものは正しいか」という疑問が出てきます。

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YCでよく言うフレーズに「粘り強く、臨機応変であること(relentlessly resourceful)」があります。確かに粘り強く臨機応変な共同創業者が必要ですが、YCのキックオフで紹介している面白い例を挙げます。これはPaul Grahamが使い始めたものですが、私もそれに倣って使っています。

007 のような人を選ぼう

共同創業者としてふさわしいのは、いかなる状況でも自分がすべきことを理解している冷静でタフな人間です。迅速に行動し、決断力があり、創造的で、あらゆる事態に対処できる人物。実はそのモデルはポップカルチャーに存在します。とてもくだらなく聞こえますが、少なくとも非常に印象的です。昔からYCの講義で話しており、役に立っていると思います。

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そのモデルはJames Bondです。馬鹿げているかもしれませんが、少なくとも印象的な例えでしょう。特定の分野における専門家よりも、James Bondのように行動できる人物が必要です。

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先ほどお話ししたように、皆さんにとって本当に必要となるのはある程度の期間、理想的には数年の付き合いがある共同創業者です。これは特に設立当初の従業員採用にも当てはまります。ちなみに、共同創業者の選択よりも初期の従業員採用をうまくやっている場合が多いです。

まず、学校という場を利用してください。粘り強く臨機応変であるだけでなく、タフで冷静な共同創業者を見つけてください。聡明な共同創業者が求められることは自明ですが、タフや冷静さはそれほど優先されません。自分自身がタフで冷静な人間ではないと思う場合は特にそのような共同創業者が必要です。

技術者を雇えばいい、という考え方は間違っている

技術に疎い場合、ここにいるほとんどの人は技術には詳しいと思いますが、技術的な共同創業者が必要です。昨今のスタートアップで、「技術的な共同創業者は必要ない。技術者は従業員で雇えばいい。私たちは経営者なのだから」とよく言われていますが、これはおかしな話です。

私たちの経験では、そういう考えでは大抵失敗します。ソフトウェア分野の人はソフトウェア関連の企業を始めるべきで、メディア分野の人はメディア関連の企業を始めるべきです。

人数は2~3人がベスト

YCの経験では、2~3人の共同創業者がベストに近いと思われます。1人は明らかに良くなく、5人では多すぎます。4人がうまくいく場合もありますが、2~3人が適当だと思います。

従業員を極力採用しないこと

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採用に関する2点目は、なるべく従業員を採用しないことです。起業して気付くのですが、不思議なことに、必ず会社の従業員数を聞かれます。従業員数はスタートアップがいかに真剣で、うまくいっているかを測る尺度です。従業員数が多ければ大いに感心してもらえますが、少なければ悪ふざけだと思われてしまいます。

少ない従業員で成し遂げていることを誇る

しかし実際には、多くの従業員を抱えるのは最悪で、従業員が少ないことは誇るべきです。従業員を多く抱えているとバーンレートの上昇、つまり毎月の支出増、そして複雑化や意思決定の長期化など、問題が増えるばかりで良いことはありません。

つまり、少ない従業員でどれだけ多くのことをやり遂げているかを誇りに思うべきです。YCカンパニーで最も優れた会社の多くは、初年度には非常に少ない従業員でやっていて、中には創業者のみという場合もあります。それらの会社は、できるだけ少人数の従業員で続けていこうとします。

起業当初はどうしても必要な場合だけ従業員を雇うべきです。その後、迅速に従業員を採用することを学んで会社をスケールアップさせる必要がありますが、当初はなるべく従業員を採用しないことです。起業当初に間違った採用をしてしまうと、コストがとても高くつくからです。実際、私が関わった中で、最初の3人ほど間違った人材を採用したために失敗に終わった企業がたくさんあります。まさに致命的なことです。

Airbnb は最初の従業員を5か月かけて雇った

Airbnbは最初の従業員を5カ月かけて面接し、初年度に雇ったのはたった2人でした。彼らは採用前に、Airbnbの従業員に求める文化的価値観のリストを挙げました。その1つに「Airbnbのために全てを捧げる」とあり、その価値観に賛同できない者は採用されませんでした。

AirbnbのCEOであるBrian Cheskyの熱心さを物語る例を紹介しましょう。彼は応募者に「あなたは余命1年と医者から宣告されてもわが社で働きますか?」と尋ねていたそうです。さすがにこの質問は少々過激すぎたと思って後に「余命10年」と変更したようですが、私が最近聞いた時もまだこの質問をしていました。

雇った従業員は会社を定義する存在となるので、採用は本当に重要です。創業者の信じるものを同じように信じてくれる人が必要です。Cheskyの質問は行き過ぎかもしれませんが、会社が危機に直面する際に共に立ち向かう非常に献身的な従業員の文化を作り上げました。会社が当初大きな危機に直面した際、従業員全員がオフィスに泊まり込み、問題が解決するまでプロダクトを毎日リリースし続けました。Airbnbについて注目すべき点は、最初に入社した従業員約40人は、誰もが創業の一端を担っていると感じていることです。

