デザインがスタートアップにとってかつてないほど重要であるのはなぜでしょうか。その答えは退屈でもあり、深くもあります。それは、私たちが携帯電話を確認する頻度と関係があります。
John MaedaはDesign in Tech Report for 2015の中で、アメリカ人が1日に約150回携帯電話を確認することを明らかにしました。
これは約5.6分に1回という計算になります。
この頻度を考えると、人々はロードにほんの数ミリ秒余分にかかるだけで、アプリを諦めるでしょう。私たちに忍耐力がないからではありません。それが150回分積み重なれば、わずかな動作のぎこちなさがだるま式に大きくなってしまうからです。
心配しなければいけないのは、アプリ内の動作のぎこちなさだけではありません。他の多くのアプリの動作がぎこちないと、ストレスになります。デザイン上の罪はすべて、累積的な一つのユーザー体験になります。
要は、一人のユーザー体験のわずかな苛立ちだけでも、成長、継続、収益の死の予兆だということです。
そして、SRPではなくMVPを発売するスタートアップにとって、事態はより悪くなっています。アプリを試して嫌な体験をすると、戻ってくる可能性がはるかに低いからです。
企業向けアプリ 企業向けアプリに関しては、利害関係はさらに大きくなり、結果はより悲惨です。ITのコンシューマライゼーションとは、従業員が一般消費者向けアプリと同様の楽しく滑らかな動きを求めているのを意味します。
皆さんの企業向けアプリに何らかの動作のぎこちなさがあるとすれば、従業員は一瞬にしてそれを見放し、別のものを試すでしょう。危険であったり、 実績のないものであったりするとしてもです。
ぎこちない動作を満載したアプリをなんとかCIOに販売したとしても、従業員がそれを実際に利用せず、その代わりにShadow ITを選択するなら、皆さんは契約の更新に苦労することになるでしょう。
今年のOktane会議で、SequoiaのパートナーであるPat Gradyは、SkyHigh NetworksのShadow ITに関する最新の数値を明らかにしました。
「ほとんどのCIOは、自社のシステムに約42のシャドーアプリが入っていると思っています。実際はどうでしょう? 831です」。Pat Grady, Oktane 2014
従業員は自分の仕事を少しでも早く終わらせる方法を探しています。実際に安全に使用できるかどうかにかかわらずです。優れたデザインであれば、アプリを継続して使ってもらえるでしょう。
デザイナーのように考える
デザインは、もはや選りすぐりの数人の秘密兵器ではありません。今では会社のすべての従業員が、人々が自社製品を使った(あるいは使おうとしている)実体験について考え始めなければいけません。これは、誰もが突然デザイナーになるということではありませんが、誰もが少しデザイナーのような考え方を身につけ始めなければいけないということです。営業、エンジニアリング、製品開発、マーケティング、サポート、BD、PR、デザインのすべてがデザイン思考とデザイン過程で恩恵を受けることができます。
優れた性能のためのデザイン |
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デザインは物事の見た目をよくするだけのものではありません。ユーザーに常に、より優れた性能を活用してもらうためのものでもあります。Lara HoganのDesigning for Performanceを読んでみてください |
顧客第一主義の考え方をしてもらうためには、製品開発会議で〈ストーリーマップ〉を紹介するのがうまい第一歩です。
ストーリーマップとは?
