ネットワーク効果を計測する 16 の方法 (a16z, Li Jin and D'Arcy Coolican)

ソフトウェア事業やマーケットプレイス事業において、ネットワーク効果は特に重要な原動力の一つです。しかし、この効果は「あるのか、ないのか」という2進法的に語られることがよくあります。実際のところ、ネットワーク効果はほとんどの企業においてはるかに複雑なものであり、それらの種類強さも多岐にわたります。また、製品やユーザーや競合他社の変化に合わせて動的に変化 したり、発達したりもします。

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創業者は自社のネットワーク効果がもつ性質を把握することが重要です。この作業には、効果の有無を把握するのに役立つ指標群を決めることも含まれます。そのような理由から、私たちはこれまでに紹介した指標リスト (こちらこちら) に基づき、特にネットワーク効果を評価・解明することに特化したリストを編集しました。以下、ネットワーク効果を評価する5つの主なカテゴリ (獲得、競合他社、エンゲージメント、マーケットプレイス、エコノミクスに関連する指標) に分けて、それを伝えていきます。

一つ一つのネットワーク効果の状況は特定の製品、受け手、環境によって異なります。したがって、万能の評価基準リストはありません。ですが一般的に、需要と供給をマッチさせるツー・サイド・マーケットプレイスの場合はマーケットプレイスとユニットエコノミクスの項目に特段の注意を払うべきですし、ソーシャルネットワーク (社内用も含む) の場合はエンゲージメントとアクティビティが一番の問題となります。しかし最終的には、全てがネットワーク効果の定義そのものに行き着きます。すなわち、「その製品は使う人が多くなればなるほど価値が高まるのか」ということです。なぜなら、そうであって初めて、そのような価値をユーザーのため、そして自社のために生み出し、育て上げることに取り組めるからです。

獲得関連指標

#1 オーガニックユーザー vs. 有料獲得(ペイド)ユーザー

獲得した新規ユーザーのうち、何%がオーガニックユーザーですか?

ネットワーク効果という点に関して言えば、有料獲得ユーザー (費用をかけて獲得したユーザー) に対するオーガニックユーザーの割合は徐々に増加するはずです。なぜなら、そのネットワークが成長し、ユーザーが参加する価値が高まるにつれて、自分から参加したいと思うユーザーも増えるはずだからです。

Facebookなど、ダイレクトサイドのネットワーク効果 (「需要サイドの収穫逓増」とも呼ばれる) がある企業の場合、オーガニックユーザーの割合は人々が自らの友人をそのプラットフォームに参加させるにつれて成長していきます。結果的に、友人を参加させた人々自身の体験も向上するためです。例えばAirbnbやeBayなどのツー・サイド・マーケットプレイスの場合、新規ユーザーにおけるオーガニックユーザーの割合は、そのネットワークに参加して利用したいと望んでいる供給者 (Airbnb の住宅提供者、販売者) および購入者が増えるにつれて成長します。そこに収益の可能性と豊富な選択肢が存在するためです。

誤解のないように言えば、有料マーケティングによるユーザー獲得は悪いことだと言っているのではありません。FacebookやUberなどを含む多くの企業は、とりわけ新規市場において、新規ユーザー獲得のために費用をかけています。ですが、持続可能なビジネスを成長させようとする企業であれば、最低限必要なユーザー数に到達次第、有料での獲得の割合を減らすでしょう。結論として、どのネットワークであろうと、巨大化してユーザーにとっての価値が高まるにつれ、有料マーケティングによるユーザー獲得への依存度は減っていくはずです。

しかし、そこを基本としつつ、細かな差異が存在します。その差異が、オーガニックユーザーを到達させるべき適切なユーザーの分母を規定します。その適切な答えはその製品やユースケースによって決まります。地域密着型のネットワーク効果を有する企業 (例えば、世界規模のものと比べ、ホームサービス事業者を近所で探す場合など) は新規オーガニックユーザーの増加を示しますが、それは個々の地域で起こります。特定の環境 (学校など) の中で使われるようにデザインされた小規模なソーシャルネットワークの場合、オーガニックユーザーのパーセンテージはその特定のネットワーク (すなわち、その学校) という最小単位ずつ増加していくはずです。

#2 トラフィックの供給源

ネットワークが成長するにつれて、そのネットワークにおいて内部から生み出されている見込み客 / 取引の数を考えてみましょう。 外部の供給源に対し、ネットワーク自体に由来する数はどのくらいでしょうか?