非常に高い基準を設定して採用に時間をかけることで、全ての人にミッションを知らしめ、それを達成することができます。

最良の人材を獲得する

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絶対に必要でなければ、従業員を採用すべきでないという警告は、裏を返せば、ひとたび従業員が必要となったら、最良の人材の獲得を創業者の最優先事項とするべきだということです。プロダクトが必要となればプロダクトが、資金が必要となれば資金調達がそれぞれ最優先事項とされるべきなのと同じことです。

創業者は、いかに従業員の採用が難しいかということを軽視しがちです。素晴らしいアイデアがあれば人は集まってくると思うかもしれませんが、それは違います。優れた人材には魅力的な選択肢がたくさんあり、採用するのに1年程度はかかります。

採用とは長期的プロセスであり、彼らが有する選択肢の中で皆さんの会社のミッションが最も重要であると納得させる必要があります。これは、プロダクトをしっかりと作り上げることが何よりも重要であるもう1つの理由です。優れた人間は宇宙ロケットに乗り込むべきだということをよく理解しています。

ちなみに、スタートアップで働こうという人に対する私からのアドバイスは、宇宙ロケットを選ぶことです。つまり、すでに成功をおさめていても、誰もが知っているわけではなく、皆さんが注目しているからこそ見極められる、今後成長していきそうな会社を選びましょう。繰り返しますが、皆さんならこういう会社を見つけられます。しかし、そのことを理解している優秀な人は、その会社が成長軌道にあることを見極めてから入社するものです。

採用にかける時間はゼロか25%

今朝の話ですが、採用にどれほどの時間を費やすべきかという質問をオンラインで受けました。その答えはゼロか25%です。これは全く採用を行わないか、単独で最も多くの時間を費やすかのどちらかです。実際、経営に関する本はどれも自分の時間の50%を採用にあてるべきだと書いています。

しかし、このようなアドバイスをしている人でも10%費やしている人はほとんどいないでしょう。25%でも多いですが、一旦採用にとりかかったらその程度は費やすべきだと言えます。

凡庸な人を雇うとあとで後悔する

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妥協して平凡な人間を雇ったら、そのことをずっと後悔するでしょう。これは私たちが創業者によく警告しているのですが、彼らは間違いを犯して初めてその意味を理解します。これは文化に悪影響を及ぼしかねません。大企業なら平凡な従業員が何らかの問題を起こしても、それが会社にとって致命的となることはないでしょう。しかし、スタートアップが最初に採用した5人の中にそのような人間が1人いると、命取りとなることが多いのです。

私の友人は、面接で使う会議室に、採用候補者が面接中に見えるような場所に「平凡なエンジニアは優れた会社を生み出せない」と掲示しています。これはまさにその通りです。大企業ではこういう人は本流から外れるため問題になることはありません。しかし、スタートアップでは全ての人間が重要な役割を担うため、最初の5~10人の採用における妥協が会社にとって命取りになりかねません。

自分が雇う1人1人について「この1人に会社の未来を託せるか」と考える必要があります。これは難しいハードルです。会社が成長した暁には、採用について妥協することもあるでしょう。期限に追われることもあるでしょうし、後悔もするでしょう。しかし、理論と実践は異なるもので、こうした時に何をすべきかは後の講義で話してもらいます。とにかく、起業当初に採用の失敗は許されません。

学生が間違いやすいもう1つの点が、候補者の供給源です。最も良い人材は、自分が以前から知っている人々や社内の人間が以前から知っている人々の中にいます。大企業のほとんどでは、最初の100人またはそれ以上の従業員が個人の紹介によるものです。多くの創業者は、自分や従業員が知っている人間に声をかけることに抵抗を感じます。しかし、FacebookやGoogleに入社すると、最初の数週間のうちに人事部の人間がやってきて、自分の知り合いの中から採用に値するような聡明な人材をリストアップするよう言われます。

このような個人的紹介は、まさに採用のカギですが、シリコンバレーの外に目を向けてみるのも手です。シリコンバレーではエンジニアの採用は競争が激しいですが、それ以外の場所でも皆さんと共に働きたいと考えている人間がいるでしょう。

経験が重要な時もあるし、そうでないときもある

創業者から多く寄せられる質問に、経験について、またそれがどれほど重要かということがあります。簡潔に答えますと、経験が重要となる役割もあればそうでない役割もあります。会社の大きな部門を担当する人間を採用する場合は、経験が大いに重要となるでしょう。

スタートアップ当初に行う採用については、経験はそれほど重要にはならないでしょうし、自分がやっていることへの適性や信念を追求すべきです。私がこれまで採用した優秀な人物は、ほとんどが未経験者でした。ですから、経験が必要となる役割かどうか考えることは大きな意味があります。しかし、特にアーリーステージでは、経験が重要にはならない役職の方が多いでしょう。

