スタートアップ = 成長 (Paul Graham)

スタートアップとは急成長するものとして設計されている会社です。新規に創業したこと自体でその会社がスタートアップになるわけではありません。必ずしもテクノロジーを扱ったり、ベンチャーファンドを使ったり、何らかの「イグジット」があったりする必要はありません。唯一の必須事項は成長です。私たちがスタートアップと関連させているその他のものは、すべて成長から派生しています。

もしスタートアップを始めたいなら、それを理解することが重要です。スタートアップは、要点を逃しては成功を望むことはできないほど過酷です。自分が追求するのは成長であるとわかっていなければいけません。よい知らせは、成長したなら、すべてが自然とうまくいく傾向にあるということです。つまり、成長を、自分が直面するほぼすべての決断をするための指針として利用できるということになります。

セコイア

分かりやすいはずではあるものの、往々にして見過ごされてしまう違いについての話題から始めましょう—— 新しく設立された会社がすべてスタートアップであるわけではありません。毎年、国内で、何百万もの企業が事業を開始しています。そのうちのほんの一部がスタートアップです。ほとんどがサービス事業です—— レストラン、理髪店、工務店など。 数少ない特殊な事例を除いて、これらはスタートアップではありません。理髪店は急成長を前提にして設計されていません。一方で、例えば、検索エンジンは該当します。

スタートアップが急成長を前提に設計されていると私が言う時、それは二つの意味で言っています。ある意味、意図されているという意味で設計という言葉を使っています。ほとんどのスタートアップが失敗するからです。けれども、私はまた、スタートアップは本質的に違うという意味でも言っています。セコイアの苗がもやしとは違う運命にあるというのと同じです。

その違いこそ、急成長をするものとして設計されている会社を指して、他と区別する言葉として「スタートアップ」がある理由です。仮にすべての企業が基本的に似ていて、とはいえ、一部の企業が幸運または創業者の苦労によって、急成長に結びついた場合は、別の言葉はいりません。ただ非常に成功した企業とそれほど成功していない企業について話ができるだけです。しかし、現に、スタートアップは他の事業とは別種のDNAを持っています。Googleは、単に創業者が稀に見る幸運に恵まれ、懸命に頑張った理髪店ではありません。Googleは最初から異なっていました。

急成長するためには、大規模な市場に販売できるものをつくる必要があります。それがGoogleと理髪店の違いです。理髪店は拡大しません。

非常に大きく成長するためには、(a) 多くの人が求めるものをつくらなければいけません。また、(b) それらの人々すべてにサービスを提供しなければいけません。理髪店は(a)の部門でうまくいっています。ほぼすべての人が散髪を必要とします。理髪店の問題は、どんな小売店もそうであるように、(b) 顧客に直接サービスを提供することです。散髪のために長旅をする人はいないでしょう。仮にそうだとしても、理髪店は彼らを宿泊させることはできません。[1]

ソフトウェアを書くことは(b)を解決するにはすばらしい方法です。しかし、結果的に(a)に制約されることもあり得ます。ハンガリー人にチベット語を教えるソフトウェアを書くなら、それを欲しいと思う人のほとんどにサービスを届けることができます。しかし、その数は多くはないでしょう。しかしながら、中国語話者に英語を教えるソフトウェアをつくるなら、それはスタートアップの領域です。

ほとんどの事業は(a)または(b)に極端に制約されます。成功したスタートアップの顕著な特徴は、これらに制約されないことです。

アイデア

普通の事業よりもスタートアップを始める方がよいようにみえるかもしれません。もし会社を起こすとしたら、最も可能性のあるタイプのものを始めない手はないように思われます。難点は、スタートアップの世界が(かなりの)効率的な市場であることです。ハンガリー人にチベット語を教えるソフトウェアを書けば、競合はそれほどありません。中国語話者に英語を教えるソフトウェアを書いたなら、激しい競争に直面するでしょう。その理由は、まさに得るものがそれほど大きいからです。[2]

通常の会社を制限する制約は、同時に彼らを保護しています。トレードオフです。理髪店を始めたとすると、競争しなければいけないのは、地元の他の理髪店だけです。検索エンジンを始めるなら、競争相手は全世界です。

しかしながら通常、事業の制約が、同時にその事業を保護している最も重要な点は、競争がないことではありません。苦労して新しいアイデアが出す必要がないということです。仮に、可能性を制限して競争を避け、特定の地域にバーを開くとすると、地理的制約はその会社を決定づける助けにもなります。バー+近隣地域は、中小企業にとっては十分なアイデアです。(a)の面で制約されている企業にとっても同様です。ニッチがその会社を保護し、決定づけます。

