2030年の生活 (a16z)

本稿は2019年11月のa16zサミットでの私の発表を書き起こしたものです。YouTubeで動画版をご覧いただけます。

私の仕事は未来について考えることです。2030年代には生活がどのようになっているのかをずっと考えてきました。私たちは何を構築しなければいけないのでしょうか。私たちにはどのような社会的受容が必要なのでしょうか。私たちが必要とするのはどのような事業モデルでしょうか。

私の娘、Katieは、高校3年生です。ということは、2030年には20代後半で、30代半ばに向かっています。この発表で私は、2030年に彼女がどのような生活を送っているかを想像しました。

私たちが皆ほぼそうであるように、Katieにも1日の準備をするための朝の日課があります。通常はひとつのテクノロジー、トイレで始まります。さて、トイレはそれほど変わっていないように見えるかもしれませんが、2030年には、家の中の他のほとんどのものがそうであるように、スマートトイレになっていることでしょう。それはつまり、トイレがグルコースなどの尿の10の物質的特性を計測しているということです。症状が現れる前に健康の問題を探します。Katieはトイレを使い終わると、マラソンのトレーニングをします。ですから走る準備をしています。残念なことに、2030年代であろうと、マラソンのトレーニングのための薬を買うことはできません。ですから、彼女は何マイルも走らなければいけません。遺伝子操作で作られたスパイダーシルク製のシャツなど、運動用の装備を身につけます。センサーが縫い込まれており、体温、心電図、心拍数などの健康状態をとらえます。駆動装置もついており、手首に振動を与え、軽く指示を与えます—— 左折、右折、速度を落とせ。

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この世界では、益々多くの人々が都市部に集まっているため、私たちは空間をより賢く利用する必要があります。ですから、Katieがランニングに出ている間に、彼女の部屋は自動的に「睡眠モード」から「食事モード」に再設定されます。「仕事モード」や「パーティーモード」もあります。

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Katieがランニングから戻った時、朝食をとる準備ができています。この食事は彼女専用に調整されています。彼女の細菌叢だけでなく遺伝子構造も把握しているため、彼女の体が分解できる乳糖の量を正確に把握しています。それはまた、彼女のトレーニングの養生法に合わせて調整されています。マラソンのためにトレーニングをしている場合は、より多くのタンパク質が必要です。必要な炭水化物の量は、その日走った距離によって決まります。そして、確実に充分な量の酸素を血液で運ぶため、基準量の鉄分が必要です。従って、私たちは彼女の運動計画と健康状態を把握し、ロボットキッチンにそのデータを送って、そのキッチンが彼女専用の食事を作ります。キッチンは運搬ロボットを使って自動で彼女に食べ物を届けます。

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さて、彼女がタンパク質を摂取することのできる実におもしろいものが培養肉---- 私たちが生物反応器で育てようとしている肉---- と呼ばれるものです。朝食後にKatieはその日の服を選ぶ準備ができています。それはスマートミラーとの共同作業です。実際に、そのスマートミラーは彼女が2種類の装いを選択するのを手伝います。まず物理的世界の装い—— 彼女の髪、化粧、衣服、それに加えてバーチャルな世界の装いです。 Katieはバーチャル会議に参加する時間が増えているため、アバターの見た目が物理的世界の見た目と同じように重要になってきています。ミラーはアバターの見た目と物理的世界の見た目の両方をプレビューすることができ、彼女は2つで一組の選択肢をスワイプして自分の好みのものを選ぶことができます。

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彼女の装いの最後の一品は、追加の本物のコンタクトレンズです。2030年には、コンタクトレンズに小型のプロジェクターとカメラが作り込まれているでしょう。このコンタクトレンズは近くのコンピューターと同期しており、基本的機能として私たちに現実世界に重ねて顔を上げたままディスプレイを見せます。人がKatieの視界に入ってくると、その人物の名前と最後に連絡を取った時のことを思い出させてくれるでしょう。

