共同創業者との婚前契約 (a16z)

会社を設立する時、世界に挑むのは、あなたとあなたの共同創業者です。あなたは自分たちの理念を確立するためにすべてを犠牲にするでしょう。睡眠時間を削り、社会生活から離れ、健康を損ない、自分の家庭を無視することにさえなります。これらがすべて夢の実現のために目の前に出現しますが、大丈夫でしょう。なぜなら、あなたと共同創業者は、これらの状況に身を置く運命共同体だからです。永久に一緒に。

でも、永久でなければどうなるのでしょうか。あなたがすべてを犠牲にしたにもかかわらず、2年後に共同創業者が自分探しをすることになったら?あなたがCEOになり、会社の成長とともに共同創業者の重要性が低くなって、彼の自尊心が傷ついたら?彼女が重度の薬物中毒になったら?彼女があなたが思っていたほど優秀ではないことがわかったら?彼が、仕事をするよりもパーティーが好きだったら?何かの「トラブルが起きた」らどうしますか?

そう、それでも大丈夫かもしれませんし、会社をダメにするかもしれません。それは、あなたが物事を決めるときにどれだけ現実的になれるかにかかっているのです。

そう、別れは難しいことですーー 恋愛でも事業でも。けれども、少なくとも事業においては、創業者が痛みを和らげるために事前にできることがいくつかあります。これを、自分の会社を守るための常識的な婚前契約と考えてください。

創業者間での別れであなたのスタートアップの夢が終わらないようにするために、何ができるでしょうか。検討すべき点を以下に挙げますーー

創業者は、新規スタートアップのアイデアに取り組み始めた時はもちろんのこと、アイデアを持った時から、創業者株式の権利確定に向けて、当然のことながら、十分な信用を得ることを望みましょう。結果として、創業者が初めてVCからの投資ラウンドで資金調達をする時点までに、彼らは50%もの権利が確定される可能性があります。しかしながら、現在では、企業が非上場にとどまる状態が明らかに長期化しており(2014年ハイテクIPOコホートで11年間)、スタートアップとして成功させるために必要な仕事はまさに始まったばかりです。

全面的に権利が確定した後に、もう一方の創業者を事業運営の矢面に立たせ、その先何年もの長期的な株主価値を確立する仕事を彼 / 彼女に押し付け、共同創業者が去っていく事例を私たちは数多く見てきました。共同創業者が去る理由は、自発的である場合もあれば、そうでない場合もあります。そして残された共同創業者は、業務の継続に関して、その期間を網羅するだけの定期的なリフレッシュ・エクイティ助成金を受け取ることになるかもしれませんが、彼女の新しいエクイティに予想される財務的価値は、元の共同創業者が実現し、完全に権利が確定したエクイティの価値に比べれば、色あせています。

残った共同創業者との厄介な会話はいつも同じです——「ジョンがセレブのパーティーを存分に楽しんでいる間に、私は毎日ここにいて、社員と投資家のために、長期的な株式価値を高めようとがんばっている。」

では、あなたが取りうる選択肢は何でしょうか。

4年間の権利確定期間(べスティング)が適切かどうかを考えてみる

これは少なくとも創業者に該当します——ほとんどの非上場企業は、公開市場にデビューを果たす前に、非常に長期化した準備期間がありますから。エクイティは長期的な報酬の提供を意図しているため、問題となるのは、「長期」の定義の変更の是非です。目標は、創業者のエクイティが、長期的な報酬を創出するという目的に確実に敵うようにすることと、成功の経済的リワードが、長期的株主価値の創造に貢献している人々(残っている共同創業者や主要な社員)に対して確実に増えるようにすることです。

創業者を解任できる条件を検討する

ほとんどの場合、創業者は、同じ重役の座についており、また、ほとんどの場合、創業者 / 常任理事が取締役会をしきっています。これらの場合では、会社から一方の創業者を解任するための決定には、もう一方の創業者の同意が絶対に必要です。ベンチャー投資家が恣意的に創業者を追い出す(あるいは、エクイティから締め出そうとする)ことを心配する人々は、事業の継続に適任ではなくなった一方の共同創業者を解任するための権能を、もう一方の創業者のみが持つということは維持しつつ、このような構造を活用することができます。(現に、ベンチャー投資家ではなく、共同創業者が最終決定権を持っていることがよくあります。)

共同創業者が「墓場から支配する」ような状況を回避する

あなたが共同創業者を会社の執行役から解任する決定を下す場合、あなたは彼を取締役会に残したくなく、彼が会社が前進する力を妨害する可能性を残したくありません。こうした状況に対処するために、取締役会の座は、社員としての会社への継続的な奉仕に左右されるようにしてください。これまで共同創業者だったという役割によって、誰かに単純に与えられるものではないようにしましょう。

さて、私は皆さんが考えていることがわかっています——これは、ベンチャー投資家が自分たちのエクイティから創業者たちを締め出そうとする試みにベールをかぶせているだけではないだろうか。私たちが提案しているのはそのようなことではありません。またそれは、投資家としての私たちの経験とも一致しません。ここで扱っているのは、共同創業者との決裂です。そして私たちが上記で述べたように、一般的にこうした決裂は、もう一方の創業者の同意があって、はじめてすっきりと行われるものです。

