プロダクトを作る、ユーザーと話す、成長する (Startup School 2014 #04, Adora Cheung)

 

本日は講師としてお招きいただき、ありがとうございます。本日の講義では、どのようにしてユーザーをゼロから増やしていくかについてお話ししたいと思います。今、皆さんの頭の中には素晴らしいアイデアがたくさんあって、次のステップについて考えている段階だと思います。

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私がお話しすることは、私自身の過去の失敗を踏まえたものです。Samから話があったように、私は2010年にYCに参加し、それから3年間、試行錯誤や方向転換、やり直しを何度も経験しました。そして、Homejoyに続いてまたスタートアップを始めるとしたら何をすべきでないかについて、いろいろと学びました。私自身の失敗から、一般論として皆さんが何をすべきで何をすべきでないかを説明したいと思います。

念のため言っておきますが、これから話すことは、1つの指針として聞いてください。世の中のビジネスは千差万別です。皆さん1人1人は異なりますし、私と皆さんも違います。その点には留意してください。

スタートアップを始めるためには、時間的余裕を持つこと

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スタートアップを始めるためには、そのスタートアップに集中できる十分な時間的余裕が必要です。学校や仕事を辞めるべきだと言っているわけではありません。私が言いたいのは、アイデアに没頭して解決したい問題のソリューションを考えるために、まとまった時間が必要だということです。

例えば学生なら、毎日2時間ずつ時間を捻出するよりも、週に1日か2日連続した時間を使って自分のアイデアに取り組むのが良いでしょう。これはコーディングと似ていて、コンテキストスイッチが頻繁に起こるため、じっくりと集中することが非常に重要です。

起業初心者のアプローチ

この講義の原稿を最初に執筆した時、「多くの人が起業する時に犯す間違いは何か」を考えました。起業初心者のアプローチはこうです。

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「自分にはこんなに素晴らしいアイデアがある。誰にも言わず、このアイデアをひたすら練り上げよう。その後1人か2人に打ち明けよう。そしてTechCrunchかどこかで発表して、多くのユーザーを獲得しよう」

現実ではどうでしょうか。自分のサイトを訪れてくれる人はたくさんいるかもしれませんが、最初にフィードバックを得ていないために、ユーザーは定着しないでしょう。幸運にも資金的余裕があれば、ユーザーを獲得できるかもしれませんが、やがてお金が尽きてお手上げになるだけです。これは一種の悪循環です。

実は私もYC在籍中にこれを1度経験しました。プロダクトをTechCrunchで発表することは必須なのに、それすらできませんでした。こうした悪循環に陥ってはいけません。何ら成果を出せずに終わってしまうからです。

課題を考える

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次に、自分のアイデアが実際に何を解決するものかについて、よく考える必要があります。つまり、実際の課題は何かを考えます。その課題は端的に一文で表現できなければなりません。次に、「この課題は自分とどう関係しているか?この課題に情熱を持って取り組めるか?」を考えましょう。

そして「これは自分の課題だが、他の人の課題でもあるか?」です。これは人と話すことで検証します。

Adoraの失敗

私が犯した最大の過ちの1つは、私の兄弟との共同で、2009年か2010年に創業したPathjoyという会社です。当時目標として掲げていたのは、人々を心から幸せにする会社を作ること、世の中に大きな影響を与える会社を作ることの2点でした。目指すものは大企業でした。

人々をもっと幸福にすることが自分たちの取り組む問題だと考え、まず人を幸せにする人物の概念について考えました。そこで頭に浮かんだのが、ライフコーチとセラピストです。そして、ライフコーチとセラピスト向けのプラットフォームを開発することにしました。その結末をお話ししましょう。

私たちは自らプロダクトを使い始めました。ところが、ライフコーチやセラピストは私たちに必要な存在ではなかったのです。私たちがひねくれた人間というわけではなかったのですが。これはいわば無意味なプロダクトでした。

つまり、これは自分の問題ですらなく、情熱を注いで作り上げるものでもありませんでした。それなのに、私たちはこのプロダクトに1年近く費やしてしまいました。ですから、T=0からスタートする時、プロダクトを開発する前にこの点について考えておけば、その後望まないことをやる苦労をせずに済むと思います。

どこから始めるか?

