コンシューマ向けテックの4つのトレンド (a16z)


これは私が2019年11月のa16z Summitで発表したプレゼンテーションの文書版です。動画版はYouTubeで見れます。

日常生活にテクノロジーがこれほどまでに普及すれば、こういう疑問を抱きがちです:消費者向け技術のイノベーションは終わりを迎えたのだろうか?私はまだ始まりの段階だと思います。今後さらなる変化が起きるでしょう。私は特に4つのトレンドに期待しています:

全てがスーパーアプリになる
企業は共同でよりユニークな製品とサービスを顧客に提供するようになり、その過程で新しい収益源を発見するでしょう。

全てがコマース化する
近い将来、動画やソーシャルメディアアプリ、メッセージングアプリなど、誰もがエンターテインメントアプリで買い物をするようになります。

物理世界へのテクノロジーの進出が進む
私たちのデジタルアイデンティティは、物理的なアイデンティティと結び付けられるようになります。

Earshareが新しいマインドシェアに
企業はオーディオの消費量やポッドキャストの爆発的増加を活用するようになるでしょう。

全てがスーパーアプリになる

eMarketerによると、私たちは2019年、テレビより携帯電話に使った時間の方が長かったそうです:平均3時間43分の前者と比較して、後者は3時間35分でした。

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問題なのは、平均的な人はそのうち3時間近くをアプリに使っているという点です。残りのわずか26分間をモバイルブラウザに使っています。よって、インターネットのロングテールは携帯電話には移行してません。

もうひとつの問題は、人々はアプリをさほどダウンロードしていないという点です。事実、平均的な人が1ヶ月でダウンロードするアプリの数は0です。これが私たち全員に意味するところとは?問題を対処するには?その答えがスーパーアプリです。

これは、中国で人気の食品配達サービスであるMeituanのホームタブです。Meituanは2013年、他にどのような収益源を創出できるかについて考え始めました。そして同社はホテルの部屋を予約できるボタンを上部に追加しました。Meituanは今日、中国のホテル予約の50パーセント近くを占めるようになりました。先行していたビッグプレイヤーのCtripは、22パーセントまで下落しています。

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Meituanでは他にも、観光スポットやナイトライフ、映画チケット、バイクシェアリングなど、様々なものを見つけることができます。同社は高頻度でローマージンな事業である食品配達に、それより低頻度で高マージンな事業を、低い(またはゼロの)顧客獲得費用で追加しました。Meituanは、自社の流通網と顧客に関する知識を活用することで、他にもそのマインドシェアからどのような収益源を創出できるかについて思索しています。

Meituanはほんの一例です。中国には、WeChatやAlipayもあります。東南アジアには、移動と食品配達だけでなく、マッサージ予約や引っ越しサービスの検索などにも使えるGojekがあります。Gojekを使って携帯電話料金の支払いも行えます。米国では、Uberが配車会社から私たちの日常生活のオペレーティングシステムへと変化しています。このように、スーパーアプリは生活に浸透しており、アメリカ合衆国のインターネットの巨人たちは既にそれを手に入れています。このトレンドは、東洋から西洋へ向けて伝播しています。

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こうした使用頻度の高いアプリを幸運にも抱えていたとして、顧客にはどのような新しい収益源を導入することができるのでしょうか?そうしたアプリを抱えていなければ、他にどのような大規模な既存アプリと提携できるでしょうか?あなたが持っているどのようなユニークな顧客知識を活用し、ビッグプレイヤーたちに付加価値をもたらすことができるでしょうか?

隠れたデータ資産を見つける方法の一例を紹介します。音楽ストリーミングサービスのSpotifyは、私の音楽の興味についてよく知っています。私がどのアーティストやポッドキャストが好きなのかを知っています。このデータは他にどのような方法で使えるでしょうか?Spotifyはそのデータを使って、アーティストやコンサートプロモーターがどの街でツアーを開催すべきかを導き出すことができます。データを戦略策定のための情報として活用することができます。(「ニューヨークでもう一泊した方がいいか、それともSTAPLES Centerで一泊した方が良いか」)。実際、Spotifyはアーティストと手を組み、街ごとにプレイリストをパーソナライズする方法を教えることだってできるはずです。これらはSpotifyが隠されたデータ資産を発見することで解除できる新しい収益源です。

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音楽ストリーミングアプリがコンサートやライブプロモーションにこれほど大きな影響を与えるとは誰が想像したでしょうか?同様に、ショートビデオアプリがあらゆる種類のコマースを支えることができると誰が想像したでしょうか?