採用時に考慮すべき3つの点

採用時に私が考慮する点が3つあります。

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その3つとは、スマートか、仕事をやり遂げられるか、自分はその人と多くの時間を過ごしたいか、です。そして、話を聞いてこの3つ全てにイエスと言える場合、決して後悔しませんし、大抵の場合は問題ありません。この3つについては面接を通じてよく知ることができますが、一番良い方法は共に働くことです。

つまり、過去に一緒に働いたことがある人を採用するのが理想的であり、その場合は面接も必要ないでしょう。これまで一緒に働いたことがない人の場合は、採用前に1~2日程度のプロジェクトで一緒に仕事をしてみるのが良いと思います。そうすれば互いに多くのことを学ぶでしょう。初めて起業する創業者の大半は面接が下手ですが、一緒に働いた人を評価することには長けているものです。

面接するよりも、一緒にプロジェクトをすること

ですので、YCでは、面接よりもプロジェクトをして一緒に働いてみなさいとアドバイスしています。面接をする場合は、過去に携わったプロジェクトについて具体的な質問をする必要があります。そうすれば、難問を投げかけるよりもその人物についてよく知ることができるでしょう。

技術者である若い共同創業者は、なぜかこれまでの経験を聞くよりも難問をぶつけたがります。しかし、相手が携わったプロジェクトを深く掘り下げて聞くことが重要です。

リファレンスでは具体的な質問をする

そして、照会先にリファレンスをとってください。これも初めて起業する創業者が省略したがる点です。面接相手と以前一緒に働いていた人物に連絡を取り、曖昧な質問ではなく、具体的な質問をしてください。「この人物はあなたがこれまで一緒に働いた人の中で上位5%に入りますか?」「この人物が具体的にしていたことは?」「この人物をもう一度雇いたいですか?」「もう一度雇わない理由は?」などです。こうした問い合わせは必ず行ってください。

コミュニケーションスキルが重要

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YCカンパニーと話をしていて気付いたのは、優れたコミュニケーションスキルは採用の成功と相関する場合が多いということです。

以前、私はこの点に関心がありませんでした。では、スタートアップのアーリーステージにおいてコミュニケーションが大切である理由について詳しくお話ししたいと思います。話しづらい人や明快なコミュニケーションがとれない人は、仕事をやり遂げるという点において深刻な問題となります。

アーリーステージで雇う従業員は、リスクをとることを厭わない姿勢が必要となります。そのような人物はだいたい見つけられるでしょうが(そういう気質がなければ、彼らはスタートアップに興味を持たないでしょう)、スタートアップはいわば流行なので、本当にある程度のリスクをとれる人が必要となります。McKinseyとスタートアップのどちらに入るべきか天秤にかけている人は、スタートアップに来てもうまくいく可能性が極めて低いです。

また、非常に意志の強い人材も必要となりますが、これはリスク耐性を持っていることとは少々異なります。ですから、両方を求めるべきです。ところで、何か質問があったらいつでも言ってください。

アニマルテストをする

Paul Grahamによるアニマルテストという有名なテストがあります。これは従業員をそれぞれの仕事ぶりから動物に例えるものです。英語でうまく表現できていないかもしれませんが、走り出したら止まらない人材が必要ということです。しっかり仕事をやり遂げる人材が必要となります。一般的に、アーリーステージでの採用に関して非常に満足している創業者は、このような従業員の仕事ぶりを絶賛しています。

かつてMark Zuckerbergは、A)付き合っていて楽しい人で、B)自分と相手の立場が逆転しても気持ちよく部下として仕事ができる人を採用するよう努めていると語っていました。この素晴らしいフレームワークに感銘を受けました。従業員全員と友人である必要はありませんが、少なくとも彼らと一緒に働くのが楽しくあるべきです。そういう人物を採用できなければ、少なくとも深く尊敬できる人物を採用すべきです。しかし、その人物と多くの時間を過ごしたいと思わない場合は、自分の直感を信じるべきです。

エクイティは最初の10人に10%を配る

採用に関連して、従業員へのエクイティ分配についてもお話ししておきたいと思います。創業者は常にこれで失敗しています。概算ですが、最初に採用した10人の従業員に約10%のエクイティを分配することを目指すべきだと思います。

いずれにせよ、彼らがそれを獲得するまで4年かかりますし、成功を収めればそれ以上の貢献をすることになります。彼らは会社の価値をそれ以上に増加させてくれますし、そうでなければ会社に残っていないでしょう。

どういうわけか、創業者は従業員にエクイティを分配することを渋る一方、投資家に対しては非常に寛大です。これはまったく逆で、創業者が多く犯している間違いの1つだと思います。従業員は、長い年月をかけて会社の価値を高めてくれる唯一の存在です。投資家は小切手を切ってはくれますが、約束したほどたいしたことはしてくれないものです(たまにはしてくれますが)。長い年月をかけて会社を築いていくのはまさに従業員です。

ですので、投資家と交渉して彼らが手にするエクイティを減らし、従業員にできる限り多く分配すべきだと私は思います。この点についてうまく対応しているYCカンパニー、つまりアーリーステージで入社した従業員に対してエクイティを手厚く分配している会社は、私たちが資金提供している中でも最も成功を収めています。

