ハンドシェイク ディール プロトコル:Y Combinator の標準的な投資取引手順

(本記事は2019年4月12日時点の記事の翻訳です)

シリコンバレーではハンドシェイク ディールが行われています。ハンドシェイク ディールとは、口頭での取引の約束です。実際の取引は後日行われ、その時に契約が結ばれてお金が渡されます。

なぜハンドシェイク ディールが必要なのでしょうか?実際の取引まで待たない理由は?なぜなら、スタートアップの世界では状況が急速に変わる可能性があるからです。

投資家と創業者のどちらも、取引における席を予約する方法が必要です。なぜなら、創業者の場合、契約書を作成してそれに署名をもらっていては、資金調達のスピードが遅くなるかもしれないからです。投資家の場合は、契約書の作成と署名を待ってからでないと約束できないのでは、絶好の取引を逃してしまうかもしれません。

もちろん、ハンドシェイク ディールはシリコンバレーに固有のものではありません。それは、信頼性が十分に高く、スピードが十分に重要な分野ならどこででも行われる傾向にあります。ダイアモンドの取引ではこのやり方が頻繁に行われているようです。

問題

残念なことにシリコンバレーでは、ダイアモンド業者の間で行われているようには事がスムーズに運びません。毎日互いに取引している専門家たちの閉じられたコミュニティではないからです。資金調達市場の参加者の多くが初心者で、中には不誠実な人もいます。

ハンドシェイク ディールしたと思われていた取引が実際には実行されなかったという報告は、定期的に聞きます。会話を録画でもしていない限り、本当に取引があったのに投資家が約束を守らなかったのか、あるいは本当は取引などなく、投資家は単に自身の甘い考えの犠牲者なのか、私たちには確認が困難です。

一部には、自分がその投資に対しどれほどの関心度を持っているかについて、スタートアップを故意に欺く投資家もいます。そのような事実が、問題をより深刻にしています。スタートアップの将来の見通しは急速に変わる可能性があります。もし投資家が「イエス」のように聞こえる言い方で「ノー」と言えば、彼らは投資に対して基本的に無償で選択肢を持つことができます。実際に約束したわけではないので、コストは一切かかりません。しかし、もしそのスタートアップが有望な投資対象に変われば、投資家は過去にさかのぼり、自分が口にした「ほぼイエス」は実際に「イエス」だったと主張することができます。そして、スタートアップは彼らに投資させる道義的義務があると言うでしょう。

プロトコル

幸いなことに、それらの問題の大部分を解決する方法があります。ハンドシェイク ディールの標準的なプロトコル(手順)を規定することです。私たちは今、YC内でこプロトコルを使い始めています。そして、他のスタートアップ コミュニティにもそれが広がることを願っています。

このプロトコルでは、オファーを投資予定額、および評価額または評価額キャップ(あるいはキャップなし)、そして選択的ディスカウントで定義します。以下は、そのオファーの例です:

  • 投資前評価額500万ドルで10万ドル。
  • 評価額キャップ500万ドルで10万ドル。
  • キャップなしで10万ドル。
  • キャップなし、10%ディスカウント付きで10万ドル。

このプロトコルに従えば、ハンドシェイク ディールは次のことが起こった場合にのみ行われたことになります:

  1. 投資家が「(オファーを)受け入れる」と言う。
  2. スタートアップが「分かりました。あなたは(オファーを)受け入れます」と言う。
  3. スタートアップが投資家に対し、次の文面が書かれたメールかテキストメッセージを送る:「これはあなたが(オファーを)受け入れたことの確認です。このオファーの有効期間は48時間です。それ以内に受諾を確認してください。あなたはこのオファーを受諾した日から10営業日以内に投資額を支払うことに同意します」
  4. 投資家が「イエス」と返信する。

このプロセスが完了するまでは、ハンドシェイク ディールは成立しません。したがって4つ目のステップを完了することは、投資家の利益にかなっています。なぜなら、投資家がそうするまでは、スタートアップは投資家のお金を受け入れる義務を負わないからです。

監査証跡

どちらの当事者もたいていはモバイルデバイスを持っていて、そこから上記のメッセージを送ることができるため、普通はこれを合意の最終ステップとして本人が直接行うはずです。もし他方がそうしようとしなければ、その相手を疑うことができるはずです。

