ユーザーインタビューの基本(Startup School 2019 #02)

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Eric Migicovsky
皆さん、こんにちは。YCのパートナーを務めているEric Migicovskyと申します。私は実際にY Combinatorに参加して2011年に起業した経験があります。私が立ち上げたPebbleという会社は、世界初のスマートウォッチの1つを作った会社です。

本日はユーザーと話す方法についてお話しするということで、とてもワクワクしています。なぜなら、これはスタートアップにおいて非常に重要な要素の1つで、おそらく皆さんが常に耳にすることになる、長期的なテーマだからです。

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優れた創業者は顧客と話す

優れた創業者は、ユーザーとの間に直接的関係を構築し、それを会社全体のライフスパンを通じて維持します。彼らがこの直接的関係を維持するのは、会社経営のあらゆるステージにおいて自社のユーザーから情報を入手する必要があるからです。

多くの場合、創業者とはCEOやCTOであり、テクニカルプロダクトリードであると思われています。ですから、こうした情報収集作業は社内の他のスタッフにアウトソーシングすることも可能です。セールススタッフやプロダクトヘッドを雇うことも可能です。しかし、根本的に「優れた会社は創業者自身が自社のユーザーとの直接的関係を維持している」と言えます。皆さんがCEOであるなら、顧客の話を聞くのが皆さんの仕事であり、職務です。時間をかけて、ユーザーとの上手な対話方法を学びましょう。

そして創業者は全員、このプロセスに携わる必要があります。「自分はエンジニアだから、開発スタッフだから、コーディングをしているから、こうしたプロセスには関係ない」とは思わないでください。映画『リストラ・マン(原題『Office Space』)』で、登場人物が「自分はエンジニアとユーザーの仲介役だ。自分はユーザーと話す方法を知っている。対人スキルに長けている」と言う、非常に典型的なシーンがあります。これこそ、皆さんの会社で起きてはならないことの1つです。創業者と会社のコアメンバーが、ユーザーと対話するスキルを磨くよう、徹底しましょう。仲介者のような人物を雇う必要はありません。ユーザーとの対話は非常に重要です。

YCの講義では主要なポイントとして「起業にあたって創業者がすべきことは2つだけ」と教えています。

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それは、自分でプロダクトのコードを書くまたは作ること、そしてユーザーの話を聞くことです。これは「言うは易く行うは難し」です。本日の講義では、ユーザーとの対話における戦略立案に関する戦術的なアドバイスのほか、創業当初にユーザーインタビューを行う際に活用できる質問や戦略について説明します。

お母さんテストが有効

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実は、私が今日お話しするアドバイスの多くは、この『The Mom Test』(お母さんテスト)というYCカンパニーの創業者が執筆した本に非常にうまくまとめられています。この本のタイトルは、自分が立ち上げようとしている会社について両親に説明する、という誰もが経験するであろうプロセスに基づいています。

私たちは、自分を愛してくれて、サポートしてくれる人と話をすることで、自社を変えたり改善したりするのに役立つ良い方法や効果的な情報を得ることができると考えがちです。しかし、これは本質的には情報を得るための最善策とは言えません。

『The Mom Test』では、ユーザーインタビューを実施しようとする際、私たちが犯しがちな3つの間違いについて、筆者のRobが説明しています。

1.アイデアではなく、顧客の生活について話す

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ほとんど全員が犯してしまう1つ目の間違いは、自分のアイデアについて話をしてしまうことです。これはまさに誰もがしてしまうことです。私たちは創業者です。創業者とは、自分のアイデアを売り込みたくて、自分が手掛けているプロダクトについて話をしたくて仕方ありません。

しかし、ユーザーインタビューは自社のプロダクトを売り込む場ではありません。優れたユーザーインタビューとは、自分が話をしている相手から情報を引き出すこと、プロダクトやマーケティング、自社のポジショニングの改善に役立つデータを引き出すことを目的にしています。自社のプロダクトを使ってくれるよう売り込むためのものではありません。優れたユーザーインタビューの本質は、ユーザーの生活について学ぶことにあります。自分が解決しようとしている問題点と、それに関してユーザーが経験しているかもしれない経験について、具体的に聞く必要があります。

