セールス契約に最も重要な16の契約条項: リスクと報酬をバランスさせる (a16z)

B2Bのビジネスを行う企業、特にアーリーステージの企業の創業者が、顧客契約の交渉の難しさについて口にするのをよく耳にします。スタートアップにとって、交渉は難題です。なぜなら、あなたの会社はまだ市場で名を成していませんし、信頼されていないからです。 顧客があなたの会社から製品を購入する時、彼らはリスクを冒しています。そのリスクとは、あなたのスタートアップが失敗に終わり、彼らがサポートのない製品を買ったまま放置されるリスクです。また、あなたの会社の製品が広告通りに機能しなかったり、個人データの管理に失敗したり、セキュリティ上の脆弱性を生じさせたり、知的財産(IP)を侵害したり、連鎖的に他の重要な事業体系に損害を与えたりするなどのリスクです。あるいは、あなたの会社が不具合を迅速に修正できなかったり、問題が起こった時にあなたの会社のサポートが対応しなかったりすることなどのリスクです。

こうした諸々のリスクがあるので、多くの創業者とスタートアップは、最初の契約交渉で顧客に対して過剰に譲歩してしまうという誤りを犯します。しかしながら、セールス契約を作成する際の最善の取り組み方は、契約を相互に関連した様々な構成要素と手段の体系として考えることです。その体系は、相互に作用しあいながら、あなたと顧客の両方にとって受容できる程度のリスクと報酬の水準を達成します。「すべてをテーブルの上において審議しましょう。受容できる範囲内にある限りは、すべてのことに交渉の余地を残してください。顧客が何かを手にするためには、何かを譲歩する必要があります」とSignal FxのMark Cranney最高危機管理責任者(CRO)は助言しています。

私は、スタートアップが顧客契約におけるリスクと報酬のトレードオフを舵取りすることを手助けするため、法律家、創業者、CROにインタビューを行い、彼らの経験について聞くとともに、契約上のリスクをとらずに取引を勝ち取るために学んだことを尋ねました。私はこの投稿で、セールス契約の最も重要な16の条項とそれぞれへの取り組み方を見ていきます。

1. 保証と救済措置 (Warranties and Remedies)

保証と救済措置の条項は、許容し難いリスクに対するあなたの会社の第一の防御策です。保証の条項には、サービス品質保証(SLA)の内容に加えて、あなたの会社の製品で何ができるか、また、どのように機能するか(「仕様の確認」)が書かれています。救済の条項には、あなたの会社の製品が保証条項の定義通りに機能しない場合、あなたがどのようにして顧客に補償するかが書かれています。保証と救済措置を明確に定義することにより、あなたの会社の製品が故障した場合や、期待通りに機能しない場合に、不満を覚えた顧客がその損害を根拠としてあなたの会社を訴えることを回避します。

重要な質問

  • あなたの会社の製品は何ができて、どのように機能しますか?
  • 顧客が期待すべき動作保証(例えば稼働時間)はどのようなものですか?
  • 上記の期待が満たされない場合、顧客にはどのような補償がなされますか?

意義

  • 網羅された問題に関する訴訟を回避する
  • 顧客の期待水準を設定し、満足度を向上する

執行

  • 保証を最大限に明確かつ完全に特定してください。不完全な保証はギャップを生み、訴訟に結びつく可能性があります。
  • 保証には通常、限定的で具体的な救済措置が伴います。「具体的な救済措置のない保証の提供は問題です。なぜなら、あなたはそれにより、契約解除や賠償など、すべての救済措置の可能性を認める状況になるからです。必ず救済が具体的で制限のあるものになるようにしてください」とPagerDutyのStacey Giamalis最高法務責任者は言います。
  • 救済措置は製品の使用に関する料金の免除(例えば1ヶ月分無料)、あるいは、その他の将来的な値引きにすべきです。
  • 顧客への返金として特定された救済は、収益認識への影響があります。2019年(上場企業向けは2017年)時点での会計基準[財務会計基準審議会(FASB):米国会計基準コーディフィケーション(ASC)606)では、企業に対し、認識される収益を、「十分な」確信に支えれられ、かつ、後日に絶対に翻ることのない程度に限定するように要求しています。
  • 「保証と救済措置、責任の制限、賠償は相互に関係しています。ですから、自社が抱える可能性のあるリスクを最大限に確実に把握するために、それらの条項を一緒に読んでください。ある節で譲ったことに対して、他の節では上限を設けるか、あるいは制限することができるかもしれません」と、Downey Legal SolutionsのPatty Downey社長は助言します。