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このようにしてKatieは今や準備万端となり、仕事に出て行く準備ができています。まず、彼女はスマートコーチに相談します。現在、もしCEOなら、または5つ星のゼネラルマネージャーなら、あるいは、CIAの長官なら、おそらくは参謀長がすべての会議についてまわり、力を発揮する手助けをします。2030年、Katieの参謀長はソフトウェアです。ソフトウェアは参加するすべての会議に耳を傾け、リアルタイムでフィードバックをくれます。例えば、彼女のスマートコーチは言うかもしれません。「あの状況では意見を言うのではなく、質問をした方がよかったでしょう。」スマートコーチはすべての通話を聞いており、自動で要処理事項を抽出し、その処理事項用に暦で日時枠をおさえることができます。

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そのような日時枠は、処理事項の内容や行動日時、重要度次第で予約することができます。スマートコーチは、Katieが朝型人間であることを知っています。朝型人間なら、集中力を使う分析的作業は午前中にして、創造性を必要とする仕事は午後にするのが最善策です。しかし、夜型人間ならば、実際に逆になります。スマートコーチはこのようなことをすべて知っており、すべての適切な時間をカレンダー上でおさえることができます。

Katieは今日、大変な一日を過ごしています。営業で仕事をし、彼らは重要な話の準備をしてきましたが、それは彼女が将来的にバーチャルリアリティでこなすものです。(そうです。2030年にも依然として営業陣はいます。) KatieはInfluencers, Inc.という会社で働いています。インフルエンサーがファンに販売する製品を作っています。ソーシャルメディアで人気者になった人の背後にあるサプライチェーンの全体と考えてください。

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チームは一通りの顧客調査と製品開発を行って準備してきました。現在のインフルエンサーに販売するカスタムされた衣服を作りたいなら、その作業はおそらく、夏の研修生やExcelのスプレッドシート、集中グループ、何ヶ月にもわたる対話によって大量にこなすことになるでしょう。2030年には、それがすべてソフトウェアで自動化され、数時間の作業になります。私たちはインフルエンサーのソーシャルメディアのフィードを取り入れ、彼女流の感覚を把握することができます。さらに、私たちは、ファンのソーシャルメディアのフィードを調整して、特定の人々の周辺で何が人気が高いかを推測することができます。そして、自動的に製作の候補となる衣服を作り出し、人間のデザイナーの目の前にその選択肢を並べて、デザイナーが最高のものを選んだ後に最終的な仕上げをします。結果として、Katieのチームは、インフルエンサーにファンがついた時に売り込むことのできる衣服を三組、準備することができます。

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Katieは自分のチームに営業の売り込みを練習してほしいと思っています。ですから、彼らはVRルームに向かいます。Katieのチームは国際的です。彼女はポートランドに住んでおり、彼女の服飾デザイナーはパリ、服飾メーカーはカンボジアのプノンペン、データ分析家はナイジェリアのラゴスです。けれどもVRルームはリアルタイムの翻訳をするので、チームメンバーは全員が母国語でお互いの話を聞くことになるでしょう。しかし、システムは文化的な微妙な違いを自動的に翻訳することはありませんから、チームはVRルームに集まり、文化的な理解を深めます。

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インフルエンサー自身は東京に住んでいますが、チームの誰ひとりとして文化の微妙な違いを理解できるほど日本に長く滞在した人はいません。ですから、チームがインフルエンサーの心理状態を推察できるよう、VRルームがインフルエンサーの発話の様々な声色と身振りをシミュレートします。彼女はハマっている?ハマっていない?適正な価格帯で話を進めている?彼女は今あるデザインを気に入っている?彼女が「はい」と言った時、それは「気に入ったから欲しい」という意味?それとも「はい、お話はわかりますが同意できません」という意味?KatieのチームはこれらすべてのことをVRシミュレーションで練習します。ですから、彼らは本物のインフルエンサーに会った時には、文化的理解の感覚がはるかによく身についています。

実際に話を進める段階が来たら、彼らはそれもVRで行います。そのようにして彼らは3Dで衣服を見て、サプライチェーンがどのように機能するかをプレビューし、その衣服を実際にどのように製造するのかを判断します。このようなことが起きている間、KatieのARコンタクトレンズは部屋にいる全員について従事度の計器を重ねることができます。誰かの従事度が極端に低い場合、Katieはその人物に話を始めさせ、はっきりと意見を言わせるべきだとわかっています。