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では、自分には取り組むべき問題があってそれを表現できる場合、どこから始めてどのようにソリューションを見つければ良いでしょうか?まず、自分が参入しようとする業界について考えてみましょう。大きさを問わず、その業界にどっぷりと浸かる必要があります。そのための方法はいくつもあります。

その業界で少し働いてみること

1つは、実際にその業界でしばらく働いてみることです。これは少々直感に反するように思えるかもしれません。なぜなら、業界に一石を投じるにはその業界に身を置くべきではないとよく言われるからです。

ある業界で20~30年働いた人は、おそらく自分が身につけたやり方から抜け出せず、そこでの物事の進め方に慣れ、非効率的であることや自分が「一石を投じる」ことを思い付かないでしょう。業界の新参者であれば、業界のありとあらゆることを知り、それらがどのように機能しているかを理解するだけで1~2カ月はかかりますが、細部を理解して初めて自分が探求していることや、非効率的で節減し得る膨大な間接費が見えてくるでしょう。

例)Homejoy

この実例が、私たちがHomejoyを始めた時の話です。私たちが始めたのは清掃業ですが、当時、自ら清掃スタッフとして働きました。ハウスクリーニングを始めると、すぐに自分たちは清掃スタッフとして非常に低いレベルであると気付きました。そこで、もっとこの業界について学ぶ必要があると考え、清掃方法に関する本を購入しました。清掃用品に関する知識が少し増えたので、その本も多少は役立ったかもしれません。しかし、バスケットボールと同じように、本を読んでバスケットボールについて勉強することはできても、実際に練習を積まないと実技は上達しないのです。

そこで、清掃方法を学ぶか、少なくともプロに訓練してもらおうと考え、実際に清掃会社で働きました。そこで数週間のトレーニングを受けて清掃方法を学べたことは有益でした。しかしもっと有意義だったのは、地域の清掃会社の仕組みについて多くを学べたことでした。地域の清掃会社が現在のHomejoyのような大企業になれない理由、つまり彼らの会社は旧態依然としていて仕事の多くが非効率的であることが分かったのです。顧客の予約や清掃スタッフのスケジュールの最適化など、非常に効率の悪い方法で行われていました。

皆さんが私のようなサービス要素のある仕事に関わるのなら、そのサービスを自分自身でやってみることです。レストラン業ならウェイター、塗装業なら塗装工をやってみて、自分の顧客と同じ立場に立って自分がしようとしていることをあらゆる角度から見てみましょう。

業界へのこだわりを持つ

また、業界に関して持つべきこだわりの度合いも大切です。強いこだわりを持って、その領域にいる全ての人がどんなことをしているか知る必要があります。同種の会社、つまり競合他社となり得る会社をリストアップし、それらをGoogle検索して1~1000まで検索結果の全てのページを読んでみることです。

私は大小全ての競合他社候補をチェックし、株式公開されている場合はフォームS1や四半期財務諸表に目を通し、決算報告会を聞いてみました。大半は既に知っていて目新しいことはないかもしれませんが、時折価値ある情報を得られます。

全ての情報を確認する作業をしなければ、貴重な情報は手に入りません。自分が身を置く業界の専門家にならなければなりません。専門の知識があれば、プロダクトを作ったとき、ユーザーから信頼してもらえるはずです。

顧客セグメントを特定する

2つ目は顧客セグメントの特定です。最終的には様々な人に広く利用されるプロダクトやビジネスを作ることが理想的です。しかし、現実として最初は、顧客にとって最適なものを作るために、一部の顧客ベースに絞ることです。10代の女の子であれ、サッカーママであれ、ターゲットを特定することで、相手のニーズにより集中できるでしょう。

ユーザーエクスペリエンスのストーリーボードを作る

そして最後に、プロダクトの製作やコードの書き出しをする前に、皆さんがどのように問題を解決するかを示したユーザー体験のストーリーボードを作ってみる必要があります。

単にウェブサイト自体を意味するのではなく、顧客にどのように知ってもらうかです。顧客は、広告や口コミを通じてサイトを訪れ、より詳しい情報を得ることができます。プロジェクトを契約したりサービスを購入する顧客に対して、どんな言葉で何を伝えますか?顧客がサービスやプロダクトから実際に得るものは何でしょうか?プロダクトやサービスを使い終わった時、顧客はレビューやコメントを残すでしょうか?皆さんはこの一連の流れを考え、頭の中で完璧なユーザー体験を思い描けるようになる必要があります。それを紙に書き出しコード化するところから始まります。

バージョン1とは何か? (MVP について)

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さて、全てのアイデアを思い描き、対象とするコアの顧客ベースを特定し、業界を十分に理解したら、次はプロダクト作りです。

実用最小限のものを作る

最近は「MVP(実用最小限の製品)を作るべきだ」とよく言われています。

ここで、viable(実用的)という言葉に下線を引いています。なぜなら、それを省略し、見かけだけ整えて、初期のユーザー体験全般が退屈なものになっていることがよくあるからです。