価値あるネットワークがより多くのオーガニックユーザーを惹き付けるのとちょうど同じく、価値あるネットワークはユーザーがそのプラットフォーム (またはマーケットプレイス) 上でより多くの時間を費やしたいと思う目的地にもなるはずです。

トラフィックの供給源を測定することは、これを解明するのに有用な方法の一つです。その方法とは、ネットワーク上の見込み客または取引について、直接的なものの数と外部の供給源に由来するものの数とを分類 (そして追跡) することです。直接やって来るトラフィックの方が多ければ、ユーザーはそのネットワークが成長するにつれ、徐々にその価値を認めていることを示しています。

これを考えるうえでの好例がオンライン・レストラン予約企業のOpenTableです。初めのうち、当時まだ小規模だったネットワーク内では、「外部でレストランを検索または発見 > レストランの決定 > そのレストランのウェブサイトに飛ぶ > そこのOpenTableウィジェットを通して予約を行う」という形で一般的なユーザーは流れていました。

OpenTableのネットワークは成長するにつれて、ユーザーにとって以前よりも便利になりました。特定のレストランの予約状況をその公式ウェブサイトから確認する代わりに、ユーザーになれば全ての登録レストランの予約状況を確認できたためです。「OpenTable上でレストランを検索または発見 > レストランを決定 > そのレストランのウェブサイトを省略してOpenTable上から直接予約」という発見のプロセスはOpenTable上で開始されるため、直接的なトラフィックの割合が増加しました。

同様の例がMediumです。ネットワークが成長し、読めるコンテンツの数やフォローできる執筆者の数が増えるにつれて、Mediumのサイト内から生じた利用時間の割合も大きくなりました。これらは二つとも「ツールを目当てに来て、ネットワークを目当てに残る」というタイプの企業の典型例です。

#3 有料マーケティングによるCACの時系列

供給を獲得するためにどれほどの費用をかけなければならないのでしょう?

理論上、ネットワーク効果という「フライホイール」がいったん加速を始めれば、有料マーケティングによるCAC (顧客獲得コスト) は徐々に減っていくはずです。ところが、これは実際のところ、その他多くの要因によっても決まります。例えば、Facebookのようなマーケティングチャネルのもつ競争力です。ここでは広告主やその需要が増えるほどに価格も上昇する可能性があります。また、代用製品の利用可能度やバイラルループなども挙げられます。

例えば、ライドシェアでは、ドライバー (この市場において制約が強いサイド) の利用できるさまざまな代替サービスが存在します 。このせいで、その供給を獲得する費用は時間と共に高くなります。しかし、需要を単一のプラットフォームに集約したOpenTableのような企業では、レストランを獲得する費用は時間と共に安くなりました。

ところで、ネットワーク効果はバイラリティ(口コミ効果)と混同されることがよくありますが、この2つの概念は別物です。ネットワーク効果というのは、ユーザーが増えるごとにその製品 / サービスの価値が増加することを言っています。そしてネットワーク効果の構成要素として、CACに影響を及ぼし得る大規模なバイラル成長が含まれることもよくありますが、この2つの概念は同じではありません。バイラル成長 (ユーザーが他のユーザーを招待すること) はネットワーク効果のない場面でも成立可能です。ですから、大きなバイラル成長があってもネットワーク効果のない企業の場合、急速に成長したとしても、同じように急速に消え去る可能性があります。

競合他社関連指標

#4 マルチテナントの普及率

自社ユーザーのうち、他の同種のサービスも使っている人は何人いるでしょうか? 同種サービスでアクティブユーザーとなっている人数はいくらでしょう?

