優れたスタートアップ創業者になる方法についてはたくさんの助言があります。しかし、スタートアップへの優れた投資家になるためのアドバイスはそれほど多くはありません。
さらに話を進める前に、今はスタートアップへの投資が特に難しい時機であると私は指摘しなければなりません。今はちょうど、資金提供者になるよりも資金を受ける側になる方が楽です。創業者になるよりも投資家になりたがっている人の方が多いように見えます。また、スタートアップへの資本の流入には終わりがないように見えます。
需要と供給の法則は普通に機能しています。評価額は上昇していますが、最善の投資機会は利益にあふれています。ちょうど、私の友人は最近このように述べました。「『引く手あまたのディール』で大きな投資配分を手にするよりも、シードファンドにお金を与えてくれるリミテッド・パートナー(LP)を探した方がはるかに簡単です」
これは、投資家としてうまくやるために3つのことをすべきだという意味です。つまり、よい投資機会を得る、投資対象をうまく決める、投資したい会社に投資家として選んでもらう、ということです。ただそれだけです! 皆さんの投資が企業にとって役立ち、投資しなかった場合よりもその企業が大きくなることはよくあります。しかし、悲しい現実として、最もよい投資はあなたがいなくても非常に良い結果を生むでしょう。
投資機会を手にする
投資機会を手にするのは、3つのカテゴリーの中で最も簡単です。一生懸命に取り組むことです。ほとんどの投資家が懸命に取り組まないのは驚くべきことですが、これは本当のことです。そして、これは皆さんが有効に取り組むべき点でもあります。
人脈作りに多くの労力を使うことは実際に役立ちます。人々が多忙を極めるスケジュールから一息つく時間を見つけてコーヒーを飲もうとしている時に、あなたが連絡を取ろうとしているのでなければですが。自分の尊敬する投資家を支援し、本当に優れた創業者を真の意味で支援する方法を実際に考えるのであれば、よい投資機会は目の前に現れるでしょう。
本業で投資家を始めるのなら、専らの仕事として、自分の将来の投資先を見つける人脈になるような人々を支援する方法を考えてください。単に投資機会について教えてくれるよう連絡先に頼むのではなく、彼らの最高の会社を支援するために週に一度時間を使っていいかどうかを尋ねてください。一般的にアーリーステージの投資家は、候補を絞ること、将来の資金調達、顧客の紹介、全般的なアドバイスに関連して役に立つことができます。
ブランドは機会を手にする別の手段です。ブランドを確立する方法はたくさんありますが、懸命に取り組むことは同様に重要な原則です。よい例は、ツイートする(簡単で、誰でもとてもうまくできます)のではなく、長いコンテンツを書く(難しく、これをうまくできる人はほとんどいません)ことです。
投資対象を決める
すばらしい創業者は、すばらしいスタートアップへの鍵です。スタートアップの投資家として本当の意味で成功する一つの方法は、ある人物が偉大な創業者になる前に、その人物がそうなることをうまく予測できるようになることです。経験はなくとも素晴らしい人々を見つけることに市場は報いてくれます。すでに地位を確立している人々に投資することによってうまくやることもできますが、購入する株の価格もそれ相応になるでしょう。
では、どうすれば将来偉大になる人物を特定できるのでしょうか。
数回にわたり、直接会えば、最も簡単に特定できます。3ヶ月間で3回誰かに会って、会うたびに成長を見て取ることができるなら、それに着目してください。現在の絶対的な能力よりも、向上する度合いの方が重要なことが多々あります(特に若い創業者は、時として非常に速く成長します)。
創業者に会う時に自問する主な質問は、その人物のために自分は働くだろうかというものです。自問する2つ目の質問は、彼らが業界の主導権を握るほど成長するかです。
私は、根性があり、手強い創業者を求めています(この組み合わせは、その言葉の響きほど一般的ではありません)。ミッションに重きを置き、自分たちの企業に夢中で、気を緩めることがない。確固としており、とても賢しく(必要条件ですが、間違いなく十分条件ではありません)、決断力がある。迅速に行動し、頑固で、勇敢。自信があり、誤解を恐れない。コミュニケーション力を備えており、伝播させる力を持った伝道者。タフで野心に満ちた人物になれること。