MVPとはまさしく、自分が取り組んでいる問題を解決するために作るべき最小の機能群です。ユーザー体験全体をストーリーボードにすれば、すぐに理解できるでしょう。しかし、繰り返しますが、ユーザーの声に耳を傾け、既存のものを注視し、ユーザーの喫緊のニーズを解決するものを作らなければなりません。

プロダクトポジショニングを決定する

そして2つ目は、プロダクトがユーザーの手に渡る前にプロダクト・ポジショニングを決定することです。つまり、ユーザーに「このプロダクトでこれとこれができる」と端的に伝えなければなりません。Homejoyは、当初非常に複雑なものでした。ホームサービスのオンライン・プラットフォームを立ち上げたのですが、清掃にしても様々な選択肢があり、長々とした説明ばかりでした。

このプラットフォームをユーザー候補に見てもらうと、最初の数行で退屈させてしまいました。そこでワンライナー(キャッチコピー)が必要なのだと分かりました。ワンライナーは、それで何ができるかという機能的メリットを述べた大変重要なものです。

将来ブランドなどを立ち上げようとするなら、感動的なメリットを表現する必要があります。しかし、ユーザーがゼロの状態から始める場合は、そのプロダクトで何ができるかをユーザーにしっかり伝えなければなりません。「ハウスクリーニング1時間20ドル」と誰でも理解できるようにポジショニングを変えると、ユーザーに興味を持ってもらえるようになりました。

最初のユーザーを獲得する

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では、MVPが出来たところで、最初の数人のユーザーにどうやって試してもらえばいいでしょうか?

当然のことですが、最初の数人のユーザーは自分とつながりがある人にすべきです。皆さん自身、共同創業者、両親や友人、同僚などです。

さらに、ユーザーからの多くのフィードバックが必要です。フィードバックを求める対象として一般的なものをここに挙げましたが、ここから自分に合ったものを選ぶことができます。オンラインコミュニティならHN、つまりHacker Newsで、ここは開発者向けのツールなどを作っている人には特に役立ちます。消費者向けプロダクト、特に両親向けのプロダクトを作っている人には影響力のある地域コミュニティのメーリングリストなどです。このようなところに連絡を取るのが良いでしょう。

実際、私たちはHomejoyでこれら全てを試しました。自分達自身でも使ってみて、問題ありませんでした。清掃スタッフは私たちだけだったので、当然簡単でした。しかし、私たちはマウンテンビューを拠点にしているため、ミルウォーキーに住んでいた両親には頼めませんでした。友人や同僚はサンフランシスコ近辺にいたため、あまり多くの人には使ってもらえませんでした。そのため、当初は試してもらえる人が少なく行き詰ってしまいました。

スケールしないことをする

そこで私たちは、新たな手を考えました。ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、私たちが拠点にしているマウンテンビューのカストロストリートでは、夏にストリートフェアが開催されます。私たちはそこに行って、手当たり次第人をつかまえてホームクリーニングを試してくれるように頼みました。ほとんどの人から断られ続けましたが、ある日、天候のおかげで分かったことがありました。その日は非常に蒸し暑く、たくさんの人が飲食エリアに集まっていました。暑い日はそれが顕著に見られることに気付いたのです。

これを利用するしかないと考えた私たちは、凍らせたペットボトルの水を無料で配り始めました。すると人が集まってきました。つまり私たちは、ペットボトルをもらった人が申し訳なく思ってホームクリーニングを予約してくれることを狙ったのです。論より証拠ということでしょうか、多くの人が予約をしてくれました。罪悪感からだとは分かっていましたが、後に帰宅してからキャンセルする人はいませんでした。実際何人かはいましたが、ほとんどの人はキャンセルしませんでした。これは良い結果だと思いました。その後予約してくれた人の家を掃除しに行かなければなりませんでしたが、少なくともここで解決できたことがあったわけです。

最後のバッチに参加していたあるスタートアップは、名前は今思い出せませんが、モノを発送するサービスを扱っていました。そこで彼らは郵便局に行き、何かを送るために並んでいる人を脇に呼んで自分たちのサービスを試してくれるように頼んでいました。つまり、人が集まる場所に行く必要があるのです。実際のコンバージョン率は低いかもしれませんが、0から1、3、4とするにはこうした類のことをする必要があるかもしれません。

フィードバックを得る

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では、プロダクトを使ってくれるユーザーを獲得したら、そのユーザーに対して何をすべきでしょうか?まず、ユーザーが皆さんに連絡する手段の確保です。理想的には電話番号があることです。そして、毎回電話を取らなくて済むようボイスメールを導入するのが良いでしょう。

