2サイドマーケットプレイスとエンゲージメント (Sequoia Capital)

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商品がその可能性を最大限に発揮し、ユーザーに最大限の価値をもたらすには、持続的に成長し日本語訳)、TAM(Total Addressable Market、実現可能な最大の市場規模)において高い普及率を達成する必要があります。

理想的には、ユーザーはいつまでも商品に深くエンゲージし、繰り返しその商品に戻ってきます。これが継続性日本語訳)、つまり商品を試し再び戻ってくるほど気に入った人たちを測る尺度です。

また、人々が商品に繰り返し戻ってくる場合、商品は定着しているとも言えます。定着性 (stickiness) は一般的に継続を促しますが、うまく継続し成長している商品が必ずしも定着するというわけではありません。継続性は単純にユーザーがあなたの商品に戻ってくるということを意味するものであり、定着性はユーザーが自らの意志で再び戻って来ることを意味します。定着性が上がると、プッシュ通知といった戦術に依存する必要が軽減できます。例えばFacebookの場合、ユーザー側に共有したいという衝動があるため、また他人の生活への好奇心があるため、定着性があります。

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図1

どんな商品でもエンゲージメントが成功の秘訣となります。エンゲージしたユーザーは、エクスペリエンスを繰り返すために商品に戻ってきます。これによって継続性が強化され、最終的には商品の持続的成長につながります。結局のところ、エンゲージメントが定着性を促し、定着性が継続性を促し、そして継続性が最終的に成長を促します日本語訳)。そのため、エンゲージメントを体系的に理解し改善すれば、商品の健全性が向上します。

フレームワーク

複数のタイプの消費者向け企業のエンゲージメントを理解するため、共通のフレームワークがあれば最高です。ほとんどの消費者向けテクノロジー企業は、二面性のあるマーケットプレイスと考えることができます。これらの組織は、主として関連する2つ(あるいはそれ以上)の異なるタイプの加入顧客間の直接交流を可能にすることで価値を生み出します。American Express、PayPal、eBay、Uber、Facebook、iPhone、WhatsApp、Netflix、Amazon、YouTubeはすべて、二面性のあるマーケットプレイスと考えることができます。

これらのプラットフォームは、プラットフォームの供給側と需要側を、より効率的にマッチングする仲介者が必要とされるため存在します。この仲介者は、仲介者なしでは実現しえないやり取りを可能にし、双方に価値をもたらします。PayPalの支払いネットワークはカード所有者と小売業者を引き合わせます。Amazonは買い物客と小売業者を引き合わせます。YouTubeやNetflixは動画作成者と視聴者をつなげ、Facebookはコンテンツ提供者とコンテンツ消費者をつなげます。YouTube、Netflix、Amazonの場合、二面性のあるネットワークは、詳述している生産・消費モデルとおおむね似ています。

エンゲージメントを生み出すための戦略の一部は、複数のタイプの商品に適用できますが、戦略によっては特定のタイプの商品向けに限定されるものもあります。例えば、PGC(Professionally Generated Content、企業、組織、専門性を持つ個人などが生成したコンテンツ)を提供する商品と比べ、UGC(User Generated Content、ユーザー生成コンテンツ)を提供する商品のエンゲージメントに効果を与えるには、違った種類の戦略や方策が必要になるかもしれません。以下で、これら2つのタイプをより詳しく説明および対比しています。タイプに関わらず、ほとんどの消費者向け商品の健全性は、ユーザーに適切なコンテンツを表示しエンゲージメントを高める、生産・消費ループ日本語訳)に左右されます。以下の2つの図は、FacebookとNetflixの状況を示したものです。

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図2

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ネットワーク効果

ネットワーク効果とは、商品サービスのユーザーが増加すると、他のユーザーにとってのその商品の価値が上がることです。ネットワーク効果が存在する場合、商品やサービスの価値は、他の使用者数に応じて(一般的には)上昇します。典型的な例が携帯電話で、ユーザー数が多いほど、各ユーザーにとっての価値が上がります。これは、片側でコンテンツが生成され反対側でコンテンツが消費される、FacebookやSnapchatといった商品にも当てはまります。

ユーザー数が多いほど、つながることのできる相手が多くなり、エンゲージメントと継続性がもたらされる可能性も高くなります。つまり、一般的に言って、WhatsApp、Facebook Messenger、Instagram Direct、Snapchatの場合はポジティブなネットワーク効果があります。