自社ユーザーが (機能が全く同じではない関連サービスも含めた) 同種のサービスも利用しているかどうかを把握することは重要です。

ある企業があるネットワークを複製できたとしたら、ある別の製品に対するニーズを奪える機能も上乗せできる。そういった場面を私たちはよく目撃してきました。たとえその標的の企業が消し去られないにせよ、そのようなマルチテナントによって使用が減ったり、全ての競合企業で利益が圧迫されたりする可能性もあります。例えば、犬の散歩代行者とペットの飼い主向けのマーケットプレイスがその中核事業からペットの飼い主のネットワークを構築していることを考えると、そこにはペット用のヘルスケア製品、ペットフード、その他の隣接した製品が進出するチャンスが存在します。Facebookは一時的なストーリーを開発し、この機能をInstagramを含む、自社のさまざまなアプリに次々と追加してSnapchatの成長を妨害しました。

そのようなマルチテナントの測定には手際を要する可能性があります。自社ユーザーにアンケートを取って別のサービスを利用しているかどうかを尋ねたり、離脱や使用量の減少を詳しく調べたり (そしてそのユーザーが異なるサービスにくら替えしているかどうかを把握したり) することになるかもしれません。あるいは単純に、他のプラットフォーム上でユーザーのプロフィールについて総当たり検索することもありえるでしょう! ですが、いったんマルチテナントをしているユーザーの数を確認すれば、他のどこかへ移りたいとユーザーに思わせなくするために、自社製品を強化する方法が存在します。例えば、(両サイドでマルチテナント率が高い) ライドシェアリングでは、企業が競合他社サービスの使用量を減らすべく、利用客サイドのサブスクリプションとドライバーサイドのボーナスを提供しました。

最終的に、たとえ自社のユーザーベースと他社サービスのユーザーベースとの重なりをきちんと判断できたとしても、重要なのはその人々がどれくらいアクティブなのか、すなわち単にユーザー登録をしているだけなのか、それとも積極的にそれを利用しているのかを検討することです。LinkedInへの登録はプロフェッショナルのあいだでは一般的です。ですが、そのユーザーがアクティブかそうでないかを知ることは新しいスタートアップが専門的サービスのネットワークを作り上げるために重要です。なぜなら、そのようなユーザーにとって現行の製品が役に立っていない領域を狙えるからです。これはネットワーク領域でよく使われる戦略で、まずはその市場で十分なサービスを受けられていない分野から侵入して競合するネットワークを構築していくというものです。

#5 スイッチング・コストまたはマルチホーミング・コスト

ユーザーは新しい (さらには実在しない) ネットワークへとどれくらい手軽に参加できますか? ユーザーは新規ユーザーとして異なるネットワークに参加することからどれくらいの価値を得られますか?

代替製品やサービスの利用可能度にとどまらず、あるネットワークのユーザーが競合するネットワークに登録してそのオンボーディングプロセスを完了することはどれくらい簡単ですか?

登録やアクティブユーザー化に関する障害は製品ごとに異なります。オンボーディングプロセスに高額な先行投資が必要な製品では、見込み新規ユーザーをアクティブにすることが困難かもしれません。しかし、それは競合他社に対する城壁としての役目も果たします。いったんそのユーザーがアクティブになると、マルチテナントを行う可能性が低くなるためです。オンラインの個人向けスタイリングサービスの状況を見てみると、例えばStitch Fixの顧客は「自分の好みを新しいスタイリストに説明する」「自分の好みやサイズに関する情報を入力する」「受信したり、返信されたりしたさまざまなスタイルを調整する」などといった先行投資のせいで、異なるサービスを試してみることに面倒くささを覚えるかもしれません。

逆に言うと、ある製品において新規ユーザーがアクティブになるために必要な労力が少ない場合、ユーザーにマルチテナントや乗り換えを行わせることにより、その製品はある市場へともっと簡単に割り込めます。Uberはすでにライドシェアを目的としてユーザーのクレジットカード情報を数百万件分も所有していたため、これまでに別のフード宅配ネットワークを利用していたユーザーはUber Eatsの利用を大した手間をかけることなく、簡単に開始できました。

