パワーユーザーカーブ: 最もエンゲージしているユーザーを理解するベストな方法

大きな成功を収めている企業の一部はパワーユーザーが牽引しています。パワーユーザーとは、その製品を気に入り、高いエンゲージを示し、そのネットワークに多大なる価値をもたらしている人々のことです。Eコマース・マーケットプレイスの場合はパワーセラー、ライドシェア・プラットフォームではパワーライダー、そしてソーシャルネットワークにおいてはインフルエンサーがこれに当たります。

あらゆる企業がパワーユーザーを増やしたがっていますが、パワーユーザーを発見する (そして定着させる) 前にまずはパワーユーザーを測定する必要があります。DAU/MAU (日間アクティブユーザー数 (DAU) を月間アクティブユーザー数 (MAUまたは月間アクティブ数) で割ったもの) がエンゲージメントを測定するための一般的な指標ですが、そこには欠点もあります

企業にとって必要なのはより深く、より繊細な形でユーザーのエンゲージメントを把握する方法です。そのため、これから「パワーユーザーカーブ」というものを紹介します。一般的にはアクティビティ・ヒストグラムや「L30」(Facebookの成長チームによる造語) とも呼ばれています。これはユーザーが1か月間のうちでアクティブだった合計日数によってそのユーザーのエンゲージメントを表した柱状グラフで、範囲はその月のうちの1日から30 (または28、または31) 日全てまでです。通常はアプリの起動やログインといったトップレベルの行動を反映しますが、その部分はあなたがあなたのプロダクトを測定する上で重要だと判断したものに任意で変更できます。

パワーユーザーカーブにはDAU/MAUと比べて多くのメリットがあります。

  • 毎日リピートしている熱烈にエンゲージされたグループがいるかどうかがわかります。
  • 「わずかにエンゲージされている人がいる一方で、パワーユーザーも存在する」など、ユーザー内の多様性がわかります。これはDAU/MAUとは対照的です。DAU/MAUは単一の数字であるため、このような分散が不鮮明になります。
  • パワーユーザーカーブをコホートごとに描画すると、エンゲージメントが時間とともに向上しているかどうかがわかりますし、その次に製品の発売やその他の機能変更の成果を評価するのに役立ちます。
  • パワーユーザーカーブはアプリの起動だけでなく、さまざまなユーザーの行動について表すこともできます。これは、あなたのプロダクトにとって重要な中心的活動がファネルの下の方で行われる場合に重要になります。

すなわち、DAU/MAUからは単一の数字が得られる一方、パワーユーザーカーブから起業家が得るのは最も熱狂的なユーザーに対するあなたのプロダクトのエンゲージメントを複数の視点から (ある時点について、時間経過との関係、また収益化との関連で) 評価するための解析手段となります。これは有用です。

では、仕組みはどうなっているのでしょうか?

好調だと、パワーユーザーカーブは「スマイル」になる

パワーユーザーカーブの形は左に寄っているか、スマイルした口元のような形になる可能性があります。それら全てが異なる状況を意味します。こちらはスマイルです。

f:id:foundx_caster:20191021031950p:plain

上記のパワーユーザーカーブはソーシャル系プロダクトに関するもので、特徴的なスマイル形が表れています。この形はそのアプリを毎日、もしくはほぼ毎日使用しているエンゲージ度の高いユーザーグループの存在を示しています。このようにユーザーのエンゲージメント頻度が高いソーシャル系プロダクトは広告による収益化に適しています。インプレッションが広告ビジネスを支えられる十分な数になるほど、頻繁にリピートするユーザーが存在するためです。Facebookはおそらく非常に右に寄ったスマイル形であろうことを覚えておいてください。同サービスのMAUのうち、60%以上が毎日リピートしています。

重要なのは、このプラットフォームは時間とともにパワーユーザーを定着・成長させられるという点です。理想的な場合、一連のパワーユーザーカーブはユーザーがスマイルの右側へとシフトしていく様相を示すはずです。ネットワークの密度が成長し、ネットワーク効果が強まるにつれて、ユーザーが毎日のようにリピートする理由がますます大きくなると予想されます。