2.仮説の話をせず、具体的なことについて話す

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次に、ほとんど全員が犯してしまう2つ目の間違いは、仮説の話をしてしまうことです。私たちは自社のプロダクトがどんなものか、どんな機能を盛り込もうとしているかについて話し、「こんなものがあったら興味を持ちますか?そのためにお金を払っても良いと思いますか?」といった質問をしてしまいます。これは間違っています。そうではなく、ユーザーの生活の中で、すでに起きている具体的な出来事について話をしましょう。そうすることで、プロダクトや会社を変える意思決定に役立つ、より説得力がある有益な情報を入手できます。

さらに、ユーザーの生活全般に関する話もする必要があります。具体的な問題だけを、いや、皆さんが提示する具体的なソリューションだけを話す必要はありません。ユーザーに関する情報、彼らが問題に直面するに至った経緯に関する情報を引き出すよう心掛けてください。ユーザーの生活に関する、より幅広い質問をして、ユーザーがその問題にどのように辿り着いたか、前後関係を引き出してください。ユーザーの動機について学んでください。そもそも、なぜユーザーはその問題に遭遇したのか、その理由について学んでください。

3.話すのではなく、聞く

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そして、ほとんど全員が陥る3つ目の罠は、自分たちが話をしすぎてしまうことです。私たち創業者は常に投資家や従業員を相手に提案をし、人材やパートナーを雇おうとしています。ですから、私たちは自分が話をするのに多くの時間を割きがちです。

しかしユーザーインタビューでは、話をしたいという気持ちを抑えて、聞き役に回ってください。メモを取り、ユーザーの話に耳を傾けてください。なぜなら、ユーザーと対話するこの10、20、30分という時間で、できる限り多くの情報を引き出しておけば、オフィスに戻り、共同創業者と顔を合わせた時に、ユーザーの生活に関する確かなデータや真実を提供することができるからです。

聞くべき5つの質問

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初期の顧客インタビューの際、誰もが使えるとても良い質問が5つあります。

1.あなたが解決しようとしていることに関する、一番の難題は何ですか?

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1つ目の質問は、「あなたが解決しようとしていることに関する、一番の難題は何ですか?」です。

ここではDropboxを例に説明しましょう。皆さんの多くはDropboxが登場する前の世界を覚えていないかもしれませんが、Dropboxの創業者であるDrewの立場になって考えてみてください。2005年、彼はMITで学びながら、Dropboxの構想を温めていました。自分がMITのコンピュータラボで友人と席を並べている姿を想像してください。皆さんは振り返り、こう尋ねます…ちなみに皆さんはDropboxを創り出すプロジェクトを手掛けている最中で、他の学生がどのようにファイルを共有しているか、もっと詳しく知りたいと思っています。「ここに潜在的ユーザーはいるか?この新たなテクノロジーで自分が解決を手助けできる問題は何か?」といった点を把握するためです。

そこで皆さんは友人に向かって、「大学のコンピュータを使ってグループワークをする時、一番大変なことって何だと思う?」と尋ねます。皆さんがいる場所はコンピュータラボです。その手の質問をするには絶好の状況で、自由な会話をきっかけに相手が現在どんな風に友人とグループワークに取り組んでいるか、情報を引き出すことができます。うまくいけば、共用のコンピュータにログインしなければならない、どこかからファイルを持ってこなければならない、といった彼らの具体的な悩みの種を把握できるでしょう。その友人が大学のシステムに対するネットワークドライブを持っていたとしても、一緒に研究をしている人が大学のコンピュータにログインできない状態かもしれません。共同作業の同期化に関する問題について何かわかるかもしれません。研究者たちが、まったく同じタイミングでまったく同じドキュメントに作業をしている場合があるかもしれません。