少なくともこのプロトコルは、実行されなかったハンドシェイク ディールの報告を受けた時に、誰に落ち度があるのか教えてくれます。しかし、それだけではありません。証跡が残る明白なプロトコルは、創業者が欺かれるのを防ぐと共に、投資家が創業者を欺こうとするのを抑止します。

私は、オファーに詳細を記した文書を使う必要があるとは思いません。実際にそれが問題となることはめったにありません。普通は標準的な書式の1つを使うか(小規模な投資の場合)、誠意を持って交渉します(大規模な投資の場合)。市場での取引条件は十分に理解されており、もし一方の当事者がその条件について問題を起こしていれば、誰に落ち度があるのか簡単に分かるはずです。そしてそれが、私たちがこのプロトコルに求めることの全てです。

曖昧さを避ける

このプロトコルは、意図的に一定のことを言えないようにしています。例えば、投資家はバリュエーションやキャップを明確にすることなく、ただXドル投資するとだけは言えません。そのようなことを言う投資家は、価格が高くなり過ぎててしまったと主張して約束から逃げる可能性があります。投資のオファーはバリュエーションかキャップ、またはキャップなしを明確にする必要があります。それがなければ定義が不完全で、したがってオファーですらありません。

また、投資金額に幅を持たせたオファーに関するハンドシェイク ディールもできません。投資家は時々、5万~15万ドルなどと言って投資契約を結ぼうとします。もしそれに同意すれば、スタートアップが15万ドル分のスペースを空けておく義務を負うのに対し、投資家は5万ドルを投資する義務しか負いません。投資額に幅を持たせたオファーは、本当は別々の2つのことを言っています。一つは、下限額での投資のオファー。もう一つは、さらに投資する可能性に対する関心の表明です。そのため、スタートアップはこれに対し個別に対応することをお勧めします。つまり、下限額での投資に対してはハンドシェイク ディールを行い、さらなる投資に対する投資家の関心には礼儀正しく対応しましょう。ただし、投資家がその投資を約束するまでは、さらにお金を受け入れることに一切義務を感じてはいけません。投資家は下限額以上の投資を保証していないことを理解していれば、彼らに追加投資を前もって約束させることができる場合もあるでしょう。もしそのことを理解していないと、スタートアップはさらなる投資を当てにする過ちを犯してしまうかもしれません。

最後に、ハンドシェイク ディールに条件を追加することもできません。例えば、投資家がこのプロトコルを使い、もし他の誰かが投資すれば自分も投資するという条件でオファーすることはできません。そのようなオファーをしようとする投資家が時々います。例えば、もしリード投資家を見つけることができたら、より大きなラウンドの一部として自分も投資する、と言うような投資家です。この種の約束は実際にはあまり価値がなく、スタートアップがそれを当てにするのも、それを受け入れる義務があると感じるのも、どちらも間違っています。それは正当なオファーと見なされることさえなく、よくても(急に熱が冷めるかもしれない)「見込み客」程度です。投資家はハンドシェイク ディールに条件を加えることができない一方で、オファーを受け入れ、資金提供を完了する必要のある期限を変更することができます。それらの期限を設ける目的は、投資家がハンドシェイク ディールの受諾を遅らせたり、あるいはスタートアップと投資家が有効なハンドシェイク ディールをしたのに、投資家がいつまでに送金する必要があるか決められていなかったりする状況を防ぐことです。期限を定めることで、有効なハンドシェイク ディールは存在するのか、そしてそのハンドシェイク ディールはいつまで有効なのかということについて、一切の曖昧さを避けることができます。もし投資家が所定の期間を経過しても資金提供しない場合は、そのディールは明確に期限切れとなります。10日は両当事者にとって資金調達プロセスを完了させるのに合理的な日数ですが、異なるタイミングに決めることもできます。ただし、そのタイミングに関する明確な(書面による)合意を前提とします。

もちろん、スタートアップと投資家は自分たちの望むどのような取り決めも行うことができます。しかし、条件を明確にすることなく、無条件でこのプロトコルに従ってハンドシェイク ディールを行うことはできません。

 

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: The Handshake Deal Protocol (2016)

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