リーダーシップに関するメモ (a16z)

私たちAndreessen Horowitzでは、創業者が会社の経営にあたることを好みます。その理由は多岐にわたります(そしてそれらは今後のブログ記事で取り上げる予定です)。その結果として、私たちは創業者CEOに要求される性質は何かを考えることに多くの時間を費やしています。成功する創業者CEOであるために要求される最も重要な特性は、リーダーシップかもしれません。ではリーダーシップとは何で、CEOの仕事に当てはめた場合、私たちはそれをどのように考えるべきでしょうか? 偉大なリーダーは生まれながらのものでしょうか、それとも作られるものなのでしょうか?

ほとんどの人のリーダーシップの定義は、最高裁判所判事Potter Stewartがポルノを定義した有名なこの一言と同様です。すなわち、「見ればわかる」です。

より適切な定義は、元国防長官Colin Powellによる、次の発言に見いだせます——「たとえそれがほんの好奇心からであっても、人々がどこへでもあなたについて来るとき、あなたはリーダーとしての卓越性を習得したのだ。」議論を前に進めるために、私たちはこれを一般化することで、リーダーの特性のものさしにすることができます。そのものさしとは、リーダーについて行きたい人の量、質、および多様性です。

では、リーダーについて行きたいと思わせることにはどんなものがあるのでしょうか? 私たちは3つの主要な特性を見出します:

1. ビジョンを描く力

2. 正しい野望

3. ビジョンを達成する力

これらを順に見てみましょう。

ビジョンを描く力——Steve Jobs特性

リーダーは面白くダイナミックで説得力あるビジョンを描くことができるでしょうか? より重要なこととして、リーダーは物事がうまくいかないときにもこれができるでしょうか? さらに具体的には、会社が追い込まれ、従業員が会社に残って働き続ける経済合理的な理由がないほどの状況に陥ったとき、それでも純粋に好奇心だけからそこに残りたくなるような説得力あるビジョンを、リーダーは描くことができるでしょうか?

私が信じる、Jobsのビジョナリーリーダーとしての最も偉大な功績は、a) NeXTがその風格を失ってからもずっと、大変才能豊かな人々を彼について行かせ続けたこと、そして b) Appleが倒産まであと数週間という段階で、彼の描いたビジョンに対する従業員の支持を獲得したことです。このようなことを立て続けにできるほど説得力のあるリーダーを他に想像することは難しく、それこそが私たちがこれをSteve Jobs特性と呼ぶ所以です。

適切な野望——Bill Campbell特性

Andy Groveはかつて、会社が目的を達成するためには、非常に野心的な幹部が必要だと述べました。ただし、それらの幹部が「間違った野心」ではなく「正しい野心」を持つことが極めて重要です。ここで言う「正しい野心」とは会社が成功するための野心であり、「間違った野心」とは自分自身が成功するための野心を指します。

私たちの社会における最大の誤解の一つは、CEOになるための条件は自分勝手で、無慈悲で、冷淡であることというものです。実際はその逆が真なのであり、その理由は明らかです。成功するCEOは誰でも、最初にやらなければならないことは、本当にすばらしい人材に働いてもらうことです。賢い人は、自分の利益を考えてくれない、また心から関心をもってくれない人のために働きたいと思いません。

私たちのほとんどが、キャリアを積む中で、このようなケースを経験しています――賢く、野心的で、努力家のエグゼクティブだけれども、優秀な人は誰もその人のために働きたがらず、その結果、想像もできないようなひどいパフォーマンスしか上げられないような人です。

真に偉大なリーダーは、CEOがCEO自身のことよりも従業員のことをずっと気にかけてくれていると、従業員が思えるような環境を作ります。このような環境では、驚くべきことが起こります――たくさんの従業員が、これは自分の会社だと信じ、そのように行動するのです。会社が大きく成長するにつれ、このような従業員が組織全体の品質管理係となります。彼らが、将来の従業員が到達しなくてはならない仕事の水準を規定します。「ちょっと、そのデータシート、もう少しちゃんとやってくれなくちゃ。私の会社がだめになっちゃうじゃないか」という感じです。