そして、こういった問題を解決しようと思って、今、何かしていることはあるのでしょうか?一般的に、最も優れたスタートアップは人々が定期的に直面する問題、あるいは皆が苦労していて、解決する価値がある問題を探しています。この質問は、自分が取り組んでいる問題について、ユーザーも同じように「これは悩みの種だ」と感じているか、またユーザーが生活の中で「積極的に解決したい」と思っているものかを確認するのに役立ちます。

2.その問題に最後に直面した時のことを教えてください

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2つ目の質問は、「その問題に最後に直面した時のことを教えてください」と尋ねることです。これは、先ほど説明した「仮定ではなく具体的なことを引き出す」ためです。この質問の目的は、ユーザーがその問題に直面した際の状況と前後関係を引き出すことにあります。

例えばDropboxのケースでは、自分の友人の話から「1週間ほど前」といった具体的な時間枠のなかで起きたことについて何かわかるかもしれません。一緒に作業をしていたのは誰か?どの授業の課題に取り組んでいたのか?それはコンピュータサイエンスの課題だったのか?英語の論文だったのか?プロダクト開発の際、潜在的ユーザーが直面していた過去の問題として実例を参照できるように、相手がその問題の解決に取り組み始めた過程に関する、できる限り多くの情報を引き出すよう試みてください。そうすれば、自分のソリューションをその問題に重ね合わせて、特定の状況下で有効なソリューションであったか、知ることができます。

3.それが困難だった理由は何ですか?

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3つ目の質問は、「それが困難だった理由は何ですか?」です。共同プロジェクトまたは誰かと一緒に作業するプロジェクトに取り組もうとしていた学生にとって、状況が困難であった理由は何か?直面した困難とは、具体的に何だったのか?と尋ねることです。

この質問を尋ねるのは、人によって言うことは様々だからです。Dropboxの事例に戻りますと、例えばある人は、「メールでファイルをやり取りする際、皆が同じタイミングで同じドキュメントを持っていなかったため、作業が重複したことが最大の問題だ」と答えるかもしれません。また、別の人は「作業をするうちにファイルのバージョン番号が複雑に入り組んでしまい、最終的に教授に提出するドキュメントを間違えてしまった」と答えるかもしれません。

つまり、この質問をすることで、自分のソリューションで解決できるかもしれない問題を正確に特定することだけでなく、プロダクトをどう市場に出すか、また、新規かつ潜在的なユーザーに対して、自分のソリューションの価値やメリットをどう説明すべきかを理解できるようになります。

一般的に、顧客はwhatにお金を出すのではなく、whyにお金を出します。つまりDropboxの事例でいえば、顧客が「このファイル同期ツールのおかげで、すべてのファイルが同期できるようになった」と言って興奮し、大喜びしてくれることはないかもしれません。しかし、whyの視点で見れば、「このプロダクトは、ちょうど2週間前に仲間と学生プロジェクトに取り組もうとしていた時に直面していたあの問題を解決してくれるだろう」となるでしょう。つまり、whyという質問に対する顧客からの答えが重要です。プロダクトの残りの部分を開発するなかで、「あなたが直面したその問題は、なぜ困難だったのか?」という質問がきっかけで、マーケティングやセールスのコピーが生まれるかもしれません。

4.その問題を解決しようと思って、したことがあれば教えてください

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4つ目の質問は、「その問題を解決しようと思って、したことがあれば教えてください」です。私はここ数年間、YCカンパニーのサポートをしていますが、その経験から言える大きなポイントとして、「潜在的顧客自身が、自分の直面している問題に対する潜在的ソリューションをまだ探し始めていない場合、その問題は顧客にとってさほど重要な問題ではない」というものが挙げられます。

あなたがその問題を解決しようとしても、プロダクトに対するより優れたソリューションを見つけたとしても、興味すら持ってもらえない、という可能性があります。つまり、「この問題に直面した人は、すでに解決を試みているだろうか?」という質問によって、起きている問題の根本的な部分を探ることができるわけです。