2. 責任制限 (Limitations of Liability)

契約において二番目によく協議される条項は、LOLとして知られている責任制限の条項です。責任制限は、あなたがベンダーとして起こされる可能性のある訴訟の程度に上限を設けます。大抵は、包括的な上限(キャッチオールキャップ)があり、そして、過失、違反行為、秘密保持違反に関する特定の項を制約する、さらに程度の高い究極の上限(スーパーキャプ)があります。

重要な質問

  • もし訴訟を起こされたら、どの程度の金額の訴訟になり得るでしょうか。

意義

  • 訴訟を起こされた場合の損失額について、上限を設定する
  • 買収者が晒されるであろう法的リスクに置き換えることで、買収者と投資家が責任の制限を念入りに確認するようになる

執行

  • 通常の包括的上限と究極の上限の両方の取り決め額として最善なのは、契約前のある一定期間に支払われた料金の倍額です。基準条項については、事前の12ヶ月または24ヶ月に支払われた料金と同額で、その他の特定の項については、おそらくそれらの料金の2倍です。
  • 交渉の影響力を持たないアーリーステージのスタートアップは、絶対的で、かつ支払い済みの料金とは無関係な上限の取り決めを余儀無くされることがあるかもしれません。そのような上限は非常に高いこともよくあり、スタートアップにとっては命取りになります。GitHubのPaul St. John国際販売部部長は、このような場合はリスクを軽減するように提案しました。「責任を網羅する保険証券を買い、顧客と保険費用を分担してください。」
  • 再交渉は困難ですが可能です。あなたの会社が存在感を増し、社内に法務担当役員を置くようになってから、責任の制限について再交渉しましょう。AppDynamicsの最高執行責任者であり、元法務担当役員のDan Wrightは、自分の経験で再交渉に漕ぎつけました。「それは過酷でした。私たちは1年をかけて、それらすべての契約をよく検討し、再交渉しました。大抵の顧客は理にかなった説明をすれば快く受け入れてくれます。骨が折れますが、実現できます。」

3. 賠償 (Indemnities)

賠償は、自社製品の使用との関連で顧客が訴えられた時に、顧客のために保険ポリシーを提供します。例えば、自社製品が第三者のIPを侵害した、あるいは、個人データの管理に失敗した場合、賠償条項はあなたの責任の内容を明確にします。顧客があなたの会社に補償をさせるかもしれない損害は、示談金や弁護士費用などの直接的なもの、あるいは、評判の低下と事業に与える影響などの間接的なものです。

重要な質問

  • あなたの会社の製品の使用で顧客が訴えられた場合、あなたの責任はどのようなものでしょうか。

意義

  • 責任制限があなたを法的な問題を抱える可能性から保護してくれるように、賠償条項はあなたの顧客を守ります。
  • 買収者と投資家は、あなたの会社の顧客が訴えられた場合の自分たちへの影響を評価するために、これらの条項を注意深く見ています。

執行

  • 賠償範囲を直接的な損失に限定してください(例えば、弁護士費用や裁判費用)。評判や事業への影響などの間接的な損失を賠償範囲に入れないようにしましょう。これらは数量化することが難しく、極端に巨大化する可能性があります。
    どのような示談金にもあなたの同意が必要です。
  • 上限は市場における先例によって決まります。したがって、同じ業界の大企業の賠償内容を参考にしてください。
  • 賠償の条項の中には、IP侵害など、完全に上限のないものもあるかもしれません。
  • 賠償に関しては、地域特定条項を用いることを考えてください。PagerDutyのSowmya Bala顧問弁護士は、これをSaaSセールス契約の最近の傾向であると見ています。「ベンダーは、リスクをよりよく管理し、リスクが生じる可能性をよりよく把握するために、IP侵害の国際的な賠償をやめて、それぞれの地域に固有の賠償へと方針を変えています。」

4. 権利 (Entitlements)

権利は、顧客が獲得するものの周囲に境界線を確立します。このような境界線を設けることは重要です。後で新たな特性 / 性能を顧客に対してアップセルし、会社の継続期間をかけてパッケージングと価格設定を試すことができるからです。

重要な質問

  • 顧客にはどのような権利があるのでしょうか。
  • そのような権利の制限はどのようなものでしょうか。どのような製品特性や更新が含まれているのでしょうか。それはどのくらいの期間含まれるのででしょうか?