パワーユーザーカーブは強力な収益化の必要な時期を示せる

スマイル形とは違う例も見てみましょう。 

f:id:foundx_caster:20191021032049p:plain

このプロフェッショナル向けネットワーク製品のパワーユーザーカーブはソーシャル系プロダクトのそれとはかなり異なっているように見えます。1か月に活動がたった1日という形で左に偏っており、僅かな日数を超えると急速に低下します。パワーユーザーは存在しません。ですが、この弱いエンゲージメントでも問題ない可能性があります。全ての企業にスマイル形のパワーユーザーカーブが必要というわけではありません。全ての製品カテゴリについて、極めて高いDAU/MAUが必ずしも適しているわけではないのと同じです。

エンゲージメントが低い場合に重要なのは、ユーザーがエンゲージされた際にその人々から十分な価値を引き出す方法をその企業が有していることです。Wealthfrontのような投資製品や、LinkedInのようなネットワークについて考えてみましょう。ほぼ毎日、積極的にチェックする可能性のあるユーザーはわずかですが、それでも問題ありません。それらのビジネスモデルは日常的な利用とは関係がないためです。

したがって、そのような企業のCEOは以下のことを考えるべきです。ユーザーがエンゲージする頻度が低くても、その事業がなおも効果的に収益化できるような道筋を生み出す方法はあるでしょうか? あるいは、誰がこの製品をより頻繁に使用するユーザーで、どうすればその人々からもっと多くを得られるでしょうか? 製品を「ゲット」させられるほどの「アハ体験」を経験していないユーザーベースがかなり多く、したがって現時点ではそこから価値を得られていないようなその製品の何らかの要素 (例えば、オンボーディング、中心的体験など) はありますか? (もしそうであるなら、うまくいく方法はあるでしょうか? )

7日間のタイムフレームで分析すべき製品 (SaaSや生産性アプリなど) もあれば、30日間のものもある

パワーユーザーカーブのもう一つの形は7日間分のユーザー・エンゲージメントの柱状グラフです。一般にL7とも呼ばれます。7日間のパワーユーザーカーブは月間アクティブ数ではなく、週間アクティブユーザー数 (WAU) を表します。あなたの製品が1週間サイクルを自然とたどる場合、このバージョンを描画することに意味があります。例えば、その製品が月曜日から金曜日までユーザーがエンゲージするような、生産性や仕事に関連する製品の場合です。企業向けSaaS製品はこのバージョンを用いるのが役立つ場合もよくあります。そういった製品は1週間の勤務時間中での利用を促進したいからです。

f:id:foundx_caster:20191021032219p:plain

このような製品は日常的に利用するものではないため、DAU/MAUの使用はその適切な指標にはおそらくならないことに注意してください。5日まではスマイルカーブが実際に存在するところも見られますが、それを6-7日使っているユーザーは少なくなります。このような勤務時間向け製品のパワーユーザーに関しては当然のことです。

したがって、そのような製品企業のCEOは次のようなことを知りたいはずです。1週間に1日または2日しかエンゲージしないユーザーは誰でしょうか? ある組織内で、より多くの価値を得ている特定のチームまたは職務は存在しますか? また、エンゲージメントの低いチームを引きつける機能をどうやって構築できるでしょうか? あるいは、その製品が本当に特定の部署で多くの価値を創出する場合、どうすればもっとよくそのニーズを把握するとともに、その日々のワークフローを支援する方向 (そして自分たちが新機能をアップセルできる方向) での開発を確実に続けられるでしょうか?

経時的な傾向はその製品がますますエンゲージしているかどうかを示し得る

さまざまなWAUまたはMAUのコホートについてパワーユーザーカーブを描画すれば、洞察のある視点を提供してくれる可能性があります。ユーザーベースの中でパワーユーザーになる人々が多くなっているかどうか、エンゲージメントの頻度が高い方へと移行しているのを経時的に確認することで確かめられます。以下に一例を挙げます。

f:id:foundx_caster:20191021032403p:plain

MAUコホートに関する8月から11月にかけてパワーユーザーカーブはユーザーのエンゲージメントが良い方へ移行したことを示しています。ここではユーザー人口の比較的多数がほぼ日常的にアクティブとなっており、 ちょうどスマイルカーブを描いています。

このラインが曲がり始める時期を確認できます。目的は重要な製品リリースやマーケティング上の取り組みが曲線を曲げ始めた可能性がある時期を知ることです。エンゲージメントを増やすためには、それこそが強化すべき部分かもしれません。ネットワーク効果のある製品の場合、ネットワークの密度または流動性を獲得するにつれて、新しいコホートが徐々に向上していくのを期待するかもしれません。