全てがコマース化する

2つ目の大きなトレンドは、全てがコマース関連になるというものです。私たちはアプリで長い時間を過ごします:動画アプリ、コミュニケーションアプリ、ソーシャルメディアアプリなど。これらのアプリは実際、私たちが実際に観たいと思うコマーシャルを提供するのに最適な流通手段です。中国のライブストリーミングアプリやショートビデオアプリを通じて、その意味を説明します。左側のコマーシャルでは、農民にオレンジの果樹園に連れて行かれ、目の前でオレンジを切ってくれます。これほど素晴らしい果物のコマーシャルを見たことがありません。

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夜中にベッドに横たわり、動画フィードをスクロールしているときに、このようなコマーシャルを見たらどうなるでしょうか。ヨダレが出始めて、箱入りのオレンジをぜひ買いたいと思うでしょう。このプラットフォームならそれができます。画面を何度かタップするだけで、箱入りの美味しいオレンジを、玄関まで配送してもらえます。ショートビデオアプリがどのようにアメリカ合衆国でマネタイズするのか疑問な方には、モデルがひとつあります。他の国では既に実現していることです。

右側にはもう一つの例があります。漁師がロブスターを捕らえ、それをオンラインで注文できるようになっています。動画をクリックすると、ロブスターの料理法を説明するレシピを探すこともできます。米国では、「農場から食卓まで」のコンセプトが曖昧です。これこそまさに、農場から食卓までのあるべき姿です。コンテクストの中に存在する本格さです。

物理世界へのテクノロジーの進出が進む

私が話したかった3つ目のトレンドは、今後テクノロジーがどのように物理世界への進出を進めるかです。中国では、既に200以上の空港がそうした自動発券機を試験運用しています。顔認証を用いて、行き先のゲートやそこまでの道順を正確に教えてくれます。

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教室でも、出席を取るために顔認証技術が活用されています。クラスメートに頼んで代筆してもらう誤魔化しは効かなくなりました。

これらの中には不気味な技術もあるかもしれません。するとこう疑問に思うでしょう:顔認証は米国でも一大事になるのでしょうか?既になっています。Delta Airlinesは実際、一部の国際空港で、チェックインと搭乗のための顔認証を試験運用しています。利用者の72パーセントは以前の標準的な方法を好んでいます。

ニューヨークの一部の私立学校は、キャンパス内に銃や不審者が侵入しないよう、顔認証を用いて検査しています。好むと好まざるとに関わらず、顔認証は既に試行錯誤が行われています。

物理世界に進出するテクノロジーのもう一つの例を挙げます。英国に拠点を置くある企業が、あらゆる種類の広告や事前収録動画を、映画やテレビ番組にオーバーレイ表示するため、Tencentと2年間の独占的販売店契約を結びました。70〜80年代のお気に入りの映画を観ていて、あなたが現代に購入しているブランドが披露される状況を想像できますでしょうか?このテクノロジーは既に実現済みで、商用利用されています。

Earshareが新しいマインドシェアに

最後のトレンドは私のお気に入りの一つです:これまでになくポッドキャストを聞く機会が増えました。オーディオの消費量が爆発的に増加しています。それを後押ししているのはスマートフォンだけではありません。ハードウェアや改善した制作ツール、スキマ時間もそうです。

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移動中でもポッドキャストを聴けるワイヤレスイヤホンが登場しました。コネクテッドカーが登場しました。自宅にはスマートスピーカーがあります。新しい制作ツールにより、誰でも寝室で自分のポッドキャストシリーズを録音して編集できるようになりました。

スキマ時間ができるという、素晴らしい魔法のような体験も、当たり前になりました。朝食を作りながらでも、子供の世話をしながらでも、運転しながらでもポッドキャストを聴くことができます。以前はある意味マインドレスだった時間を使い、オーディオコンテンツを味わい消費することが可能になりました。

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実際考えてみれば、オーディオはマーケターにとって夢のような存在です。文字通り、虜になった聴き手の頭の中に入り込むことができます。オーディオが非常に効果の大きい低コスト顧客獲得戦略であることが、既に調査で明らかになっています。