どんな手段でもユーザーからフィードバックを入手できるのは良いことですが、本当にすべきことはユーザーに会って話を聞くことです。机から離れて外へ出ましょう。骨の折れる仕事ですが、プロダクトについて最高のフィードバックを得られる方法です。また、全面的に変えるべき機能や削除すべき機能、新しく作る機能は何かを知ることもできるでしょう。

アンケートは両極端な人からのみ回答が来る

アンケートを送ってユーザーの評価を聞くという方法もあります。これは有効ですが、普通、回答してくれるのは、プロダクトをとても気に入った人か、全く気に入らなかった人だけです。どちらでもない人は回答してくれません。

ユーザーに直接会って話す

両極端にいる人ばかりではなく、中間にいる人の声を聞く方法は、ユーザーに直接会うことです。ユーザーに会いに行って、まるで研究室か取り調べ室にいるかのように相手から話を聞き出そうとする人がいますが、これは相手に回答を強いているようなもので、最善の結果は得られません。

ユーザーと会話をしてその人のことを知り、心地良い雰囲気を作りましょう。プロダクトをより良くするために正直に話してあげようと相手に思ってもらわなければなりません。私自身は、ユーザーを飲みに誘って話を聞くのが効果的だと思います。ここにいる皆さんが飲酒できる年齢かどうかは分かりませんが、そうでなければお茶を飲みながらでもいいでしょう。

継続率を測る

他に皆さんが追求すべきことは、マクロ的視点からうまくいっているかどうかを把握することです。そのための最も良い方法は、顧客継続率(リテンション)の追跡です。今日の訪問者数、翌日の再訪問者数、翌々日の再訪問者数というように追跡していきます。通常、月々の継続率を追跡していき、今日訪問してくれた人は翌月も再訪するかなどを見ます。

この測定基準で問題なのは、データ収集が終わることなく続き、1~3カ月では答えを見出せない場合もあることです。そのため、実際にはレビューや評価の収集が有効な先行指標となります。5つ星や4つ星のレビューやNPS(ネット・プロモーター・スコア)などです。つまり、「自分の友人に推奨したいかどうかを点数で表すと0から10のうち何点ですか?」とユーザーに尋ねてNPSを算出するのです。

新たな機能を追加する毎にレビューや継続率が上昇していけば、順調だということです。下落していると、無意味な仕事をしていることになります。現状維持であれば、何を新しくすべきかユーザーの声を聞いて把握する必要があるでしょう。

正直度曲線に気を付ける

1つ注意していただきたいのが、正直度曲線です。中には本音を語らないユーザーもいるでしょう。これ(横軸)が、皆さんとユーザーとの距離、これ(縦軸)は正直度を表しています。ここが、皆さんの母親、友人、任意のユーザーです。母親は皆さんのプロダクトを使っていますが、いずれにしても自分の子を誇りに思っているでしょうから、正直度はこの程度でしょう。友人は皆さんのことを気に掛けていますからかなり正直にフィードバックをくれるでしょう。これは無料のプロダクトを前提とした話です。

そして時を経て自分とは無関係であるユーザーが増えてきます。この人々はフィードバックを提供することにあまり関心がないでしょう。ですから、ユーザーからのフィードバックを集める時はこれを考慮する必要があります。

では、有料プロダクトの場合はどうでしょう。有料プロダクトの場合、母親はここになります。嘘でも素晴らしいと言うでしょう。そして、グラフはこのように(右肩上がりの曲線)なります。友人は、皆さんをサポートするつもりで適切なフィードバックをくれるでしょう。そして、これらの任意のユーザーは、払った金額に値すると実感できなかった時には、本当に言いたいことを言います。お金がからむとそうなります。

フィードバックはお金を払ってもらって初めて得られる

別の言い方をすれば、役に立つフィードバックはプロダクトにお金を払ってもらって得られるということです。これは最初にお金を払ってもらうという意味ではなく、最終的にソフトウェアやハードウェアなどにお金を払ってもらうプロダクトを作り出すという意味です。より意味のあるフィードバックを得て、さらに有料ユーザーを増やすためです。

プロダクト開発

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多くのフィードバックを入手したら、正式にプロダクトを発売するまでに何をすべきでしょうか?常に求められているのは、迅速なプロダクト開発、そして成長ステージの最適化です。

次のステージに向けた最適化をする

ユーザーが10人の時点で、1千万人になった場合に備えて新しい機能を作るのは無意味です。ユーザーが10人から100人に増える次の成長ステージのための最適化が必要です。次の段階のために必要となる機能は何か?市場を作る時に学んだことの1つは、スケールするにつれてプロセスが非常に重要となるということでした。