Dropboxの事例で皆さんは、自身でグループワークに取り組んでいる、または過去にグループワークに取り組んでいた人の話を聞いています。どんなツールを試したか、その問題を解決するために過去にどんなツールを試そうとしたかを把握するよう試みてください。リアルタイムで相談できるよう、全員が部屋に集まったうえで、4台のコンピュータを駆使して取り組んだのかもしれません。メールを使う方法を試したのかもしれません。最初のDropboxのローンチ中にHacker Newsへのトップコメントとして投稿しようとしたのかもしれませんし、[rsync]をセットアップしてSFTPか何かを使って、すでにこの問題を解決しているかもしれません。

繰り返しになりますが、この質問をする理由は2つあります。1つは、皆さんが解決している、あるいは解決しようとしている問題は、誰かが実際にソリューションを求めているものなのかどうかを把握するためです。もう1つは、「競合するものは何か?」、「ソリューションを発表し、最終顧客への提案にこぎつけた時に、自社プロダクトと比較されるものは何か?」を把握するためです。

5.これまで試したソリューションのなかで、気に入らなかった点は何ですか?

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5つ目の質問は非常に戦術的で、「これまで試したソリューションのなかで、気に入らなかった点は何ですか?」というものです。これは、皆さんのプロダクトに搭載されるべき機能セットについて把握するきっかけとなります。この質問から、「この問題に対するより良いソリューションのために盛り込むべき機能は何か」を理解していくことができます。

注意すべき点は、これはDropboxの事例で言うならば、「新たなファイル同期プロダクトにはどんな機能を求めますか?」という質問ではない、ということです。なぜなら、それは仮定の質問だからです。一般に、ユーザーはプロダクトに求める新しい機能の特定に長けていません。Henry Fordがかつて「私たちが自動車を開発していた時、ユーザーが求めていたのは車ではなく、もっと速い馬だった」と言っていましたが、それと同じことです。つまりこの質問は、彼らがすでに試した既存のソリューションにおける問題点を具体化するものです。これらは具体的な情報ですから、それをもとにすれば、市場にある既存のソリューションと自社の新たなソリューションとの違いが見えてくるでしょう。

顧客インタビューはどの段階でも有効

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先ほど説明したように、ユーザーの話を聞くことは会社経営のあらゆるステージにおいて有益です。しかし、そのなかでもアーリーステージの会社には、3つの重要なフェーズがあります。アーリーステージの会社とは、まだProduct/Market Fitに達していない段階の会社のことで、ユーザーとの対話が極めて有益な状態である会社です。そして、3つのフェーズとは、

  1. プロダクト開発に取り掛かる前のアイデア段階
  2. プロダクトの初期モデルは完成しているがまだ有料顧客またはユーザーの手に渡っていないプロトタイプ段階
  3. ローンチを経てProduct/Market Fitに向けてイテレーションしている段階

の3段階です。こうした段階をどのようにして進んでいけば良いでしょうか?各フェーズにおけるテクニックをいくつか紹介しましょう。

1.アイデア段階

アイデア段階では、大雑把なアイデアがあったり、何かを思いついていたり、自分が夢見てきたテクノロジーを商品化していたりするかもしれませんが、まだ最初のユーザーがいない状態です。

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ここで皆さんは、自分が直面している問題に関する情報を提供してくれる人、または最初のユーザーとなることに同意してくれそうな人を探し始める必要があります。

顧客インタビュー候補を探す方法1:自分自身

私はよく、「どうすれば最初のユーザーを見つけられますか?どうすれば話を聞けますか?」と聞かれます。実は、創業者自身のために作られたプロダクトやサービスを提供する会社は、非常に優れていることが多いです。つまり、自分自身をスタート地点にすることです。ユーザーインタビュー戦略を自分自身に試してみましょう。自分がその問題に遭遇した状況を回想してみることです。

顧客インタビュー候補を探す方法2:同僚

その次のステップは、友人や同僚と話をして、誰かに紹介してもらうことです。人がたくさん必要なわけではなく、数千人と話す必要もありません。優れたユーザーリサーチ戦略は、どれもたった1人か2人からスタートしています。