一方、もしスタートアップを始めたいなら、かなり新しいことを考える必要があります。スタートアップは、より大きな市場に参入できるものを作る必要があり、その種のアイデアは、非常に価値があるため、既に他の突出したスタートアップが採用しているでしょう。

そのアイデア空間は、徹底的に検討されています。スタートアップが取り組むものは、概して、他の誰もが見過ごしたものになってしまうほどです。私が書こうとしていたのは、他の誰もが見過ごしてきたアイデアを見つけるために、意識的に努力しなければいけないということです。けれども、ほとんどのスタートアップがこのような方法で事業を始めるわけではありません。大抵は、スタートアップが成功するのは、創業者が他の人たちとは違っているので、他の人たちにはほとんど見えていないアイデアが、彼らにとってはわかりやすいものであるからです。おそらく、後になって彼らは一歩引いて考え、自分以外の人たちの盲点に自分がアイデアを見出したことに気づき、そこから、その場にとどまるための慎重な努力をします。[3] けれども、成功したスタートアップが事業を開始した瞬間は、イノベーションのほとんどが無意識に行われます。

成功した創業者の違いは、異なる問題が見えているということです。テクノロジーに長けていて、テクノロジーによって解決可能な問題に向き合うという両方の要素があるということは特にすばらしいことです。テクノロジーの変化はあまりにも速く、以前はよくなかったアイデアが、誰も気づかないうちによいものになっていることもよくあるからです。Steve Wozniakの問題は、自分のコンピューターが欲しいということでした。それは、1975年においては異例の問題でした。しかし、テクノロジーの変化によって、それははるかに普通のことになろうとしていました。Wozniakは、コンピューターが欲しいだけでなく、つくり方もわかっていたので、自分でつくりました。 そして、Wozniakが自分で解決した問題は、Appleがその後に何百万人もの人々のために解決することになりました。一般の人たちにもこれが大きな市場であることが明らかになった頃には、Appleは既に一流企業でした。

Googleにも同じような起源があります。Larry PageとSergey Brinはウェブを検索したいと思っていました。しかし、彼らは、ほとんどの人たちとは違い、技術的な専門知識があり、既存の検索エンジンは改良の余地があることに気づいただけでなく、その改良の方法を知っていました。その後の数年間で、彼らの問題は皆の問題になりました。ウェブの規模が拡大し、小うるさい検索の専門家以外のユーザーまでもが、古いアルゴリズムは物足りないと気づくようになったためです。しかし、Apple に起こったことと同じことが起こり、検索の重要性に他の誰もが気づいた頃には、Googleは既に地位を築いていました。

それこそが、スタートアップのアイデアとテクノロジーの間の一つの関係性です。ある領域の急速な変化は、別の領域の大きくて解決可能な問題を明るみに出します。変化は時として進歩であり、その変化は解決の可能性です。その種の変化がAppleを生みました。小型集積回路のテクノロジーの進歩によって、Steve Wozniakは最終的に自分の手の届くコンピューターを設計しました。一方、Googleの例では、最も重要な変化はウェブの拡大です。そこでの変化は、問題の解決可能性ではなく、規模でした。

スタートアップとテクノロジーの間の別の結びつきには次のものもあります。物事を実行する時の新しい方法をスタートアップが作り出しますが、物事を実行する時のその新しい方法は、その言葉の広義においては、新しいテクノロジーと言えます。スタートアップがテクノロジーの変化によって明らかになったアイデアで始まると同時に、狭義におけるテクノロジー(「ハイテク」と呼ばれていたもの)で構成された製品をつくる場合、この二つを見分けるのは困難です。けれども、既に述べた二つの関係性は、全く異なるものです。なので原理的には、テクノロジーの変化に後押しされたものでもなければ、広義の場合は別として、製品がテクノロジーで構成されたものでもないスタートアップを始めることも可能です。[4]