Facebookの場合はどうでしょう。ユーザー数が増えるほど、一方では、ユーザーが消費したコンテンツに対してフィードバック日本語訳)を提供し、そのフィードバックがランキングアルゴリズムに影響を与え、エンゲージメントを増やすことができます。その一方で、ニュースフィード形式の場合は、誰もが率直なフィードバックを目にすることができるため、周囲に負けてはいけないというプレッシャーが増し、ユーザーはさらなる共有を控えるようになります。そして、これによってネガティブなネットワーク効果が生まれます。つまり、ユーザー数が増えると、生成されるコンテンツ量が減り、やがてエンゲージメントも減ることになりかねません。

対照的に、Snapchatのような商品は、ストーリー形式を採用しており、フィードバックはコンテンツの生成者にしか見えません。そのためストーリー形式では周囲に負けてはいけないというプレッシャーを減らすことができ、ひいてはユーザーの投稿を促すことができます。

NetflixといったPGC商品の場合、ネットワーク効果はより間接的です。ユーザー数が多いため、オリジナルコンテンツがより多く生成されます。つまりコンテンツが増え、全ユーザーが利用できるインベントリーが増えます。利用できるコンテンツが多いため、サービスに加入するユーザーも増えます。

浸透率

ターゲット市場における商品のアクティブユーザーの割合を、商品浸透率と言います。ソーシャル商品の場合、ターゲット人口はその国の12歳以上の人口です。国の浸透率は、直接的なネットワーク効果が存在する商品のエンゲージメントに大きく影響します。

図4は、Snapchatの継続性vsエンゲージメントを示したものです。ソーシャルアプリ間で共通する傾向が見られます。ユーザー浸透率(丸の大きさで示す)が高い国では、エンゲージメントも高い傾向にあり、最終的に継続性も増しています。浸透率の高い国では、ユーザーはより多くのつながりを有する傾向があるため、アプリを開くたびに数多くのスナップやストーリーを目にします。このインベントリーの高さを理由に、ユーザーは繰り返しSnapchatにアクセスします。つまり、ユーザーのエンゲージメントが高いと、長期的な継続性と商品の成長がもたらされます。

f:id:foundx_caster:20191128044154p:plainその一方で、直接的なネットワーク効果を持たない商品の場合、もたらされる影響も小さくなります。これは主として、最終的にエンゲージメントを高める規模の経済(Economies of Scale)は、発展に時間がかかるためです。

コンテンツの生成と共有

Snapchatなどのソーシャルアプリでは、コンテンツ生成日本語訳)に3つの段階があります。作成、キャプチャ、共有です。そして主なクリエーターは、友達、グループ、ページ、ニュースの4種類です。Snapchat、Instagram、Facebookといったアプリの月間アクティブユーザー合計数は、35億人を超えるにまで膨れ上がり、各ソーシャルネットワークではUGCの作成やキャプチャが増加しています。またこれに応じてエンゲージメントも比較的高くなっています。

コンテンツの作成は、ソーシャルアプリのエンゲージメントを促す原動力です。Snapchatの例で言えば、測定基準として1日のスナップ数が役に立ちます。もっともアクティブなSnapchatユーザーは、1日当たり約150枚のスナップを送っていましたが、平均的なユーザーが送る1日のスナップ数は20~50枚でした。コンテンツの共有は、継続的な成長やエンゲージメントを実現する上で非常に重要ですが、コンテンツの永続性、作成者のオーディエンス規模、作成者のフィードに掲載される他の人の投稿の知覚品質など、共有に影響を与える要素はいくつかあります。

一方でNetflix(あるいは一般的にPGC)の場合は、上記の要素はいずれも、コンテンツの生成やエンゲージメントの増加に関係ありません。

つながりとランキング

Facebookのような商品の場合、多数の投稿が生成されるようになった後は、特定のユーザーが利用できるインベントリー(在庫)が限られていることを考えると、大事なのはユーザーと他のユーザーや実体とのつながりを最良日本語訳)のものにすることです。特定のユーザーのつながり数が多ければ多いほど、エンゲージ可能なインベントリーも増えます。この種のシステムではインベントリーへのアクセスは制限されているため、コンテンツインベントリーが少ない「貧しい」ユーザーは、一般的にエンゲージメントも低くなります。例えばSnapchatの場合、早い段階でユーザーがつながりを増やすことの必要性を強調します。スナップの88パーセントが他の1人にしか送られないため、つながりはコンテンツインベントリーを確保する上で不可欠です。つながりがなければ、作成されたコンテンツを目にする人もなく、フィードバックを受け取ることもなく、最終的にユーザーはコンテンツを作成し続けるモチベーションを失ってしまいます。エンゲージメントを高めるためには、コンテンツを適切にランキングすることも非常に重要です。

対照的に、Netflixのような商品では、どのユーザーもすべてのインベントリーを同じように利用できます。そのため、適切なおすすめ作品を適切な順番で表示し、検索の意図を推測できる優れた検索機能を備えることが非常に重要になります。

