お金の Google Maps - 自律ファイナンスの時代 (a16z)

Googleマップに希望の行き先を入力すると、アプリが最も効率的な最短ルートを導き出してくれます。目的地までの交通状況や休憩時間まで考慮してくれます。現在地の入力すら必要ありません。Googleマップはユーザーの位置をすでに把握しているからです。もし同じような予測ソフトウェアが私たちのファイナンス面についても存在していたらどうでしょうか? 学生として、大まかな目標(例えば、卒業し、あこがれの街に引っ越し、マイホームの資金を貯め、子育ての計画をするなど)を立てれば、アプリが自分に最適な財務プランを実行してくれるような未来を想像してみてください。アプリは途中での「交通状況」に応じて、ルートを再決定したり、調整したりしてくれます。

多くの消費者にとって、金融サービス業界は近寄りがたく感じるほど複雑です。確かに、複雑な部分を理解できることに越したことはありません。しかし私たちは大抵、実用面ばかりを考えてしまいます。クレジットカードの債務や学生ローン、住宅ローンを借り換えられるのか? また、どれを優先すべきなのか? さらなる節約は可能か? 投資についてはどう考えるべきか? といった具合に。

多くの善意に基づくスタートアップや既存の企業が近年、そのような質問に答えるために教育面の努力を強化しています。基本をしっかりと理解するのは大事ですが、私は、金融面の混乱や不必要な複雑さを乗り切るための最良の方法はソフトウェアを使うことだと信じています。ソフトウェアは、私たちが決断を下すために必要となる重要なポイントを抽出するのに極めて優れています。また、私たちに代わって、非常に優れた決断をしてくれる場合さえあります。自律ファイナンス(autonomous finance)の時代へようこそ。

「自律ファイナンス」の進化

「自律ファイナンス」の最初期の例は、WealthfrontやBettermentといったロボアドバイザーです。これらは、高コストの投資信託の代替品を提供してくれるものでした。独立した資金管理者のために、どの株式を選び、どう再均衡をはかるのかという思考を引き受けるサービスでした。タックス・ロス・ハーベスティングなどの、さらに複雑な戦略も実行しました。このような自律型投資テクノロジーは消費者にとって、とても魅力的なものでした(とくにその手数料の低さが!)。そのため、BlackrockやSchwabなど多くの大手資産運用会社が、ロボアドバイザー・スタートアップの1つを買収したり、自身で立ち上げたりしました。

次に登場したのが、余ったお金を別の口座に貯める自動貯金アプリでした。購入金額を切り上げたり(例えば、2ドル50セントのコーヒーを買ったら50セントを蓄えるなど)、規定の金額を目標としたりする手法がありました。これらのアプリは、大多数の人が意識することのない習慣を日常的に強いるという面で役に立ちます。

自律ファイナンス企業は現在、最も有害な「金融ブラックホール」の1つであるクレジットカード債務に取り組んでいます。例えばTallyは、ユーザーの銀行口座とクレジットカードを紐付けることでクレジットカードによる決済を引き受けます。このアプリは、すべてのクレジット債務を月ごとの支払いに統合し、全体の金利も安くします。月当たりの支払額は最低限残高に対応するだけでなく、元金も減らしてくれるので、いち早く債務を返済できます。

完全自律ファイナンスという未来

ここ10年間で大きな進展が見られましたが、ソフトウェアソリューションの機が熟している金融サービスのバーティカル市場は、まだまだ残されています。

明らかなカテゴリーの1つが学生債務です。国内には学生債務を救済するプログラムが多数ありますが、その中身や利用資格、申し込み方法を調べるだけでも混乱してしまいます。ソフトウェアのアプリケーションがあれば、すべての政府支援プログラムをアルゴリズムで評価し、借り手が資格を満たしたときに自動でアラートを送ることができるでしょう。この発想をさらに進め、ソフトウェアが代わりに申請まで行うようにすることも考えられます。

評判が良くないこともある債務調停の世界にも、自律ファイナンスのためのさらなる機会があります。この世界には仲介者が存在しますが、これは部分的には、債権者が調停プランを消費者に売り込めないことに起因しています(以下のような自動音声での催促を想像してみましょう。「請求額を支払うには1を押してください。請求額の半分のみを支払うには2を押してください」。全額支払える人でも2の選択肢を選ぶでしょう)。債務調停は規制が難しいため、たちの悪い業者がはびこっています。消費者にとって恐ろしいプロセスになることもあり、しばしば、1日に何回も電話してくるような取り立て業者が複数関わっています。そのようなプロセスの代わりに、銀行が調停すべき顧客を、ソフトウェアが判断できるでしょう。またソフトウェアにより、現時点でのすべての選択肢や、それぞれの選択肢が行く行くはクレジットスコアに及ぼす実際の効果を、消費者に提示できるでしょう。このようなサービスは、透明性を確保し、データに基づいて駆動されることで、大きなストレスを感じるファイナンス面において信頼を醸成できます。

自律ファイナンスはまた、収入の最適化も支援できます。自分が都市部に住み、複数の仕事で週に40~50時間働いているとしましょう。稼ぎを増やしたいと思い、さらにシフトを増やすことを決断します。限られた時間で確実に最大限稼ぐにはどうしたらいいでしょうか? 現在の40~50時間で最大化できているのか? 地元の小売店で別のアルバイトをするべきか、それともギグエコノミー・プラットフォームの1つで働くべきか? 自分の現在の収入を把握し、応募可能なすべての仕事の賃金相場も把握しているサービスを想像してみてください。そのようなアプリがあれば、最良の選択肢と自律的にマッチングしてくれるでしょう。仕事の応募までしてくれるかもしれません。

以上の問題は、ソフトウェアによって取り除くことが可能な消費者の財政面の泣きどころのいくつかにすぎません。自律ファイナンスは、消費者の代わりに保険契約を結んだり、最も有利な契約内容に移行したりできるでしょう。フリーランスの方であれば、源泉徴収や税制優遇措置、節税を含むファイナンス面を、自律ファイナンスが調整してくれるでしょう。中小企業のキャッシュフローもサポートできるでしょう。

完全自律ファイナンスの未来に移行するには依然、ハードルがあります。消費者は、ソフトウェアプログラムの実行の正しさを信頼する必要があります。不信感に対処するために、多くの自律ファイナンス企業が現在、ソフトウェアの実行前に推奨アクションを承認するように顧客に求めています。またアグリゲーションサービスではクレジットカードによる取引のようなデータを抽出しますが、それらのデータセットが100%の信頼性を持つことはほとんどありません。正確を期すには、企業側の努力が必要です。加えて、全体ではなく、自分のファイナンスのわずかな部分だけを見ていると、しかるべき行動を評価するのが難しいことがあります。今では、一連のアプリを組み合わせることでファイナンス面を自律化できます。1つはクレジットカード債務に、1つは学生債務にといった具合です。

私たちは初期段階にいます。互いに競合することもあるこれらのニーズをつなぐ役割を担い、ユーザーの生涯を通じてファイナンス面のロードマップを自律でモニタリングし、調整してくれるような企業が登場したときに、真の自律ファイナンスが実現するでしょう。

  

著者紹介

Angela Strange

Angela Strange は Andreessen Horowitz のジェネラルパートナーです。彼女は保険、不動産、多様性の向上などを含むファイナンシャルサービスへの投資にフォーカスしています。彼女は Andreessen Horowitz のポートフォリオである  Branch, Earnin, HealthIQ, Mayvenn, PeerStreet, and Point のボードオブザーバーでもあります。Angela は2014年にこのファームに入社しました。

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: The ‘Google Maps for Money’ (2019)

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