全てを自動化し、ロボットに何もかもやらせるためのソフトウェアを開発する必要はありません。何を作るべきか皆さんが本当に理解するために必要なことは、自分自身の手でやってみることです。

その一例が私たちのプラットフォームに清掃のプロを採用し始めた時のことです。電話で多くの質問をした後、面接でも数々の質問をしました。そしてテストで清掃に行ってもらい、問題がなければ私たちのプラットフォームに登録してもらいました。候補者全員に対してこのようにしていたため、合格率は3~5%でした。

それを続けていくうち、私たちはデータ収集を通じて、候補者への特定の質問が私たちのプラットフォームで働く業者としての優劣を見分ける上で有効であることが分かり、オンラインフォームにそれらの質問事項を盛り込むことを考えました。これがオンライン申込の始まりで、応募者にはオンラインで回答してもらい、面接時に追加で別の質問をすることにしました。物事の自動化を急ぎすぎると、迅速に動けず、申込時の質問を繰り返すというような問題に直面する可能性があります。

完璧である必要はなく、ユーザーの声をすべて聞く必要はない

3つ目のポイントは、一時的な不調は永続的な停滞よりはるかに良いということです。私が言いたいのは、この段階で完璧さは重要ではないということです。次の成長ステージに到達した時、ある段階で完璧にやろうとしていたことはもはや重要ではありません。何かを作り出している時に懸念すべきはエッジケースではなく、コアユーザーを対象とした一般的ケースです。会社が大きくなるにつれてエッジケースが徐々に大きくなってきたら、それに対処すれば良いでしょう。

最後に、フランケンシュタイン的アプローチには注意してください。ユーザー全員と話をして、数々のアイデアをもらったら、それら全てを実現させ、翌日にはユーザーに見せて喜んでもらいたいと思うでしょう。ユーザーからのフィードバックには必ず耳を傾けるべきですが、要求のあったものをすぐに作ろうとしてはいけません。ユーザーがそれを求めている理由を探る必要があります。

一般的に、ユーザーからの提案は最良のアイデアではなく、「あなたのプロダクトを使っている間に別の問題が出てきた」、「このプロダクトを使い続けるためにお金を払うのなら、この問題を直してほしい」ということです。単に多くの機能を積み重ねていくと、そうした問題が見えなくなるため、その前に理由を理解することです。

ステルスは愚かな選択肢

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プロダクトをローンチする準備が整ったとしても、ローンチをせずに開発を続ける人がいます。ひそかにプロダクトに磨きをかけるのは、時間・資金・資本の観点から革新よりも模倣の方が楽だと考えているからだと思います。

一般論として皆さんが想定しておくべきことがあります。それは、自分が本当に素晴らしいアイデアを持っているなら、その発表時期を問わず、他の誰かが素早く目を付け、懸命の努力をして自分に追いついてくるということです。誰かに真似をされるという被害妄想から、多くのユーザーを持つことで得られるフィードバックを隠しておくことは無意味です。

くどくど言いたくありませんが、このようなことが最近の創業者に見られますし、私も経験しました。何千万ドルもの資金を必要とするものを作っているのでない限り、プロダクトの発売を先送りするのは無意味だと思います。

ユーザーを獲得して成長する

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多くのユーザーを獲得できそうだと思えるものが完成したら、次は何をすべきでしょうか?次のスライドでは様々なタイプの成長を紹介しますが、ここで覚えておいていただきたいのは、皆さん、共同創業者、その他数人のみで仕事をしている初期段階では、まだ成長志向のチームではないということです。そこにあるのは1対1の関係だけです。ここでは集中することが大変重要です。

1つのチャネルを1週間試す

5つの異なる戦略を同時に試してみたくなるでしょうが、本当にすべきことは、1つのチャネルを選んで1週間試してみることです。とにかくそのチャネルに集中しましょう。うまくいったら出来る限りやり続け、うまくいかなかったら次のことに進んでください。

そうすると、自分が使っているチャネルと最初に立てた仮説が間違っていれば、はっきりとわかります。数週間のうち3分の1の時間だけ費やすよりも確実です。チャネルは1つずつ検討していきましょう。

うまくいくチャネルをリピートする

第二に、うまくいくチャネルと戦略を見つけたら、必ずそれらを繰り返してください。戦略本を作って他者に繰り返させることもできるかもしれませんが、それらのチャネルは常に変化しています。Facebook広告やGoogle広告もそうですが、流通チャネルとは常に自分で変化をコントロールできないものであり、反復と最適化を絶えず行う必要があります。

