ネットワーク効果のダイナミクス (a16z, D'Arcy Coolican and Li Jin)

インターネット時代に最も成功した企業やプロダクトは全て、より多くの人が利用することでユーザーにとって価値が高まる、ネットワーク効果に基礎を置いてきました。このことはAmazonやGoogleのような企業だけではなく、Wikipediaやいくつかの暗号通貨などのオープンソース プロジェクトにも当てはまります。ネットワーク効果の背後にある中核的な理論は、ネットワーク効果を持つプラットフォームやプロダクトは、大きくなるほどその効果を発揮するというものです。それはユーザーに対する価値を高めるだけではなく、プロダクトを改善するためのより多くのリソースを獲得することもでき、その結果、「フライホイール」が強化されるのです。

しかしながら、最近では現実がこの理論から外れようとしているように見えます。

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勝者総取り市場の代わりに、メッセージアプリからスニーカーのマーケットプレイスまで、あらゆる種類のネットワーク効果を用いる企業が出現しており、それら多くのプレイヤーの間で市場が分け合われているのです。また、デートアプリや取引プラットフォームなど、最初に市場を獲得し、すでに深い壕で守りを固めたように見える企業でさえ、後追いの類似サービスや新規参入企業からその地位を守るのに苦労しています。InstagramストーリーズがSnapに対してしていることに目を向けてみれば分かります。最近では熱心な10代のユーザーたちの間で、Instagramストーリーズの方が人気で勝っています

これは、私たちの知っているネットワーク効果が、すでに死んでしまったことを意味するのでしょうか?いいえ、違います。そうではなく、以前よりもより流動的になっているのです。

全てのネットワーク効果が平等に生み出されるわけではないのと同時に、その進化も同様ではないことが分かっています。あらゆるプロダクトが異なる種類のネットワーク効果を持っており、時間と共に別々の成熟と発展を遂げます。それどころか、ほとんどのネットワーク効果ビジネスが以前よりも速いスピードで変化しています。では、起業家や創業者たちは、ネットワーク効果が低下しているように見えるこの時代を、どのようにして乗り切ることができるのでしょうか?その秘訣は、自らのビジネスのネットワーク効果の現状を知り、時間と共にどのように進化していくのか予測することです。そのためには、自分の会社の3つの側面を把握し、それらを強化する方法を理解する必要があります。その3つの側面とは、1) バリュープロポジション、2) ユーザー/在庫、および3) 競争エコシステムです。これらを理解しなければ、不意打ちを食らわされ、「ネットワーク効果は死んだ」と主張することになりかねません。

ネットワーク効果の現状を静的に見るだけでなく、その未来を予測するために、指針をいくつか紹介します。あなたの会社にネットワーク効果があることが分かったら、この記事を参照して、それを測定・維持する方法を学んでください。

1) バリュープロポジション:全てのプロダクトが平等に作られているわけではない

企業またはプロダクトのネットワーク効果は、成長と共にいつまでも効果逓増軌道に(または直線軌道にさえ)乗り続けているわけではありません。軌道は漸近線となるか、あるいは変曲点を迎えたり、反転したりすることさえあります。創業者にとって重要なのは、ネットワーク効果を推進しているバリュープロポジションを知り、その力が弱まっているのか、あるいは強くなっているのか把握することです。そしてとりわけ、新たなバリュープロポジションやプロダクトマーケットフィットのレイヤーを繰り返し導入しながら、その進化の様子を注視することが大事です。

いくつか例を見てみましょう。

ライドシェアリング。どのような地域内においても、ドライバーの供給と乗客の需要は互いを補強し合います。つまりドライバーの数が増えれば待ち時間が減り、乗客の需要が増え、その結果、運転したいと思うドライバーの数が増え…フライホイールが回り始めます!しかしそのバリュープロポジションには障害が存在します。特定の地域において待ち時間5分が達成されると、乗客たちはネットワーク内により多くの利用可能なドライバーがいるかどうかには、関心を持たなくなります。そして複数のプラットフォームが相対的にこの流動性レベル(5分の待ち時間で乗客を満足させる十分なドライバーの数、等)に達すると、乗客にとって具体的なプラットフォームは問題にならなくなります。そのような市場では、ブランド/評判、料金、ユーザー体験、ロイヤルティプログラムなど、他の方向性で競争しなければならなくなるでしょう。言い換えれば、バリュープロポジションを進化させる必要があります。