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さて、インフルエンサーは衣服を大変気に入ったように見えますが、彼女には少なからず自分の意見があります。その意見を単に取り入れるのではなく、チームは即席の投票をするように提案します。現在、国際的な視聴者を対象にしてA/Bテストを設定しようとすると、何週間もかかるかもしれません。けれども、2030年には、ソフトウェアがこの過程を自動化しているため、その日の午後に完了します。データサイエンティストは以前に衣服を購入した人々とその人たちと同類の人々(つまり、衣服を買いそうな人々)を見つけます。Influencer’s, Inc.のソフトウェアはソーシャルメディア・アプリ内でA/Bテストを作り、提供して、彼女のファンに感想を寄せる機会を与えています。このようにして、インフルエンサーは何百名もの自分のファンに即時に連絡することができます。その見返りとして、ファンはその感想を寄せることで即時に支払いを受けます。彼らは支払いをBitcoinやLibraなどの暗号通貨で受けることもできれば、インフルエンサーのコインで受け取ることもできます。このインフルエンサーが時間の経過とともに人気が上がり、彼女のインフルエンサーコインの価値が時間の経過とともに上がる一方だとファンが確信しているなら、このことでファンはインフルエンサーの上昇人気のよい流れに乗る方法を手にします。これはスタートアップの従業員がエクイティを通してそのスタートアップのよい流れに乗る方法に似ています。

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私たちがこれをブロックチェーンで機能する暗号資産で行うので、世界的に一瞬にして実行することができます。ファンは感想を寄せるやいなやリワードを受け取ります。ひとたび感想が寄せられれば、ソフトウェアは自動で、まず販売契約を皮切りに、サプライチェーンの衣服の製作と関連するすべての書類を更新します。販売契約はインフルエンサーのもとに届き、彼女は即席の投票の結果を目の当たりにし、また、多数の自分のファンが自分の好みに同意していることを目にして胸を踊らせます。彼女は販売契約書に電子署名をします。

その電子署名が、サプライチェーンによって構築され、流通しているスマートコントラクトの連鎖反応を解除します。生地のサプライヤーからボタンのサプライヤー、染色のサプライヤーまで、これらの衣服の製作にひと役買おうとしている誰もがスマートコントラクトを手にするでしょう。そのコントラクトには参加の条件が定めてあります。これらのスマートコントラクトのすべてが基本的にはソフトウェアで、私たちが何世紀にもわたって用いてきた手書きやタイプライター、ワープロによる書類に代わり、サプライチェーンをひとつにまとめています。ひとたび注文が入り始めると、サプライチェーンはスマートコントラクトの条件に従って納品するやいなや支払いを受けます(請求書を送り、人が承認し、通貨の両替を待ち、現地通貨での決済が届くまでに何週間、何ヶ月も待つのではありません)。そして、彼らもまた、支払いの受け取りにBitcoinやインフルエンサーのコインを選択することができます。このようにして、サプライチェーンもインフルエンサーの人気の上昇にひと役買うことができ、高まる彼女の人気のよい流れを体験することができます。

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KatieはInfluencers, Inc.の後方業務にあって、新規のインフルエンサー契約が成立したことに大喜びしています。彼女は自分の大好きなアクティビティであるドローンレースで祝福しようとしています。大規模小売店のあった場所にできたドローンレース競技場に向かいます。

この新しい娯楽スタイルでは、大衆の参加がゲーム自体に組み込まれています。ファンが自分の好きなパイロットに声援を送り、その歓声の大きさや構成で、ドローンのパイロットが障害物リングにドローンを飛行させる時に2倍または3倍のボーナスポイントを獲得するかどうかが決まります。大衆の参加がゲーム展開に影響を与えます。Katieのパイロット、Wonder Womanは、瞬く間にゴールします。彼女は目覚しい結果を残すので、Katieが自分の電話でドローンレースのゲームにログインした時には、ドローンは新しい能力を獲得しています。

