成長のレシピ: ケーキに層を加える (a16z)

ビジネスが勝手に成長するということはありません。CEOの最も重要な仕事の一つは、ビジネスの成長のシナリオを積極的に定義し、それを推し進めることです。 これがなぜ重要なのでしょうか? 成長は、一般に会社の競争上のポジションを優位にし、規模と影響力の拡大をもたらし、投資家は明らかに成長を高く評価してくれます。

成長を追求することは、会社がどこのライフサイクルにあったとしても重要なことであり続けます。 会社の初期段階ではもちろん、それは極めて重要であり、そうでなければその会社の命は長くはないでしょう。 成長を追求することは、会社が発展しても重要であり続けます。 実質的にどんなビジネスでも、超高成長しているビジネスですら、大きくなるにつれ、必ず成長はゆっくりとしたものになり、成長率は時間とともに情け容赦なくゼロにまで落ちていきます。 私はこの影響を「引力」と読んでいます。CEOが成長を加速し、そのビジネスの長期的な成長曲線を積極的に変える方法を見つけることができない限り、最も有望な会社でも成長は落ちていくのです。

私が最初に実体験した仕事は、2000年の半ば、ebay.comのウェブサイトを含むeBayの米国ビジネスでした。当時、実質的にeBayの会社としての全ての売上と全社の利益以上の利益が米国でもたらされたものでした。そしてバブルの崩壊にも関わらず、EBAY株は高い株価収益率で取引されていました。 しかし私が就職した最初の月、米国セグメントの毎月の売上が初めて伸びなかったのです。その時に感じた私の恐れを想像していただけるでしょうか。 空にも上るような成長に対する期待の重しが、引力の冷酷な影響と潜在的に衝突する最初のサインを示していました。

私たちは、引力の影響に逆らう程の規模のある成長のシナリオを素早く定義する必要がありました。 私たちは、素早く選択肢を2~3個に絞りました。つまり、マーケティングにもっとお金を使う、それをもっと効率的に使う、製品のイノベーションを行う、ないしは成長のために会社を買収するといったことです。

マーケティングはやや効果はありましたが、限定的なものでした。 eBayは既にインターネットの最も大きなマーケターの一つになっており、出費を最適化する努力は既に行われていました。 一方、合併と買収は、両方とも是非必要なものと思われていましたが、それは会社組織の別の部署が管理していました。 だから、私たちはすぐに、製品のイノベーションに集中することにしました。

成長のために最初に検討したのは、購入方式でした。 当時eBay.comは、オンライン・オークションを通してのみ、コミュニティで売買できるようになっていました。 コミュニティの多くの人は、これがサイトの魔法であり、明らかに最初の力強いスタートに大いに力を与えたものでした。 しかしオークションは、固定価格方式の容易さと簡単さを好む多くの潜在的な顧客を躊躇させるものでもありました。 面白いことに、私たちの調査は、オンライン・オークションがオークションの競争的な側面を好む男性に偏っていることを示していました。 そこで私たちが行った最初の大きなイノベーションは、私たちが「今すぐ買う (Buy it now) 」と呼ぶeBay.com上で固定価格で商品をオファーするという(イノベーティブな!)コンセプトを実行することでした。

「今すぐ買う」機能は、eBayコミュニティとeBayの本社の両方で、多くの人にとって驚くほど物議を醸しだしました。 しかし、それらを敢えて飲み込み、リスクをとって、その機能を立ち上げたのです。。。その成果は大きなものでした。「今すぐ買う」機能はオークションをうまく補完してくれ、新たなユーザーと新たな出品をサイトにもたらし、長年にわたり成長の重要な原動力になってくれました。 今日、「今すぐ買う」方式は、eBay の年間の総商品物量で400憶ドルを超え、全体の62%を占めています。

この最初の成功をきっかけに、私たちは成長を加速させるためのイノベーションに対する努力を倍増させました。 eBayに店舗を導入しましたが、それはプラットフォーム上で販売される製品の量を劇的に増やすことになりました。 オプション機能のメニューを拡大し、売り手がお金を払えばサイト上のリストをより目立つようにすることができるようにしました。 私たちは、eBayサイトでPayPalを最終的にシームレスに統合することも含め、「チェックアウト」の流れを大幅に改善しすることにより、eBay.comでの取引後の体験を改良しました。 これらのイノベーションは、各々ビジネスの成長に寄与し、引力の影響を寄せ付けないようにするのに役立ちました。

私は、コアのビジネスの上に新しいイノベーションの層をのせるこのプロセスのことを「ケーキに層を加える」と呼ぶようになりました。 組織の中立的な努力の多くは、コアなビジネスの最適化を図ることに費やされています。 大きなビジネスでは小さな改善も意味のある影響を持ちうるものですので、このことは納得できることです。 しかし、コア(「ケーキ」とも言う)の上に新しい補完的なビジネスの層を加えることは、潜在的に非常に大きな力になります。 eBay.comのケースでは、「今すぐ買う」機能、店舗、特売、チェックアウト、PayPalとの統合は、全てコアなビジネスの上にのる層になる新しいイニシアティブですが、新しい何かを加えることになったものでした。

eBay会社の最初の10年は、「ケーキの上の層」の影響をうまく説明するものです。 米国のeBayは会社の元々のビジネスで、私たちのチームはそれを最適化し、その上に層を加えるべく根気強く働きました。 そして会社全体のレベルでは、eBay、Inc.のマネジメント・チームも層を加えることを期待するようになりました。 私たちの最初のものは国際的な拡大で、2000年代の初めに本格的に始まりました。私たちは、支払いに目を付け、PayPalの買収でそれは更に容易になりました(そしてPayPalの初期の成長は、主としてeBay市場での支払い機能によるものであったことは注目に値します)。 会社全体のレベルでの業績は次のようなものです。