では、オーディオとポッドキャストのこうした消費は私たちに何を意味するのでしょうか?10年前、私たちはこう考え始めました。「モバイルファースト製品の姿とは?」。私たちはカメラとGPSの活用に着手し、それによってInstagramやLyftといった素晴らしい会社に出会うことができました。今私たちはこう考え始めなければなりません。「オーディオファーストコンテンツの姿とは?」

サウンド効果であれ、様々なナレーション音声であれ、あらゆる種類の魅力的な瞬間を取り入れることができるものです。その会社は、私たちが今年出資したシード企業、Knowableです:

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同社は、様々な話題に関する、プレミアムなキュレーション済みのオーディオコースを提供しています。スタートアップの立ち上げ方や、ポッドキャストの始め方、自信を持って話す方法、睡眠を改善する方法、最初の自宅を買う方法など、課金してでも聴きたい内容となっています。

オーディオファーストであるため、当然サウンド効果がありますし、様々な音声のナレーションもあります。しかし、同社のコースは更に一歩先に進みます。オーディオファーストの考え方を、スーパーアプリの考え方と組み合わせています。「スタートアップの立ち上げ方」と題されたクラスを購入したのであれば、事業を本気で始めたいと考えているのではないでしょうか。そこで、彼らは既にAWSと手を結び、コースの購入者全てに対し、AWSのクレジット1000ドル分を無料で提供しています。

他にも、「睡眠を改善する方法」や「最初の自宅を買う方法」といったトピックを提供することで得られる可能性のある、パートナーやメンバーズのメリットには様々なものが考えられます。こうしてオーディオファーストの考え方とスーパーアプリの考え方を組み合わせるのは、非常に強力な手段です。

私が消費者向け技術の未来にとても期待しているのはこれが理由です。企業は、自らの流通網を活用することで、ビジネスパートナーを増やし、新しい収益源を作り出すことができることを理解し始めています。動画アプリやソーシャルメディアアプリ、メッセージングアプリなどへコマースの進出が進むでしょう。シームレスに買い物できるようになり、コマーシャルがさらに改善されるでしょう。オーディオファーストの世界について考え始めるようになるでしょう。物理世界へのテクノロジーやソフトウェアの浸透が進むでしょう。力を合わせてスーパーアプリを作らなければならないことを、皆が理解するようになるでしょう。

この考え方の意味を具体的に説明する最後の例え話をします。結婚するとしましょう。ウェディングプランナーが決まっていないので、結婚式場に行って予約します。結婚式場に行けば、おそらくフローリストや写真家、仕出し業者、ウェディングプランナーをお勧めしてくれるでしょう。なぜなら、オフラインの世界は製品中心の方法ではなく、常に顧客中心で考える方法を知っているからです。

私たちもそれと同じ考え方を身に付ける必要があります:誰が顧客で、例え中心的なサービスとは関係がなくとも、他にどのようなサービスが顧客に必要なのだろうか?私たちは隠れたデータ資産を解き明かし、新しい収益源についてブレインストーミングを始めなければなりません。また、手を取り合って、目の前にあるこの素晴らしいチャンスを掴む必要があります。

 

著者紹介

Connie Chan

Connie ChanはAndreessen Horowitzのジェネラルパートナーで、消費者向けテクノロジーへの投資に注力しており、現在KoBoldの役員を務めています。Connieは2011年に入社し、投資チームのディールパートナーとして働き始めました。この役職では、マイクロモビリティ企業であるLimeを含む多数のコンシューマ向けディールのソーシングとディリジェンスに取り組みました。彼女はまた、同社のアジアネットワークの創設を主導し、シリコンバレーとアジアの初期段階の企業間の主要なパイプでした。

Andreessen Horowitzに入社する前、ConnieはHPで働き、中国でのwebOSの取り組みを指揮していました。彼女はElevation Partnersのプライベートエクイティ投資家としてキャリアをスタートさせ、メディアとエンターテイメントに投資しました。彼女は、LinkedIn NextWave Top Professional 35 and Under、WiredのNext 20 Tech Visionary、Fast Company's Most Creative People 2017に指名され、WeChatに関する執筆でシドニー賞を受賞し、世界経済フォーラムの若手グローバルリーダーとなりました。コニーは彼女の経済学の学士号とマネジメントサイエンスとエンジニアリングに関する修士号をスタンフォード大学から受け取っています。

 

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: Four Trends in Consumer Tech (2020)

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