ここで考慮すべきもう一つの重要な事柄は、ユーザーは新しいネットワークに参加した初めのうちにどれほどの価値を得られるのか、コールドスタート時のユーザー体験はどうなるのか、という点です。Facebookの場合、たとえユーザーが他のソーシャルネットワークに簡単に参加できたとしても、その人のデータ、コンテンツ、人脈は全てFacebook上に存在します。そのため、自らの人脈を招待し、ソーシャルグラフを再構築するためのスイッチング・コストが高くなります。他方、求人情報マーケットプレイスの場合、雇用者は自社の雇用条件を複数のサイトにアップロードして、候補者による応募の受け付けを開始することが最初から簡単にできます。

スイッチング・コストやマルチホーミング・コストを定量化できる指標へと抽出することには手際を要する可能性があります。そして、いかなる指標も、そのビジネスや市場において非常に特有なものとなるでしょう。指標の候補として、競合他社のオンボーディングの手順を完了するまでの所要時間、最低限の開始地点まで到達することの容易さ、その製品が有用になる「マジックナンバー」(例えば、Facebookにおける友人10名)、といったものが考えられます。

エンゲージメント関連指標

#6 ユーザー継続のコホート

ユーザー継続率は新しいコホートほど向上していますか?

ネットワーク効果の古典的な定義は「ある製品またはサービスのユーザーにとっての価値が同じ製品またはサービスを利用している他のユザーの数と共に増加する」というものです。したがって、このユーザー価値の増加はユーザー継続のコホートに反映されるはずです。(ある製品をそのネットワークが大きく、有用になった段階で経験している) 新しいコホートでは、そのネットワークが小さかった段階で参加した古いコホートよりも一定期間内の継続率が良好なはずです。

しかし、理論が現実と違うことはよく起こります。そして、時間と共にコホート継続率が下がっている企業を目にすることもよくあります。なぜなら、ユーザー継続を判断する際に考慮すべき主な交絡因子 (当リストの指標#6-8) が「最初期のユーザーコホートは (特に、ソーシャルネットワークまたはコミュニティに基づく製品の場合に) 製品 / サービスにとって最も『理想的な顧客』であるアーリーアダプターになりがちである」という点にあるからです。そのようなモチベーションを早くから、そして往々にして高い水準で抱いているユーザーが存在する結果、必然的に最新の顧客よりも最初期の顧客の方で継続コホートが良好になります。

「競合他社の存在」、「超地域密着型である結果、どの新しい地域にいる新規ユーザーに対して『リセット』されてしまうネットワーク効果」、さらには「ユーザーにとって価値がある一定の閾値で実際に減少する (もしかすると、そのネットワーク内の過密状態や汚染物質に起因するかもしれない) マイナスのネットワーク効果」といった他の状況も、この指標の分析を変化させる可能性があります。

#7 コア・アクションの継続コホート

継続を「ユーザーがその製品にとってのコア・アクションを行っていること」と定義した場合、それは新しいコホートほど向上していますか?

エンゲージメント・ファネルを詳しく調べていると、自社製品の「コアアクション」を取っているユーザーの方が多いかどうかを確認したくなります。コア・アクションはユーザーが自社製品から価値を得ることと実質的に一致するものかもしれませんし、自社のビジネスモデルと緊密な関係にある何かである可能性もあります。

例えば、Nextdoorのコア・アクションが「ユーザーが近所のニュースフィードにコンテンツを投稿すること」だとすると、そのネットワーク密度が成長するにつれ、継続率の向上がこのコア・アクションに支えられたものになることを同社は期待するはずです。このコア・アクション継続率は、単にトップページへのログイン率やアプリの起動率を測定するよりもネットワーク効果についての情報がよく分かります。

#8 売上の継続コホート & 契約ユーザーの継続コホート

あらゆる任意の期間について、新しいコホートは古いコホートよりも売上ベースでよく定着していますか?