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ソーシャル レンディング。時にネットワーク効果の変化は、相対的な流動性(待ち時間、等)ではなく、絶対的な流動性(ネットワーク内の人々の数、等)によって、より推進されることがあります。友だちや家族同士でお金を貸し借りできるサービスFrankのケーススタディーを見てみましょう(ちなみに、Frankは当記事執筆者の1人が共同創業しました)。初期段階では、Frankグループ内の友だちの数が多いほど、需要も流動性も高まり、それがグループ参加者の数を増やす大きな動機を作り出していました。しかしグループがいったん7人以上になると、お金の貸し借りをあまりしないようになりました。結局のところ、信頼してお金を貸し借りする友だち/家族メンバーの数は、たった7人までだったことが分かったのです!この場合のネットワーク効果は、個人のネットワークがバリュープロポジションよりも大きくなったために、ポジティブからネガティブに変わったのです。このパターンは、ソーシャル性の高いその他多くのプロダクトにも当てはまります。

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ソーシャル ネットワーク。Facebookの使用事例が、近況を友だちと共有することから、ニュースやコンテンツを見せることに変わるに連れ、そのネットワーク効果は低下しました。友だち/フォロワーの数が多過ぎると、人々は気軽に個人的なコンテンツの共有ができなくなり、利用目的がニュースや公開コンテンツの閲覧へと変化して行きました。それに従ってバリュープロポジションやネットワーク効果も、ソーシャルネットワーク作りからソーシャルメディアへと変わりました。重要なのは、初期段階の純粋なソーシャルネットワークにおいてはノードの追加が重要でしたが、メディアを見つけるという点ではそれほど価値を持たなかったということです。そのためバリュープロポジションの変化は、ネットワーク効果の曲線が変曲点に達したことを意味しました。コンテンツの関連性が高いと感じさせるいくつかの機能(キュレーション アルゴリズムやタイムラインなど)により、ユーザーにさらに友だちを追加させることでこの転換点を先送りできたものの、最終的にはコンテンツ構成、バリュープロポジション、およびネットワーク効果の全てが変わってしまいました。

 

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分散型プラットフォーム。例えばビットコインのことをデジタルなゴールドと考えた場合、ネットワーク効果は買い手/売り手が多いほど流動性を高め、全員に対してそのプラットフォームの価値を上げるものと言えるかもしれません。しかしビットコインを決済プラットフォームと考えると、ユーザー数の増加はネットワークの混雑やその他の摩擦を生むため、必ずしも良いことではありません。これは(投資目的ではない)検討に値する興味深いケースです。理由は単純で、同一のプラットフォームに対する異なるバリュープロポジションが、結果的にネットワーク効果をどのように強化または低下させるのか示す一例だからです。また、機能の追加(拡張、処理能力の増加、取引スピードの向上など)がどのようにバリュープロポジションを進化・変化させ、あるいはネットワーク効果の新たな軌道を作り出すことさえできるのか示す、非常に良い例でもあります。

上記の事例を共有する目的は、ネットワーク効果のニュアンスと進化の両方を示すことです。もしこれらの要素に注意を払っていないのなら、ネットワーク効果が新たな価値の扉を開けることになるかもしれない大事な時に、特定のビジネスにおいてそのような効果はもう存在しないと信じ続けることになるかもしれません。

2) ユーザーと在庫:全てのユーザーが平等に作られているわけではない

あなたの会社のプロダクトやプラットフォームが現在持っているユーザーや在庫の種類、および追加しようとしているそれらの種類は、ネットワーク効果の軌道を把握・予測する際の基礎となります。

供給物のコモディティ化 対 差別化

ネットワーク効果を予測する際に、特に二面性を持つプラットフォーム/マーケットプレイスにおいて重要な要素は、ユーザー/在庫がコモディティ化されているのか、または差別化されているのかということです。