ストーリーマップは新しいタイプのデザイン文書です。製品体験の大きな計画を、顧客やユーザーを中心に据えて一目でわかるように示したものです。
@buckhouseによるTwitterのための〈ストーリーマップ〉(Oscars)、2014年
ストーリーマップは新しいタイプのデザイン文書です。製品体験の大きな計画を、顧客やユーザーを中心に据えて一目でわかるように示したものです。ストーリーマップは、チームを一つにまとめ、会社全体の支援を確保し、製品の(時機を得た)発売の方法を見つけるのに役立つ伝家の宝刀です。
絵コンテと宝の地図の中間であり、製品の価値と機能の流れ、また製品の各段階でユーザーが感じるであろう喜びをひとまとめにしています。ユーザー体験(UX)の流れを封じることなく描写し、詳細を時期尚早に長々と論じることなくアイデアの要点および感情のゲシュタルトを伝えます。
優れたストーリーマップは、プロジェクトで成し得ることを一目瞭然に伝えます。>
ストーリーマップは、製品がどのように機能するかという点や、それが重要である理由を説明しています。しかし致命的なことに、最終的なデザイン、ユーザーインターフェース(UI)、 苦境に陥っているUX理論を明白に詳しく説明してはいません。とはいえ、確かに製品の展望を映し出し、チームがよりよい決断を迅速に下せる題目として機能しています。
優れたストーリーマップは意思決定システムとして役に立ちます。
ストーリーマップは、モックではありません。皆が同じ問題を解決し、同じ製品を作り、決断をする時に同じ紙を指差すための手引きです。実際のUIを早くデザインしたい誘惑と闘い、時を待たずして最終的なピクセルパーフェクトなモックに没頭したい衝動を抑えましょう。
モックは待ってくれます。まずは自分のストーリーを整理する必要があります。
ストーリーマップは、それが誰であっても見ている人がすべての答えを知っていると傲慢に決めてかかることなく、中心となるアイデアの緊急性と歓喜を伝えています。言い換えると、それは意図のある素描です。実際のUXフロー、モック、製品フロー、エンジニアプランの根幹になり得ます。計画であって、指示の一覧ではありません。そして、正直に言えば金なのです。
自分のストーリーマップを印刷して、持ち歩きましょう。実際の宝の地図を持ち、船員を率いて上陸する海賊船の船長のように。そのようにしてプロジェクトについて話をすれば、デザイナー、エンジニア、プロジェクトマネージャーが同じ描画を同時に指して、課題をどのようにとらえているか、またどのようにしてその課題を解決するかを説明できます。
誰かが通りかかって、「大きなプロジェクトの調子はどう?」と尋ねたとしましょう。ただ〈ストーリーマップ〉を渡せば、彼らは一目で正確に進行状況がわかります。
@buckhouseによるTwitterのための〈ストーリーマップ〉(World Cup)、2014年
会議で〈ストーリーマップ〉を活用する方法
とても重要なのは、印刷することです。
自分のストーリーマップをすべてのチーム会議に持って行きましょう。印刷し、皆が話している間、テーブルに広げておいてください。全員が同じ課題の話をしていることを確認するため、マップの様々な箇所を指しましょう。欠けていることがあれば、印刷したマップの上にそのまま描き/書き込んでください。項目を消し、区分けを直してください。その場の全員にペンを渡し、課題を処理している間に皆に書いてもらいましょう(会合でDraw Togetherをする方法について、こちらからさらに学びましょう)。
会議の後にマップを描き直してください。DropboxとEvernoteで最新版を保管し、チームの全員にリンクをチャットまたはメールで送ってください。また、ウォールームやプロジェクトエリアに掲げるために拡大コピーをとりましょう。
マップを持つ
マップを持っていることで、自分が製品についての先見の明を持つ人物にいかに瞬時に変身するかに驚くでしょう。マップを持ってください。それはただのマップではないからです。製品全体の成功を決定するであろう意思決定機構です。
マップを人に見せる時は、埋蔵された宝を見つける旅に連れて行きましょう。指でフローを辿り、旅の終わりに金を発見してもらってください。改善点、あるいは彼女/彼が現在取り組んでいる/発売しようとしている何らかのプロジェクトとつながっていくものかという点についての感想や提案、アイデアを求めてください。人が自分自身の仕事を想像するための枠組みを持つや否や、別の補完的なプロジェクトが登場するというのはよくあることです。人には包括的かつ刺激的なキャンバスが必要です。ストーリーマップはチーム全員の最善のアイデアを引き出せます。誰かが進行状況を尋ねたら、マップを取り出し、見せてください。埋蔵された宝を見つける旅に連れて行きましょう。指でフローを辿り、旅の終わりに金を発見してもらってください。改善点、あるいは、彼女/彼が現在取り組んでいる/発売しようとしている何らかのプロジェクトとつながっていくものかどうかという点についての感想や提案、アイデアを求めてください。人が自分自身の仕事を想像するための枠組みを持つや否や、別の補完的なプロジェクトが登場するというのはよくあることです。人には包括的かつ刺激的なキャンバスが必要です。ストーリーマップでチーム全員の最善のアイデアを引き出すことができます。
こちらからさらに多くの〈ストーリーマップ〉の例をご覧ください。
ストーリーマップのコツをつかんだら、これを使い、新しいプロセスからキャンペーンの成功まで、すべてを説明できます。ここに私たちが〈販売可能な製品- SRP〉(日本語訳) の構築のために作成したストーリーマップを挙げます。