ここで重要なのは、顧客またはユーザーにただ自分のアイデアを売り込もうとするのではなく、彼らに対して先入観にとらわれない詳細なインタビュー戦略を実行することです。

顧客インタビュー候補を探す方法3:直接行訪問する

すばらしい成功例となったやり方の1つを紹介しましょう。これは実際に今回のバッチに参加している、あるYCカンパニーがやったことです。彼らは自社プロダクトを消防士に販売していますが、コールドメールによる売込みは効果がなく、顧客に辿り着くことができないと気付きました。そこで彼らは、消防署を直接訪ねることにしました。事前にメール連絡することもせず、アポなしで出向いて「署長とお話させていただけませんか?私たちがソリューションを持っているこの問題について、どなたかとお話をさせていただけませんか?」と言いました。

この後どうなったと思いますか?これは大成功を収めました。彼らは突然消防署を訪問しただけで、10~15分の対面ミーティングを何人もの人とすることができました。つまり、何かに悩んだ時、フィードバックを入手したい具体的なターゲット顧客基盤が存在するならば、とにかくそこに行ってみることです。これは少し押しつけがましいようで、気が引けることかもしれません。しかし私が思うに、皆さん自身が「ターゲット顧客基盤が直面している問題を解決している」と心から思えるのなら、最終的には相手の役に立つことになります。15分という時間を割いてもらい、問題についてより詳しく理解することで、相手の役に立てるわけです。

顧客インタビュー候補を探す方法4:イベントへ行く

業界のイベントもまた、多くの新規顧客と交流することができるすばらしい場所です。私がPebbleで働いていた頃の話ですが、私たちは当時、実際にCESに行きました。CESとはラスベガスで開催される大規模な電子機器の見本市です。私たちはブースを出展していませんでした。そこでただ、ゲリラ的な手法として、手当たり次第に潜在的ユーザーとのミーティングを取り付け、会場の外の喫茶店で会いました。私たちにはマーケティング予算もありませんでしたが、この方法で、まったくお金を掛けずに済みました。CESは業界内の多くの人々が集まる場所ですから、私たちが話を聞きたいと思う多数の潜在的ユーザーがいるとわかっていました。

アイデア段階でのコツ

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この段階でのちょっとしたコツをお教えしましょう。

メモを詳細に取る

それはメモを取ること、とにかく詳細なメモを取ることです。なぜなら、先ほど説明したように、これらのユーザーインタビューで得られる重要な情報のうち、どれが役に立つかは、後にならないとわからないからです。誰かと話をしながらメモを取るのが苦手な人は、友人や共同創業者を同席させて書記を頼んでも良いですし、インタビュー相手に録音をしても良いか聞くのも良いでしょう。迷っている時は、できるだけ多くの情報を集めることです。気楽に考えましょう。

カジュアルにインタビューする

先ほどお話ししたように、ただ相手を訪ねてみるだけでも良いです。事前の計画は必要ありません。スケジュールを20分ずつ細かく分けてカレンダーに記入し、延々とユーザーインタビューを繰り返す必要はありません。流れに身を任せてください。最初の5~10人のユーザーインタビューをこなすなかで非常に多くのことを学べますから、次のバッチの時にはプロセスは劇的に改善しているでしょう。ですから、一度に100人のユーザーインタビューをしなければならないなどと思わないでください。まずは1人、3人、5人と始めてコツを掴むことです。

相手の時間を大切にする

3つ目は、相手の時間を認識する必要があることです。冒頭の話を繰り返しますが、私たち創業者は自分のアイデアが大好きで、自分のアイデアについて話すことが大好きです。ですから、自分自身に歯止めをかけ、他者の時間を認識するよう気を付けましょう。実際、最初のインタビューにおいては10~15分の時間があれば最高の情報を得ることができるでしょうし、初期の雑談としてはそれくらいの時間で十分です。