譲渡制限

あなたの共同創業者が取締役会の座を去りはしたものの、今では権利の確定した株式の巨額の資金の上にあぐらをかき、株式を流通市場で非公開に売却したいと思っているとしましょう。一方で、あなたは、自分の事業のためにプライマリキャピタルを集めようとしているので、共同創業者のセカンダリストックはその需要を競うものとなります。

ここでの最善の動きは、株式売買に関する包括的な譲渡制限を創業時点で設定しておくことです。包括的な譲渡制限とは、株主が株式を売却するためには、会社の一定形式の同意が必要だということであり、最も多いのは、取締役会からの同意です。許可が下りなければ、共同創業者は先ほど述べた筋書きで株式を売却することはできません。 けれども、そのような制限をきちんと設けている企業はほとんどありません。それらのほとんどが設定しているのは、先買権(ROFR)契約です。その基本的な意味は、株式を第三者に売却しようする人がいる場合に、会社がその売却条件と同等の条件で買い取る権利を持つというものです。しかしこれだけでは、共同創業者の株式の売却を防ぐことはできません。さらにほぼすべての場合において、会社は、成長の機会に投資するために資金を使いたいため、株式の再購入に資金を使いたがりません。

これは扱いにくい問題です、なぜなら、譲渡制限を後で設定し、すべての株主にそれを強制することが簡単にできないからです。譲渡制限の事後設定には株主の同意が必要ですが、同意は得られそうもありません。あなたは株主に対して、彼らがすでに手にしている価値ある権利を諦めるように頼むことになるからです。

譲渡制限を最初に設定するのはこのような理由からです。旅を目前にして、あなたとベンチャー投資家の間の完璧な協力関係を手にするのはその時です。すべての人が同じ契約をすることになります——つまり皆が、長期の株主価値の創造に取り組むことにコミットしている状態です。そして会社が上場したり、元 / 現在の社員に対して構造化された流動化プログラムのいくらかを提供することに、取締役会が同意した場合には、皆がその価値を共有する(あるいはしない)ことになります。ここで鍵となるのは「構造化」と「秩序」であり、これらを提供できるのは、包括的な譲渡制限のみです。

権利確定(べスティング)の加速

ほとんどの場合、創業者株式の権利確定は、会社との継続的な雇用関係と関連しています。それが権利確定の背後にあるアイデアのすべてです。あなたは、事業拡大に役立つことで会社の成功に貢献し、その期間、自分の貢献で生まれたエクイティの所有者になるというリワードを受け取ります。

けれども、共同創業者が去ったらどうなるでしょうか——自分たちの株式の権利確定を継続すべきなのでしょうか。それとも、べスティングを加速すべきなのでしょうか。共同創業者がまだ残っていて買収側に参加するのを拒否している状態で、あなたが会社を売却するとどうなるのでしょうか。べスティングを短期化すべきなのでしょうか。

いいえ。あなたと共同創業者の両方が、共同創業者のいずれかを解任できる条件に同意している限り(そして、そのようにする決定が、公正で慎重な過程を経て下されたと、両者ともに安心していえる限り)、雇用終了時にべスティングを加速する必要はありません。現職の共同創業者は、権利の確定していないエクイティをプールに戻し、事業の長期にわたる成功に積極的に貢献している社員に報いるべきです。

買収の筋書きでは、創業者がシングルトリガーやダブルトリガーの加速権利確定条項を設定していることもよくあることでしょう。シングルトリガーの条項では、創業者の株式はM&Aのイベントの終了時に加速します。ダブルトリガーでは、取引の終了と、新しい法人にその創業者を雇わないという買収側の決定の両方が加速に必要な条件です。

シングルトリガーが最適下限となる根拠は、M&Aが起きることなく雇用終了後の権利確定を加速するのと同じものです——あなたは、もはや会社の成功に積極的に貢献していない個人のために、法人の権利を浪費しようとしています。ダブルトリガーによって、買収側は、共同創業者からその選択肢を取り除いているため、権利が確定していないエクイティを失うというペナルティのないことが公正です。

買収側の視点で考えれば、創業者を残したままにしたい場合、シングルトリガーは高くつきます(取引でチームの他の人々が受け取る買収価格の総額に最終的に影響します)。共同創業者に、シングルトリガーで加速する選択肢があれば、買収側には、彼らを残すための追加の現金 / エクイティの報酬が必要になります。けれども、無料の昼食(フリーランチ)というものはありません—— 価格のポットが修復された時に、その追加の報酬の源泉がどこかに必要になります。

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創業者が会社を設立すること、さらに、それが長く続くことほど、私たちが見たいものはありません。けれども、常にそうなるわけではありません。

スタートアップは、情熱的で興奮する挑戦ですーーしかし、そうは言っても事業です。そして、人生のほとんどの事柄と同様に、共同創業者同士がうまくいかなかった時には、事前のささやかな計画が明暗を分け、大惨事となるか、それとも痛みを伴う結果程度に収まるのかが決まるかもしれません。

 

著者紹介

Scott Kupor

 

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: Prenups for Co-founders (2015)

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