意義

  • アーリーステージの企業が潜在的に大規模な取引を確保する場合、権利は重要であり、金の卵と一緒にガチョウを諦めることのないようにしてくれます。
  • 1つの取引で顧客が得るものを制限することで、新たな特性 / 性能を顧客に対してアップセルできます。また会社の存続期間中を通して、パッケージングと価格設定を試行錯誤し、価格設定を変更することができます。
  • 特に顧客が契約を取り消すことができる場合は、約束された製品特性を提供できないことで、収益認識への影響があります。権利は、実行できない約束をしてしまうことを防いでくれます。

執行

  • 製品の機能の説明には、ヘルプ / 使用方法を記載した文書を頼りにしてください。そして、「何であれ、権利を文書化された内容と結び付け、会社の将来の収入源とIPを保護するために、厳密に意味を確定した定義を作成してください」とPagerDutyのBalaは提案します。
  • 現在の顧客が権利を有する更新(セキュリティ調整や不具合の修正など)と、追加料金が発生し得る新たな特性との間に、境界線を引いてください。これを行う方法として、追加料金なしで他の顧客が利用できるものとして、更新を定義するという方法が1つあります。
  • 1人の顧客に特定の製品特性を提供することを約束しないようにしてください。ただし、他の顧客にとっても必要なものであると確信し、真剣にそれに取り組むつもりである場合は別です。他に優先的に取り組むべき課題が生じ、製品特性の提供が契約書の中に書かれている場合には、多額の返金が必要となることもあり得ます。
  • 約束された製品特性、更新、その他の権利を、自社の営業陣が添付書類や作業指示書(SOW)に付け加えることのないようにしてください。

5. データの使用 (Data Use)

機械学習の発達に伴い、顧客データに基づく学習モデルの訓練と、顧客全体に対してそのモデルを再利用する能力は、いまや戦略的能力となっています。それと同時に、顧客があなたの会社に対し、プライバシーと訴訟の懸念から、自分のデータの利用を許可しないこともよくあります。あなたは、契約を勝ち取り、長期的な戦略能力を維持するために何が必要かを注意深く考え、さらに、自分のデータの共有を躊躇している顧客と交渉するための計画を持たなくてはいけません。

重要な質問

  • あなたは顧客データをどのように利用できますか?

意義

  • データ利用は、戦略的分析能力の土台です。
  • 顧客データを利用する能力は、あなたの会社がどのように評価され、どのように業績を上げるかという点で大きく影響します。

執行

抽象度の高いレベルでは、データ利用の合意には3つの種類があります。

  1. あなたはデータを所有し、他の顧客と直接共有しない限りは、それを自由に利用することができます。
  2. あなたの会社の顧客はデータを所有していますが、あなたはそのデータを対象とする学習モデルを自由に訓練し、顧客全体に対してそれらのモデルを再利用できます。
  3. あなたの会社の顧客はデータを所有しており、そこから派生する成果物は、どのようなものであれ顧客全体に再利用してはいけません。
  • 大企業は、3つ目の選択肢を条件とし、彼らのデータを利用したり、彼らのデータを用いて訓練されたモデルを利用したりすることを絶対に許可しないことが多いです。データの利用を交渉する余地が大きいのは中小企業でしょう。
  • 会社がデータの利用を許可しない場合は、他に目を向けることのできる選択肢があります。例えば、より高額な料金を課金したり、他の顧客に起因するデータを用いて訓練されたモデルの利用を制限したりするという選択肢です。

6. 契約期間 (Contract Term)

契約期間とは、契約の長さを定義します。契約期間の長さは、将来的な契約交渉においてあなたが持つと期待される影響力をもとに決めるべきです。一方で、購入者の事業にとってあなたの会社の製品はより不可欠なものになるかもしれませんし、あるいは、購入者は著しい事業の拡大を望むようになるかもしれず、これらのことは結果的にあなたの影響力を増幅させるかもしれません。他方で、顧客に起因する更新または拡張収益が、あなたの会社が業績を向上させるか、または業績不振に陥るかを決める要となる可能性があり、結果的にあなたの影響力は縮小するかもしれません。一般的に、将来より多くの影響力を持つことが期待できるならば、交渉して契約期間を短くするべきでしょう。

重要な質問

  • 契約期間の長さとはどのくらいでしょうか?
  • 契約は自動更新されるのでしょうか?

