スタートアップのグローバル展開で重要な5つのこと

私たちが Daily.co を始めたとき、私たちが狙うのはアメリカ市場だけだと思っていました。私たちの計画は、自国で手応えを得てから国際的な展開を考えようというものでした。しかし初日から海外の顧客から注文が入り、近頃は私たちの顧客の半数はアメリカ以外のお客様です。

あなたのビジネスモデルが特定の地理的な条件を持ったものでない限り、あなたのスタートアップでもおそらく同じ状況になると思います。インターネットはグローバルなのです! ですからある程度早い段階で、海外に顧客、パートナー、従業員、オフィスを持つことがどういうことか、そして国際的成長やインフラにどのように投資すべきかを考えておく価値はあります。

Daily.co は私にとって3社目となるスタートアップで、最初の2社のスタートアップとも偶然にも様々な海外展開を行いました(顧客やパートナーが50カ国に、オフィスが6カ国にありました)。そのため、ここ数年間で色々な学びや経験則を得ました。
以下に、私が他のスタートアップ創業者たちと国際的な課題について話す中でよく上がってくる5つのことを挙げます。

1. 海外からの発注のフルフィルメント(納品)は未だに驚くほど複雑で高コストである

海外顧客からの注文を処理するのは簡単です。納品はずっと難しいです。私たちは毎日製品を発送しますが、お客様が荷物を受け取る際の関税がいくらになるか、信頼性のある金額を伝えられないことがわかりました。これはカナダですらそうです!

物理的な物の発送も未だに高くつきます。私たちの小さなビデオ会議機器のハードウェアをカナダに発送するには$45ほど、ヨーロッパへは$70ほどかかります(これらの金額には国により異なる輸入関税は含まれません)。「ビデオ会議機器」が特定の輸出・輸入規制に引っかかるために発送自体ができない場所もいくつかあります。

クラウドファンディングキャンペーンをやるなら、フルフィルメント業務を熟知している人を雇うことを強く勧めます。多くの時間とフラストレーションとお金を無駄にせずに済みます。BackerKit社の私たちの友人たちはこれがとても得意で、統合された発送機能システムを持っています。

私の経験のほとんどはアメリカから他の国への製品発送です。しかし、アメリカへの発送も同じくらい複雑です。例えば、あなたがちょうど Kickstarter で新しいクールな懐中電灯のためのキャンペーンを成功させたところだとしましょう。あなたの拠点はアメリカ国外にあり、製品をアメリカの顧客に送りたいと考えています。アメリカの顧客が支払うことになる関税は米国際貿易委員会のサイトで調べることができます。ほとんどの場合、答えは12.5%となります。しかしもしあなたがカナダ、メキシコ、イスラエル、モロッコ、その他数ヵ国から発送する場合、関税はかかりません。北朝鮮他数ヵ国なら関税は35%です!

あなたの製品がどのカテゴリーに分類されるかを調べるのは難しいものです。これらをすべて紐解くのは大変な作業ですから、大量に注文が入る前に調べておくことはよい考えです!

大型の製品を発送する場合は、さらに大きなチャレンジとなります! 高性能グラフィックハードウェアと設置用具からなる計12パレットをサウジアラビアの顧客に空輸したときのことを、いつかビールでも飲みながら私に聞いてみてください。税関を通過するのにはとても時間がかかりました。

UPSとFedExは両社とも国際発送の部署がありどちらも喜んであなたの注文を受けますが、私のこれまでの経験ではDHLが常により優れたサービスを提供してきました。

ハードウェアを作るときには、中国から物を取り寄せます。大量の場合は、海運が低コストです。しかし人生の諸々が大体そうであるように、何かが早く欲しいときにはより多くお金を払います。ハードウェア会社の新米創業者の皆さんへの参考のために:前回私たちが在庫わずかとなった部品のために比較的少額の発注をした際、海運での発送の見積もりは$350で約5週間、空輸だと$1500で約1週間でした(もちろん、この差は寸法、重量、数量により大きく異なります)。

海外発送が多いなら(サプライチェーンの一部として等)、FlexPortの人と話してみることを勧めます。FlexPortすばらしいブログも持っています。

2. 新しい国でオフィスを開くなら、そのプロセスの担当者には、すでにあなたの会社をよく知っている人を任命する

新しいオフィスを開設・運営するという仕事は、自社の規範と現地環境との間を通訳するようなことが多くなります。驚くほど多くの意思決定が必要となります。新規に採用された従業員は会社のやり方に沿いたいと考えるでしょう。新オフィスは会社の延長線上にあるべきで、全く新しい独自の文化を持ってはいけません!