ライドシェアリングにおいては、顧客(乗客)はサービスの基礎となるサービスプロバイダー/在庫に比較的こだわりを持ちません。供給物(ドライバー/自動車/輸送)が取り替え可能、つまりコモディティ化されていることを理解しているためです。オンデマンド保管サービス会社や配送会社など、比較的コモディティ化された在庫を持つプラットフォームは、いったん流動性の基準レベルに達すると、ネットワーク効果が漸近線状になりやすい性質を持ちます。ライドシェアリングのような分野では、隣接ビジネスに進出することで在庫を(代用可能なことは変わりないものの)差別化させることができ、それによっておそらくネットワーク効果の強さも増します(医療分野に進出したLyftや、食品配達に進出したUberなど)。

より差別化された在庫を持つプラットフォーム/マーケットプレイスには、より強く、より長持ちするネットワーク効果があります。それぞれの顧客が持つ固有の好みに合った、多様な在庫があるためです(在庫全体にわたり必要最低限の代替性も維持しています)。例えばAirBnBは、ユーザーがロサンゼルスで一泊$225~$325の宿泊施設を検索した時に、条件に当てはまる全ての物件を表示します。それらの物件の一部は他の誰かが検索した$150~$250のものと同じですが、バルコニーとスパの両方が備わっています。従ってこのプラットフォームは、コモディティ化された一連のスタンダードルームとエグゼクティブルームを表示するだけのサイトよりも、マーケットプレイスの両面においてより価値が高いのです。ネットワーク効果の強さを維持し続けられる理由は、さまざまな種類の在庫全体にわたり流動性が基準レベルに達している(そのためより多くのユーザーにとって価値が高くなっている)からだけではありません。新たな供給物により、効果を高め続けてもいるからです。

しかしながら、在庫の差別化を進めるほど、プラットフォームはキュレーションとマッチングをより上手に行わなければならなくなります。また、それ自体がプラットフォームの全体的な防御性を高め、ネットワーク効果曲線の強さを長期間にわたり維持するのです。

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追加するユーザーの種類

ユーザーと在庫がコモディティ化されているという性質にも関わらず、あるネットワーク内のメンバーが全員同じというわけではありません。中には他のユーザーよりも価値の高い、あるいは低いユーザーがいます。例えばOpenTableネットワークにとって、たくさんのユーザーが住んでいる場所の近くにあって、とても人気のあるレストランは、どこかだか分からない場所の真ん中にあり、料理も美味しくないレストランよりも高い価値をもたらします。

自分の会社のネットワーク効果を予測する時、そしてもっと重要なこととして、さらなるユーザーを獲得し、エンゲージさせる成長戦略を計画する時には、引き付けることになりそうな新しいユーザーに対し注意を払う必要があります。それらのユーザーはネットワークにとって「害のある存在」ですか、「無害の存在」ですか、それとも「貢献する存在」ですか?ソーシャルネットワークにとって、他のユーザーの離反を招く嫌われ者を加えることは汚染と同じで、ネットワークの価値を下げることになります。情報を読むだけで書き込みしないユーザーは、ネットワークの価値を何も増やさないと同時に損ないもしないため、無害です。素晴らしいコンテンツを生み出すユーザーを加えれば、ネットワークに莫大な価値をもたらしてくれます。

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従って、望ましいユーザーを動機づけ、望まないユーザーの動機を削ぐようにすることが重要です。ほとんどの大手プラットフォームがキュレーションの仕組みに大きな投資をし、質の悪い在庫/ユーザーをスクリーニングして排除しているのも、それが理由です(Wikipediaのエディター、AirBnBのレビュー/オンボーディング、等)。残念なことに、それらのスクリーニングの仕組みが常にうまく機能するわけではなく、強力な貢献者を見つけるコストがとても高くなる場合もあります。そのため、見込まれる成長をコストと比較して計算することがとても重要です。