私はこのような特性をBill Campbell特性と呼んでいます。私が見てきた中で一番これが得意な友人のBillにちなみました。ビルが運営してきたいくつもの組織で働いた人と話せば、彼らはそれらの組織を「うちの組織」とか「私の会社」というふうに呼びます。彼がなぜリーダーシップのこの側面でこれほど信じられないくらいに強いのか、その理由の大部分は彼が非常に誠実な人間だからです。彼は自分の経済事情や名声、栄光、報酬を従業員のために喜んで犠牲にします。Billと話すと、彼があなたとあなたの言いたいことを非常に大切に思っている感じが伝わってきます。なぜなら彼は実際そう思っているからです。そしてそれらすべてが彼の行動とフォローに現れるのです。

ビジョンを達成する力—Andy Grove特性

私たちのリーダーシップに関する話の最後の柱は、ずばり能力です。私がリーダーの提示するビジョンに乗り、リーダーが私のことを気にかけてくれていると信じたとしましょう。私はリーダーが実際にビジョンを達成できると考えるでしょうか? 前に進む地図も後ろに進む地図もないのに、ジャングルの中にまでもついて行き、リーダーが脱出させてくれるだろうと信頼するでしょうか?

私はこれをAndy Grove特性と好んで呼んでいます。Andy Groveは私にとって、いつまでも有能なCEOのモデルであり続けるでしょう。彼は電気工学の博士号を持ち、私が今まで読んだ中で最も優れた経営の本を書き(High Output Management)、精力的にその能力を磨いてきました。経営に関する卓越した本を書いただけでなく、在任中はずっと、Intelでマネジメントの授業を持ち、教えてきました。

彼の名著Only the Paranoid Survive(パラノイアだけが生き残る)で、GroveはIntelのメモリ事業からマイクロプロセッサ事業への劇的な転換を導いたときの体験を詳しく綴っています。その過程で、彼は彼のあげた収益をほとんど受け取りませんでした。彼は社内の他の人たちの方が、彼よりも先に戦略的な結論を導いたとして手柄を譲っています。しかし、この転換期の中、会社をすばやく成功裡に導いたお手柄はGrove博士のものでしょう。創業16年の大きな上場会社の主要事業を変えようとすれば、たくさんの疑問の声が上がります。実際、Andyが従業員の一人とのやりとりについてこう書いています――

そのうちの一人がこう尋ね、私を激しく攻撃しました。「あなたはメモリ事業ではないIntelを想像できるということですか?」私は固唾を飲み込んで、言いました。「ええ、できるのではないでしょうか。」そこからは修羅場でした。

有能な従業員の多くがこの過激な戦略にショックを受けましたが、最終的には、会社はAndyを信じました。まったく新しい事業でもって会社を立て直してくれると信頼しました。そしてその信頼は、すばらしい結果をもたらしました。

さて、偉大なリーダーとは生まれつきでしょうか、それとも作られるのでしょうか?

特性ごとに見ていきましょう:

ビジョンを描く力——物語を描くことが他の人よりもずっとうまい人がいるということに、疑問の余地はありません。しかし、誰でも集中し努力すれば、この分野で大きく向上できることも真実です。すべてのCEOは、リーダーシップのビジョンに関する部分に力を入れるべきです。

関心のアラインメント——Bill Campbell特性が学習不可能なものかどうかはわかりませんが、教えることが不可能であることはほぼ確実です。3つのうち、これが「生まれつきであり、作られるものではない」ということに最も近いものでしょう。

ビジョンを達成する力——この特性は、まったくもって習得可能です。もしかすると、無能さに対するAndy Groveの伝説的な耐性の低さはこれが原因なのかもしれません。実際のところ、時として能力の敵は自信です。CEOは自身の能力を磨くのをやめてしまうほど自信過剰になっては絶対にいけません。

結局のところ、リーダーシップのいくつかの適性は他のものよりも向上しやすいですが、すべてのCEOは、3つすべてに取り組む努力をするべきです。

 

著者紹介 (本記事投稿時の情報)

Ben Horowitz

Ben Horowitz は、Andreessen Horowitz の共同創業者兼ジェネラルパートナーの一人であり、New York Times のベストセラーである Hard Thing about Hard Things の著者です。

 

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: Notes on Leadership (2010)

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