マーケットプレイスでの緊張関係を管理する (a16z)

オンライン上のマーケットプレイスは、創業者がもたらす次世代的なイノベーションによって、ルネサンス時代を迎えています。しかし以前にも話したとおり、マーケットプレイスを維持していくうえでの核となる原則は変わりません。

具体的に言うと、私はこれら全てのマーケットプレイスは繁栄のために「完全競争」の状態を醸成し、管理していく必要があると考えています。

2つの登場人物からなるマーケットプレイスを運営するうえでの大きな要素は、その2つの、しかも往々にして対立する「両者」の間の緊張状態を管理することです。一般的にいえば、一方に消費者がいて、もう一方に個人事業主、あるいは中小企業がいる関係です。マーケットプレイスのタイプによってこの関係はバイヤーとセラー(Amazon、eBayなど)、食事をする人やレビューを書く人とレストランやお店(OpenTable、Yelp)、ゲストとホスト(Airbnb)、乗客と運転手(Lyft、Uber)といったように入れ替わります。

こうした2つのパーティーが完全にお互いに依存し合っていることに違いはないのですが、その両者の間には緊張や争いの種となりかねない視点や関心の違いがあります。そこへもう1つの「登場人物」であるプラットフォームを加えるとなると、物事がよりヒートアップすることがあります。

このような緊張は、プラットフォームが商品開発に関する決断を行う時に大きな影響をもたらします。例えば、私がeBayマーケットプレイスの運営を始めた時、それはコレクターグッズのような生活には直結しない商品を取り扱う、価格発見が極めて重要な場でした。

しかし研究の結果からは、より多くのユーザーや商品カテゴリーをひきつけられる固定価格制を導入することで、マーケットプレイスをさらに大きくするチャンスがあることがわかりました。私たちはこのイニシアチブを社内で「Buy It Now」と呼びました。

問題は、これまでのセラーが現行のオークション制にとても満足していたことです。オークション制に慣れていたし、利益も上げていました。セラーは、「Buy It Now」の導入がオークション制が持つ良い面を制限してしまい、「金の卵を産むガチョウ」を殺してしまうのではと危惧したのです。

セラーの主な心配の1つが、同じアイテムを固定価格で出品する競合セラーがいるとすると、その出品が自分たちのオークションの価格に実質的に上限キャップを設定してしまうのでは、というものでした。この新たな機能の導入には、自分たちのコアな顧客を遠ざけてしまう恐れがありました。「顧客」と言いましたが、それは一般的にマーケットプレイスの手数料のほとんど、あるいはその全てを支払うのがセラー側だからです。

それに加えて、広く利用されるマーケットプレイスのユーザーは変更に対してかなり感情的になりがちで、それゆえ新たな試みの導入はなおさら難しいのです。これはユーザーがマーケットプレイスに愛着を感じてくれている証で、本質的にはとても良いことなのですが、うまく変化をもたらすという点においては障壁となり得ます。また、聞こえてくる意見が声の大きい少数派のものなのか、それとも声の大きい多数派のものなのか、その判断がとても難しいのです。

では、あなたには新たな商品や機能の導入が全体として見た時にマーケットプレイスの利益に繋がるという確信があるけれども、マーケットプレイスの登場人物の片方、あるいは両方には同じビジョンが見えていない場合、どうすれば良いのでしょうか?いくつかのマーケットプレイスを運営するうえで私が実践した戦術を紹介しましょう。