3) 競争相手:全ての市場が平等に作られているわけではない

あなたの会社が扱う市場の性質、そして競合品や代替品の性質も、ネットワーク効果を把握し、予測するために極めて重要です。

ネットワークの重複

ネットワーク効果企業は大規模に守りを固める傾向を強めているものの、競争は免れません。しかし、そのような種類の企業にとって重要なのは、直接的な競争相手が誰なのか把握することだけではありません。ネットワークの重複についても考える必要があります。もしあなたの会社と同じようなネットワークを持つ他の会社が存在すれば、彼らが同じ市場に参入してくるリスクは常にあります。そのような会社はすでに同様のネットワークを持っているため、より簡単にあなたの会社の領域に侵入することができるでしょう(Snapchatと類似する一時的にしか保存されない「ストーリーズ」に進出したInstagramは、その良い事例です)。このことは、競争相手があなたの会社のネットワークを含む、更に大きなネットワークをすでに確保している場合にも当てはまります(DoorDashとUber Eats、中国におけるDidiとUber、等)。

スイッチングコスト

競争相手への切り替えコストが低いことも、ネットワーク効果を下げる可能性があります。通常、サインアップや使い方に障壁がないことは、自社プロダクトにユーザーを追加するのに好都合です。しかし、もし競争相手も同じような使い方の仕組みを持っていれば、ユーザーがどちらのプロダクトも使う「雑居化」が起こる可能性があります。デートアプリや地図アプリは利用障壁や切り替えコストが低いため、複数のアプリを簡単に使うことができます。

需要を満たすためのマルチテナント化

ユーザーが1つのプラットフォームでは目的を達成できない時は、ネットワーク効果が弱まります。求人市場がその良い例です。企業はたいてい、複数の人材採用プラットフォームに求人情報を掲載します(雑居化)。1つのプラットフォームだけでは採用ニーズの全てを埋められない可能性が高いからです。採用は会社経営にとって極めて重要で、欠員は間違いなく完全に埋めなければなりません。プラットフォームの一面がマルチテナント化すると、価格設定、機能、必要な流動性などに関し、運営者により強いプレッシャーがかかるようになります。そのために、経済的な側面がひっくり返ることがあり得ます。

上記の全てを評価する方法について、別の記事で詳しく解説しています。『ネットワーク効果を測定するための16の基準』:https://a16z.com/2018/12/13/16-metrics-network-effects/

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スピードの速いフォロワー企業は、昔よりも速く動くことができます。InstagramストーリーズはすぐにSnapに挑戦することができます。求人市場ではあっという間に数千人の従業員を確保できます。あらゆるものがAPI化され、何もかもがより簡単にできるようになっています。かつてeBayは自社の独自決済システムを構築・買収することで守りを固めてきましたが、今ではStripeが1つあるだけで、あらゆるマーケットプレイスが1時間以内に決済システムを組み込めます。

プロダクトの更新スピード、ネットワークを拡張できるペース、競争相手も同じことを始められる容易さが上がったことで、ビジネスにおけるネットワーク効果の予測は劇的に変わりました。かつては早く動いたものが優位性を長く維持するように見えた「勝者総取り」市場に代わり、現在はネットワーク効果が以前よりもより速いスピードで変化します。特に、漸近的バリュープロポジション、ネットワークの重複、有害なユーザーの増大など特定の要素が、将来も持続可能なネットワーク効果を生み出すための、プラットフォームの安定性を低下させる可能性があります。

誰も落ち込むことはありません!ネットワーク効果は最も影響力のあるソフトウェア会社をこれからも支え続けるでしょう。ただ、創業者や他のプロダクト開発者たちに、何が変化し、なぜ変化するのか知っておいてもらおうとしているだけです。知っておけば、それらの変化に不意打ちを食らう代わりに、問題に対する計画を立て、対処するためにもっと多くのことができます。ネットワーク効果は死んでいませんが、以前よりも流動的になっています。あなたの会社のネットワーク効果の現状を把握し、今後どのように変化しようとしているか理解することで、創業者は変化の風に吹き飛ばされる代わりに、意図を持ってネットワーク効果やその他の守りを設計することができるのです。

あなたの会社のネットワーク効果が長く続くことを祈ります!

 

 

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: The Dynamics of Network Effects (2018)

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