サブスクリプション型製品や有料製品では、売上の継続率や契約ユーザーの継続率に注意しなければなりません。新しいユーザーコホートは古いコホートよりも (コホートの収益という観点で) よく定着しているべきです。それはなぜでしょう? ある製品の代金を支払うことはユーザーがその製品をどれくらい評価しているかを示すため、(時間と共に価値が増える) ネットワーク効果のある製品はより新しいコホートにおいて売上継続率と契約ユーザー継続率が増加していなければなりません。

例えば、Angie’s List (ホームサービスの登録簿) のネットワーク範囲が向上するにつれて、新規ユーザーの定期購入コホートで (売上継続率に加え、定期購入し続けているユーザーの数という観点からも) 定着率が良くなるだろうと私たちは予想します。そのサイトの実用性の増大を考慮してのことです。

#9 所在地 / 地域ごとの継続率

最初期の市場の参加者 (地域密着型ネットワーク効果を有する企業の場合) は、もっと新しい市場の参加者よりもよく定着していますか?

地域密着型ネットワーク効果をもつ企業の場合、そのネットワーク効果は市場単位で存在し、新たな地域では「リセット」されます。例えばシャーロット在住のCare.comユーザーの場合、ニューヨーク市で利用できるベビーシッターの数が増えたところで、そのユーザー体験には何の影響もありません。ですが、地元で利用できるベビーシッターが増えれば、その場所にあるネットワークの利便性が向上します。

各地域でネットワーク密度が成熟し、構築されていくうちに、その市場における継続率が向上するはずです。したがって、最初期の市場または最も確立された市場は新しい市場よりも定着率が良くなる傾向にあります。この傾向は実際に、私たちが入手したほぼ全ての地域密着型ネットワーク効果に関するデータの中にも表れています。

#10 パワーユーザー曲線 (またはL7チャートとL30チャート)

ユーザーはパワーユーザー曲線の右側へと移動していますか? 言い換えると、その人々は時間と共にエンゲージが向上していますか?

パワーユーザーはそのネットワークに多大なる貢献をすることにより、特に大きく成功している企業の一部を後押ししています。DAU / MAU (日間アクティブユーザー数を月間アクティブユーザー数で割ったもの) はエンゲージメントを測定するためによく使われる指標ではあるものの、そこには不十分な点もあります。そして、パワーユーザー曲線はユーザーのエンゲージを理解するためのより繊細な方法を提供してくれます。

手短に言うと、パワーユーザー曲線 (一般に30日間の利用ではL30チャート、7日間の使用ではL7チャートと呼ばれます) とはユーザーのエンゲージに関するヒストグラムのことで、ユーザーがある時間枠の中で特定の行動をアクティブに行った合計日数を示します。ネットワーク効果を分析する場合、ユーザーが特定の行動をとる頻度をコホート基準で確認することにより、製品がユーザーの増加から本当に有用性を得ているのか否か、つまりネットワーク効果の有無を確認できます。ある製品について本当にユーザーの増加で価値が高まるのであれば、そのことは時間と共にエンゲージの高頻度なグループへと推移するユーザーの割合が増えたり、パワーユーザー曲線が右へ傾いていくという形で反映されているはずです。

マーケットプレイス指標

#11 マッチ率 (または利用率、成功率など)

マーケットプレイスの両サイドはお互いをどれほどうまく見つけられますか?

どんなマーケットプレイスでも、その仕事は需要と供給のマッチを促進することです。したがって、成功した「マッチ率」(購入者が販売者を、また逆に販売者が購入者を見つけられた率) を測定することが重要です。この指標を定義する方法はそのビジネスごとに決まります。

特定の企業についてのマッチ率の例として、次のものが挙げられます。

  • ライドシェアにおけるドライバーの利用時間。空車に対し、ドライバーが乗客を乗せて運転している時間は何%ですか?
  • 求人マーケットプレイスで、雇用者は投稿した職務について実際にどのくらいの頻度で雇用していますか? また、求職者はどのくらいの頻度で仕事を見つけていますか?