従業員の継続に力を割く

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創業者が1つ忘れているのは、従業員を雇ったら彼らを継続していかなければならないということです。これに関しては後ほど講義で取り上げるのでここで細かい話はしませんが、この点を理解していない創業者があまりに多いので、少しお話ししておこうと思います。

創業者は、従業員が満足し、評価されていると実感するよう努めなければなりません。ですので、エクイティ分配も非常に重要です。従業員は、スタートアップに加わることにワクワクしている時はこの点を重視しませんが、年月を経て自分が正当に扱われていないと感じ始めると、不満が蓄積されていきます。

マネジメントスキルを学ぼう

しかしそれ以上に、マネジメントスキルを多少学ぶことは大いに役立ちます。これは初めてCEOとなった人が大抵苦手としている点です。この夏YCで講義をしたあるスピーカーは、現在では大きな成功を収めていますが、アーリーステージでは苦労を重ね、従業員に辞められたことも何回かありました。最大の悩みは何だったかと尋ねられ、彼は次のように答えました。「従業員に辞めてほしくないなら、毎日従業員を責めるべきではありません。本当に全員辞めてしまいますから」と。

しかし創業者としてこれは自然なことです。自分は何でも完璧にこなせると思っていて、それができない従業員を指摘してしまうのです。ちょっとしたマネジメントスキルを学べば、チームの大きな混乱を回避することができます。

創業者はチームを褒め称えるのが苦手です。私もこれを理解するまでしばらく時間がかかりました。良いことが起きればチームの手柄にし、悪いことは創業者が責任を負う必要があるのです。

従業員をマイクロマネジメントしてはいけません。少しずつ責任を与える必要があります。これは創業者の頭にないことです。初めて起業する創業者は、自分が出来の悪いマネジャーであることを認識して、それを補おうと心がけると良いでしょう。

Dan Pinkは、従業員にやる気を出させて良い仕事をしてもらうための3つの要素、すなわち自律性、熟達および目的について講義をします。私は自分の会社を経営していた時、これらについて考えたことがなかったのですが、その後考えるようになりました。今はこれらが重要であり、考える価値があると思っています。また、従業員と1 on 1で明確なフィードバックを与えられるようになるまで、しばらく時間がかかりました。

これらはいずれも、初めてCEOとなった人が自然にできることではありません。これをお伝えすることで皆さんのお役に立てると思います。

早く解雇する

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チームセクションの最後のパートは、うまくいかなかった場合の解雇です。ここで私が何を言おうとも、うまく解雇に対処することは難しいでしょう。しかし、解雇は経営における最悪な事態の1つですので、ここでお話ししたいと思います。

私の経験でも、最悪だと言えます。初めて起業する創業者は皆、従業員の能力がいずれは向上すると期待して待ち続けてしまいます。しかし、うまくいかなかった場合は、早く解雇することです。それは、会社にとっても当の従業員にとっても良いことです。とはいえ、これは実に痛ましく気分の悪いものなので、誰もが最初のうちはうまく対処できません。

仕事ができない従業員だけでなく、a)社内政治を生み出している従業員、b)常にネガティブな従業員も解雇する必要があります。他の従業員はこうした従業員を認識しており、会社にとって非常に有害です。これもやはり大企業では許容できるかもしれませんが(私自身は懐疑的ですが)、スタートアップにとっては命取りとなります。ですから、そういう類の従業員がいないか気を付けてください。

従業員を迅速に解雇することと、アーリーステージで入社した従業員に安心感を与えること、これらのバランスをどうとるか。1度や2度の失敗をしたからといって、その従業員は仕事ができないということではありません。誰でも1度や2度、またはそれ以上の失敗はするもので、従業員を責めるのではなく、大きな愛情をもって、共に働くチームのメンバーとして扱う必要があります。

あらゆる意思決定を間違えている者は対処しなければなりません。その時点で社内の人間には知れ渡っています。これは数回の失敗ということではなく、その従業員が行うこと全てにおいて、自分なら逆のことをするだろうと思う場合です。人の考え方を左右できなくても、どの考えを持った人を選ぶかということは可能です。従業員が数週間や1カ月の間常に全てにおいて間違っていれば、創業者も気付くでしょう。

理論上これについて確信を持つことは難しいかもしれませんが、実際の場面で疑問に思うことはほとんどありません。1度や2度しか失敗していない人間と、何においても常に失敗している、問題を起こしている、他者を不快にさせている人間との違いは一目瞭然です。

共同創業者との関係性

エクイティの配分は早めにする

共同創業者がエクイティ分配を行うべき時期はいつでしょうか?

なぜか、ほとんどの創業者や共同創業者はこの問題を後回しにしたがります。中には、これに関する話し合いを先延ばしできるような内容で会社設立の文書を締結する者もいます。

これは時間の経過と共に容易になる議論ではなく、他者と仕事を始めた直後に決めておくことが理想的です。そして、ほぼ平等に分配するべきです。例えば、同比率のエクイティを共同創業者に渡したくないと思う場合は、その相手を共同創業者として求めているのかどうか胸に手を当てて考えるべきだと思います。しかしいずれにせよ、会社の設立後間もなく、せめて数週間のうちには決めておくべきです。

経験不足は問題ないとお話ししましたが、時間を経ても従業員が役割に応じた成長をせず機能しなくなってきていることをどうやって判断すればいいのでしょうか?