そして最後に、初期段階でうまくいかないチャネルがあったら、それは忘れて次に進むことです。試してみることは他に山ほどあります。しかし、時間が経ったらそのチャネルを振り返って再度検討してみることです。

Homejoy の初期

その例がHomejoyの初期段階です。私たちにはお金がなかったので、Google広告を購入してユーザーを手早く集めることはできませんでした。Google広告を使っている国内企業は私たちより潤沢な資金を持ち、私たちよりもっと儲けていました。ですので、彼らは私たちよりもはるかに高いコストでユーザーを獲得できていたのです。そんな余裕はない私たちは、別のチャネルを探すしかありませんでした。現在はこの仕事で成功しており、昔より成長しています。ですから、Google広告の購入というアイデアを再考するべきかもしれません。私が言いたかったのはそういうことです。

ここで、全てのキーとなるのが創造性です。一般に、パフォーマンス・マーケティング、またはマーケティングと成長は高度な手法を必要とするものです。これが簡単かつ平凡なものなら誰でもすぐに成長できますが、そうではないので、創造性を身につける必要があります。ですから、小さくても誰もやっていないことを常に探し、それを極限まで追求してください。

成長のタイプ

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成長には粘着型、バイラル型、支出型の3種類があります。粘着型成長とは、既存ユーザーに戻ってきてもらい、従来以上の支出またはプロダクトの利用を促すものです。バイラル型成長とは人による口コミです。1人がプロダクトを使って本当に気に入れば10人の友人に話し、その友人たちもプロダクトを気に入ってくれます。そして3つ目の支出型成長とは、余剰資金がある場合にその一部を使って成長を買うことです。

これから説明することの中心となるテーマは持続可能性です。持続的成長とは穴の開いたバケツではないということです。投下した資金が優れた投資リターンを生み出すことです。

粘着型グロース

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先ほど言いましたように、粘着型成長は、既存ユーザーに戻ってきてもらいプロダクトを購入してもらうことです。ここで唯一重要なことは、素晴らしい体験を提供することです。素晴らしい体験をしたユーザーは、皆さんのプロダクトを使い続けたくなるでしょう。面白くて病みつきになる体験もそうでしょう。これを測定し、ある期間にわたって優れた粘着型成長を実現できているかを確認する方法が、CLV(顧客生涯価値)と継続率(コホート)分析です。

CLV(LTVとも言われますが)とは顧客生涯価値、基本的には一定期間に顧客が企業にもたらす純収益です。12カ月のCLVとは顧客が過去12カ月間にもたらした純収益です。これを1カ月や6カ月などで見る場合もあります。コホートと言う時は基本的にこれを指しており、これ(横軸)が時間、これ(縦軸)が戻ってくるユーザーの割合となります。スタート時点では100%です。

コホートは顧客セグメントとも言い換えられます。女性対男性のコホート、ジョージア州アトランタの住民対カリフォルニア州サクラメントの住民のコホートのように分けて見ることができますが、最も一般的なものが月別コホートです。つまりコホート=月となります。

2012年3月を例に考えてみましょう。2012年3月には、ユーザーの100%が皆さんのプロダクトを使用しています。そして1カ月後にはユーザーの50%が戻ってきたとします。では、2カ月後には、3月にいたユーザーの何人が戻ってくるでしょうか?この辺りまで減っているとします。つまり、長期的にはこのような曲線(右肩下がりの曲線)になります。最初は必ず多少の落ち込みがあります。最初の使用後にユーザーが定着しない理由としては、それだけの価値がなかったことや、良くない体験だったことなどが考えられます。そして長期的には曲線が水平にならなければいけません。ここが皆さんのコアユーザー、つまり長期的に皆さんのプロダクトを使用してくれる顧客となります。

1年後、多くのことを達成しているとしましょう。同じことをグラフにすると、このような曲線(ゆるい右肩下がりの曲線)になっていると良いでしょう。つまり、最初の期間でも50%以上のユーザーが戻ってきていて、固定ユーザーが増えていきます。良くない継続曲線はこう(急激に落ち込んでいる直線)なります。最初に使ってみて非常に悪い印象を持たれたら、誰も戻ってきません。このようなビジネスは思い付きませんが、劣悪なものであることは明らかです。このような継続曲線となるビジネスは優れたものとは言えません。曲線をどんどん上げていく戦略を考えながら、この分析によってその戦略が有効かどうか検証する必要があります。

バイラル型グロース

成長の2つ目はバイラル型成長です。素晴らしい体験を提供する必要があることは、粘着型成長と同じですが、それ以上に、体験は最高に優れたものでなければなりません。ユーザーがTwitterやFacebookなどに熱心に書き込み、多くの友人や家族にメールして紹介するよう促すことが必要です。ですので、本当に優れた体験を提供しなければなりません。それと共に、紹介プログラムのために優れたシステムを構築する必要があります。皆さんのことを紹介したいと思っている顧客が100人いるとして、他の人にどのようにそれを伝えてもらえれば良いでしょうか?