さまざまなコホートのパワーユーザーカーブを見ることにより、製品変更または新しいリリースの成功を継続的に測定できます。ある製品がパワーユーザーに向けた複数の機能を追加すると、パワーユーザーが徐々に増加する状況が起こるかもしれません。

パワーユーザーカーブはアプリの起動やログインだけでなく、中心的活動に基づくこともできる

頻度のヒストグラムは訪問 (ある人が姿を見せたか否か) 以外の行動にも合わせることが可能で、より深いユーザー行動を反映できます。例えば、自分の事業が収益化される方法と密接な関係にあるような、あるいはユーザーがあなたのプロダクトから価値を得ているか否かをよく示すような中心的活動について描画することを望むかもしれません。このことは測定すべき真に重要なものについて考えさせるため、重要と言えます。

f:id:foundx_caster:20191021032507p:plain

コンテンツ発行プラットフォームに関する上記の図は1か月間でユーザーがコンテンツを投稿した合計日数を示しています。多くの製品は中心的活動のパワーユーザーカーブがスマイル形になっています。大部分の人々はそれほど貢献しない傾向にある一方、パワーユーザーである少数のユーザーも存在するためです。YouTubeのクリエイターやeBayの販売者の分布、さらには自分がFacebookに投稿する頻度について考えてみてください。

このようなプラットフォームのCEOまたは製品所有者としては、あらゆる人に成功のチャンスがあるようにプラットフォームを設計することが重要です。Facebookでは、ニュースフィードのアルゴリズムを用いることで、あなたがある人物や組織に対して強い親近感を覚えている場合には、たとえそれがかき消されそうなほど莫大な量のコンテンツ (例えば、情報の発信量がもっと多いメディア企業からのもの) が他にあったとしても、なおもその投稿記事を読めるように徹底されます。OfferUpでは、たとえ私がめったに商品を売らないとしても、何かを販売リストに載せると、それは同社のアルゴリズムによって関連する購入者候補の目に触れるように徹底されます。

なぜこれが極めて重要なのか?

全てのものが日常利用される製品ではありませんし、それで問題ありません。

パワーユーザーカーブを用いれば、ユーザーがあなたのプロダクトにエンゲージしている状況に対する理解を深めることができますし、そのデータを使いながら、より情報に基づいた意思決定を下せます。ということは、自らのエンゲージメントのパターンにとって効果のある適切なビジネスモデルを選択したり、エンゲージメントの少ないユーザー区分に向けたより良いリエンゲージメントの循環をデザインしたり、すでにエンゲージメントの高いユーザーベースが価値を得ている使用例を強化したりできるかもしれません。

DAU/MAUに対するパワーユーザーカーブの利点とは、それがユーザーベース内の多様性を示し、異なるユーザー区分ごとの微妙な差異を (またその結果として、そういった区分それぞれを牽引する要素を) 反映する点にあります。さまざまなユーザー区分ごとにパワーユーザーカーブを数バージョン作ることもまた、特に洞察的な視点を提供してくれます。例えば、地域密着型のネットワーク効果をもつビジネス (UberやThumbtackなど) の場合、市場ごとにパワーユーザーカーブを示すことでどの地域で密度と強力なネットワーク効果が発達しているかがわかります。

もしも総合的な指標のDAU/MAUが低い場合であろうと、パワーユーザーカーブを見ればあなたのプロダクトがユーザー内の極めてエンゲージされている中心的グループに強い印象を与えているかどうかがわかります。また、それがアプリの起動やログインだけを反映したものである必要はありません。自社の特定の製品から特定の価値を引き出しているユーザーと密接に関わる行動に焦点を合わせて、その行動に関するパワーユーザーカーブを描画できます。起業家にとって重要なのは、完全なエンゲージメントを測定できるたった一つの特効薬は存在しないと知ることです。むしろ、自社のビジネスにふさわしい一連の指標を見つけることこそがその目標です。ソーシャルアプリと共同作業アプリでパワーユーザーカーブを比較しても意味はありません。しかし、あなたのプロダクトのパワーユーザーカーブを経時的に見ていったり、製品カテゴリの評価基準を見つけたりすることで、どれが効果的で、どれがそうではないかを知ることができます。

 

著者紹介

Li Jin

Andrew Chen

 

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: The Power User Curve: The Best Way to Understand Your Most Engaged Users (2018)

FoundX Review はスタートアップに関する情報やノウハウを届けるメディアです

運営元