専門家に騙される

専門家は、間違いをするまでは概して正しいものです。残念ながら、専門家が常に正しいと考えるよう騙されてしまうのはとても簡単です。その理由は彼らが専門家だからです。彼らには権威があり、知識があります。このことが該当するのは、特に、既存の領域で新しいことに挑戦する場合です。私たちには、何かについての知識が豊富であれば、未来を予言する能力があると信じる傾向があります。

専門知識の問題は、必ずしも新しいアイデアに対して開かれているわけではないという点です。専門知識は、発明の助けになるのと同じくらい簡単に、新しいアイデアや探究の道を封じます。新しいアイデアについて耳にする時、私もそうしてしまうことがあります。実際、自分の知識を使って新しいものを実行に移す方法を考え出すより、物事を遮断してしまう方が簡単だと感じられることがよくあります1。ひねくれた考えですが、否定的でいると、実際よりも専門家らしく見えることがあります。これは否定的なフィードバックの循環をもたらします。

テーマについてあまり知らなければ、いままで試されてきたものの拘束から解放されます。これは専門家ではない人々が大胆なアイデアを持つことがよくあるということを意味します。それは時として、愚直や愚かと呼ばれます。しかしながら、それらのアイデアがたまたま上手くいくとき、天才的や革新的と言われます。

無知で創造力のある人がすべての問題を解決できるという意味ではありません。適切な環境があれば生産的な創造性につながるような種類の専門知識もあるように思われます。私は、様々な領域に関してそのような種類の専門知識を知る方法があればいいのにと思っています。

専門知識を評価するための明確な規則はないので、私はその代わりに、創業者と話をしてそこで知り得たことに基づいて彼らを評価します。これは私がよく理解している領域について特に当てはまります。私は創業者に、自らが取り組んでいる領域に関する一定の知識があることを期待します。しかしそれよりも、彼らの考え方や仮説の検証の仕方の方に興味があります。 これは、自分が投資しているものが可能性なのか、それとも実績なのかを考える際に用いる方法の一部です。前者に投資するのが望ましく、後者に投資することは避けるべきです。

以上のことを実行する上での秘訣の一つは、創業者が行う検証が彼らにますますおもしろい問いを持たせるきっかけとなっているかどうかを確認することです。質問を思いつくということは、創造性があることを示すよい兆候です。そしてその質問にうまく答えることで、何かを実際に行うために必要な専門知識が構築されます。

テクノロジーは愚直な問題解決手段が成功する可能性を一見高めます。その手段を繰り返して試すためのサイクルを短縮するからです。十分な時間とリソースを与えられれば、あなたはすべてのソリューションを一つずつ試すことができるかもしれません。2 けれども、現実の世界では私たちは取り組むべきソリューションを選択しなければいけません。ここが優れた創業者が未熟な創業者と一線を画している点です。優れた創業者は、時間の経過とともによりよく、よりオープンになっていきます。一方、未熟な創業者は、閉鎖的になっていき、手に負えなくなったアイデアを否定し始めます。

これと同じことが投資家にも言えます。優れた投資家は、新しいアイデアを切り開くために新しい知識を活用します。その一方で、最悪の投資家は、新しい知識を使い、特定のカテゴリーのアイデアをすべて閉め出します。3 これは近視眼的です。なぜなら、世界は絶えず変化しており、それにより、新しいことが可能となるからです。そのような新たな可能性を創造したり、それに投資したりすることで、世界を変える企業が生まれます。こうして、人々が専門性を発揮できる新たな領域が生み出され、循環は再び振り出しに戻ります。

 

1. https://archive.org/stream/ERIC_ED211573#page/n0/mode/2up.
2. そして、十分な数のタイプライターを使う十分な数の猿が、最終的にHamletを生み出します。
3. これは、自分の専門知識の限界を把握し、具体的なセクターに焦点を絞る投資家とは違います。セクターを重視し、そのセクター内でたくさんの新しいアイデアを受け入れる投資家もいます。また何にでも投資すると口にはするものの、結局はすべてのアイデアを撃ち落とす投資家もいます。

 

Craig Cannonのフィードバックに感謝します。
 

著者紹介 (本記事投稿時の情報)

Aaron Harris

Aaron は YC のパートナーです、彼は 2011 年に YC に採択された Tutorspree の共同創業者であり、Tutorspree を始める前には Bridgewater Associates で分析グループのプロダクトとオペレーションを管理していました。彼は Harvard から歴史と文学の AB を受けています。

 

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: Fooled by Experts(2017)

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