本当に聡明で新しいことを学べる人は、そのうち必ず組織の中で役割を見つけます。彼らを当初の役割から別の役割へ移すことがあるかもしれません。ある人をエンジニアチームのリーダーとして雇っても、チームが50人になった時にその人が相応に成長できていなければ、別の役割を与える方が良いかもしれません。本当に優秀な人は社内で自分に適した役割を見つけられますし、それがあまり問題となることはないと思います。

共同創業者との関係が壊れたとき

次に、共同創業者との関係がうまくいかなくなった場合はどうしたらいいでしょうか。メカニクスに関しては後で講義を設けていますが、これは創業者が失敗する最も重要なポイントです。

全ての共同創業者にべスティング条項を設けるべきです。基本的に、べスティング条項は、共同創業者が辞める場合どうするかを事前に交渉しておくことです。シリコンバレーでは一般的に、エクイティ分配を折半にしていても、それら全部を獲得できるのは4年後です。年数は1年後からカウントするので、退職する際に手にするエクイティは1年後なら25%、2年後なら50%となります。

こうした取り決めをせず、予期せぬ悪い事態が起こり、1人の創業者が会社の半分のエクイティを持って辞めることになれば、会社の資本は大打撃を受け、投資家からの資金調達が困難になります。こうした事態を防ぐためには、エクイティに関するべスティング条項を設けておくことです。

私たちは現在、創業者のエクイティに関するべスティング条項が設定されていない会社への出資はほとんどしていません。そうした状況は最悪だからです。もう1つのアドバイスは、共同創業者間における問題はどんな会社にでもある程度存在することですが、早く話し合いをして事態を悪化させないことです。

ベストとは言えない従業員を雇うか、競合他社に顧客を奪われるか、どちらかを選ばなければならない場合、どうするでしょうか?最初に入社する従業員5人の場合なら、顧客を失う方を選びます。優秀でない従業員が会社に打撃を与え、会社がなくなることを考えれば、顧客を失う方がましです。その後は事情が変わるかもしれませんが、一般的に判断が難しい問題です。

共同創業者が同じオフィスに勤務していないのはどうでしょうか?後にこの話には触れようと思いますが、答えは、だめです。基本的にチームがリモートで働くことに関して私は懐疑的ですが、コミュニケーションとスピードが何よりも重要となるスタートアップのアーリーステージでは、ビデオ会議などは機能しません。これまでに成功を収めたソフトウェア企業30社の中で、共同創業者が違うオフィスにいる会社を見つけようと思っても1社もないでしょう。

実行力

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では、実行力の話に進みましょう。大半の創業者にとって、実行とは会社経営において楽なことではありませんが、最も重要です。多くの共同創業者は、こうした素晴らしいアイデアを実行に移したら、雑誌の表紙を飾り、パーティー三昧だと思っているかもしれません。

しかし何よりも重要なことであり、共同創業者という役職の本当の意味は、こうしたアイデアを実行するには何年もかかり、人任せにできないということです。

優れた実行力を持つ会社を作るには、創業者自身が優れた実行力を持っていなければなりません。スタートアップでは、あらゆることに関して創業者がモデルとなります。創業者の行いが文化となります。一生懸命働き、細部にまで目を配り、顧客を重視し、倹約の姿勢を忘れない文化を築きたければ、創業者自身がそうでなければなりません。それが唯一の方法です。

自分が会議に出席する代わりにCOOを雇って仕事を任せることはできません。従業員は、一心不乱に実行し続けるマシンのような創業者の姿を見たいのです。最初の講義で説明したように、素晴らしいアイデアを持つ人が100人いれば、そのアイデアを見事に実行するために努力を惜しまない人はわずか1人です。アイデア自体に価値は何もなく、実行に移して初めて価値が創造され付加されるのです。

実行力で重要となるのはとにかく努力することですが、その点について学ぶことはたくさんあります。これについては3回の講義に分けて説明します。

CEO の5つの仕事

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CEOといえば、私がいつも聞かれる質問にCEOの仕事は何かというのがあります。ここではアーリーステージでの5つの仕事(おそらくそれ以上あると思いますが)を説明します。

最初の4つは皆さんがCEOの仕事として思い浮かべるものです。ビジョンの設定、資金調達、採用予定の従業員、幹部、パートナー、マスコミ、あらゆる人々へのミッションの説明、そしてチームの結成と管理です。

そして5番目は実行基準の設定で、これは大半の創業者が興味を感じず、自身が行う仕事だと考えていません。しかし、実際には最も重要なCEOの役割の1つであり、CEOにしかできないものだと考えます。