速度

どのくらいの速度で成長すればスタートアップと見なされるのでしょうか。それに対する正確な答えはありません。「スタートアップ」はひとつの極地であり、一定の条件を満たしたからといって誰もがスタートアップになれるわけではありません。スタートアップを始めるということは、最初は、野心の宣言に過ぎません。単に会社を始めるのではなく、急成長する会社を始めることへのコミットです。そして、その種の希少なアイデアの一つを求めることになります。けれども、最初は取り組んでいるだけです。スタートアップを始めるということは、その点では俳優であることと似ています。「俳優」もまたひとつの極地あり、一定の条件を満たしたからといって誰もが俳優になれるわけではありません。俳優は、その経歴の最初では、オーディションに向かうウェイターです。彼は仕事を得ることで立派な俳優になりますが、立派になった時には俳優以上のものになっています。

そうなると、本当の疑問は、スタートアップにふさわしい成長率ではなく、成功したスタートアップの傾向として、どのくらい早く成長するのかというものになります。創業者にとっては、それは単なる理論上の質問ではありません。自分たちが正しい道をたどっているかどうかの質問と同義だからです。

成功したスタートアップの成長には、通常、以下の三つの局面があります。

  1. 最初、スタートアップが何をやるかを考えようとしている間、成長が緩やかになっているか、または、まったく成長のない時期があります。
  2. 多くの人々が望んでいるものを作る方法やそれらの人々にそれを届ける方法を案出している時に、急成長の時期があります。
  3. 成功したスタートアップは、最終的には大企業へと成長するでしょう。成長は、ある意味では社内の限界により、また、ある意味では貢献している市場の限界に直面して、緩やかになるでしょう。[5]

これらの三局面が一緒になって、S曲線ができます。成長がスタートアップを決定づける局面は、二つ目のものです。盛り上がっている局面です。その長さと傾斜でどのくらいその会社が大きくなるかが決まります。

傾斜は企業の成長率です。どの創業者も常に知っておく一つの数字は、成長率です。これはスタートアップの指標です。もしその数字を知らないとすれば、上手くいっているのか、それとも失敗しているのかさえ分かりません。

初対面の創業者に会社の成長率を尋ねると、「私たちは月間で100名の新規顧客を獲得しています」と教えてくれることがあります。それは成長率ではありません。問題なのは、新規顧客の絶対数ではなく、既存の顧客に対する新規顧客の割合です。もし本当に、毎月継続的に同じ数の新規顧客を獲得しているなら、厄介です。成長率の低下を意味するからです。

Y Combinatorで、私たちは週間成長率を測定しています。理由の一部に、デモデーの前は時間がほとんど無いことが挙げられます。また、スタートアップの初期には、自分たちがやっていることを微調整するために、ユーザーから頻繁にフィードバックを受けなければいけないことも理由の一部です。[6]

YCでのよい成長率は、週間5〜7%です。週間10%をはじき出すことができたら、桁外れに良好です。なんとか1%を出す程度なら、自分が何をやっているかがまだわかっていないというサインです。

成長率を測定する最適のものは収益です。次に適しているのは、最初は課金しないスタートアップに関して言えば、実際のユーザーです。これは収益成長率の合理的な代替物です。なぜなら、スタートアップが収入を得ようとして実際にスタートを切る時はいつでも、その収益はおそらく、実際のユーザーを定数倍したものになるだろうからです。[7]

コンパス

私たちは通常、スタートアップに、自分たちが可能であると思う成長率を挙げ、毎週その実現に向けてただそれだけを目指すように助言します。ここでのキーワードは「ただそれだけ (just)」です。もし彼らが7%を掲げ、その数字を実現できたら、彼らはその週に関しては成功しています。それ以上する必要はありません。しかし、実現できなかったら、彼らは重要な唯一の点において失敗したことになり、それに呼応して不安を抱くべきです。

プログラマーは、ここで私たちがやっていることを認識するでしょう。私たちはスタートアップの始まりを最適化の問題に置き換えています。そして、コードの最適化に挑戦したことのある人なら誰でも、範囲を限定されたその種の注力がいかに効果的であるかを知っています。コードの最適化とは、何か(通常は時間やメモリです)をより少なく消費するよう、既存のプログラムを変えることです。プログラムが何をなすべきかを考える必要はなく、ただ速くするだけです。ほとんどのプログラマーにとって、これはとても満足のいく仕事です。注力すべき範囲が限定されているので、その作業は一種のパズルのようになり、その問題を解決することができる速さに普通は驚きます。

成長率の実現に注力することで、スタートアップの始まりに関する、困惑するほどの多種多様な問題は小さくなり、一つになります。その目標とする成長率を利用して、自分のすべての決断を自動的に下すことができます。必要な成長率を実現するものなら何でも、そのこと自体により、正しいことになります。会議に二日間を使わなければいけないでしょうか。もう一人、プログラマーを雇わなければいけないでしょうか。マーケティングをもっと重視すべきでしょうか。ある重要な顧客との交際に時間を使うべきでしょうか。xの特徴を追加すべきでしょうか。それが成長率を実現するものなら何であれすべきです。[8]

