創業者になることを考えている有能な技術者と話をしてみると、大抵の場合、その1番の障害になっているのは、彼らがアイデアを持っていないことです。彼らはキャリア形成期のある時点で、優れたアイデアを持って創業したあらゆる素晴らしいスタートアップについて学んでいます。もしアイデアが優れていなければ(それを判断するのは、友人や両親、その他のスタートアップ経験に乏しい人たちであることが多いですが)、そのスタートアップは失敗するでしょう。
私の最初のスタートアップのアイデア(実際にはJustin Kanのアイデア)は、テレビのライブ リアリティショーを作ることでした。人々が頭にカメラを付けて歩き回り、24時間自らの生活を生中継する番組です。この会社は最終的にTwitch.tvとなり、約10億ドルでAmazonに売却されました(Emmett Shear、Kevin Lin、そして優秀な従業員のみなさんの素晴らしい仕事のおかげです)。Airbnb創業時のアイデアは、会議に出席したい時に現地のホテルに空きがないことがある、というものでした。それ故に、エアベッドで寝られる場所を探すには向いてないでしょう。2017年のAirbnbでの予約件数は2億泊以上ですが、その場所のもともとの目的が宿泊施設であることは、ほとんどありません。
この記事では、初めての創業者が検討すべきスタートアップの「優れたアイデア」について、従来の理論に代わる理論を提供したいと思います。このガイドは、あなたが何もないところから、実用最小限の製品(MVP)をリリースするまでの道を歩む際の助けとなるでしょう。これがMVPへと続く唯一の道では決してなく、最善の道であるかも分かりません。しかし、これまで多くのYC企業の仕事を見てきた結果として私が考える、1つの道です。
やるべきことの実施順
まず、「夢中になっている特定の問題があるか?」ということを考えましょう。若い創業者にとっては、そのような問題は成長過程での経験や、家族/友人、個人的な興味、あるいは学校から生まれるかもしれません。より年齢を重ねた創業者の場合は、仕事上の経験、結婚、または誰かのパートナーになることから生まれる可能性があります。Airbnbの創業者たちのもともとの問題は、家賃を支払う方法でした。Justin.tv/Twitchの場合、JustinとEmmettが抱えていた最初の問題は、次にどんなスタートアップに取り組むべきかということでした。問題の中には、最初の段階から重要性と強い影響力を感じさせるものもあれば、取るに足らないように感じるものもあります。私はその両方が、10億ドル企業へと成長するのを見てきました。
問題が決まれば、友人を何人か見つけて、その問題の解決策についてブレーンストーミングを行いましょう。それらの友人は同じ問題を抱えている人たちでも、そうでなくても構いません。学校の同級生、職場の仲間、個人的に知り合った人たちでも大丈夫です。たぶん最も重要なのは、賢くて、ブレーンストーミングを楽しめる友人を選ぶことです。ブレーンストーミングの際に、発言された解決策の可能性を否定するのではなく、それ自体を楽しめる人は、解決策に対して即座に気の利いた反応をし、アイデアを更に良くします。もしあなたが技術者でないなら、技術者の友人や同僚とブレーンストーミングすることをお勧めします。正しい友人を選べば、そのブレーンストーミングから本当にワクワクするようなソリューションやアイデアが生まれる場合があります。それが火花となって、あなたのスタートアップを活気づかせます。共にブレーンストーミングを行う人たちは、一緒に考えている解決策を自らのこととして感じています。そのため、そのソリューションを実際に作り上げる目的で、彼らに協力を要請する絶好の機会です。優れたブレーンストーミングは、しばしばアイデアをもたらすだけではなく、共同創業者ももたらしてくれる場合があるのです(それ故に、ブレーンストーミングの相手は慎重に選びましょう)。(1)
この時点で火花を炎へと変えるために最も重要なのは、協力して実用最小限の製品(MVP)を構築し、リリースすることです。MVPは、ユーザーへのサービス提供を始めるために必要とされる、構築可能な最小限の製品です。大抵の場合、サービス提供を開始するために必要なのは、ほんの僅かなソフトウェアです。ソリューションを完全に作り上げるという誘惑に負けないようにしましょう。現実にそれが上手く機能するかどうかは分からないからです。より良いソリューションを構築するためには、無駄なものを極限まで省いたバージョンを作り、ユーザーが実際にそれを使いたいかどうか確認するところから始めるべきです。Airbnbの最初のバージョンは、ほとんど何の機能(マップ、プロフィール、メッセージ、決済など)も付いていませんでした。同社はそれを「Airbnb Lite」と呼び、1ヶ月以内に作り上げました。もしバックエンドで拡張できない大量の手作業が必要だとしても、全く問題ありません。今作っているものが実際にユーザーの望むものであれば、後で全てを修正し、拡張する時間はあるはずです。いかなる種類であっても最初のユーザーを持つことができれば、あなたはスタートアップの創業者です。そうは言っても、依然としてMVPを市場に送り出すための技術的スキルを持つ人材は必要です。