2.プロトタイプ段階

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アイデア段階からユーザー相手のプロトタイプ段階へと進んでからは、ユーザーとの対話から、最初の顧客として最適な相手が誰かを把握できるというメリットがあります。これは非常に重要です。なぜなら、最初の顧客に間違った相手を選んでしまうと、その顧客に拘束されたり、人為的な罠にはめられてしまったりした上に対価も得られない、という状況に陥る可能性があるからです。

顧客が適しているかどうかを判別するフレームワーク

そこで私たちは、誰が最初の顧客に最も適しているかを事前に見極めるためのフレームワークを開発しました。

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この段階のユーザーインタビューで私がよく行うのが、ある3つのトピックについて顧客から具体的な数字を聞き出す質問です。

コスト

まず1つ目に把握したい点が、「その問題のために現在発生しているコストはどのくらいか?」です。ここで知りたいのは、顧客がこの問題を解決した場合に得られる収益、この問題を解決するために現在費やしている金額、この問題を解決しようとして無駄にしてしまった金額が現時点でいくらか、といった具体的な数字です。

頻度

2つ目に把握したい点は、「その問題に直面する頻度はどのくらいか?」です。1時間に1回なのか、1日に1回なのか、四半期に1回なのか、1年に1回なのか?スタートアップのターゲットに最適なのは、より頻繁に直面する問題です。これには2つの理由があります。1つ目は、顧客がより定期的に問題に直面することで、その問題に対する苦痛も、より定期的に感じていて、潜在的ソリューションをより受け入れやすいからです。2つ目は、ユーザーがより頻繁に直面する問題に取り組むことで、自社のプロダクトが実際に問題を解決できるかどうかを試す機会が増えるからです。

私は、以前Pebbleに携わっていた頃、毎日使われることを目的としたデバイスに取り組んでいるという点がとても気に入っていました。毎朝起きて、腕時計を身に付ける。これは私にとってすばらしいことでした。なぜなら、もし人々が腕時計を身に付ける習慣がなければ、自分が取り組んでいるプロジェクトは間違った方向を向いていることになるからです。つまり、最初の顧客に一番向いているのは、かなり頻繁にその問題に直面している顧客と言えます。

予算

3つ目に把握したい点は、「その問題を解決するための予算はどのくらいか?」です。例えば、工場の組立ラインに関する何らかの問題を解決する場合を想像してみてください。実際に組立ライン現場で働いているオペレーターの話を聞けば、彼らはこの問題にかなり定期的に直面しているかもしれません。しかし、彼らは予算を持っていません。彼らには、実際にその問題を解決する権限はないわけです。その権限を持っているのは、彼らの上司か、さらに上にいるオフィスまたは本社内の人間です。

繰り返しますが、最初の顧客に最も適した人を特定するには、その相手が実際に問題を解決する力を持っているか、選択肢を与えられた時に対応できるかを見極める質問をすることです。

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この図は私がよく使っているもので、顧客に関するこれら3つの質問に対する答えを、重なり合うベン図にして、視覚化しています。先ほど説明した3つの質問に対して最も高い数値的回答を持つ顧客が、最初の顧客に最も適している顧客としてベン図の中心に位置することになります。

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簡単な例で説明しましょう。皆さんが、最高に美味しい新しいフルーツスムージーを作るための超高性能ミキサーの開発に取り組んでいると想像してください。

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皆さんは複数のユーザー、例えばMcDonald's、The French Laundry、Googleの社内カフェに話を聞くことにしました。そして、ユーザーインタビューで得られた回答を3項目にまとめたシンプルなスプレッドシートを作ります。このデータは、最初に自社プロダクトを販売する顧客を決定する際に活用できます。

例えば、The French Laundryはナパにある超有名レストランです。彼らなら、あなたの新テクノロジーを利用し、これまでにない極上の新しいスムージーを売り出す機会を持っているかもしれません。彼らは単価を高く設定することができますが、利用頻度はあまり高くなさそうです。The French Laundryではフルーツスムージーに興味を持つ顧客は少なく、この店のスーシェフ(副料理長)と話をした皆さんは、店が導入を望んでいたとしても、この問題を解決するのに足りる資金を持っていないことに気付くかもしれません。