実行力は「何をすべきか」を決めて、「それをやり遂げる」こと

実行力については主に2つの質問に分けられます。1つ目は何をすべきか理解しているか、2つ目はそれをやり遂げることができるか、です。

では、すでに何をすべきか理解しているという前提で、仕事をやり遂げるという点に関して2つお話したいと思います。

(1) フォーカス

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その2つとはフォーカスと強度です。フォーカスは非常に重要です。私はよく創業者に、「皆さんの時間とお金を何に費やしていますか」と質問するのですが、その答えで創業者が何を重要と考えているかがほぼ分かります。

創業者にとって最も難しいことは、毎日100件もの重要な懸案事項の中でどれに手をつけるかを選択することです。その中で2つか3つ対処するものを見極め、残りは無視するか、誰かに任せるか、後回しにするかを判断しなければなりません。様々な法律事務所での面談、会議への出席、アドバイザーの採用など、創業者が重要だと考えることの多くは重要ではありません。

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本当に重要なことは時と共に変わりますが、これは重要なアドバイスです。創業者は最も重要なこと1~2件を判断し、とにかくそれらに取り組むことです。

様々な出来事が待ち受けているため、創業者が日々取り組めるのはせいぜい2~3件です。毎日予想外の試練が訪れる中で、それら2~3件を見極められないと、仕事をうまくやり遂げられないでしょう。

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しかし、創業者にとってこれは実に難しいことです。創業者は新たな挑戦に喜びを感じるものですから。

たくさんの「ノー」を言うこと

優れた実行力の秘訣は、たくさん「ノー」と言うことです。皆さんは100回のうち97回はノーと言うことになるでしょう。ほとんどの創業者も努めてそうするようにしています。大半のスタートアップは十分にフォーカスしているように見えません。彼らは身を粉にして働いているかもしれませんが、正しいことに取り組んでいないため、失敗してしまうのです。

スタートアップを始めることが素晴らしくもあり恐ろしくもあることの1つは、挑戦だけでは称賛されないことです。市場が求める何かを生み出して初めて評価されるのです。ですから、間違ったことを懸命にやっても誰も相手にしてくれません。

小さな目標を設定する

すると、日々フォーカスすべきことをどうやって見極めるかという疑問が出てきます。日々目標を設定することは非常に重要です。私が知る優れた創業者は、社内の全員が理解できるような小さな目標を設定しています。期日までの製品出荷、所定の成長率やエンゲージメント率の達成、主要ポストの人材採用などです。社内全員が毎週主要目標を理解し、それに基づいて実行するのです。

目標を繰り返す

フォーカスすべきことを決めるのは創業者の仕事です。創業者が重要と考えること、フォーカスが必要と思われること、それらが会社全体の目標となります。優れた創業者は、それらの目標を必要以上に繰り返し口にします。目標を壁に掲げたり、1 on 1 ミーティングや毎週の全体ミーティングで言及します。これが会社のフォーカスにつながります。

ここでのカギは、良好なコミュニケーションなくしてフォーカスはないということです。知り合いでない人を共同創業者にした場合にトラブルを招く要因でもあります。たとえ従業員4~5人だけの会社でも、小さなコミュニケーションの途絶が従業員の団結を壊します。そしてフォーカスが失われ、会社は混乱します。

成長とモメンタムを維持する

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これについては追って詳しくお話ししますが、成長とモメンタムは決してブレてはいけません。成長とモメンタムはスタートアップの命であり、それらの維持に常にフォーカスしなければなりません。自分のメトリクスとズレが生じていないか常に把握し、毎週レビューミーティングを行ってください。

今現在は成長に注力していない、今は他のことをしているから成長率は高くない、他にフォーカスしているのでこの出荷スケジュールは決まっていない、今はブランド再生中だ、などと言い出したら、ほぼ確実に大失敗となります。

つまり、適切なメトリクスを掲げて、それらの成長にフォーカスし、モメンタムを失わないことです。会社がわき道にそれたり、他のことに注力したりしないようにしてください。

自社のPRに夢中になる、という良くある間違い

よくある間違いは、自社のPRに夢中になってしまうことです。自分たちは実に格好いい気分になっていても、PRが役に立っていないことはよくあります。1年経っても何ら成果がなく、既に格好よくもなく、「スタートアップを始めるこのStanford大学の学生たちは大いに期待できそうである」という1年前の記事を振り返っても、現時点で何も成し遂げていなければ意味はありません。

先ほどお話ししましたように、共同創業者は同じ空間にいる必要があります。共同創業者が離れた場所にいては、成功する見込みはないと思います。想像以上に仕事のサイクルが遅くなります。

(2) 強度

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フォーカスと並んで実行力に必要となるのが強度です。スタートアップは、相当の強度がないとやっていけません。私の友人は、スタートアップを成功させる秘訣は、徹底的なフォーカスと献身だと言っています。

スタートアップと他に1つ、例えば家族を両立させることはできますが、それ以外にできることは少ないでしょう。ワークライフバランスの観点から言えば、スタートアップはベストの選択ではありません。悲しいですが、それが現実です。スタートアップの素晴らしさはたくさんありますが、この点についてはそうではありません。スタートアップとは、説明し難いほど全身全霊をかけて取り組むものです。競合他社よりも良い仕事をしようという決意が必要です。