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バイラル型成長戦略とは優れた体験の提供がカギとなりますが、それが出来た場合、優れた紹介プログラムをどのように構築すれば良いでしょうか?それに関する3つの重要ポイントを挙げてみました。

1つ目が顧客タッチポイントです。彼らは他の人に紹介できることをどの時点で知るでしょうか?予約完了後かもしれませんし、会員登録後かもしれません。しかし、プロダクトをしばらく使ってみた後、ユーザーのエンゲージメントが高くなっているところでリンクを伝えて多くの人に広めてもらう方が良いでしょう。他に、プラットフォーム型のビジネスをしている場合です。

Homejoyでは、実際にユーザーの自宅を訪ねます。つまり、この場合の顧客タッチポイントは清掃スタッフがユーザーの自宅を訪ねた時です。資料を残していくこともできますし、訪問時に何かを紹介することもできます。基本的に、ユーザーのエンゲージメントが高く、プロダクトに惚れ込んでいる時に友人に紹介してもらえるよう、顧客タッチポイントと紹介リンクを設定します。

2つ目はプログラムのシステムです。最も一般的に目にするのは、「10ドルにつき10ドル」というような紹介プログラムです。つまり、友人に紹介して相手がプロダクトを使用すれば、自分と友人両方に10ドル支払われるというものです。そのようなシステムをいろいろ試して最適なプログラムにする必要があります。それは「25ドルにつき25ドル」かもしれませんし、「10ドルにつき10ドル」かもしれません。設定は自由です。そして最後に、友人がプロダクトの紹介リンクからサイトに入ってきたら、彼らが会員登録するまでのコンバージョンフローを最適にしておくことが非常に重要となります。別の方法でプロダクトを販売するとか、友人がこのプロダクトを勧めていますというようにアップセルを行うことも考えられます。これら全てを組み合わせて、様々な角度から検討し、優れた紹介プログラムを開発しなければなりません。

有料支出型グロース

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そして最後が支出型成長です。支出型成長の例をここにまとめてみました。

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他にもっとあるかと思いますが、代表的なものを挙げました。支出型成長とは、余剰資金がある場合(クレジットカードを持っている場合など)それ使ってユーザーを獲得することを指します。

正確に言うと、支出型成長とはリターンを得るためにリスクを取って資金を投入することです。シンプルな考え方は、「CLV(顧客生涯価値)はCAC以上であるか?」です。CACとは、customer acquisition costs(顧客獲得単価)の略です。例えば、様々な広告を12カ月間出し、顧客価値が300ドルであるとします。CPC(クリック単価)は広告ごとに異なります。広告をクリックしたユーザーには、サイトを訪れて会員登録をしてもらうか、何かを買ってもらわなければなりません。

これらの広告のコンバージョン率は異なります。CPCをコンバージョン率で割ったものがCACです。このように、広告の種類によって獲得単価が異なります。広告の優劣は、CLVからCACを引いた数値で判断します。その数値がゼロより上なら、収益を得ていることになります。つまり、CLVは同じでも、コンバージョン率が違っているために、一見良さそうな広告が、結局はそれほど良くなかったというケースも存在します。

これは、全顧客をまとめた顧客ベース全体で見ることもできますが、顧客セグメント別に検証する方が良いでしょう。例えばカントリー・ミュージックの市場なら、テネシー州ナッシュビルに住む人のCLVはチェコスロバキアに住む人のCLVよりずっと大きいでしょう(あくまでも推測ですが)。

広告を購入する際は、コホートの違いを理解し、それらを混同しないようにしましょう。投資回収と持続可能性に関する最後のポイントです。多くの場合、会社が収入以上の支出をし始めると、問題が発生し、ビジネスは悪化します。これはリスク許容度、つまりどれくらいのリスクを取る意思があるかに大きく関係しています。

12カ月後に300ドルに値する顧客を獲得するという前提でこれらのCLVを見てみましょう。最初の月における顧客の価値は100ドルですが、12カ月後には残り200ドルの価値をもたらします。しかし、最初の月にこの顧客を獲得するために200ドル払っているとすると、12カ月後の末日まで100ドルの赤字です。ここに非持続的成長が始まる可能性があるのです。12カ月後の末日に何らかの事情で顧客から200ドルを獲得できなければ、窮地に陥ります。つまり、最終的には資金不足になりかねません。これをクレジットカードで行っていれば、確実に破産宣告をすることになるでしょう。