週間成長率で自分の会社を判断するからといって、一週間以上先のことが見通せないということではありません。一週間であっても、目標を達成できなかった痛手を経験すれば(唯一重要な点において、失敗してしまったという経験です)、将来的にその痛手を回避するためのものなら何でも興味が湧くようになります。このようにして、例えば、もう一人、プログラマーを雇いたくなるでしょう。今週の成長率に貢献するのではなく、おそらく一ヶ月後に、さらなるユーザーを獲得できるような何らかの新たな性能を実装するであろう人物です。けれどもそれは次の場合にのみ該当します。つまり、(a)誰かを雇用するという混乱で、短期的な数字を逃さない場合と、(b)新規に誰かを雇用しなければ、継続的に数字を実現できないのではないかというほどの懸念がある場合です。

将来のことを考えないのではなく、まさに必要以上のものは考えない、ということです。

理論的には、数字の上昇へのこのような極端な執着のおかげで、スタートアップが問題に突き当たる可能性はあります。局所的最大値に終わる可能性もあるかもしれません。しかし実際には、決してそうはなりません。毎週、成長率を実現することで、創業者は行動することを余儀なくされます。行動するのとしないのとでは、成功の速度が違います。十中八九は、戦略を練って座っていることは、単なる引き伸ばしの状態でしかありません。どの山に登るかに関する創業者の直感は、彼らが認識しているよりも優れています。さらに、スタートアップのアイデア空間における最大値は、単峰的で独立したものではありません。ほとんどのかなりよいアイデアは、さらによいものと隣接しています。

成長の最適化に関する魅力的な点は、それが実際にスタートアップのアイデアの発見につながることです。成長の必要性を進化のプレッシャーという形で利用することができます。何らかの初期プランで事業を始め、例えば、週間成長率を10%として、数字の実現のための必要性に応じて修正すれば、最初に意図したものとは全く違う会社になります。けれども、週間成長率が一貫して10%のものは何であれ、ほぼ間違いなく開始当初のアイデアよりも優れています。

ここに、中小企業との類似点があります。特定の地域にある事による制約が役立ち、バーの特徴が明確になるのと同じように、特定の速度に制約された成長によって、スタートアップの特徴は明確になります。

結果がどうなろうとも、概して、開業当初の何らかの理想像に左右されるのではなく、制約に従うことによって最善の結果を得られることになるでしょう。まさに科学者が、最初に臨んだ状況ではなく、結果がどうなろうと真実を追求することで、最善の結果を得られるのと同じです。Richard Feynmanが、自然の想像力は人間の想像力よりも優れていると述べた時、彼が言いたかったことは、真実の追求を続ければ、自分がつくり得たものよりもすごいものを発見するだろうということです。スタートアップに関しては、成長はまさに真実のような制約です。成功したすべてのスタートアップは、少なくとも、ある意味、成長の想像力の産物なのです。[9]

価値

週間成長率が一貫して数%のものを探すのは困難ですが、もし発見したとすれば、それは途方もなく価値のあるものです。先を見通せば、その理由がわかります。

週間 年間
1% 1.7倍
2% 2.8倍
5% 12.6倍
7% 33.7倍
10% 142.0倍

週間成長率が1%の企業は、年間1.7倍の成長を遂げるでしょう。一方、週間成長率が5%の企業は、12.6倍です。月間収益が1,000ドルの企業(YCにおける初期の数字)で、週間成長率が1%の場合は、4年後には、月間収益は7,900ドルになるでしょう。これは、シリコンバレーの優れたプログラマーの給料よりも少額です。週間成長率が5%のスタートアップは、4年後の月間収益が2,500万ドルになります。[10]

私たちの祖先は指数関数的な成長に直面することはめったになかったに違いありません。私たちの直感はこれに関しては全くあてにならないからです。急成長したスタートアップに起きることは、創業者さえ驚かせる傾向にあります。

成長率のわずかな違いが、質的に異なる結果をもたらします。それが、スタートアップには別の言葉が使われる理由であり、資金調達や買収されるなど、通常の企業が行わないことをスタートアップが行う理由です。そして、とても奇妙なことに、彼らが失敗する理由でもあります。