ドローンレースの終了後、KatieはBionic Suit Storeという店に立ち寄ります。彼女は週末に友人の引越しを手伝うので、大きくて重い荷物を運ぶのに役立つような外骨格を装備する必要があります。店に立ち寄り、調整し、操作しやすいようにします。準備ができれば、そのスーツを土曜日の朝、引越しの時に友人の家に届くように手続きします。

そしてKatieは帰宅できる状態になり、自動ポッドを呼びます。彼女の住んでいる街、ポートランドでは最近、ライトレールシステムが自動で呼び出される公共輸送システムに切り替わりました。まさにLyftのように、乗り物を呼ぶことができます。自動ポッドは自分だけの1〜2人乗りのポッドで、幅は普通車の半分程度です。計算すれば、このようなやり方で公共の移動手段を分割するのがすばらしいアイデアであることがわかります。ちょうどインターネットのデータのパケット化と同じように。混雑時でさえ、A地点からB地点まで、このような自分専用のポッドで鉄道よりも多くの人々を実際に移動させることができます。

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もうKatieは家に帰っており、少し眠る準備ができています。就寝時間の前に、買い物の用事がひとつあり、また、二つの重要なつながりに時間を割きます。Katieは引越し後にパーティーを開く申し出をしたので、家具をレンタルする必要があります。特に、週末にカクテルバーを設置してもらわなければいけません。自分のARの買い物アプリを起動し、何が利用できるのかを確認します。ARのコンタクトレンズがその家具の正確な外観を見せてくれるので、求めているものと合致するかどうか、また、見た目や雰囲気が好きかどうかがわかります。彼女はいくつかの選択肢をスクロールし、パーティー用にひとつを選びます。

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そして、時間を割くべき重要なつながりが二つあります。ひとつ目は飼い猫です。悲しいことに、お腹に問題を抱えています。KatieのARコンタクトレンズは猫ちゃんを捉えるやいなや、10日間の抗生物質投与期間のうちの5日目であることをKatieに思い起こさせます。ARレンズは猫の餌に抗生物質を混ぜ込むことを思い出させます。 この猫はCRISPRで作られたペットなので、暗闇で光ります。暗闇で光らない猫は隠れるとわからなくなってしまうので、これはすばらしいことです。そう、緑色蛍光タンパク質と呼ばれるタンパク質を作るクラゲの遺伝子がこの猫には組み込まれています。もう姿を隠すことはありません。

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もうひとつ、重要なつながり。彼女の祖父はサンフランシスコに住んでいます—— 彼は自立した生活が大好きです。けれども、年齢とともに、カウチから起き上がったり、箱を拾うためにかがんだりするなどの様々なことを支障なく行うことができなくなってきました。そこで彼は最近、タツノオトシゴに着想を得たロボットの尾を手に入れました。その尾は彼が何をしようとしているかをわかっており、起き上がったり、階段を上り下りしたり、箱を拾ったり、ソファから立ち上がったりしやすいように自動でバランスをとります。ロボットの尾は数週間ごとに、それぞれの脊椎の錘を交換するなどの調整が必要です。Katieは彼のためにそれをすることを申し出ています。

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現在、私たちの多くは、親のラップトップにログインしたり、離れた場所のパソコンからGmailの問題の解決を手伝ったりして、電子的に親を支援しています。しかし、2030年には、Katieはそれを遠隔ロボットアームを用いて行っています。彼女の祖父の家の台所にある台所ロボットには遠隔操作モードがあるので、Katieは「ダイヤルイン」してアーム操作ができます。

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寝る前に最後にひとつ、することがあります。Katieは信じられないような鮮やかな夢を見てきました。その夢の中にはすばらしい装いをした人々が登場します。彼女はその夢の詳細を覚えておいて、同僚と共有することができます。眠る直前にヘッドバンドを装着します。友人と共有できるように、そのバンドが夢を記録するでしょう。