繰り返しますと、投資回収期間が非常に重要です。安全なのは3カ月ですが、リスクを取ってもいいと思う場合は12カ月でも良いかもしれません。12カ月を越えるのは非常に危険です。

ピボットのコツ

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ピボットのコツについてお話ししましょう。Homejoyの現在のコンセプトは、私たちが考案し、実行し、顧客を獲得しようとした13番目のアイデアでした。「どうやって13個もアイデアを考えたのですか?次に進む決断はどのようにしたのですか?」という質問をよく受けます。

これに関して私ができるアドバイスは、成長の見込みがない、優れた機能を開発してユーザーと話をしても誰も定着しない、そのビジネスの経済的意義がない、という3つの基準で判断し、これらが揃ってしまったら次に進むことです。

最も注意を要するのは成長に関する基準かもしれません。なぜなら、創業者がアイデアにこだわり続けて3年後に突然成長を始めたという話が世の中に山ほどあるからです。よって、「ビジネスを成長させるための楽観的ながら現実的な方法」のような成長プランを立ち上げ時に準備しておくことが重要です。例えば、「1週目には1人、2週目には2人のユーザーを獲得し、そこから倍増させていく」というようなものです。

つまり、1週目にはその1人のユーザーを獲得するためにできる限りのことをします。そして2週目には、2人のユーザーを獲得するためにできる限りのことをします。ユーザーから求められるプロダクトがあれば、外を歩いて自分自身でユーザーを見つけることでこの成長曲線を楽に維持できるでしょう。週に100人のユーザーを集めるレベルまで達したら、有効な成長戦略が必要となるでしょう。プロダクト作りに全力を尽くし、懸命に働いたにもかかわらず、3~4週間連続で成長も後退もない場合は、ピボットを考えても良いタイミングでしょう。

全く新しいアイデアを考え出すということではないかもしれませんが、アーリーステージではスタートアップは成長するのが普通ですから、根本的に間違ったことをしているのかもしれません。これは楽観的な見通しで、私がHomejoyを立ち上げた時に設定し発表した成長曲線もこう(右肩上がりの曲線)でした。しかし、実際にはこう(右肩上がりの波線)でした。ですので、一時的な停滞状態にある時にあきらめてはいけません。2~3週間は待ってみるべきです。立ち止まらず懸命に働き続ける限り、最終的にはここに戻ってきてこのような長期的傾向が見えてくるでしょう。

Q&A

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では、質疑応答に入ります。

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Q. オンラインで受けた質問ですが、ユーザーが満足しているプロダクトを既に持っている場合、どうやって自社のプロダクトに乗り換えさせますか?

A. そのような場合、常にスイッチングコストが発生します。Homejoyの例でお話ししましょう。私たちは、それまでハウスクリーニングサービスを利用したことがなかった人を対象に新たな市場を作り出していました。ですから、彼らを初期ユーザーにすることはとても簡単でした。

一方、既に同様のサービスを使っている人は、その業者を信頼しているはずです。そうした人々を呼び込んで自社のサービスを利用してもらうことは、とても難しいかもしれません。他社ユーザーに自社プロダクトへ乗り換えてもらうには、自社のプロダクトやサービスが既に利用しているソリューションよりもはるかに優れている、または非常に差別化されていることを理解してもらえるタイミングを捉えることです。

例えば、定期的にハウスクリーニングサービスを受けている人が、パーティーをした翌日にクリーニングが必要だったとしましょう。いつものクリーニングサービスは翌日には来てくれません。Homejoyは、サービスを展開している地域のほとんどで翌日出張が可能なので、その人はHomejoyにハウスクリーニングをお願いしてくれるかもしれません。そして、サービスを使い始めれば、Homejoyの方が少しでもメリットがあると思ってもらえます。そこに大きな意義があります。現金や小切手で支払いをするのが面倒だと感じている人にとって、オンラインで全ての決済が可能なことは、より便利ですし、自分のスケジュールに応じて予約のキャンセルや変更が可能なことも利点です。

プロダクトを作っている人々は、「既存のソリューションに比べて50ものメリットがあります」というようなアピールをします。たとえそれらのメリットがスイッチングコストを上回っているとしても、そのことをユーザーに伝え、いくつものメリットから大きなメリットを感じてもらうのはとても難しいことです。自社プロダクトとその他を明確に差別化する1~2個のポイントでアピールする方が効果的です。

 

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: Lecture 4: Building Product, Talking to Users, and Growing (2014)

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