関連する指標は「ゼロ」、すなわち成功しなかったマッチを測定することです。ライドシェアの場合、アプリを起動したが最終的に配車リクエストをしなかったユーザーの割合は何%ですか? それらの「ゼロ」は長過ぎる待ち時間、価格の高騰、またはその他のマーケットプレイスが需要を満たせなかったあらゆる出来事に起因している可能性があります。マーケットプレイス運営者はマッチが起こらない理由を特定したうえで、マーケットプレイスで制約を受けている側の増大と動機付け、製品設計の改善、その他の仕組みを通じて、これらの障壁を除去または削減するための措置を講じなければなりません。

この指標はまた、上述のマルチテナントという概念とも密接に関連します。マッチ率が低いと、ユーザーにはそこから離れて他の製品を使おうという動機が自然と生まれます。例えば、雇用者がさまざまなサイト (自社のウェブサイト、LinkedIn、Indeed、さらにその他のネットワーク) に求人情報を投稿することはよくあります。これは単純に、一つのネットワークだけでは十分に高いマッチ率にならないためです。収入増の可能性や最低限の実用性すらなければ、マルチテナントは発生します。どのレストランの窓にも、全てのデリバリーマーケットプレイスのステッカーが貼られていることの意味を考えてみましょう!

#12 市場の深さ

十分な供給が存在し、それがユーザーのニーズに合っていますか?

「オファーの深さ」または市場の深さという概念は金融市場で生まれました。金融市場において、それは大きな注文を価格の値動きなしで維持できる市場の能力として定義されます。価格ごとの買い注文と売り注文の数が大きくなればなるほど、市場の深さも深くなります。

消費者向けマーケットプレイスの場合、ユーザー体験に直接の影響を及ぼすため、市場の深さを測定することが重要です。(供給業者それぞれが異なる) 異質的供給市場の場合、市場の深さはユーザーがマッチを見つけられるか否かを決定づけます。ユーザーがOfferUpやAirbnbのような製品を起動した際、その人々はどれだけ多くの販売品目を目にすることになるでしょうか? そして、買いたい商品や泊りたい住宅を見つける可能性はどれくらいあるのでしょうか? 異質的供給市場の場合、市場の深さが利用しやすさに影響を及ぼします。ユーザーがLimeを起動する際、その人が自分の近くで発見できるバイクやスクーターの台数はどのくらいでしょうか? 市場の深さが深くなればなるほど、Limeを利用するのはますます簡単に (そして歩く距離という観点から言ってユーザーに必要な労力もますます少なく) なります。

どんなマーケットプレイス企業でも、主な任務の一つは検索コストを減らすこと、一方のサイドの参加者による他方のサイドの参加者の発見やマッチを簡単にすることです。これに失敗すると、マーケットプレイスにマイナスのネットワーク効果が発生しかねません。そのような場所では、供給が多過ぎることによって発見が困難になる状況が実際に引き起こされます。消費者として、私たちはこれを決断疲れ、あるいは選択のパラドックスとして経験しています。この状況では、コンバージョン率が下がるかもしれません。

異質的(ヘテロジニアス)供給 vs. 同質的(ホモジニアス)供給についての注意点――「同質的供給」市場は通常、ネットワーク効果について漸近線を描きます。このような状況では、ユーザーにとっての価値は市場が大きくなっても最終的には横ばい状態に達します。例えば、Limeのスクーターが私の最寄りの街区に6台あったとしても、これは利用できるスクーターが私の近くに4、5台しかなかった場合よりも価値が高い、ということには全くなりません。さらなる供給の追加があろうとも、ユーザーの価値は変化しません。他方、異質市場の場合、供給サイドのノード全てが異なっており、潜在的により大きな価値を付加できるため、漸近線は存在しません。Airbnbを例にとると、ユーザーの好みが非常に具体的であるかもしれないため、プラットフォーム上に追加されるどの販売リストにも確認する価値が生まれます。

#13 マッチの発見にかかる時間 (または在庫回転率、もしくは回転日数)

需要と供給がマッチするのにどのくらいの時間がかかりますか?