意義

  • 契約期間は一定期間に渡って一定水準の収入を保証するのに役立ちますが、それはまた、スタートアップを不利な条件へと封じ込め、再交渉する能力を妨げることもあり得ます。

執行

  • 契約期間は、顧客に対する自社製品の価値や交渉における自社の影響力の変化を土台にして取り決めるべきです。
  • (大抵は複数年の)長期契約は、長期間にわたる収入の程度を保証しますが、製品価格を実際よりも低下させたり、特定の条項で妥協を余儀なくさせたりするリスクがあります。長期契約が好ましいのは、顧客に起因する更新または拡張収益が業績向上に重要である場合です。
  • ソフトウェアが顧客の事業にとって不可欠なものになると予想している場合、あるいは、自社製品の能力を著しく拡大している場合は、短期契約が有利です。
  • 長期契約を設定する場合は、早期に事業に再投資するために、前払いの取り決めをしましょう。責任や賠償を抱える可能性が高くなるため、しっかりとした責任の制限と賠償の条項を、確実に設けるようにしましょう。
  • PagerDutyのGiamalisは次のように助言しています。「もしあなたがアーリースタートアップである場合は、初期の契約において大きな値引きをするかもしれません。遅かれ早かれ再交渉したくなります。また、価格設定とパッケージングについてのあなたの見解は継続的に変化しています。 再交渉を無理にでも進めることができるよう、自動更新を盛り込むかどうかについては慎重になってください。」

7. 宣伝(Publicity)

よく見過ごされますが、宣伝はスタートアップにとって重要度の高い条項に入ります。アーリーステージの企業は、マーケティング素材での顧客のロゴの表示、顧客との共同記者会見やケーススタディの開発、推奨文における顧客の言葉の引用など、顧客にマーケティング活動への参加を依頼しなければいけません。残念ながら、宣伝は、営業担当者が真っ先に赤線を引く条項です。なぜなら、営業で摩擦を引き起こし得るものだからです。幸運なことに、これらを最終契約に確実に盛り込む方策があります。

重要な質問

  • マーケティングの中で顧客をリファレンスとして使えますか?もしできるなら、どのようにして?

意義

  • スタートアップの初期段階においては、信頼を築くために、顧客への言及は極めて重要です。
  • 顧客はこれらの条項に躊躇するかもしれません。なぜなら彼らはこれを余計な仕事だと考え、また、自分たちの使用しているソフトウェアを世間に知られたくないからです。

執行

  • 大企業の顧客は、協働するのが非常に難しいことがよくあります。グローバル大企業のソフトウェア会社の中には、製品を無料で提供されない限りは、共同のマーケティング活動への参加を拒絶していることで有名なところもあります。
  • マーケティング活動への参加に対する報酬として、顧客に値引きを申し出る許可を営業担当者に与えてください。しかし、更新の交渉での自社の支配力に影響しないよう、値引きは1回限りとしてください。
  • 別の選択肢として、マーケティング活動の顧客の確保を、自社の営業陣のノルマの一部、あるいは、報酬構造の一部にできます。例えば、 Ironcladの最高マーケティング責任者(CMO)であり、Leanplumの元マーケティング担当役員のJoyce Solanoは、Leanplumで顧客の引用をすることによる投資利益率(ROI)を約15,000ドルと算出し、顧客から引用の許可を獲得した営業担当者にインセンティブを提供することができました。

8. ソースコード・エスクロー (Source Code Escrow)

この条項は、顧客が製品ソースコードを利用できる条件を定義しています。大企業は時としてソースコード・エスクロー条項を取り決め、あなたの会社が無くなったり、製品の提供を打ち切ったりして、ソフトウェアのサポートを自社で行わなければいけなくなった場合に備えるでしょう。実際には、彼らがサポートを自社で行う可能性は非常に低く、これらの条項は通常は回避されます。

重要な質問

  • 顧客はどのような状況であなたの会社の製品ソースコードを利用できるのでしょうか?