成功したスタートアップがいかに重要になり得るかを考えると、期待値という概念に慣れている人なら誰でも、失敗の確率が高くないとしたら、驚くでしょう。成功したスタートアップが創業者に1億ドルの収益をもたらすことができるとすれば、成功の可能性がたった1%でも、スタートアップを始める期待値は100万ドルになります。十分に賢く、意志の固い創業者の集団がその規模で成功を収める可能性は、優に1%を超えるかもしれません。ふさわしい人たち(例えば若きビル・ゲイツ)に関しては、可能性は30%、あるいは50%までになるかもしれません。ですから、これほどまでに多くの人が狙いをつけるのは驚くに当たりません。効果的な市場では、失敗したスタートアプの数は、成功の規模に比例しているはずです。後者が大きいたために、前者も必然的にそうなります。[11]

これが意味するところは、いつであっても、かなり多くのスタートアップが何にもたどり着かないものに取り組もうとしています。「スタートアップ」という壮大な肩書きで不毛な努力を美化してはいますが。

これは私にはどうでもよいことです。俳優や小説家などの他の変動の激しい職業と同じです。私はずいぶん前に慣れました。しかし、多くの人々、特に通常の事業を始めた人々を煩わせているようです。多くの人がいわゆるスタートアップがすべての注目を集めていることに苛立っています。そのうちのどれ一つも頭角を現すことがほぼないにもかかわらず、です。

一歩下がって、全体像を見れば、彼らの怒りは収まるかもしれません。彼らが犯している間違いは、自分の意見の根拠を個人的な経験に置くことで、平均ではなく中間によって暗黙に判断している点です。中間的なスタートアップによって判断するなら、スタートアップ全体の概念は、欺瞞にみえます。創業者がスタートアップを始めたい理由や投資家がスタートアップに投資したい理由を説明するためには、バブルが起きているという誤った仮定を置かなければいけません。しかし、これほどのバリエーションがある領域で中央値を用いるというのは間違いです。中央値ではなく、平均値で結果に注目すれば、投資家がスタートアップを好む理由や、創業者が中間的な人々でない場合に、スタートアップを始めることが合理的な選択である理由を理解することができます。

取引

なぜ投資家はスタートアップをこれほど好むのでしょうか。なぜ彼らは、堅実に収益を生む事業ではなく、写真共有アプリへの投資に熱中するのでしょうか。答えは意外と簡単ではありません。

どのような投資であっても、その基準は、リスクとリターンの比率です。スタートアップはその基準にかなっています。スタートアップは恐ろしいほど危険ですが、成功した時のリターンは極めて大きいからです。しかし、投資家がスタートアップを好む理由はそれだけではありません。通常の成長の緩やかな事業もリターンとリスクの比率は、どちらも低いなら、同じように良好な可能性があります。それならば、ベンチャー投資家はなぜ、成長率の高い企業にのみ関心があるのでしょうか。その理由は、理想的にはスタートアップの新規株式公開後、あるいは、そうならなかった場合は買収された時に、キャピタルゲインでの報酬を得るからです。

投資からリターンを得るその他の方法には配当金という形があります。なぜこれと類似するような、利益の一部と引き換えに通常の企業に投資するVC業界がないのでしょうか。それは、未公開企業を管理する人たちにとっては、(例えば、自分たちの会社の支配下にあるサプライヤーから高すぎる部品を買うことによって)会社がほとんど利益を出していないように見せかけつつ、自分に収益を注ぎ込むことがあまりにも容易過ぎるからです。未公開企業に投資して配当金を受け取ることで利益を得ようとする場合、その投資家は帳簿に細かく注意を払わなければいけないでしょう。

ベンチャー投資家がスタートアップに投資することを好む理由は、リターンだけではありません。そのような投資が全体を見渡しやすいというのも理由です。創業者は、投資家を豊かにすることなく自らが豊かになることはあり得ません。[12]

なぜ創業者はベンチャー投資家の資金を欲しがるのでしょうか。ここでの答えもまた、成長です。よいアイデアと成長の間の制約は、両方向に働きます。成長するアイデアが必要なだけではありません。そのようなアイデアがあって、必要なだけの速さで成長しないとすれば、競合相手が成長します。ネットワーク効果のある事業では特に、あまりにも緩慢な成長は危険です。最高のスタートアップには、通常、ある程度の成長率が必要です。