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幸いなのは、正しいポイントをおさえて、人より少し頑張ることが大きな違いを生むということです。その1つの例として、コンシューマー用ウェブプロダクトのバイラル係数を考えてみましょう。既存のユーザー1人につき何人の新規ユーザーを獲得しているかです。係数が0.99の場合は最終的に会社が潰れてしまいますが、1.01の場合は指数関数的な成長を永久に享受できます。

これは、ほんのわずかな努力が成功と失敗を分けるという1つの具体例です。成功した創業者と話をすると、常にこういった話を耳にします。競合する相手をほんの少し上回るための努力が成功につながっているのです。

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ですので、本当に強度が必要です。これを唯一発揮できるのがCEOであり、創業者です。スタートアップが持つ最大のメリットの1つが実行のスピードで、その揺るぎないリズムで経営を行う必要があります。

Facebookには、「Move Fast and Break Things」と書かれた有名なポスターがあります。しかし同時に、同社は品質をとことん追求する姿勢も備えています。その実現は容易ではありません。迅速に動くこと、または品質をとことん追求することは簡単ですが、スタートアップではこれらを両立させることがカギとなります。従業員が行うあらゆることに関して高度な基準を持つ文化を作り上げる必要がありますが、そこで迅速な行動も忘れてはなりません。

AppleやGoogle、Facebookは、これを実に見事に実践しています。プロダクトだけではなく、彼らの行為全てにおいてです。彼らは迅速に動き、物事を動かし、適切に倹約し、あらゆる点で品質にこだわります。ひどいコードを書いてほしくなければ、劣悪なコンピュータを従業員に与えたりしません。そして、会社全体で共有される品質基準を設定しなければなりません。

これに関連して創業者に必要となるのが決断力です。優柔不断はスタートアップにとって命取りとなります。平凡な創業者は壮大な計画を語ることに時間を費やしますが、決断ができません。あれもできる、これもできると曖昧な話を続けるだけで、行動できません。本当に必要なのは行動力です。

優秀な創業者は、一見小さなことに取り組んでいるのですが、迅速に動き、達成します。

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優秀な創業者に話を聞くと、決まって新しいことをやり遂げています。事実、これはYCで成功を収める創業者を予測する最も良い方法となっています。

あるチームに話を聞き、都度新しいことをやり遂げていれば、その会社が今後成功することを示す最高の判断材料となります。つまり、小さな仕事の積み重ねで大きな仕事が達成できるということです。小さな仕事を少しずつ積み上げていけば、1年後には驚くべき仕事を成し遂げていたと気付くでしょう。反対に、1年間姿をくらませて何か凄いものを携えて突然復活しようとしても、そのようなことは大抵実現しません。

小規模なプロジェクトに分割する

よって、適正な規模のプロジェクトを選ばなければなりません。途方もない合成生物学の会社を起業しようとしても、1年間実績を積まなければ、何の成果もありません。やはり小規模なプロジェクトに分割して取り組むべきです。

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このように、スピードは非常に大切です。優れた創業者は、いつもメールの回答がとても早く、最速で意思決定をし、あらゆる面で迅速です。そして、何があろうと物事をやり遂げる強い気持ちを持っています。

また、彼らは様々な場所に姿を見せます。

彼らはミーティングにやって来て、1人1人と話をしていきます。そして、私が教訓としてきたことは、些細な問題でも飛行機に乗って駆け付けるということです。その実例を簡単にお話ししましょう。

私が自分の会社を経営していた頃、ある取引が破談寸前となりました。それは当時最初の大口顧客との非常に重要な取引で、先方の新しい取引相手は私たちの1年ほど前に設立された会社でした。ここで契約を取られることは私たちにとって死活問題でした。

そこで私たちは先方に電話し、「当社にはもっと良い製品があります。ぜひ会ってお話しさせてください」と言いましたが、「残念ながら、この件は明日には契約する予定だから」と返されました。そこで、私たちは空港まで車を飛ばして飛行機に乗り、翌朝6時には先方のオフィスにいました。立ち去るように言われましたが、私たちは居座りました。

ついに、中堅幹部の1人が私たちと会ってくれることになり、最終的には上級幹部の1人と会うことができました。そして先方は他社との話を白紙に戻し、1週間ほど後には私たちと契約を結んでいました。あの時飛行機に乗り、直接会いに行ったから契約が取れたのだと確信しています。

些細な問題でも飛行機で先方まで駆け付けて対処すると言っても、文字通りそうしろというわけではないでしょう。しかし、私は文字通りそうすべきだと実感しています。

モメンタムを維持する

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これが先ほどモメンタムと成長と言った理由です。もう1度言っておきます。モメンタムと成長はスタートアップにとって原動力です。これは優れた実行力の秘訣のトップ3に入るでしょう。求められるのは常に勝利する会社です。皆さんがアクセルから足を離したら、物事は制御不能となり、加速度的に落ち込んでいきます。勝利を収めるチームは、波に乗って勝ち続けます。しばらく勝ちを経験していないチームはモチベーションが下がり、負け続けます。