意義

  • ソースコード・エスクローの条項は、潜在的な買収企業にとってのリスクを生み出します。
  • これらの条項はまた、顧客とベンダーの間の不均衡を生み、顧客に対してあなたの会社を破産させ、ソースコードの所有権を獲得する動機を与える可能性があります。

執行

  • スタートアップは一般的にソースコード・エスクローの条項については、災いのようなものとしてとらえ、避けるべきです。
  • ソースコード・エスクローの条項を盛り込むことを回避できない場合は、その条件は非常に厳格に定義するべきです。「顧客があなたを破産させ、その後に翻ってあなたの会社のソフトウェアを再販することができないように、その条件は会社が破産した時、かつ、非競争的な使用においてのみ、と確実に制限してください」と、AppDynamicsのWrightIf は説明します。

9. 最優遇顧客 (Most Favored Customer)

「最優遇顧客」の条項は、ベンダーが誰に対しても提示する最善の価格を、顧客に保証します。例えばAppleは、ベンダーにこれを要求することで有名です。

重要な質問

  • ベンダーは、他の誰に対しても提示する最善の価格を顧客に保証していますか?

意義

  • この条項に従うことは、アーリーステージのスタートアップにとっては特に、運営上、非常に困難です。どの顧客にいくらが提示されているかを追跡するための適切な過程をまだ手にしていないからです。
  • この条項によって、様々な顧客に差異化した価格設定をすることが非常に困難になります。

執行

  • Patty Downeyは、自分の経験から、顧客が時としてこの条項を狡猾に持ち込もうとする場合があるとしています。そのため、顧客契約を利用するときには気をつけてください。
  • この条項には懸命に協議して立ち向かってください。そして、大口顧客でない限りは、断固として拒否してください。
  • 受け入れざるを得ない場合は、「他の顧客」の定義を限定してください。例えばあなたは、その条項が適用されるのは、同じような責任を負う、同一地域における、同じ産業の類似の規模の顧客に対して、よりよい価格設定がなされている場合だけである、とすることができます。

10. 譲渡条項 (Assignment Provisions)

多くのスタートアップは、最終的には買収されます。あなたの会社が買収されるとしたら、あなたの会社の顧客にとって、それはどのような意味を持つでしょうか。譲渡条項により、買収された場合にセールス契約がどのようになるのかを事前に取り決めます。

重要な質問

  • 買収された場合、あなたの契約は買収者に譲渡されますか?
  • 顧客が契約または契約の特定の条項に従う必要がなくなるような譲渡条件はどのようなものですか?

意義

  • 顧客は、あなたのスタートアップが競合他社に買収されることを懸念し、譲渡条項によってリスクを軽減したいと考えているかもしれません。
  • 顧客がいなくなった場合、買収者は収入源を失うでしょう。ですから、譲渡条項によって、潜在的な購入者はあなたの会社を過小評価することになるかもしれません。

執行

  • 顧客が譲渡条項を要求した場合は、条項を競合他社に買収されるという具体的な事例に制限し、契約の中で、競合他社としてみなされる対象を明確にするように心がけてください。

11. 発注者の都合による契約解除 (Termination for Convenience)

顧客が理由を問わずに自由に契約解除をしたがることはよくあることでしょう。これを顧客に許すのが、発注者の都合による契約解除の条項です。ソースコード・エスクローや最優遇顧客の条項と同様、これもまた、可能ならばスタートアップが回避すべき条項です。

重要な質問

  • 顧客は理由なく契約を解除することができるでしょうか。

意義

  • 発注者の都合による契約解除は、あなたの会社が買収された場合に、顧客を失うリスクを高めます。結果として、潜在的な購入者によるあなたの会社の評価は低くなる可能性があります。
  • この条項により、将来の収益に対する「十分な確信」を条件とするFASBのASC606の会計基準に従って、収益認識が難しくなる可能性があります。