  • 雑音の中にあるシグナルを聞き分け、ユーザーの気持ちを理解しなければなりません。私たちは、気持ちの強さ(例えば「とても」嫌なのか「少し」嫌なのか)と、そのような考えを持つユーザーの比率の両面からユーザーの気持ちを測るツールを開発しました。理想を言えばこういったツールは、新たな機能やポリシーを発表する度に長期的にユーザーの気持ちが読み取れるよう、ダイナミックなものが良いでしょう。プロセスの全てに、支持者のマネジメントや政治への投票に類似した点が数多くあります。
  • もし可能であれば、どんな時でもユーザーの一部を対象に変更点をテストする機会を探るべきです。有意義でなおかつ掘り下げたユーザーの考えが得られる手段を構築しましょう。eBayでうまくいった手法の1つに、私たちが「Voices」と名付けたプログラムがあります。フォーカスグループに順番にサンノゼに来てもらい、数日間におよぶセッションの中で商品およびポリシーを担当するこちらのメンバーと意見交換を行ってもらうものでした。このプログラムを通じて、ユーザーがどのように物事を見ているのか、細部にわたって理解することができました。
  • ユーザーに変更点を紹介する際には、細心の注意を払うべきです。彼らの懸念にはしっかりと耳を傾け、利点についての説明とスピンの間にある微妙な線をまたぎましょう。ユーザーに参加してもらったテストのデータを活用するのもとても効果的です。
  • もしあなたの読みが外れ、新たに導入した機能が思惑通りには作用しなかった場合、それを引っ込める覚悟を持つべきです。イノベーティブなことに取り組むとき、常に正解を出し続けることはほぼ不可能です。強い思い入れを感じることは理解できますが、同時に鷹のようにそのインパクトを見極め、自分にとって好ましくない状態が広がっていれば対策をとらなければなりません。そして発表した機能を引っ込める際には、透明性と謙虚な気持ちをもって臨むべきです。

しかし、直観に反するように思えるかもしれませんが、一般的にはマーケットプレイスのマネジャーはユーザーからの不満に囚われすぎても良くありません。たとえなにがあろうと、大多数までは言わずとも多くの既存のユーザーが、自分たちが愛するプラットフォームへの意味ある変更に抵抗を示します。これまでの形に慣れ親しんでいるのが普通ですから。ユーザーの声に耳を傾けすぎることで、大変優れたイノベーションを打ち出せなくなるかもしれません。

とは言ったものの、まずはユーザー体験にフォーカスすべきだということを否定しているわけではないということは、忘れないでください!プロダクトイノベーションがクリアで簡単、そして楽しいものであれば、うまくいくはずです。その機能についてしっかりと伝えることも効果的です(機能の導入を発表することと、導入の承諾を得ることの違いは意識しなければなりませんが)。

私は通常、開発上の衝突を消費者の立場から見るようにアドバイスします。上に挙げた例でいうと、バイヤー、食事をする人、ゲスト、乗客の立場です。こういうとしばしば人は驚き、「でも個人事業主や中小企業を失ってしまわないでしょうか?」と聞いてきます。そんなことはありません。なぜならばセラーは消費者が集うところに来るでしょうし、あなたがセラーの業績アップを手伝えば、彼らはここに留まってくれるからです。

eBayの場合、大きな議論を巻き起こした「Buy It Now」機能は想定以上にうまく作用しました。すぐに流通取引総額(GMV)の30パーセントを占めるようになり、今日ではGMVにおいてeBayの830億ドルの70パーセントを稼ぎ出しています。私の計算が正しければ、これは年間600億ドル弱の売上です!

つまるところ、マーケットプレイスの成長は、そのマネジャーであるあなたの「仕事」です。そしてマーケットプレイスを成長させる最善の方法がプロダクトイノベーションです。プロダクトイノベーションはマーケットプレイスという「ケーキ」(日本語訳)の上に新たな「レイヤー」を足してくれるのです。そこであなたは、ユーザー体験を向上させるために、リスクを冒さなければなりません。そうでなければ、あなたのマーケットプレイスは短期的には広く利用されたとしても、競争相手に少しずつ牙城を崩され、長期的には生き残れないはずです。

そしてイノベーションを進めるにあたり、Steve Jobsの言葉を胸に刻みましょう。「多くの場合、人々は自らが何を欲しているのか、それを目の前に提示されるまで知らないのです。」

 

著者紹介 (本記事投稿時の情報)

Jeff Jordan

Jeff Jordan は Andreessen Horowitz のジェネラルパートナーです。彼は以前 OpenTable の CEO であり、会長でした。彼は OpenTable を率い、国内外の成長を加速させ、IPO に導きました。OpenTable の前には、Jeff は PayPal の社長を勤め、オンライン決済のグローバルスタンダードの会社として樹立させることに責任を負っていました。

 

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: Managing Tensions In Online Marketplaces (2015)

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