ですから、常にモメンタムを維持してください。それがスタートアップ経営における最も重要なアドバイスです。私が創業者に会社経営の秘訣を1つだけ言えるとしたら、これがそうです。

成長を維持する

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ソフトウェアを扱うスタートアップにとって、これは成長し続けることと言い換えることができます。ハードウェアを扱うスタートアップにとっては、出荷日を守るということになるでしょう。

私たちはこれをYCでも話しており、創業者はよく理解してくれるのですが、YCの最後になると、彼らは他のことが気になって注意力散漫になり、成長が減速します。そうなると、不満を感じ、仕事を辞め、全てが崩壊していきます。それぞれの企業が成長する方法は異なるため成長エンジンを把握するのは容易ではありませんが、1つ言えることがあります。優れたプロダクトを生み出せば成長します。ですから、起業当初に優れたプロダクトを正しく作り出そうとすることは、後々モメンタムを失わないための最善策です。

モメンタムを失うと、創業者は間違ったやり方で挽回しようとします。彼らは会社のビジョンについて長いスピーチをし、従業員を鼓舞しようとします。しかし、モメンタムを失った会社の従業員はそういった話を聞きたがりません。

ビジョンを語るのは会社が好調な時であり、そうでない時は小さな勝利を重ねてモメンタムを取り戻す必要があります。

売上はすべてを癒す

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私の会社のある取締役は以前、スタートアップでは売上が全てを解決すると言っていました。これはその通りです。ですから、小さな勝利を収められる場所を見つけて、そこでの勝負に勝ってください。そうすれば、驚くことにスタートアップにおける他の問題が全て消えていくことでしょう。

他にモメンタムが落ちてきた時に気付くことは、何をすべきかについて従業員の間で意見の相違が生まれ始めることです。会社がモメンタムを失うと、対立が始まります。こうした事態に対応するためのフレームワークは、何をすべきかについてチーム内で意見が分かれている時は、ユーザーが求めていることに取り組むことです。そして、従業員に「現時点で物事はうまくいっていないが、我々は実際に憎み合っているわけではない。正しい軌道に戻れば全てうまくいく」と思い起こさせることです。皆さんがそう呼びかければ、それを認めれば、物事は好転していくでしょう。

再びFacebookの例を取り上げますと、2008年にFacebookの成長が減速した時、Markは「グロースグループ」を立ち上げました。彼らは非常に小さなことに取り組み、Facebookの成長を加速させました。彼らの取り組みはどれも小さなことに見えましたが、再びFacebookの成長カーブを描くことができました。このグループはたちまち社内で有名になりました。

Markはこれを、Facebookでも有数のイノベーションだと言っています。その当時Facebookで働いていた私の友人によれば、このグループによって会社はモメンタムを取り戻したそうです。従業員が不満を募らせモメンタムが失われていたところから始まった彼らの行動が会社を成長軌道に戻したのです。

リズムを作る

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モメンタムを持続させる良い方法は、会社のアーリーステージで経営のリズムを確立させることです。経営のリズムとは、プロダクトを出荷し、新しい機能を定期的にローンチし、会社全体で各種メトリクスを毎週チェックすることです。

そこで、会社の取締役会にできることが1つあります。取締役会が事業戦略に付加価値をもたらしてくれることはめったにありませんが、強制的に会社に各種メトリクスやマイルストーンに留意させる役割として利用しましょう。

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モメンタムを止められる、または止められるべきではないものの1つが競合他社です。マスコミを騒がせる競合他社ほど会社のモメンタムを削ぐ最大の外部要因はないと私は思います。

では、役に立つ経験則を紹介しましょう。競合他社のプロダクトが実際に自社に悪影響を及ぼすようになるまで彼らのことは無視することです。プレスリリースはコードよりも書くのが簡単で、優れたプロダクトを作り出すよりもずっと簡単です。会社の従業員には「競合他社がメディアに露出しているからといって落ち込むことはない」と言い聞かせてください。それが創業者の役目です。

私が好きなHenry Fordが残した言葉に、「競争相手として恐れるべきは、他者には目もくれず、常に上を目指して仕事に打ち込んでいる者である」というものがあります。

プレスリリースを乱発するような会社は、決してFordの言葉のような会社ではありません。そうした会社は、世間をがっかりさせるような会社です。

 

 

著者紹介 (本記事投稿時の情報)

Sam Altman

Sam Altman は YC グループの社長です。彼は Loopt の共同創業者兼 CEO でした。Loopt は 2005 年に Y Combinator に投資され、2012 年に Green Dot に買収されました。Green Dot で彼は CTO を務め、現在は取締役です。Sam は Hydrazine Capital も創業しました。彼は Stanford でコンピュータサイエンスを学び、その間 AI lab で働いていました。 

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: Lecture 2: Ideas, Products, Teams and Execution Part II (2014)

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