いつシリーズAの資金調達を行うべきか? (Aaron Harris)

シリーズAラウンドについて考える時、最も答えにくい質問の1つが、「自分たちの準備が整うのはいつか?」というものです。これは、インターネットに何百もの回答があるのに、そのどれもが十分に納得できない質問の1つでもあります。そのような質問に上手く回答できない理由は、それぞれの(準備が整ったと判断する)ルールには、ルール自体をくだらなく思わせてしまう多くの例外が存在するからです。

創業者たちはしばしば、資金調達の準備が整う時期について、明確で具体的な回答を欲しがります。独自のメトリクスでフィルターをかけるVC(ベンチャーキャピタル)のアイデアが魅力的なのは、そのような理由からです。例えば、SaaS企業にとってシリーズAの準備が整うのは、年間経常収益 (ARR) が100万ドルを超えた時と言われます。悪くないように聞こえますが、私たちがこれまでに見てきた例では、シリーズAを実施したSaaS企業の年間経常収益 (ARR) には、20万ドルから900万ドルまでの幅があります。その範囲に入る企業はたくさん存在します。VCがこのルールについて、それほど気に掛けていないことは明らかです。

上記の回答とは対極にあるアドバイスが、「できる時に調達しなさい」というものです。それは正しいのですが、同じ言葉を反復しているようなものです。実際にやりさえすれば資金調達はできる、ということしか分からず、資金調達の時期を決めるための明確な枠組みにはなっていません。

私は自分の会社がシリーズAプログラムを開始して以来、ほとんど毎日のようにこの問題に立ち返って考えてきました。そしてその解決方法に関する枠組みを構築し始めています。その全てを公開したいと思います。そこに完璧な回答があるとは思いませんが、回答が存在しない理由に関して、より多くの文脈を持つことが有益だと考えます。

シリーズAラウンドで行われていることを理解するのに、水平軸に沿って投資の意思決定プロセスを考えるのが有効です。この軸は、企業が1つのアイデアからビジネスを機能させ、拡張させるまでの進展過程に、概ね対応しています。投資の意思決定プロセスと企業の進展には、非常に密接な関係があります。なぜなら、企業の歴史の各時点において、その時点までに達成してきたあらゆることの証拠をその会社が持っていることに、投資家は注目しているからです。その証拠が、投資家の意思決定に影響を与えます。この軸で最も大きな隔たりがあるのは、「約束(Promise)」と「メトリクス(Metrics)」の間です。それぞれが「シードラウンド」と「シリーズBラウンド」に対応しています。

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ほとんどのシードラウンドでは、創業者の質と、その会社および会社が作る未来に関して創業者が語ることのできる素朴なストーリーに基づき、資金が調達されます。創業者はシリーズBまでに重要な事柄を一通り達成して、自らが語った未来を実現する能力があると証明しなければなりません。それには通常2~3年を要します。また、一連の詳細なメトリクスにより、ビジネスの健全性と、資本追加がビジネスに与える影響を明らかにする必要があります。

シリーズAの答えを出すのが非常に難しい理由は、シリーズAがこの2つの時点の間に位置するためです。そして、その具体的な位置は、創業者、進展状況、社歴によって変わるからです。

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もしシリーズAを大きなシード、または小さなシリーズBと考えるなら、矛盾するアドバイスも意味をなします。なぜなら、特定の状況によっては全てが実際に正しくもあり、間違ってもいるからです。非常に説得力があるために、シリーズAのような金額を調達できる創業者も存在します。しかしそれは会社の歴史がまだ浅く、相当額のシード資金を調達する前の段階でしかできません。時間と金額は足並みをそろえて前進させなければならないからです。そうでなければ、投資家は疑念を抱くでしょう。※1

事業を開始してからの期間が長い会社ほど、または話が上手くない創業者ほど、そのビジネスのメトリクスをより具体的かつ明確にする必要があります。過度に大きなシード資金を調達した会社が直面する課題の1つが、シリーズAに求められる要件が、少ないシード資金を調達した会社よりも大幅に厳しくなることです。そのような会社はシードAラウンドまで長い時間待たなければならず、そのため投資家は、その時間に応じた進展を期待します。

創業者たちは資金調達時期の質問に対し明確な回答を欲しがっていることは分かっていますが、冒頭で述べた通り、上記の内容はそのような種類の明確さを提供していません。しかし、明確な答えは存在しないということを知ることが重要だと考えます。なぜならそれが、資金調達について考える際に、相対的な優位性を持って考えるための枠組みを提供するからです。

資金調達の際に正しいプロセスを実行することの1つの利点は、時間をかけて自分のストーリーをテストし、投資家の共感を呼ぶか確認できるように、プロセスの初期段階が設計されていることです。共感を呼ぶと確認できれば、シリーズAの準備が整ったことが分かります。そうでなければ、確認できるまでビジネスに取り組み続けましょう。

 

※1 すべてのルールがそうであるように、ピボットや創業者がストーリーテリングがうまいことで、ルールが適応できない状況もあります。

 

Craig Cannon に本記事の執筆を助けてくれたことを、Marc Andreessen に今回の記事を考えさせてくれたことを感謝します。

 

著者紹介

Aaron Harris

Aaron は YC のパートナーです。彼は Y Combinator から投資を受けた Tutorspree の共同創業者でもあります。Tutorscpree より前に、彼は Bridgewater Associates で働いており、分析グループのプロダクトとオペレーションを管理していました。また Harvard で歴史と文学に関する AB を取得しています。

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文:  When to Raise a Series A (2018)

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