カギとなるシグナルを受け取った機械学習モデルは、ある程度の信頼性を持って、ユーザーが、例えば、ミュージシャンのShawn Mendesの記事と間近に迫った選挙の記事のどちらにより関心を示すかを判断できます。しかし、そのようなシグナルはユーザーの本当の気持ちを大まかに代弁するものに過ぎず、シグナルによってはやみくもに従うと質よりもバイラリティーに合わせた最適化につながってしまうこともあります。どんな最適化機能にも限界があります。データが完全に人間を表現することはできません。そのため、商品担当チームは、こういったシステムが提示するお勧め作品を常に十分に把握し、それらがチームや会社のより大きな目標に確実に適合するよう努める必要があります。

供給、需要、流動性、およびその他の影響

マーケットプレイスには、需要と供給という2つの側面があります。AirBnBに家が掲載されると、供給が生まれます。ハワイに旅行予定で借りる家を探している場合、家に対する需要が生まれます。商品の観点から言うと、商品ライフサイクルの早い段階において、二面性のあるマーケットで適切な供給物をシーディングするのは魔法でも使わないとうまくいきません。最良の供給物に対し、近い内に需要があり、登録にかかる最初の時間的コストとオンボーディングプロセスにはそれぞれに見合った価値があることを説得する必要があります。次に、関心と質の高い供給物に対するマインドシェアの両方がそろった小さなチャンスを手にしたら、次に手始めに、エンゲージするよう顧客を説得しないといけません。これは非常に困難で、ほとんどのマーケットプレイスが失敗する主な理由の1つでもあります。

他にはない独特の供給物を持つことで競争力の高い壕を築くことができます。例えば、Facebookでもっとも仲の良い友達が共有したコンテンツは、他の場所では見つけられません。ですから、この上質のコンテンツには非常に高い価値があります。一方、ホテルの部屋を探していて、その部屋が複数の旅行サイトに掲載されている場合(商品供給)、需要側にとってもっとも重要な判断基準は一般的に値段で、競争圧力があるため利益率は通常低くなります。この圧力を克服するには、ブランド力やロイヤリティを構築するといった方法があります。独特で上質の供給物の生産を奨励し、優れたブランド力やロイヤリティを築くことは、強力な二面性マーケットプレイスを構築する上で非常に重要な考慮事項です。

マーケットプレイスの健全性を評価するため、商品の所有者はマーケットプレイスにおける流動性を深く理解する必要があります。インベントリー、利用率、販売率、需要上・供給上の制約をきめ細かく把握することは、チャンスがどこにあるかを特定する上で役立ち、商品のロードマップや戦略の推進につながります。例えば、「貧しいユーザー」(UGC商品でインベントリーが低いユーザー)の場合で言うと供給物は少なく、商品を増やせるかもしれない手段を1つあげると、つながりを追加させることでこのユーザーの供給物を増やし、それによってエンゲージメントを高めるというものがあります。

需要と供給の2つの側面は、プラットフォームを活用して強力なネットワーク効果を生み出すよう、奨励する必要があります。例をあげると、クリーナーと家庭を結び付ける二面性のあるクリーニングサービスのマーケットプレイスは、初回はうまくいくでしょう。しかし一定期間を経て、クリーナーが顧客とのつながりを十分に築いた時点で、そのプラットフォームはもう使わなくなるでしょう。両者をシステムにつなぎ留めるには、プラットフォームは、繰り返し提供される独特の価値を両者に作り出す必要があります。

同様に、競争関係、ユーザー行動、その他の付帯的な考慮事項によっても、供給と需要のレベルが変わる可能性があります。WhatsApp、Instagram、Snapchatの存在は間違いなくFacebookのバリュープロポジションを変え、主力商品も以前とは違った形で活用されています。供給側と需要側双方のバリュープロポジションと、それが年月と共にどう展開していくかを理解することが不可欠です。そしてそれは、将来の商品ロードマップや戦略を策定する上で役に立つでしょう。

次のステップ

今回の記事は、Mediumが掲載する今年最後の記事になります。皆さんどうか楽しいホリデーシーズンと新年をお迎えください。次回は1月中旬に新たなコンテンツをお届けします。今後数回にわたり重点を置く分野は、世界に通用するデータサイエンスチームの構築に関するもので、データプラットフォームと実験、そしてデータに基づくロードマップや戦略の推進です。

重要ポイント

  • 2サイドマーケットプレイスは、消費者向けインターネット商品のエンゲージメントを理解する上で役立つフレームワークです。
  • フィードランキングやおすすめコンテンツ経由で関連性のあるコンテンツを提示することは、すべての消費者システムにおいて、エンゲージメントを高める極めて重要な手段です。

 

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: Two-Sided Marketplaces and Engagement (2018)

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