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***

それでは私たちはここまで何を確認してきたのでしょうか。私たちは自分用に調整された食べ物、より豊富なデータセット、感想が活かされるサイクルの短縮化によって、よりよい健康が得られることを知りました。サプライチェーンががらりと変わり、大量のファンを基盤として、人々が実際に自分自身のライフスタイル・ブランドを作ることができることを知りました。容易に瞬時の協力関係ができあがり、現在よりもはるかに所有権の利益が広がっていることを知りました。初めて触れる文化への深い共感に加え、私たちに超越的な力を与える技術について知りました。さらに、ドローンレースの観戦に出かけたり、暗闇で光る猫を飼うなど、一連の新しい経験を確認しました。

未来の予測は若干不安な試みであることはわかっています。私が言及した具体的な製品の詳細のいくつかは間違っていたかもしれませんが、それらの製品の方向性にはかなり自信があります。その理由は、スタートアップにしろ、企業のイノベーションにしろ、私が現在目にしている多くの仕事がその方向を示しているからです。

では---- 私たちはどのようにしてこの2030年の未来像にたどり着くのでしょうか。どのようにしてそれを構築するのでしょうか。どのようなテクノロジーを構築する必要があるのでしょうか。どのような事業モデルを構築する必要があるのでしょうか。どのようなプライバシーフレームワークを作らなければいけないのでしょうか。Kaiteの想像上の一日の最初に戻ってみましょう。

まず手始めに、スマートトイレが長期的健康データに向けた大きなトレンドの一部です。これはしゃれた言い方です—— 長期的な健康データを知るために安価なセンサーを使い、そのデータを使って、腎臓結石や糖尿病などの健康上の影響を予測しましょう。では、私たちにはどのようなデータがあるのでしょうか。尿の変化を追ったデータがあります。私たちには、長期的に声の変化を聞き取るスマートスピーカーがあります。セルフィーという形で皆さんの見た目を把握します。このように、私たちには多くのデータがあります。私たちにはその他に、このデータを回収し、健康の変化を予測することのできるアルゴリズムがあります。私たちはセルフィーを使って皮膚癌を予測することができ、声の変化を基にして鬱病や若年性アルツハイマーを予測することができます。

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これら二つを結びつけるために欠けているのは、事業モデル、プライバシーモデル、倫理的枠組みです。Instagramやスマートミラーを使っていて、それが警告を発し、「これらの写真を全部、担当医師に送りましょうか?」と言うのを想像してみてください。そうしたいかどうか、私にはよくわかりません。保険会社にデータを送る方がいいですか? これら二つのことを結びつけるのがどのような事業モデルであるかは明確ではありません。

設計するのにこれがいかに扱いづらいものであるかを示す極端な例を紹介させてください。Katieはいつも大親友と一緒にセルフィーを撮っています—— Katieのセルフィーに基づいて彼女の保険会社が皮膚癌発見サービスの支払いをすると想像してみてください。そして、彼女の大親友の保険会社はその支払いをしないとします。アルゴリズムが彼女の大親友に潜在的な悪性黒色腫を発見したらどうなるでしょうか。私たちは誰にとっても最高の健康転帰をもたらすために、どのように適切な事業モデル、プライバシーフレームワーク、倫理的枠組みを設計するのでしょうか。それは厄介なものになります。

次に、私たちはどのようにスパイダーシルクにたどり着くのでしょうか。これはすばらしい生物素材です。どこをどうとっても綿より軽く、ケルヴァーより強く、石油製ではなく、自然に生分解される素材です。ではなぜ、私たちは現在、スパイダーシルク製のシャツを着ていないのでしょうか。簡単に答えると高額だからです。蜘蛛自体はそれほど使用に耐え得る絹を作りません。蜘蛛を飼育することはできません。充分な数の蜘蛛を一緒に飼うと、彼らは共食いを始めます。ですから—— 生体工学が救いです。最近発見したCRISPRのような技術を使って、私たちはスパイダーシルクのタンパク質をコード化するDNAを複写し、貼り付け、大腸菌内に入れることができます。そうすれば、大腸菌を、私たちが望むものを作る工場にすることができます。