執行

  • あなたの会社の収益認識能力に影響する可能性があるため、これらの条項に対しては強硬な姿勢で立ち向かってください。PagerDutyのBalaは、顧客が引かない場合は、「契約期間を短くするか、あるいは、前払い金に関して払い戻しの権利をなくすかのいずれかに置き換える」ことを勧めています。

12. 優先交渉権(ROFR / Right of First Refusal)

興味を持った第三者があなたの会社を買収する申し出をした場合、優先交渉権(ROFR)があれば、顧客は同様の申し出をすることにより、会社を買収することができます。一般的には、このような類の条項は拒否すべきです。なぜなら、このような条項は、買収過程に著しい影響を与える可能性があるからです。

重要な質問

  • 顧客は、あなたの会社の買収に優先交渉権を持っていますか?
  • 顧客はあなたの会社の買収を防ぐことができますか?

意義

  • 顧客は、競合他社の買収の可能性を軽減するためにこの権利を要求するかもしれません。
  • ROFRは、買収過程を著しく複雑にし、遅らせる可能性があります。

執行

  • 唯一、この条項を考慮すべきなのは、顧客が非常に戦略的である場合です。

13. サポートの条件 (Support Terms)

サポートの条件は、個客があなたの会社のサポートチームから受けられるサポート内容を定義し、その期待に答えない場合に何が起こるかを定義しています。これらは保証と救済の趣旨と似ていますが、製品とその能力ではなく、製品に関して約束されたサポートを網羅しています。

重要な質問

  • サポートチケットに対応するまでの所要時間はどのくらいですか?
  • サポートの要請や問題はどのように上層部に伝達されますか?
  • サポートが不十分な場合、顧客はどのような救済を受けられますか?

意義

  • サポートを定義することにより、あなたはサポート内容を明確に設定しやすくなり、顧客の失望や潜在的な返金要求を回避したりできます。
  • 不十分なサポートは、契約の更新を非常に難しくします。
  • 不十分なサポートが理由で、顧客は契約解除の権利を請求するかもしれません。これに同意するならば、あなたの会社が前払いの収益を認識する能力に影響するかもしれません。

執行

  • 保証の場合と同様、サポートが網羅する範囲の定義を厳重に明確にしてください。
  • 迅速で十分なサポートを提供できなかった場合は、通常は製品に利用できるクレジットで救済すべきです。例えば、Salesforceは、SaaSでサービスの水準の基準を設定し、救済方法をクレジットに限定しています。
  • 顧客がこの条項に付け入ることがないように、免責条項とサービスの基準を満たさなかった場合の具体的な措置を盛り込んでください。

14. ロールアウトと決済のための目標 (Roll-out and Payment Milestones)

特定のロールアウトまたは目標の要件を満たした場合にのみ支払いが行わるという条項を盛り込んだセールス契約もあります。残念ながら、企業の新技術の導入は過酷です。従来の製品との互換性の問題や、利用者の訓練があり、ITが常に火消しに走らなければならない課題が山積みであることも珍しくありません。デプロイメント時点で決済するというのは危険です。

重要な質問

  • 顧客の支払い以前に満たす必要のある条件や目標はありますか?もしあるならば、どのようなものですか?そして、もしその条件や目標を満たさなかった場合はどうなりますか?
  • 顧客が達成すべき目標はありますか?顧客がその目標を達成できなかった場合のペナルティはどのようなものですか?

意義

  • この条項は、顧客が効率的にあなたの会社の製品のデプロイメントを行ったり、採用の推進を行ったりすることを抑制する可能性があります。

執行

  • 目標達成時の決済に対しては、強い姿勢で立ち向かってください。しかし、リスクの高い大規模な取引では、このような条項は避けることのできない標準的なものかもしれません。
  • 最終的に目標達成時の決済となってしまった場合は、自社製品がうまく採用されることを促すために、あなたの会社と顧客が共有する互恵的な目標とペナルティを追加してください。

15. 仲裁 (Arbitration)

仲裁とは、両当事者が裁判になるような事態に陥った場合に、訴訟するのではなく、第三者の中立的な仲裁によって決着をつける処理過程です。仲裁条項は、契約上の両当事者が訴訟を起こすことを回避し、第三者の中立的な仲裁などの別の選択によって特定の紛争を解決します。このような条項は雇用契約では一般的な(かつ論争を呼ぶ)ものです。ごく最近になって、これらの条項は、紛争が起こった場合の財務上のリスクを軽減するために、セールス契約にも見られるようになりました。

重要な質問

  • あなたの会社と顧客の間に意見の不一致があった場合、顧客はあなたを訴えることができますか?それとも仲裁者に解決を求めなければいけないでしょうか?
  • どのような状況で仲裁が利用されますか?
  • 仲裁者を選ぶのは誰ですか?そしてその費用負担をするのは誰ですか?
  • 仲裁過程はどのようなものですか?