ほぼすべての企業が、事業を開始するに当たり、いくらかの資金を必要とします。けれども、スタートアップは、収益がある、あるいは、ありそうな場合でも、資金を調達することがよくあります。収益のある会社の株を、後に値上がりするだろうと思っている価格よりも低い価格で売却するのは馬鹿げているようにみえるかもしれませんが、保険証券を買うよりはましです。基本的には、それが、ほとんどのスタートアップが資金調達に対して抱いている価値観です。会社をそれ自体の収益で成長させることはできますが、ベンチャー投資家に提供されるさらなる資金と支援は、成長速度を加速します。資金調達によって、成長率を選択できるのです。

最も成功したスタートアップは、常に思いのままに急成長するための資金を手に入れることができます。なぜなら、スタートアップがベンチャー投資家を必要とするより、ベンチャー投資家がスタートアップを必要とする部分が大きいからです。収益の多いスタートアップは、自己収益で成長することのみを望めば、そうすることができます。緩慢な成長は若干危険かもしれませんが、そのことによってダメになる可能性はないでしょう。一方で、ベンチャー投資家はスタートアップ、特に最も成功したスタートアップに投資する必要があり、そうでなければ廃業するでしょう。 つまり、十分に見込みのあるスタートアップはどのようなものでも、正気ならば拒否しないような条件での資金提供を持ちかけられるということです。そして、スタートアップ事業の成功の規模によって、ベンチャー投資家は依然としてそのような投資から資金を手にすることができます。通常の神経の人は、自分の会社が、高い成長率が可能とするような価値を持つ会社になるだろうとは思いません。しかし、そうなる会社もあります。

成功したスタートアップはすべて、買収の提案をかなり頻繁に受けます。なぜでしょうか?スタートアップのどのような要素が、他の会社に買収したいと思わせているのでしょうか。[13]

根本的には、他の誰もが成功したスタートアップの株を欲しがるのと同じ理由です——急成長を遂げる会社は価値があります。例えば、eBayがPaypalを買収したのはよい選択でした。Paypalは今やeBayの売り上げの43%を扱っており、おそらく成長率に対してはさらに大きく貢献しているでしょう。

けれども、買収者には、スタートアップを欲しいと思うさらなる理由があります。急成長する企業は、単に価値があるだけではなく、危険でもあります。もしその会社が成長を続けると、買収者の領域にも侵入してきます。ほとんどの製品買収にはなんらかの恐怖の要素があります。買収者がスタートアップそのものに脅威を感じなくても、彼らは競合相手がそれで何をすることができるかを考えることで、警戒心を抱くでしょう。そして、このような意味で、スタートアップが買収者にとって二重に価値があるため、買収者は、往々にして通常の投資家が支払う以上の金額を支払うでしょう。 [14]

理解

創業者、投資家、買収者の組み合わせで自然なエコシステムができます。それはあまりにもうまく機能するので、なぜ時としてこうも物事が整然と進むのかを説明するために、それを理解しない人々が陰謀論を捏造する必要を感じるぐらいです。まさに私たちの祖先が、一見するとあまりにも整然とした自然界の仕組みを説明するために、様々な迷信を捏造したのと同じです。けれども、すべてを裏で操っている秘密結社はありません。

Instagramが無価値だったという間違った前提からスタートした場合は、Mark Zuckerbergに無理やりそれを買収させた秘密の有力者がいたと想定する必要があります。後者の想定がありえないことは、Mark Zuckerbergを知る人なら誰にとっても自明ですので、最初の前提が誤りであることが自動的にわかります。彼がInstagramを買収した理由は、それが価値があり、危険だからです。そして、その原因は成長です。

スタートアップを理解したければ、成長について理解してください。成長がこの世界のすべてを動かしています。成長は、スタートアップが大抵はテクノロジーに取り組む理由です。 急成長を遂げる企業のアイデアは、非常に希少です。そこで、新しいアイデアを見つける最善の方法は、最近、変化によって実現可能になったアイデアを見つけることです。そして、テクノロジーが急速な変化の最善の源泉です。多くの創業者がスタートアップを始めようとすることが、経済的に合理的な選択肢である理由は成長です——成功した企業は成長によって価値を持ち、たとえリスクが高くなったとしても、期待値が高くなります。 成長は、ベンチャー投資家がスタートアップに投資を望む理由です——リターンが大きいからではなく、配当から利益を得るよりも、キャピタルゲインによってリターンを得る方が簡単だからです。成長は、最も成功したスタートアップがたとえそれが必要でなかったとしても、ベンチャー投資家の資金を使う理由の説明になっています——資金を受けることで、成長率を自由に決めることができます。さらに成長は、成功したスタートアップがほぼ例外なく買収の提案を受ける理由の説明になっています。買収者にとって、急成長する企業は単に価値があるだけでなく、危険でもあります。