これらの特徴の一部は他のものよりも変化が容易であるように見えます。例えば、私が気づいたのは、人は速やかにタフで野心に満ちた人物になることができますが、行動の速さの傾向を変えるのは難しいようです。動きの速い創業者になるのは大事です。いくらか些細な例ですが、私の経験では、重要な電子メールにすぐに返信をしない創業者に投資をしてリターンを手にしたことはほとんどありません。
また、これは明らかなことのように見えますが、私がこれまで資金を提供して成功した創業者は、最終的に自分はきっと成功するだろうと信じています。
偉大になるであろう創業者を予想できるようになることに加え、少なくとも、どの市場がよいものになるかを予想できるようになる必要があります。
スタートアップはより多くの業種で生まれる可能性があります。費用が少なく、サイクルが速い時には常に成功します。テクノロジーの変化が激しい業種のスタートアップは特にうまくいきます。大きな競合相手に対する彼らの根本的な優位性は、速さと集中力だからです。変化が大きければ、スタートアップがチャンスを適正に扱う可能性は高くなり、大きな競合相手が足元をすくわれる可能性は高くなります。
創業者や企業と同様に気をつけるべきことは、成長率と最終的な市場規模です(ほとんどの投資家は市場について、10年でどの程度成長するかではなく、現在の規模に執着する理由が私にはわかりません。これは皆さんにとってのチャンスです)。
優れた企業には、市場よりも数年先を行く勇気がありますが、彼らは本物のトレンドと偽物のトレンドとを区別する秘密を知っています。本物のトレンドについて言えば、たとえ多くのユーザーがいなかったとしても、ユーザーは新しいプラットフォームをよく使い、それが大好きです。例えば、iPhoneは最初の1、2年間ユーザー数が少ないことで嘲笑されましたが、iPhoneを持っていたほとんどの人は、それまでのスマートフォンにはしなかったくらいに大絶賛しました。
極めて優れた企業は、新しくて重要かつ急成長するプラットフォームの波に乗る傾向があります。
私がこれまで投資した優れた企業の特徴は驚くほど類似しています。それらには大抵、次のような特徴があります。注目せずにはいられない創業者、スタートアップの軌道に才能ある人材を引き寄せるミッション、人々が友人にその話を自発的にするほど優れた製品、急成長する市場、ネットワーク効果と限界費用の低さ、急成長する能力。そして、根本的に新しい、または既存のものより10倍優れた製品。
機能しており、100億ドル企業になるような投資機会に絞るよう努めてください(つまり、彼らには少なくとも急成長する市場があり、ある種の価格決定力があるということです)。べき乗則はそのように力強いものです。これは、言うは易く行うは難しで、私は何度もその原則を破ってしまいました。しかし、データは明確です。失敗はそれほど問題にならず、小さな成功はそれほど重要ではありません。そして、賑わっているところに巨大なリターンがあります。
私がこれまで主に学んできたことは、機能しているものを大きくすることは可能であり、そうすべきであるということです。規模の力と、時としてそこから生まれる新たな動きは、とてつもないものです。私は投資をする際、将来の規模が持つようになる潜在的エネルギーについて必ず考えます。ほとんどの人はこれに長けていないようですので、皆さんには取り組んでもらいたいと思っています。
優れたアイデアは当然のことながら誘惑となりますが、そのアイデアがアーリーステージの投資において大きな価値を持つのは、優れた創業者を特定する方法としてです。しかし、時には、悪い創業者が優れたアイデアを持っていることもあります。私にとって彼らへの投資は、修正するのが最も困難なよくある失敗でもあります。(私がよくする失敗で2番目に大きなものは、主に他の投資家が気に入っているという理由で、後追いの投資をすることです。)
成約率(起業家に選んでもらう)
投資機会がよいものであればあるほど(つまり、評価額に対する期待値が高い)、その企業に自分を投資家として選んでもらうことは困難になるでしょう。
従来の営業戦略がここでとてもよく機能します。創業者と多くの時間を過ごし、彼らを支援するために自分がしたいことを説明し、過去に一緒に仕事をしたことのある創業者に彼らに電話をかけてくれるように頼むなどしてください。