通常、マーケットプレイスのマッチ率は曲線を描きます。そこでは在庫の大多数が長期間にわたる横ばい状態の中でさばけていきます。製品マーケットプレイスの場合、これは一般的に在庫回転率と呼ばれます。

その逆が回転日数です。この指標は伝統的なマーケットプレイスほどよく当てはまります。このような場では、ユーザーによるオプトイン (一方のサイドが販売リストを作り、他方が応答する) によってマッチが起こり、オンデマンド型マーケットプレイスとは対照的です。後者のマーケットプレイスでは中央集約型のアルゴリズムに基づく (そしてユーザーからは見えづらい) 方法でマッチが行われます。

例えば、求人マーケットプレイスの場合、「雇用者が被雇用者を見つけるまでにかかる時間」や「最初の応募を受け取るまでにかかる時間」が問われます。P2Pマーケットプレイスの場合、「各サイドが取引に携わるまでにかかる時間」です。Thumbtackの場合、「ユーザーが最初の見積もりを受け取るまでにかかる時間」です。OfferUpでは、「販売者が自分の製品を売るまでにかかる時間」となります。

#14 需要と供給の集中と断片化

そのマーケットプレイスは需要サイドと供給サイドにどれほどの集中が見られますか?

需要サイドと供給サイドの断片化が大きいマーケットプレイスは価値が高まり、防御もしやすくなります。これはつまり、需要サイドまたは供給サイドの参加者が不均衡な形で、取引を高い割合で占有していないということです。これはビジネスの持続可能性と多様性を高めます。あるマーケットプレイスで需要または供給が集中し過ぎている場合、大きな購入者または大きな販売者がそのプラットフォームを去ると決めてしまうと取引の大部分を持ち去ってしまうというリスクが存在します。

また、マーケットプレイスが断片化した商品や提供者を集約すると、さらに高い価値が生まれます。集約しない場合、それらを発見・利用することがもっと困難になってしまうはずだからです。これは要するに、ロングテールを活用 (多様性とニッチの増加) し、 (ただのヒット商品にとどまらない) そのテールのヘッドを知ることを簡単にするようなものです。

マーケットプレイスは上位何名かの販売者または購入者が占めるGMVのパーセンテージを測定することによって集中度を測定できます (例えば、Instacartの例では、各食料品店チェーンが貢献しているGMVの割合)。

エコノミクス関連指標

#15 価格決定力

自社製品に対して請求できる料金はどれくらいですか? 消費者がそのネットワーク内に留まるために支払う気になる額はどれくらいでしょう?

参加者がそのネットワークから受ける価値が大きくなるにつれ、参加者がネットワークの利用権を得るために支払う気になる金額も増えます。この支払いは定期購入、出品手数料、 取扱手数料、その他の収益化の仕組みという形で行われます。

ネットワーク効果を有する企業はそのライフサイクルの中で、全く収益が出ない、場合によっては需要または供給に奨励金を出しさえする状況から、収益化が始まる状況へと変わり、どちらのサイドからの離脱も最小限に抑えながら価格を上昇させる力を得るまでに進歩する可能性があります。

#16 ユニットエコノミクス

ビジネスの様子はおおむねどうですか?

ネットワーク効果の向上は時間と共に、ユニットエコノミクスの向上に現れることが良くあります。これは、企業がその市場の異なるサイドに提供しなければならないインセンティブの減少、有料ユーザーの割合の低下、全体的な価格決定力の向上といったものの結果です。

地域密着型のネットワーク効果がある企業の場合、ネットワーク効果の影響は時間をかけながら、個々の市場に応じてユニットエコノミクスに現れてくるはずです。なぜなら、ある任意の市場においては、時間と共にCACが減少したり、オーガニックユーザーの割合が増加したりするはずだからです。地域レベルのネットワーク効果を有するThumbtackやInstacartのような企業の場合、長期にわたって市場ごとのユニットエコノミクスを追跡することは、市場の存続年数、ネットワーク密度、収益性のあいだの関係がわかるの有用です。

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記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: 16 Ways to Measure Network Effects (2018)

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