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ごく最近まで、このアプローチの問題はDNA配列でした。スパイダーシルクのタンパク質コードは非常に長く、反復しています。ですから、長くて反復しているその配列を、単に複写して貼り付け、大腸菌に入れるだけだと、大腸菌が配列を分解するため、期待するタンパク質はできません。最近、St. LouisのWashington UniversityのあるチームがDNAの配列を短くし、なおかつ、大腸菌が拒絶しないように再コード化する方法を考え出しました。彼らは今では、スパイダーシルクのタンパク質を作る大腸菌を持っています。他の成分との組み合わせでスパイダーシルクの布地となるものです。これは私たちが現在、生体工学で行なっていることを完璧に表しています。私たちはDNAを複写して貼り付けるというような基本的な技術を発見しました。そして現在、さらに高度な工学設計原理に取り組んでいます。それは自然界ではあり得ない費用効果を可能にしています。

さて、私たちはロボット工学の未来をどのように迎えるのでしょうか。テクノロジーの大改革は必要ありません—— 欲しいなら、今、Ori Livingからそれを買うことができます。けれども、それは、確実に課題を説明するものとなっています。私たちの自宅をデータセンターに変える課題です。私は、私たちのほとんどが、社内のこのソフトウェアの艦隊と設備を管理して、データセンターのエンジニアとして二つ目の常勤の仕事を持つことは望んでいないと推測しています。私たちはユーザビリティ設計を躍進させることが必要になります。その設計が社内のすべてのデバイス向けのソフトウェア更新体験を簡単にします。すべての電球、すべてのプラグ、すべてのシャツ。私たちは現在、決してそのような段階にありません。おそらく、皆さんは、更新したいと思う10のデバイスを持っているでしょう。私たちが社内に何百ものデバイスを持っている場合は、それではうまくいかないでしょう。

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私たちはどのようにしてカスタマイズされた食べ物を作るのでしょうか。とりわけ、どのようにしてこのような食事のタンパク質を作ることができるようになるのでしょうか。興味をそそるひとつの可能性は、人工肉、合成肉、屠殺のない肉と呼ばれているものです。ここに基本的なアイデアがあります---- 私たちは豚や牛から組織の標本を採取し、幹細胞を取り出し、それを培地、生物反応器に入れます。細胞は、健全な環境にあれば増殖します。それが可能ならば、動物を育て、屠殺することなく、望む肉を作ることのできる可能性があります。このように、つまり、農場ではなく、生物反応器で肉を作ることで、いくつかの利点があります。まずひとつに、絶対にその方が環境にはよいということです。(地球温暖化に関してほとんど知られていない事実—— すべての温室効果ガスの17%は牛のゲップや放屁が原因です。)

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明らかにそれは動物にとってよいことです。そして、まだ結論は出ていませんが、私たちは私たちにとってもよいことだと推測しています。屠殺場から自宅の冷蔵庫までのコールドチェーンを管理するよりも、このサプライチェーンを清潔に保つ方が簡単である可能性があります。

これができれば、それを使って何をすべきでしょうか。私たちはおそらく、乱獲されている本鮪など、現在最も危機的状況にある種から始めるべきです。漁をするのではなく、作ることに可能性があります。しかし、そこで歩みを止めるべきではありません。私たちは自分たちが知っている動物にとらわれていません。基本的な生物設計原理から、私たちは、栄養価が高く、美味しい肉で、これまで存在しなかった動物のものを作ることができました。それが生体工学の可能性です。

次は---- スマートコントラクトです。VRのサプライチェーンが既にプロジェクターとカメラを極めて小さな構成要素にまで縮小するという、すばらしい仕事を成し遂げたことが判明しています。となれば問うべきは—— 私たちはそれをもっと小さくできるでしょうか。コンタクトレンズの素材のような透明で柔軟性のある素材に埋め込むことができるくらいに縮小することはできるでしょうか。また、小さくて、コンタクトレンズに埋め込まれていたとしても、私たちがフルカラーで文字や画像を見ることができるくらいに解像度を高くできるでしょうか。それができるとすれば、どのようにして電力やデータを入れるのでしょうか。信じるかどうかは別として、既に膨大な数の企業がこれらの問題の一つひとつに取り組んでいます。