別の潜在的顧客は、Googleの社内カフェのシェフです。皆さんにとっては都合が悪いことに、Googleは従業員に無料で食事を提供しています。ですから、皆さんの新しいテクノロジーによるスムージーを自社のレストランに導入しても、社内カフェのシェフは、より多くのお金を稼げる立場にも、節約ができる立場にもありません。確かにGoogleは多くの従業員を抱えていますから、1週間で作られるスムージーの量はかなり多くなるでしょう。しかし同時に、彼らはこの問題を掘り下げるための予算を持っていません。

このように、初期顧客とのインタビューから、実際に自社プロダクトの最初の顧客となる可能性が最も高いのはMcDonald'sであると判明します。McDonald'sでは新たなスムージーの単価を高く設定できないかもしれませんが、大量の店舗を有していて、個々の店舗が大量の顧客を抱えています。加えて、皆さんがたまたまMcDonald'sのチーフ・フード・オフィサーへ紹介されたとします。実際にそういう役職が存在するかはわかりませんが、この人物は数十億ドルの予算を管理しています。そして、McDonald'sがこの問題を解決しようと思った場合、彼らはその権限と予算を持っているわけです。

このように、入手した情報をスプレッドシートにまとめて、一連の質問に対する最善の回答を導き出すためのシンプルなスタックランキングを行います。このフレームワークは、各種ユーザー調査から得られたあらゆる情報をまとめて、最良の顧客を見つけるのに活用できます。

3.イテレーション(ローンチ後)段階:PMFを目指す

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Product/Market Fit (PMF) 前にユーザーインタビューが役に立つ最後のステージが、Product/Market Fitに向けたイテレーションプロセスの段階です。

Paul Grahamは、Product/Market Fitを「人々が求めるものを作り出した時」と簡潔に定義しています。Mark AndreessenもProduct/Market Fitに関するすばらしいブログ投稿をしていて、「プロダクトが自然と自分の手を離れる時」と評しています。これは皆さんが顧客にプロダクトをプッシュする必要がなくなり、顧客の方が皆さんからプロダクトをプルする時、ということです。

しかし、Product/Market Fitに関するこうした定義の問題は、内容が曖昧だという点です。さらに、Product/Market Fitに到達したことを知るためには、すでにそれを達成していなければならないという意味で遡及的です。つまり、イテレーションのため、またProduct/Market Fit到達に向けたプロダクト改善のために盛り込むべき機能を見極めるという点では、あまり有効ではありません。

40% 以上の顧客が「このサービスがなくなったらとても残念に思う」と答えるのを目指す

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メール高速化アプリのSuperhumanをご存知でしょうか?同社のCEOが少し前に、Product/Market Fitに関するこうした曖昧な定義にいかに悩まされてきたか、また、こうした定義はProduct/Market Fitの予測には役立たず、達成したかどうかがわかるだけの遅行指標である、というすばらしいブログ投稿をしています。

彼は自社をProduct/Market Fitへと導いてくれるリアルタイムの定量的システムの構築を目指しましたが、当然そこにはユーザーとの対話が含まれていました。彼がこのことについて書いたすばらしいブログがあります。Google検索ですぐに見つけることができます。ここでは要点だけを説明しますが、すばらしい内容なので全て読むことを強くお勧めします。

そのなかで彼は、ほぼすべての顧客に毎週質問をするというプロセスについて説明しています。これは必ずしも自社の顧客基盤全体である必要はなく、30~40人のユーザーで十分です。

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これは非常に重要な質問で、「もし、Superhumanを使えなくなったらどう思いますか?」というものです。答えには「非常に残念」、「少し残念」、「残念ではない」という3つの選択肢があります。彼が測定していたのは「非常に残念」と答えたユーザーの割合でした。そう答えたユーザーが、プロダクトを最も評価してくれているユーザーであり、自身の生活においてプロダクトが重要な一部となっているユーザーであることを意味するからです。プロダクトが、彼らの日常的習慣の一部になっているということです。