これを印刷して、第一回の会議に持って行き、自分のSRPの試用品を再デザインすることができます。皆さんの試用品にも独自のストーリーマップがあります。両方を持って行きましょう。製品発売にチームが進む際に、生産的な対話のコンテクストとなります。
人間の体験
実験のためだけに皆さんの試用品やアプリを使う人はいません。人が実際に使い込むことを考えてデザインしましょう。
アプリは単なるタップやスワイプ状態の作品集ではありません。アプリは実際の使用体験の総和の予兆となります。正しく行えばですが。
究極的には選択肢が宣言され、表現された語彙が蓄積して総合的なデザインシステムになります。デザインの表面です。しかし、そのいずれかを提供できるようになる前の最初の一歩は、何はさておき、人間の体験とはどのようなものなのかをある程度感じ取ることです。
人間の体験の理解は、自分が実際にデザインしているものを認めることから始まります。単に自分のアプリの画素数や携帯電話のクローム、ダウンロード/登録を検討することではありません。その瞬間に起きる体験全体です。
皆さんは、ただ画素をデザインしているのでは決してありません。人間の状況を補完するものをデザインしているのです。
私たちは、全知でも全能でもありませんが、全方向性を備える努力はできます。私たちは僭越ながら、他の人の人生の周辺で起こっているすべてのことを知ることができます。
共感から入りましょう。自分のアプリを使って欲しい人々から、彼らの実際の需要を学びましょう。
24時間の〈顧客時計〉
24時間の〈顧客時計〉で共感を得ましょう。
24時間時計で顧客の日常の1日分を計画してください。見込み客と会って、聞き取りを始めましょう。彼らの生活がどのようなもので、彼らの1日で自社製品が実際にどのように役立つかを思い描いてください。
Clariはターゲットとする顧客、つまり営業担当者向けのモバイルのデザインに24時間〈顧客時計〉を用い、起きた時がClarisのモバイルアプリ(営業担当者向け)を使う理想的な瞬間であることを発見しました。ですから彼らは、その瞬間に顧客にとってもっとも重要なものを正確に届けるために、体験をデザインしました。そこで、どの取引が危機的状況にあるかがわかり、対応できました。
Clari はすぐに、実際の使用で現れたいくつかの非常に興味深い傾向を確認しました。さらなるデザイン調査やインタビューが行われ、最終的には追加の顧客像向けに製品ラインを分けることになりました。下掲の1分の動画で、Andy Byrneが説明しています。
企業向けアプリ購入の意思決定には、複数の人が関わっています。売買契約の成立のため、各々の需要が満たされる必要があります。皆さんの成功に不可欠なのは、自分の顧客集団のすべての人を理解し、それぞれの需要を理解したソリューションをデザインすることです。
Andy Byrne 24時間の〈顧客時計〉
顧客の位置
確実に理解するために顧客の配置図を作ってください。
企業向けアプリ購入の意思決定には、複数の人が関わっています。売買契約の成立のため、各々の需要が満たされる必要があります。皆さんの成功に不可欠なのは、自分の顧客集団のすべての人を理解し、それぞれの需要を理解したソリューションをデザインすることです。
Andy Byrne 顧客の配置
アクション・マトリックス
見込み客を理解したあなたは、SRPのアクション・マトリックスを用いることで、どんな種類の製品を構築すべきかがわかり始めます。
条件
見込み客がターゲット顧客になる可能性があるかどうかを決定する特徴を正確に追跡するために、このワークシートを使ってください。
実際に自社製品を購入するにはどのような共通の特徴があるかという点については、一般論から入り、その後で具体的なものを特定してください。Peribitの場合、具体的な手がかりは、その人物がCiscoカードを持っているかどうかでした。
一般的でありつつも効果的な特徴を見つけてください。間違った製品を構築したり、非生産的な見込み客を追いかけたりしないように、どのように自分の努力を集中させるかを考えるのに役立つ可能性があります。
ここにClari向けのサンプル・マトリックスを挙げます。彼らはこれによって、自分たちが作るべき正確な〈照明スイッチの瞬間〉を特定できました。
変身のためのデザイン
〈ストーリー駆動デザイン〉は人を変身させます。SRPに関しては、それは見込み客の心の中でスイッチを入れる瞬間です。消費者向けアプリに関しては、うれしく豊かで繰り返し生まれる価値をすぐに提供することです。企業向けアプリに関しては、仕事中のぎこちない動作を取り除いて人の優秀さを引き出す手助けとなることです。
謝辞
〈Templetonの圧縮〉および〈販売可能な製品〉はSequoiaのチーム全体で作り上げた愛の労作でした。Sequoiaに関する詳細情報については、sequoiacap.comでご覧いただくか、Twitterで私たちとつながってください。
Mark Leslie、Andy Byrne、Trevor Eddy、Rajiv Batra、Dan Leary、Don Templetonの家族に深く感謝しています。
著者紹介
記事情報
この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: Story Driven Design
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