なぜ VC は時折もっと早く資金を使うよう勧めるのか (Aaron Harris)

私は、「投資家とインセンティブ」の記事の中で、ほとんどのタイプのスタートアップ投資家を動かすインセンティブを幅広く分析してみました。 その中でも、ベンチャーキャピタル(VC)が時折見せる動きで、創業者から見て奇妙に思えるものを深く掘り下げたいと思っています。VCは、倹約を賞賛する反面、企業により多額の支出を強く要求することがあります。これは時には急成長に結びつくこともあります。しかし、それよりも、銀行口座を空にする結果となることの方が多いのです。 私は、この力学によって倒れてしまう会社をいくつも見てきました。そしてなぜそうなるのかを理解するのに長い時間がかかりました。

アンバランスなインセンティブ

VCは一般的に、企業の成功に最も役立ちそうだと信じる方法で行動しますが、そのインセンティブは、不安感と時間のために、焦眉の問題をめぐってアンバランスになることもあります。VCは、その利益のほとんどがごく少数の企業への投資によるものであることをわかっているため、個々のパートナーには自らが投資した会社に対して膨大な時間を費やすよう求めます。(最善のシナリオでは)その時間は支援に必要であり、時間と資本のさらなる投資をする価値がある投資はどれであるかを把握するために必要なもののです。VCは、投資を追加したい時にいつでもパートナーと資本投資を増やすことができるのが理想の姿です。しかしながら、そのためには、活用できる無限の資本とそれまで以上の巨大な提携関係が必要になります。前者は存在しませんし、後者はマネジメントと支援が困難です。

ファンドにもまた、次のファンドの資金調達を行うために自分たちの質を示すために、許された時間枠の中でリターンを生み出すプレッシャーがかかっています。多くのVCは、うまく投資できたときのリターンではなく、マネジメントフィーのほうを安くしているため、ファンドの資金調達は重要です。1  投資会社の短・中期の成功のために最も重要なのは、より多くの手数料を生み出すことです。アーリーステージの投資家にとっての平均投資周期は10年であり、2〜4年ごとの新しい資金調達の時期があるため、VCは何らかの進展を示す必要があります。新たな資金調達以前に、有限責任組合の出資者(LP)に投資会社が投資リターンを分配する際、時間が十分にあるのは稀です。ですから、企業は、自己のポートフォリオの好調・不調を評価するために、プライベートバリュエーションを用います。資金が実質的なマークアップを示すことができれば、資金調達に関してマーケティングに優位性があります。投資家に有意義な収益をもたらすことのない資金は、概してしばらくして失敗に終わる一方、そうなるまでには非常に長い時間がかかります。

これら2つのインセンティブを組み合わせることで、ある状況が生まれます。ゆっくりと動くのではなく、迅速に、成功か失敗かを示すよう、VCが企業に対して強く要求した方がよい、という状況です。成功している企業は、その企業へのさらなる投資に潜む不安感を素早く軽減し、その投資に個々のパートナーが費やした時間の根拠を明らかにしています。企業の業績がよければ、より高いバリュエーションで新たな投資を引きつける傾向もあります。つまり、投資会社がその投資をマークアップできます。

一方で、失敗した企業は、パートナーにとっての時間的コミットメントから排除されます。それは理想的な成果ではありませんが、そうすることにより、VCが業績のよい企業や新しい企業の発掘に再び注力し、1つのポートフォリオの失敗によって失われたバリュエーションを補うことが可能になります。こうした状況が早く実現すればするほど、投資家にとっては良いということです。

VCにとって最悪な状況とは、投資会社がお茶を濁しながら、ずっと成功と失敗の兆しの両方がある企業に巨額の投資をしている状況です。これらの企業が存続できるかどうかを予想するためには長い時間と多大な努力を要します。それらによって、一般的に、重要なコラボレーションの筋書きが出来上がり、時には投資家がそれを成立させます。それらは難しいつなぎ融資の問題を提示することがよくあり、 優れたマーケティング素材として機能することは稀です。