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そして彼は、Superhumanを使えなくなったら「非常に残念」と回答するユーザーの比率が毎週40%以上になったら、それは何らかのシグナルである、と解釈しました。

つまり、この判別ポイントを過ぎれば、自社のプロダクトはそこから指数関数的な成長を遂げる、という分析でした。彼は、成功を収めている他の数社の数字も調べ、この質問に対する回答が常に40%前後またはそれ以上であることに気付きました。

繰り返しになりますが、この講義では詳細な部分まで紹介できないと思いますので、皆さんにはこのブログ投稿を読むことをお勧めします。ちょうどイテレーションをしていて、実際にこの質問をできるユーザーが存在する段階にいる場合、これは極めて有効な手段となります。前の週に開発した機能が実際にProduct/Market Fitに寄与しているか、プラス効果になっているか、または逆にProduct/Market Fitから遠ざかる要因になっていないかを定量的に判断することができるからです。

いくつかのTips

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他にも、この段階で使えるちょっとしたコツのようなものがあります。

電話番号をたずねておく

1つ目は、ユーザーの登録時に電話番号を尋ねておくことです。データに目を通していて、「この特定のデータは何を意味しているのか?我々の顧客に何が起きているのか?」と考えることは多々あります。全体の20%のユーザーがこの問題に直面しているようだ、と悩むことがあるかもしれません。このような時は、問題に直面しているユーザーのうちの1人に電話をかけて話を聞くだけで解決する場合もあります。私は日頃から創業者たちに、ユーザー登録の過程において、電話番号などの連絡先の入手に重きをおくよう推奨しています。これは顧客との直接的つながりをもたらすものだからです。

すべての意見を参考にはしない

2つ目は、「すべての意見を取り入れようとしないこと」です。「どんな機能が欲しいですか?」とただユーザーに尋ねるのはいけません。それらの機能が、本当に自分のプロダクトをよりユーザー満足度の高い有用なものにするかどうかを把握する必要があります。そこで参考になるのが、先ほどのSuperhumanのCEOがブログ投稿で書いているアドバイスです。

または、他の戦術的な手法も使えます。ユーザーに、「この新しいプロダクトや機能に関心がありますか?」と聞くのではなく、「これがアップグレードフローです。この新しいプロダクトが気に入ったなら、クレジットカードを用意してください」、「この機能が欲しいなら、クレジットカード情報をご記入いただくか、お支払いの金額を増やしてください」と言うことです。実際に機能を盛り込む前であったとしても、これは自分が今手掛けている機能が実際にユーザーに使ってもらえるものかどうかを判断するのに役立ちます。

良くないデータを無視する

この段階のユーザーインタビューにおける3つ目のコツは、良くないデータを無視することです。入手したデータのなかで最も良くないデータの一例が、称賛です。「新しいデザインがすごくいい」とか「これは本当に役に立つよ」と答える人もいるでしょう。ユーザーインタビューでそういった感想を聞くのは気分が良いことかもしれませんが、実はこれは有益な情報ではありません。こうした称賛は、具体性に欠けるコメントだからです。あなたのプロダクトに関する一般的なコメントであり、戦術的なものではありません。今後、プロダクトをどのように変更・改善していけば良いかに関して、正確な情報が含まれていません。

良くないデータ例の2つ目は、あやふやな情報です。これには、仮定や、ごく一般的なコメントが含まれます。ユーザーインタビュー中に「このプロダクトは将来的にこんな感じになるかもしれません」といった仮定の話に移り始めてしまったら、具体的な話に立ち戻るようにしてください。繰り返しますが、ユーザーインタビューとは自社のプロダクトを売り込む場ではありません。将来のプロダクト改善のために、過去にユーザーが直面した問題や課題について学ぶ場であることを忘れないでください。

講義は以上です。本日はユーザーと話す方法について簡単に説明してきました。

 

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: How to Talk to Users (2019)

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