ここで言いたいのは、ある領域で成功したいならそれを動かす力を理解しなければならない、ということだけではありません。スタートアップを始めるということは、成長を理解することにほかなりません。スタートアップを始める時に実際にやっていること(そして一部の観察者にとって残念なことに、実際にやっていることのすべては)、通常の事業が解決している問題よりも困難な種類の問題の解決への取り組みです。急速な成長を生み出す希少なアイデアの一つを探すことに取り組んでいます。そのようなアイデアには非常に価値があり、一つを見つけるのも困難です。 スタートアップは、これまで成し遂げてきた発見を具現化したものです。ですから、スタートアップを始めるということは、科学者になる決意をすることに似ています。科学者は、特定のひとつの問題だけに取り組んでいるのではありません。どの問題が解決可能なのかははっきりとはわかりません。誰もわからないことを発見しようとする試みに取り組んでいます。スタートアップの創業者は要するに、経済の科学者です。ほとんどの人は何も目覚ましい発見をしませんが、ときには相対性理論を発見する人もいます。

 

注釈

[1] 厳密に言えば、必要なのは顧客数ではなく、大規模な市場です。つまり、顧客が購入する製品数の多さと彼らが支払う金額の掛け算です。しかし、支払額が大きいからといって、顧客数が少なすぎるのも危険です。また、顧客の影響力が大きすぎて、自分が事実上のコンサルティング会社になってしまうのも危険です。ですから、通常は、どのような市場にいようとも、最善を尽くして、そのためになるべく幅広い製品をつくることになります。

[2] Startup Schoolのある年に、David Heinemeier Hanssonは、レストランをモデルとする事業を始めたいと思っているプログラマーたちを励ましました。彼の言おうとしていたことは、私の理解するところでは、(b)に制約を受けるレストランと同じように、(a)に制約を受けるソフトウェア会社を始めるのはよいことだということです。賛成です。ほとんどの人はスタートアップを始めるべきではありません。

[3] 一歩引いて考えるというのは、私たちがY Combinatorで重視していることの一つです。創業者にとって、含意をすべて把握することなく、直感的に何かを発見したというのは普通のことです。どのような分野でも、おそらくそれが最大の発見の真実です。

[4] 私は「富を築く方法」の中で、間違えて、スタートアップは難しいテクノロジーの問題を引き受ける小さな会社であると言いました。これは最も一般的な説明ですが、それがすべてではありません。

[5] 原則的には、企業は自らが貢献している市場の規模によって制限されるわけではありません。彼らはまさに新しい市場へと拡大することが可能だからです。けれども、大企業がそれをする能力には限界があるようにみえます。つまり、自らの市場の制限に直面したことによる減速は、究極的には社内の限界が別の方法で現れたものです。

このような限界の一部は、組織の形を変えることによって克服できます——特に分割化によって。

[6] これは明らかに、既に事業を開始しているか、あるいは、YCの期間に開始できるスタートアップに限ったことです。新しいデータベースを構築しているスタートアップは、おそらくそれはしないでしょう。その一方で、何かを小規模に始めて、成長率を進化の重圧として利用することは、このようにスタートを切ることのできる企業ならば、どの企業もそうすべきであるほど重要な技量です。

[7] スタートアップがFacebookやTwitterをお手本にして、自分たちが人気が出て欲しいと望むものを構築している一方で、そこから収益を得る明確な計画が出て来ないとすれば、たとえそれが収益成長率の代替物だとしても、成長率は高くなければいけません。そのような企業は、最終的には膨大な数のユーザーを必要とするからです。

極端な事例にも注意を払ってください。何かが急速に広まってはいても、同時に解約率も高い場合です。すべての潜在的なユーザーにサービスが行き届くまでは純成長率は良好ですが、その時点で成長率が突然止まります。

[8] YCの中では、成長率を実現するためのものは何でも、そのこと自体によって正しいと私たちが口にする時、次のような誤魔化しは除くという含意があります。LTVを超える購買客、実体がないにも関わらず実際のユーザーとして計算に入れる、規則的な増加率で招待を捏造し、完璧な成長曲線をつくり出すなど、です。このような誤魔化しで投資家を欺いたとしても、最終的には自分自身に害が及びます。自分の指針を投げ出しているからです。