Mojo Visionという名のシリコンバレーのスタートアップがこの難問の一部を証明しています。高解像度の小型プロジェクターです。マイクロLEDを使用しており、幅は0.5ミリです。その画素密度は14,000 ppiです。最新のiPhoneの記録は500弱です。ということは、この小型プロジェクターは、幅が0.5ミリで、画素密度はiPhoneの30〜40倍ということです。これは、てんとう虫の黒い模様のひとつの10分の1程度です。しかし、充分に小さくなり、画素密度も充分に高くなった今、依然として他に問題があります。私たちはこれをコンタクトレンズに組み込むことはできるでしょうか。電力とデータを入れることはできるでしょうか。これらのコンポーネントをすべてコンタクトレンズにまとめるために、途方もないほどのエンジニアリングが注がれています。

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私たちはどのようにしてスマートコーチを構築するのでしょうか。Alexaが現在提供していないもので、私たちがスマートコーチに求めているものについて考るなら、それは私たちをよりよく理解し、より高レベルな質問に答える能力です。既にそのような質問に答えることができており、3ポンド程度の重さで消費電力が20ワット程度の既存のアナログのデバイスがあります。そして、現代のコンピューターに比べればはるかに条件が不利である事実にもかかわらず、それはそのすべての質問に答えることができます。そのコンポーネントは何百倍も処理が遅く、そのメモリシステムは悲惨です。そのデバイスとは私たちの脳です。

スマートコーチに到達するために、あり得ることとして、私たちはより明確に脳のようなものを作ることができます。また、私たちが現在の軌道でそれを達成することも確かにあり得ます。よりよい機械学習のアルゴリズムのために、より多くのデータを用いるものです。けれども、ハードウェアについて言えば、ニューロモーフィックチップという名の潜在的な近道があります。それは明らかに脳をモデルとしています—— ニューロン同士がどのようにつながっているか、時間の経過とともにどのように重量が刺激に基づいて調整されるか。論理ゲートや0、1を使う代わりに、ニューロモーフィックチップには時間の経過で異なる強度になるニューロンのつながりがあります。ハードウェアの観点で見れば、私たちはさらに脳に近いコンピューターを構築することができるかもしれません。

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ソフトウェアの側の話で言えば、脳から学ぶこともたくさんあります---- 幼く、比較的に未発達な10代の脳であってもです。 例えば、幼児で行われる認知心理学の実験があります。実験では、幼児の目の前に衣服をかけ、洗濯ばさみを落とします。

幼児は洗濯ばさみに手を伸ばし、実験者に返します。事前の訓練はしておらず、このような経験をしたことがないにもかかわらず、幼児は実験者が問題を解決するために洗濯ばさみを必要とするだろうと推し量ったのです。それだけでなく、幼児は、リワードがもらえそうでもないのに、助けようと決意しています。勝つための人間性です。

この幼児の基本のソフトウェアでは、私たちが解析し、スマートコーチに組み込みたいと思っている非常に多くのことが進行しています。心理学者が心の理論と呼ぶもの、言い換えれば、他の人たちの望み、目標、感情の予測を成立させる能力。何千もの類似する例を確認することなく、タスクをサブタスクに分ける能力。そして、三つ目に、おそらく最も重要なものとして、実際に助けになる場合に役立とうとする内蔵された欲望。この実験には魅力的なバリエーションがあります。実験者は洗濯ばさみを投げ落とすだけで、それに視線を向けません。このような状況でほとんどの幼児が何をするかわかりますか?何もしません。彼らは洗濯ばさみを拾いません。「助けが必要」な場合と「助けは不要」な場合の違いを何らかの理由を察するからです。

「助けが必要」な場合と「助けは不要」な場合の違いを察することのできないスマートスピーカーが突然会話の邪魔をするような部屋にいたことがあるなら、これがどれほど価値のあることかがわかります。

