リーダーシップに関する第一のルール (Ben Horowitz)

俺は君に俺になってほしくない
君は君のままでいるべきだ
— Chance The Rapper、 “Wanna Be Cool

プロ・バスケットボール選手のCharles Barkleyが、1993年に次のように言ったことは有名です。「僕はロールモデル(模範的人物)ではない。ダンクシュートをするからと言って、よその子供を育てる責任はない」多くの人が、この発言がとても気の利いたものだと思いました。最終的に、これはNikeの広告キャンペーンへとつながりました。

このキャンペーンはとても人気を博し、あるリポーターはBarkleyのチームメイトであるHakeem Olajuwonに、彼もまた「自分はロールモデルではない」と思っているのかと尋ねました。Olajuwonは躊躇なく答えました。「僕はロールモデルですよ」と。

リポーターが2人のチームメイト間での答えの違いについて尋ねると、Olajuwonは、Charles Barkley は私生活と公の場で全く異なる人物だからだと説明しました。Olajuwonは、二重の人格を持ち続けるのは非常にストレスがかかることであり、Barkleyは常にそこから抜け出したがっているのだと信じていました。そしてOlajuwonは、自分はBarkleyとは正反対であり、自分の人格に公私の別はないと指摘しました。その結果、彼は自分はロールモデルだと言ったのです。

このインタビューは、リーダーシップの要諦を明らかにしています。すばらしいリーダーになるためには、ありのままの自分でいなければならないということです。もし別人になろうとすれば、人を導くことができなくなるだけでなく、自分が手本とされることに恥を感じるようになるでしょう。つまりBarkleyの言おうとしていたことは、「僕の真似をしないでくれ。僕自身、自分が好きではないのだから」ということなのです。

いくつかの点で明らかに思えることかもしれませんが、ビジネスで自分らしさを保つことのできる経営者はほとんどいません。例えば、優秀な同僚(Stanとしましょう)が初めて昇格し、マネージャーになり、皆が喜んだとしましょう。けれどもStanは、一旦マネージャーになってしまったら、もはやStanではなく「マネージャー・Stan」になります— そしてどういうわけか、嫌な奴に変身するのです。彼は自分の権威を確立しなければならないと思い、あなたを人として扱うことをやめ、自分の力を見せつける相手として扱い始めます。「マネージャー・Stan」を好きな人も、彼についていく人ももういません。

CEOレベルになると、このようなことはより目立たない形で起こります。よくあるのは、自分ではない他の成功したリーダーを真似たり、自分のものにしきれていないにも関わらずそのようなリーダーのやり方を真似したり、会社に合っていないベストプラクティスを真似したりすることです。例えば、Jack Welchの「ランク・アンド・ヤンク」のプロセスについて読んだCEOがいるとしましょう。Welchが行ったこのプロセスは、General Electricのすべての従業員を格付けし、業績が最も低い従業員たちを解雇するというものです。 そのCEOは自分も同じことをすべきだと考えるかもしれません。けれども彼は、それについて深く考えたわけではなく「Jack Welchがやっていたから」程度にしか捉えていません。彼がその件をマネージャーたちに提案すると、そのうちの1人が言います。「でも、私たちはとてつもなく厳しい採用プロセスで選考を行っていて、業界でも最高レベルの人材しか採用することを許されていません。うちの会社の社員は、下の10%といえども相当優秀ですよ」CEOは頭の中で自分自身につぶやきます。「そうだ。実際、その採用プロセスは私が設定したのだ。」

その時点で、CEOは行き詰まります。彼は、実際のところ自分でも信じていないにも関わらず自説に固執するでしょうか?あるいは、その場で意見を変えて、優柔不断に見えてしまうリスクを取るでしょうか?自分らしくいるのではなく、Jack Welch になろうとすることで、自分自身を追い詰めてしまいました。自分らしくいなければ、自分ですら自分に従うことはないでしょう。

同様に、取締役会の役員はCEOに対してこんなことを言うかもしれません。「あなたの会社のCFOは、私が取締役をしている他の会社のCFOたちほど優秀ではありませんね」これは、CEOにとって非常に困る発言です。このCEOはそのCEOたちを知りませんし、彼らに話を聞いて比較するなどできようもないのです。CEOはその発言にどのように反応するのが良いでしょうか? 一般的かつ最悪の行動は、自社のCFOのところに行き、取締役会の前では優秀に振る舞うようにと指示することです。この時点でCEOは自分の意見をしっかり持ち、強い立場を取ることを拒否してしまっています。CEOは取締役会役員の望むような自分になろうとしていますが、うまくいっていません。CFOは、自分が何を間違えたのか全く見当もつかないため、非常に混乱してしまいます。またCFOは、自分ではない何者かに変身しようとして、リーダーとしての魅力も失いかねません。このCEOの取るべき行動は、取締役会の役員に次のように言うことです。「そうですか。ではあなたがより優秀だと考えるそのCFOたちのよいところを教えてください。そして私に彼らを紹介してください」CEOはそのCFOたちに会い、自分が役員と同じ意見に至るかどうか、また彼女の会社にとっての彼らのスキルがどれくらい重要かを判断しなければなりません。それらのスキルの重要性が高く、自社との間に実際に大きな差があるのならば、CEOは自分のCFOのところに行き、自分のままでその旨フィードバックすればよいのです。また、CEOが取締役会役員の意見に同意しないならば、その場合もまた、CEOは自分らしさを保ったまま役員と接すればよいのです。

最後に注意点です---- リーダーシップの第一の法則に従うなら、万人があなたを好きになることはありません。私はそのことを知っています。なぜなら、私は万人から好かれてはいないからです。実際私は、今まさにこれを読んでいる誰かが「Chance The Rapperを引用してるこの白人のおっさんは、自分が何様のつもりと思ってるんだ?」などと言っているだろうと確信しています。

まあ、それもわからなくはありません。でも、私はChanceが大好きで、この投稿は「Wanna Be Cool」(クールになりたい)の曲から着想を得ました。ですから、どうぞ私のことを嫌ってください。私は大丈夫です。私はクールになりたいわけではないですから。ただ、自分らしくいたいのです。

 

著者紹介 (本記事投稿時の情報)

Ben Horowitz

Ben Horowitz は、Andreessen Horowitz の共同創業者兼ジェネラルパートナーの一人であり、New York Times のベストセラーである Hard Thing about Hard Things の著者です。

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: The First Rule of Leadership (2017)

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