協力してMVPを送り出すことができれば、参考にすべきスタートアップのアドバイスは山ほどあります。私がお勧めする参考記事をいくつか紹介しておきます。
– YC’s Essential Advice
– Paul Graham’s Essays
– Blog Pmarca
2つの間違った実施順
初めての創業者が歩む道の中には、しばしば失敗に終わると私が考えるものが2つあります。
1) アイデアを考え付いた後、すぐに投資家に売り込む
それらの創業者はしばしば、投資家は投資によってアイデアを検証するもので、もし資金調達できなければ、良いアイデアではなかったのだと考えます。良い投資家が関心を持つのは、アイデアの実行プロセスに実際に携わっているチームであり、単にアイデアだけを売り込むチームは敬遠されがちです。
2) アイデアはあるものの、自分も共同創業者たちもコードが書けない
それらの創業者は、製品を作るのに他の誰かを雇う必要があります。そして製品をリリースできたら、資金調達を試み、技術チームを追加的に構築することになります。ここで問題となるのは、実際には良い投資家は、あなたがすでに作り上げたチームに投資しようとしていることです。もしあなたがテック スタートアップを作ろうとしていて、チームの誰もコードを書けなかったり、必要な技術的作業を行えなかったりするなら、投資を獲得するハードルはずっとずっと高くなります。私の経験では、技術的スキルを持たないチームでも良い投資家に大目に見てもらうためには、10倍の苦労が必要です。また、エンジニアをアウトソースすることの一般的な問題点は、アウトソースした人たちはあなたほどのモチベーションを持っておらず、しばしば極めて高くつくということです。
反対例
上述した「失敗」シナリオに反し、成功した例もたくさんあります。それは初めての創業者にも、シリアルアントレプレナーたちにも言えることです。私が言いたいのは、成功するスタートアップを作り上げるのはとても難しいということです。失敗の道の1つを選んだ場合、あなたの歩む道はずっと険しいものとなり、たいていは成功にたどり着く可能性が低くなります。進んで物事を苦痛なものにする理由はないはずです。
これが唯一の道だと考えているわけでは決してありませんが、創業者たちに進むべき道筋についてアドバイスを求められた際には、以上のように勧めています。何かを作り出して当初資金を調達する過程で遭遇する、最初の大きなハードルを創業者たちに乗り越えさせてきた私の経験から、それが最も効果的な道筋だと考えるからです。
注:
1. 自分が技術者ではなく、技術者の知り合いもいない場合はどうすればよいでしょうか?私がしばしば将来の創業者たちに話すのは、どこかのスタートアップに勤め、そういう友だちを作るということです。結局のところ、適切な創業チームを持つことが、成功するスタートアップを作るための近道なのです。スタートを切る前に、そのような関係作りに1~2年を投資する価値はあります。
この投稿の草案を読んでくれたCarolynn Levy、Adora Cheung、Daniel Gackle、そしてCraig Cannonに感謝します。
著者紹介
Michael Seiebl は YC の CEO です。彼は Justin.tv と Socialcam の共同創業者であり、CEO でした。Socialcam は Autodesk に 2012 年に売却され、Emmett Shear の下で Justin.tv は Twitch.tv となり、Amazon に 2014 年に売却されました。スタートアップに関わる前、彼は US の上院議員選挙で財務ディレクターを1年勤め、2005 年に Yale University を Political Science の分野で BA を取って卒業しました。
記事情報
この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: One Order of Operations for Starting a Startup (2018)