皆さんが使える投資家で大いに役に立つという名声は、ここで大きな助けになります。そのような投資家は一般的には稀ですが、一流の投資家の中では珍しくありません。創業者に親切であるという名声も助けになります。すべてで最も助けになるのは、以前に皆さんが投資した他の創業者が皆さんのことを「この人はこれまでで最高の投資家です」と述べることです。
投資機会を手にすることに加え、強力なブランドも取引を成立させる上で助けになります。資金だけで企業をその気にさせることができるなら、追い風と言えるでしょう。
決断力もまた、助けになります。誰もが人から必要とされたいと思っており、ほとんどの投資家は誰かが最初に動くのを待っています。迅速に決断すれば、そして特にそれが他の人よりも早かったら、創業者は感謝することでしょう。私が最近行った2つの大きな投資では、1) 私が以前に支援し信頼していた人たちが私に自分たちのアイデアを話し終わる前に、私は彼らのシリーズAに投資すると伝え、2) 1時間の会議の終わりに、初対面の創業者のシードラウンドに投資することを提案しました。このようなことをあまり頻繁にするのはお勧めしませんが、大きな自信があるなら、それを示しましょう。
成約率を悪くする効果的な方法は、起業家を仲間のように扱わないことです。仲間だと思える創業者に投資するのは正しい選択です。起業家には第六感があり、誰が自分を仲間として扱い、誰が自分をボスとして扱うかを悟ります。そして、もし彼らが優秀なら、皆さんがボスのように振る舞う時、彼らは皆さんがその程度の頭脳の持ち主だとわかります。
起業家への支援
起業家への最も重要な支援は、彼らにさらなる野心を抱かせることです。すなわち、物事をより大きく考え、自分を信じる心をより強く持たせることです。野心に満ちかつ達成可能な目標を設定する手助けをしましょう。モメンタムは重要であり、自己強化にもなります。ほとんどの人はわずかに手が届かないと予測する目標を設定しますが、大抵はそれで意欲が萎えます。ぎりぎりのところで手が届くような目標を設定し続ける方がよいということです。
支援すべきことで2番目に重要なのは、目標を達成する方法について、彼らに(一般的な戦略ではなく)具体的で戦術的な助言をすることです。戦術的に優れた助言は次のようなものです。「この会社のために営業をどのようにしたらいいかを、あなたは自分で考え出したようです。ですから、営業職の採用で目を向けるべき点と求めるべきこと、そしてあなたが使うべき営業ツールをここに挙げましょう」
手助けするために具体的にできることはたくさんあります。紹介文を作成する、採用を支援する、他の投資家を見つける、オフィスを見つけるなど。しかし、頼まれるまで待つのが良いでしょう。
大きな例外があります。彼らが大きな間違いを犯そうとしていることがはっきりしている場合、彼らにそれを知らせます。特に、一旦ものごとが動き出した後、彼らが成長に向けて準備をしない場合です。
理論上、もう一つの大きな例外があります。起業家が優れた新しいアイデアを思いつくよう投資家が実際に手助けをする場合です。私が初めて注目した投資家はPG(訳注:Paul Graham のこと)でしたから、私はすべての投資家がこの点に長けていると思っていました。しかし後に、彼は独特のアイデアを生む人物であることがわかりました。一流の投資家でさえ、何に取り組むべきかを起業家に話すのは大抵うまくありません。自分で気づこうとすることに価値があります。
最後の点です。起業家が漠然と支援を求める場合、彼らが本当に求めているのは、友人からの感情的な支援です。彼らを家に招待し、お茶でも飲みながら、彼らの奮闘ぶりに耳を傾けてください。
本稿の草稿に目を通してくださった、Jack Altman、Max Altman、Luke Milesに感謝します。
著者紹介 (本記事投稿時の情報)
Sam Altman は OpenAI のCEO であり、Y Combinator のアドバイザーです。彼は 2014 年から2019年の間、YCの社長でした。彼は Stanford でコンピュータサイエンスを学び、その間 AI lab で働いていました。
記事情報
この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: How To Invest In Startups (2020)