次の2030年の技術は自動ポッドです。自動運転車向けに構築が必要なものの下部機能なので、このテクノロジーのほとんどが既に既存のものです。自動ポッドには専用通行権があるので、異常な歩行者やマナーの悪い運転手に対処する必要がありません。現在のライトレールと同じように、自動ポッドには専用通行権があります。しかし、私たちに必要なものがあります。それは多くの人々に賛成してもらうことでしょう。規制官、市長、地域の交通計画機関、州および連邦の規制官のすべてにこのテクノロジーに賛成してもらう必要があります。

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私たちは2030年にも依然としてたくさんの買い物をしています。もちろん、ほとんどがオンラインです。私たちに必要なもののは、ポスト量子暗号です。皆さんは、量子超越性を達成した量子コンピューターがあるというGoogleの最近の発表を読んだかもしれません。換言すれば、この量子コンピューターは、通常のコンピューターが10,000年かかるかもしれない作業をこなすことができます。人々が量子コンピューターに関してすっきりしないことのひとつは、暗号化キーに総当たり攻撃をすることです。暗号化キーは、現在、私たちのメッセージやクレジットカード番号のすべてを保護しています。ですから、私たちは、暗号化アルゴリズムへの総当たり攻撃に耐え得るであろう新たなアルゴリズムを探しています。

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よい知らせは、世界中の暗号使用者のコミュニティがこの問題に懸命に取り組んできたことです。そして、NIST(National Institute of Standards and Technologies)は実際に、私たちが標準的な名前のポスト量子暗号にたどり着くまで、Survivorのような過程を組織して候補となるすべてのアルゴリズムを特定し、それらを排除しました。彼らは2015年からこの過程を実行し続け、私たちは既にこの過程の2ラウンド目に入っています。59の候補から始め、26になりました。希望は2020年代半ばのどこかの時点で規格化することです。

最後にお話したいテクノロジーは、これまで話題にしてきたすべての製品の中でも、最も思弁的で可能性として一番遠い存在であることが明白なものです---- 夢を記録する装置です。しかし、私は、私たちが目標に向かって進んでいることを示すようなすばらしい研究を二つ、共有したいと思います。目の前に進むべき道があります。夢を記録するつもりなら、脳の信号、脳の電気的活動を解釈し、それを音や動画に変える必要があります。それぞれを順番に見てみましょう。

Nima Mesgaraniが率いるColumbia Universityの研究者たちは、文字通り、脳波を発話に変換しました。彼らはすでに脳の手術が決まっている癲癇患者を探しました。彼らは探り針を患者の脳に挿入して脳の活動をとらえ、人が話をしているところを聞かせました。その後、彼らは結果の脳波を音声シンセサイザーを訓練するために使いました—— 現在のAlexaの中のものと全く同じです。それは皆さんの脳波のオーディオストリームです。

さて、私たちは動画で同じことができるでしょうか。日本の研究者たちがまさにこれを行い、論文を発表しました。癲癇患者の脳に探り針を挿入する代わりに、彼らはfMRI内にいる人の脳をスキャンし、大量の画像を見せました。それは絵、プラス記号、アルファベットの文字かもしれません。彼らは脳の活動を記録した後に、機械学習において現在一般的になっている技術を使いました。画像ジェネレーターを構築するための深層生成ネットワークと呼ばれるものです。現在のディープフェイクの背後にあるテクノロジーと同じ種類のものです。結果として出てくる画像は印象派のように見えるものです。それでも、私たちがここまで到達したことはすばらしいことです。それは、文字通り、夢を記録することができるように、いつか私たちが脳を解釈することができるかもしれないことを示唆しています。

f:id:foundx_caster:20200226015637p:plainこのように有利な観点で考えれば、私たちはそのようなテクノロジーをまだ構築していないとしても、その道中におり、未来はすばらしいものです。私は個人向けの食事を受け入れる準備ができています。今よりも健康な自分を受け入れる準備ができています。今よりも健全な惑星を受け入れる準備ができています。スマートコーチを受け入れる準備ができています。ARコンタクトレンズを受け入れる準備ができています。自動ポッドに乗る準備ができています。強大な力の機能を受け入れる準備ができています。私はこの発表で、皆さんがこれからの将来についてますます期待に胸を膨らませるように願っています。

 

著者紹介

Frank Chen

 

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: Life in 2030 (2019)

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