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出展:eBayのSEC届け出 

米国eBayは、それ自体素晴らしい事業で、強力で持続可能な成長を示してきました。 同時に、国際ビジネスと支払いの層は、2000年の殆どゼロの状態から2005年には会社の売上の約60%を占めるまでになりました。 その結果、会社全体として、元々のコアのビジネスより劇的に早く成長し、10年にわたり引力の影響をうまく避けることができました。

そして、市場は会社に対しこの成長へ手厚いリワードを与えてくれました。 これは、この時期のEBAYの株価の推移です。

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出展:NASDAQのEBAYの月別終値

eBayの後、私は私が経営した他のインターネット企業でもケーキの上の層を展開し続けました。 PayPalで私たちが実行に移したキーとなる層は、国際的な拡大で、PayPalのeBayプラットフォームの外でも販売したい(「売り手へのサービス」と呼ぶ)と考えている売り手に対するオファーを改善し、支払いビジネスに加え、クレジットを提供するサービスを始めました。 当時市場はまだ熟していませんでしたが、2006年にはテキスト・ベースのモバイル支払いサービスのトライヤルも行いました(それを使ったのは、サービスの開発者と私だけだと思います)。

OpenTableで仕事をした時に、私たちが導入したキーとなる層には、食事をする人の利用頻度を増やし、(ここでも再び)国際的に拡大し、新しい「関連」製品を紹介することによって、レストランの対象市場を拡大し、レストランが客を増やすのに役立つ製品を生み出す強力なモバイル・アプリ一式を構築することがありました。 これらのイニシアティブは、OpenTableが引力を克服するのに役立ちました。 例えば、年度毎の売上成長率は、2009年の23%から2010年には44%にまで加速しました。

この層を作るアプローチの他の二つの例は、ここ10年で最も成長した二つの会社が提供してくれます。AppleとAmazonです。 Steve JobsとAppleのチームは、元々のコアのコンピュータ・ビジネスにiPod, iTunes, iPhoneおよびiPadなど次々と新しい層を追加してました。 そしてAmazonは、Prime、デジタル・グッズ、アマゾン・ウェブ・サービス、Kindleと今ではFireデジタル・デバイスといった層を加えて、近年そのコアとなる物理的な商品ビジネスを超えて、信じられないくらいうまくイノベーションを起こしてきました。 非常に大きなこれらの会社は、殆ど輝かしいイノベーションだけで爆発的な成長を実現してきています。

イノベーションは、明らかにインターネット上の唯一の成長モデルです。 このことは、Googleが市場に出たのは比較的遅いにも関わらず、いかにしてYahooやMicrosoftといったすでに確立された会社と競争し、検索市場で支配的なプレイヤーとして出現したかを説明してくれます。 それはまた、billpoint.comやaccept.comがeBayやAmazonのプラットフォームにそれぞれ優先的にアクセスできたにも関わらず、PayPalがこれらほぼ同時期にスタートした他のオンライン支払いサイトを埋もれさせてしまったかを説明してくれます。さらにそれは、FacebookがFriendsterやMySpaceに比べ市場に出るのが非常に遅かったにも関わらず、どのようにしてソーシャル・ネットワーキング市場を支配するようになったかを説明してくれます。

これら勝利者となっているネット企業は、製品のイノベーションに信じられないほどの力を入れています。 彼らは発明し、それをサポートする文化を創造し、称賛し、報酬を与えるのです。 初期の成功を利用しそこなった上述の会社は、そういうことをしなかったと言えます。 ベストなイノベーションは、その最も価値のある資産の利点を活用し、増強し、会社のコアとなるビジネスを改善し、補完してくれます。 コアのビジネスの外への多角化は、はるかに挑戦的な戦略です。 会社がそのイノベーションでコアから離れるにつれ、成功の確率は低くなります。

私は、全ての会社、特に技術が重要な会社にとって、イノベーションには成果を駆動する力があると固く信じています。 CEOの仕事の中心となるものは、日々必要とされている業務から目線を上げて、将来の地平線の先に自分のビジョンを見定めて、将来の事業の長期的な成長を大きく生み出す影響を持つ新しいイノベーションを今日先取して提供することです。

 

著者紹介 (本記事投稿時の情報)

Jeff Jordan

Jeff Jordan は Andreessen Horowitz のジェネラルパートナーです。彼は以前 OpenTable の CEO であり、会長でした。彼は OpenTable を率い、国内外の成長を加速させ、IPO に導きました。OpenTable の前には、Jeff は PayPal の社長を勤め、オンライン決済のグローバルスタンダードの会社として樹立させることに責任を負っていました。

 

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: A Recipe for Growth: Adding Layers to the Cake (2012)

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