創業者がとるべき対応

これらのプレッシャーの扱い方を考えることが重要です。それは自分の投資家との関係性によって様々でしょう。記憶に止めるべき最重要事項は、CEOが銀行口座を管理している、ということです。投資家は創業者に対し、早く資金を使うことを強く要求できますが、強制することはできません。創業者は、いつ、どこで、資金を使うか、どのくらいの支出割合が妥当であるか、という点に関して、自分自身で理解しておく必要があります。

次に、物事がうまくいっている時の更なる投資の約束にはそれほど意味はないと覚えておきましょう。問題なのは、目下の銀行口座の金額だけです。目まぐるしい成長を遂げている期間は、内容を問わず、すべての支出の根拠を簡単に示すことができます。私はそれを実行したばかりの創業者に話をし、新たなユーザーのための新たな機能を開発するために、もっとエンジニアを採用する必要があり、利用者獲得を促進するための広告費が必要だと言いました。彼らは一様に、自分たちは特別で、何であろうとも、自分たちに資金を出し続けることを投資家XやYが約束した経緯を話します。投資家は、支出がよいことであると証明するために、Uberのような成功している企業のバーンレートを指摘することがよくあります。創業者は、この教訓が自らの状況に該当するかどうかを十分に考えることなく、このロジックを受け入れることがあります。2 企業は、成長が機能している限りはこれで済ませることができますが、企業の成長が横ばいになるや否や、支出が問題になります。3

どんなに早い段階で約束したとしても、あなたの会社が「それなりの資金リターンを分配する見込みのない」方向にゆっくりと近づくにつれ、投資家の資本は早く枯渇します。ここが投資家のインセンティブが企業のインセンティブから分岐する点です。投資家が企業の失敗をより強く確信すると、投資家はたいていは手を引きます。しかし一方で、企業の失敗が近づくにつれて、投資家の高い関与と支援を創業者は求めます。この不釣り合いにより、企業と関係性の両方が消滅します。

そうなれば、創業者がより多額の資金を銀行に所有していることにより、資金調達の際により優位になっても驚くことではなさそうです。実際に、私たちは、いくつかのYC企業が前回のラウンドの資金を全く使うことなく、資金調達ラウンドを進めるのを見てきました。彼らは非常に良い条件を提示されるので、そうします。巨額の資金を使うことなく成長する方法を考え出したために、そうできる、ということです。

最悪の一歩手前の事例

インセンティブが分岐し始める時、起きる可能性のある事例は2つです。1つ目の事例は、創業者にとって少しはマシですが、それほどいいことではありません。VCが失敗した企業を見て、まだ成功する可能性があると判断することもあります。そうした場合、VCは、その企業にさらに投資してもよいのですが、そうするのは、そうしないよりも投資家にとって実質的により好ましい条件となる場合だけです。これは著しい制御不能または創業者の資産喪失に結びつき、創業者の役職交代もあり得ます。これが起きるか否かは、創業者のレバレッジをどの程度残すかによります。また、銀行口座がゼロに近くにつれ、レバレッジは漸近的に減少します。

それでも会社は存続します。

最悪の事例

会社が資金不足に陥ります。

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1 https://hbr.org/2014/08/venture-capitalists-get-paid-well-to-lose-money
2 私はこれに関して少し、ここに書いています: http://www.aaronkharris.com/exceptionalism
3 私のパートナーであるDalton Caldwellは、このような状況に陥ったことに気づいた時にすべきことについて、すばらしい投稿を書きました:http://www.themacro.com/articles/2016/01/advice-startups-running-out-of-money/ (日本語訳).

編集をしてくれたCraig Cannon、Paul Buchheit、Dalton Caldwellに感謝します。この力学を最初に説明してくれたPaul Grahamに感謝します。

 

著者紹介 (本記事投稿時の情報)

Aaron Harris

Aaron は YC のパートナーです、彼は 2011 年に YC に採択された Tutorspree の共同創業者であり、Tutorspree を始める前には Bridgewater Associates で分析グループのプロダクトとオペレーションを管理していました。彼は Harvard から歴史と文学の AB を受けています。

 

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: Why VCs sometimes push companies to burn too fast (2016)

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