[9] これが、次のような危険な間違いの理由です。その間違いとは、成功したスタートアップは単に、創業当初のすばらしい何らかのアイデアが実現したものだと信じることです。最初に求めているものは、すばらしいアイデアというよりは、進化してすばらしいものになる可能性を秘めたアイデアです。注意しなければならないのは、見込みのあるアイデアが、単にすばらしいアイデアの劣化版ではないことです。両者は往々にして異なる種類のものです。アイデアを展開する基になったアーリーアダプターには、市場の他のアダプターとは別の需要があるからです。例えば、後にFacebookへと進化したアイデアは、単なるFacebookの下位集合ではありません。後にFacebookへと進化したアイデアは、ハーバード大学の学部生向けのサイトです。

[10] もし、非常に長い期間をかけて会社が年間1.7倍の成長を遂げたらどうなるでしょうか。成功したスタートアップのどれとも同じ規模まで成長できないのでしょうか。もちろん、原則的にはできます。ある架空の企業が月間1,000ドルの収益を上げ、週間成長率が1%である場合、19年間で成長する規模は、週間成長率5%の企業が5年間で成長する規模と同じ程度です。しかしそのような軌道は、例えば不動産開発では一般的かもしれませんが、テクノロジー事業においてはそれほど目にしません。テクノロジーにおいては、成長が緩慢な企業は大きくならない傾向にあります。

[11] 期待値の計算はどのようなものでも、人によって違います。 資金に関する効用関数によります。つまり、ほとんどの人にとっては、最初の100万は、後に続く100万よりも価値があります。価値の違いの程度も人によります。年齢が若い、あるいは、より野心的である創業者に関しては、効用関数はより平です。これはおそらく、すべてのスタートアップの中で最も成功した創業者は、どちらかと言えば若い傾向があるという理由の一端を担っています。

[12] より正確に言えば、最大の成功者の場合には、こうしたことが当てはまります。彼らは、全てのリターンの源泉です。スタートアップの創業者は、会社の経費で自分を豊かにするために、高価すぎるコンポーネントを彼らに販売し、同じ騙し方をすることができます。しかし、Googleの創業者がそれをする価値はありません。それに誘惑される可能性のあるのは失敗したスタートアップだけですが、そのような企業は、いずれにしても、ベンチャー投資家にとっては見切りの対象です。

[13] 買収は二つの範疇に分けられます——買収者が求めているのが、事業である場合と、従業員である場合です。後者はHR買収と呼ばれることがあります。HR買収は、名目上は買収であり、潜在的な創業者にとっての期待値の計算に著しく影響する規模のものである場合もあります。しかし、買収者の視点では、むしろ予想外の贈り物を雇うようなものです。

[14] 私は、最近ロシアから来た何人かの創業者にこれを説明したことがあります。企業に脅威を感じさせたら、その企業は支払いを増額するということは、彼らにとっては目新しい事実でした。「ロシアなら、彼らはただ君を殺すだろう」と彼らは言いました。これはほんの冗談ですが、ある意味事実です。経済的には、一流企業が新規の競合相手を単純には排除できないという事実は、法の支配の最も価値のある要素かもしれません。 そして、既存の大手企業が競合相手を規制や特許訴訟で制圧しているのを目にしているのであれば、私たちは懸念すべきです。それは必ずしも法の支配からの逸脱ではありませんが、法規制が目的とするものからの逸脱ではあるからです。

草稿を読んでくださった次の方々に感謝いたします。Sam Altman、Marc Andreessen、Paul Buchheit、Patrick Collison、Jessica Livingston、Geoff Ralston、Harj Taggar。

 

著者紹介

Paul Graham

Paul は Y Combinator の共同創業者です。彼は On Lisp (1993)、ANSI Common Lisp (1995)、ハッカーと画家 (2004) の著者でもあります。1995 年に彼は Robert Morris と最初の SaaS 企業である Viaweb を始め、1998 年に Yahoo Store になりました。2002 年に彼はシンプルなスパムフィルタのアルゴリズムを見つけ、現在の世代のフィルタに影響を与えました。彼は Cornell から AB を、Harvard からコンピュータサイエンスの PhD を授けられています。

 

記事情報

この記事は原著者の翻訳に関する指示に従い翻訳したものです。
原文: Startup = Growth (2012)

Copyright 2012 by Paul Graham.

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