意義

  • 仲裁は、あなたの会社とあなたの顧客が法的問題を抱える可能性を著しく軽減します。仲裁は、陪審員ほど恣意的ではなく、仲裁者の決定による罰金や報酬は、陪審員の決定によるものに比べてかなり少額です。

執行

  • 仲裁条項は、相手との関係性において失うものが最も多い場合に最も有利です。顧客が個人や中小企業の場合などです。
  • あなたの会社が、個人の利用者や中小企業を相手とする何十万もの会社を顧客としているボトムアップタイプである場合は、仲裁条項をクリックラップ契約に追加してください。それらすべての利用者に影響するような問題を抱えた時に、破滅からあなたを守ってくれる可能性があります。
  • あなたに対して仲裁契約を強要する顧客には気をつけましょう。これは、過去にも問題を起こしてきた顧客であることを示す警告かもしれません。

16. 価格設定 (Pricing)

価格設定は契約条項の中でも最も重要な部類に入ります。あなたが構築した事業の種類やその経済状態に対して価格設定ほど影響力のあるものはありません。 かなり多くのアーリーステージの企業が、自社のサービスに実際よりも低い価格設定をしているのを、私とa16zのパートナーたちは目の当たりにしています。価格設定の話題は、深く、時間のかかる話題なので、私が完全に網羅することはできません。ですから、私はここで、価格設定の契約上の側面だけに話題を絞ります。価格設定全体の話題については、以下を確認してください—— a16zの “Pricing, Pricing, Pricing” のpodcast、および、“The Price Is Right: And for Early-Stage SaaS Companies, It Needs to Be”の記事です。

重要な質問

  • 顧客は何の対価を支払っているのでしょうか。そして、その金額は?
  • 価格の基準は何ですか?消費単位ごとの価格はどのように設定しますか?
  • それを過ぎると価格が変わる境界(つまり価格帯)はありますか?
  • 前払いの部分はありますか?そして、実際の消費にかかる「調整」額はありますか?過剰消費はどのように価格設定していますか?

意義

  • 顧客に見込まれる責任と支払い方法を明確に設定することは、確実に支払い期限を守らせ、あなたの会社の財務状況を良好に維持するのに役立ちます。

執行

  • 価格設定とパッケージングは密接に関連しています。価格変更を断行するために時としてパッケージングを利用することができます。例えば、“Blue-washing” という用語があります。これは、企業を買収した後に、パッケージングをわずかに変更することによって、セールス契約を変更し(washing)、より有利な(blue)価格設定条件に至ることを説明するのに使われます。
  • 特に、創業から間もない頃の顧客に対して、より低い価格に同意する必要がある場合は、より低い価格ではなく、必ず値引きとして記載するようにしてください。交渉で価格を再び釣り上げることが容易になります。

終わりに

顧客との交渉のために、標準契約と戦略を早くまとめるのに越したことはありません。アーリーステージのスタートアップとして、セールス契約におけるあなたの会社の影響力は非常に小さなものですが、契約の条項についてよく考え抜くことは、あなたがリスクとリワードの戦略的な均衡を図ることに役立つでしょう。これにより、あなたの事業の継続が可能になるだけでなく、イグジット戦略を成功させるための準備もできます。

この投稿の助けとなってくれた以下の方々に大変感謝します——Sowmya Bala、Martin Casado、Mark Cranney、Patty Downey、Stacey Giamalis、John Gilman、 Juleen Konkel、 Peter Levine、Paul St. John、Sheena Weinberg、Dan Wright

 

著者紹介

Jad Naous

 

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: 16 Sales Contract Clauses to Balance Risk and Reward (2019)

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