もちろん、新オフィスを管理するマネージャーに現地の人を採用するのもありです(そして多くの場合それが最良のアプローチです)。しかし新オフィス開設の少なくとも数週間前には、現地採用の社員を本部に呼び、あなたの側で一緒に働いてもらうべきです。

成長ステージに入り、新オフィスを何ヵ所か開設しようとする会社は、通常新オフィス開設の作業を異なる役割の二人に割り当てます。一人は最初のオフィス開設の部分に責任を持つ人で、もう一人は長期にわたりオフィスを運営する人です。開設の担当者は他のオフィス開設にも使えるプランを開発し、この仕事を何度か繰り返し行います。それぞれの新オフィスを運営する担当者は開設担当者と密に作業しますが、自らが担当するオフィスのみが責任範囲です。

3. 従業員を持つところには必ず会計士と弁護士が必要

これは私にも驚きでした。でも理にかなっています。スタートアップはアメリカで弁護士と会計士を雇い、会社設立の書類作成や税金関係をやってもらいます。すべての国にそれぞれいくらか異なる会社法と事業税の構造があるため、おそらく現地の弁護士と会計士が必要となります。

ある国でパートタイムの請負労働者しか抱えていない場合は、現地の弁護士や会計士は必要ないかもしれません。しかしフルタイムの従業員に給料を支払うようになったり、現地で売上が立ち始めたり、リース契約にサインしたりするようになり次第、正しい提出書類作成のための手助けが必要となります。現地の銀行や会計関係の規制に準拠し、税金の支払いを正しく行うためです。

4. 労働ビザは複雑で、お金がかかり、ストレスフルである

物理的な製品を発送するのと同様、人を世界中に移動させる仕組みもインターネット時代になっても大して変わっていません。あなたが国籍を持たない国で働く許可を得ることは、ややこしいことが多く常に時間も食われるものです。

アメリカのスタートアップはグローバルのエンジニアや幹部を雇う際にはH-1Bビザプログラムを利用できることが多いです。要件は複雑ですが、以下に手短にまとめます:

  • 大学の学位を持つ技能労働者はH-1Bビザの対象となる
  • 労働者は競争力のある給与が支払えるだけの資金を持つ会社にスポンサーされなくてはならず、同じ仕事においてアメリカ国民の直接の後任となってはならない
  • ビザはおよそ3年間有効で通常は延長可能(実際、ビザ保有者は「グリーンカード」永住権の申請プロセスを始めることが可能な場合が多い)
  • 新規に発行されるH-1ビザの年間発行数には上限があり、上限に達すると翌年1月までそれ以上のH-1Bビザは発行されない

私は多数のエンジニアをH-1B労働者として雇ってきました。主なチャレンジは、書類関係にかかるコストと時間、そしてビザが承認されるのを待つことです(これは多くの場合申請して、次の年まで待つことを意味します)。ビザを待つ間、多くの場合エンジニアは母国から契約労働者として働くことが可能です。

H-1B申請を準備し提出するにあたっては、イミグレーション(移民問題)専門の弁護士は絶対に雇った方がよいでしょう。大幅な時間の節約になり、ビザが(いずれ)承認される確率を大きく引き上げます。Jewell, Stewart & PrattのPhyllis Jewellは何度も私の助けになってくれました。

H-1Bプログラムは最近では政治案件となってしまいましたこのプログラムが現在の形で続くかどうかは不明です。続くことを祈っています。

H-1Bビザの他にも選択肢はあります。「特殊技能」を持つ人のためのO-1ビザ等です。残念ながら、昨年導入されるはずだった創業者のための新しい「スタートアップビザ」は、トランプ政権により無期限保留となってしまいました。

人の雇用および労働・居住許可を得るためのルールは国によって異なります。例えばEUでは、他のどのEU加盟国からでもとても簡単に人を雇うことができます。これは素晴らしいことです。しかし(アメリカを含め)非EU国の国民の雇用は通常、非常に難しいです。

5. 時にはあなた自身が飛行機に乗って出向く必要が生じる

最後に、もしあなたが海外の顧客やパートナー、従業員と働く道を選んだら、きっとあなたは自分で思うよりもずっと多くの時間を飛行機で過ごすことになるに違いありません。私はリモートワークを強く支持します。なにしろ私の会社はビデオ会議製品を作っているわけですから! コラボレーションのためのツールは性能がとても良くなり、今ではスタートアップチームが世界中に散らばりながら稼働することも十分可能となっています。
しかし実際に対面で膝を突き合わせることが重要になることもあります。チームを構築する際、あるいは製造オペレーションを構築する際、あるいは売却のクロージングの際等、その場にいなければならないこともあります。その場合は飛行機に乗らなくてはならなくなる、ということです。

例えば、私が知る創業者で中国で製造した物理的なプロダクトを問題なく発送することができた人たちは、全員どこかの時点で飛行機に乗って、現地で製造パートナーと共に数週間過ごしています。企業向けテクノロジーを売るすべてのCEOは、営業チームの大型案件のクロージングの際には飛行機に乗ってサポートに向かいます。リモートのオフィスがあるなら、そのオフィスで時間を過ごしに行かなくてはいけません。

最後に

優秀な人材は世界中に散らばっており、スタートアップにとって優秀な人材はこの上なく重要なリソースです。また、領域によってはアメリカよりも有利な場所もあります(例えば今の中国の高品質な電子製品製造等です)。そして世界中の顧客が最高の製品を求めています。

ですから、小さい会社であっても国際企業になることを恐れないでください。ただ事前に、出張や時差をまたいだ調整、複数の政府機関との折衝に伴い発生するプラスアルファの間接費について計画に入れておくようにしてください。

 

著者紹介

Kwindla Hultman Kramer

 

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: Going Global with Your Startup (2018)

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