Airbnb の創業者たち (Paul Graham)

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AirbnbのIPOを祝うために、また将来の起業家をサポートするために、Airbnbの何が特別だったのかを説明するのは役立つかもしれないと思い、筆を執っています。

Airbnbの何が特別だったかというと、彼らのひたむきさ (earnest) です。彼らは中途半端なことは一切しなかったですし、それはインタビューの中でも感じられました。私たちがスタートアップ企業と面接をした後には、いったい何をすべきかわからず、話し合いをしなければならないケースが時々ありました。一方で、私たちはお互いを見て微笑むだけの時もありました。Airbnbsのインタビューはその両方でした。私たちは、そのアイデアがそれほど好きではありませんでした。ユーザーも、その段階ではいませんでした。何の成長もしていなかったのです。しかし、創業者たちはエネルギーに満ち溢れていて、彼らを好きにならないわけにはいられませんでした。

その第一印象は誤解ではありませんでした。バッチ期間中の私たちの間でのBrian Cheskyのあだ名は、漫画のキャラクターのような彼のエネルギッシュさから、「タズマニアン・デビル」というものでした(訳注:タズマニアン・デビルはルーニー・テューンズのキャラクター。渦巻のように回転しながら移動する)。しかも3人ともそうでした。YCの期間中、Airbnbの創業者たちほど一生懸命に働いた人はいなかったと思います。私がAirbnbの創業者たちと話すとき、彼らは常にメモを取っていました。オフィスアワーでアイデアを提案して、その次に彼らと話したときには、彼らはそれを実行に移しているだけでなく、その過程で彼らが得た2つの新しいアイデアも実行に移していたのです。「彼らはおそらく、私たちが出資したスタートアップの中で最高の態度を持つ人たちだ」と、私はバッチ中にMike Arrington(訳注:TechCrunch の創業者)に書いたものです。

そして彼らは今でもそうなのです。Jessicaと私は2018年の夏、Brianと3人だけで夕食を取りました。この時点で会社は10年です。そして彼はAirbnbができる新しいことのアイデアについて、メモを取っていました。

Brian と Joe と Nate に初めて会ったとき、私たちが気づかなかったのは、Airbnbが最後の一歩を踏み出そうとしているということでした。彼らは1年間事業に取り組んでも成長が見られなかったため、これが最後のチャンスであるとチーム内で同意していたそうです。Y Combinatorを試してみて、それでも会社がうまくいかなければ諦める、と。

普通の人ならもう諦めていたでしょう。彼らはクレジットカードで会社の資金を調達していました。バインダーの中には限度額を超えたクレジットカードで詰まっていました。投資家はこのアイデアをあまりまともに捉えていませんでした。彼らがカフェで会ったとある投資家は、彼らとの会議の途中で出て行ってしまったそうです。彼らはトイレに行ったと思っただけのようでしたが、彼は戻ってこなかったのです。「彼はスムージーさえ飲み終えていませんでした」とBrianは言っていました。そのころは2008年の後半で、数十年で最悪の不況でした。株式市場は自由落下状態にあり、さらに4ヶ月間底を打つことはありませんでした。

なぜ彼らはあきらめなかったのでしょうか? これは尋ねるべき有用な質問だと思います。人は、物質と同じように、極端な状況下でその本質を明らかにします。一つはっきりしているのは、彼らはお金のためだけにやっていたわけではない、ということです。金儲けのための計画としては、これはかなりお粗末なものでした。だって、一年仕事をして、彼らが見せられるものといえば、限度額いっぱいに使ったクレジットカードのバインダーだけなのですから。では、なぜ彼らはまだこのスタートアップに取り組んでいたのでしょうか? それは最初のホストとしての経験があったからです。

デザインカンファレンスの期間中、自分たちの床にあるエアベッドを借そうとしていました。そのとき彼らが望んでいたのはその月の家賃を支払うのに十分なお金を稼ぐことだけでした。しかし、驚くべきことが起こりました。彼らは最初の3人のゲストと一緒に滞在することを、ホストとして楽しんだのです。そしてゲストもそれを楽しんでいました。彼らもゲストも、ある意味強制されてやったことなのに、全員が素晴らしい経験をしていたのです。ホストにとっては、文字通り目の前にあったお金を稼ぐための新しい方法であり、ゲストにとっては、様々な意味でホテルよりも優れた旅行の新しい方法でした。

その経験があったからこそ、Airbnb の創業者たちは諦めなかったのです。彼らは何かを発見したことに気付きました。彼らは未来の片鱗を見たのです。そして、それを手放すことはできませんでした。

"Airbnb" と呼ばれている体験をしたら、人々は「これが未来だ」と気づくだろうと、彼らは知っていました。しかし、それを実際に試してみた場合のみです。当時の人々はそうではありませんでした。それがY Combinatorにいた時の問題点、つまり成長をスタートさせることだったのです。

YC中のAirbnbの目標は、いわゆる「ラーメン代稼ぎ」(日本語訳)に到達することでした。これは、創業者がラーメンで生活していれば、会社が創業者の生活費を払えるくらいの収益を上げることを意味します。ラーメン代稼ぎはスタートアップの最終目標ではありませんが、道の途中での最も重要な閾値になります。ラーメン代稼ぎができるということは、事業を継続するために投資家の許可が必要なくなる地点なのです。Airbnbの創業者たちの場合、ラーメン代稼ぎのポイントは月4000ドル。家賃3500ドル、食費500ドル。彼らはこの目標をアパートのバスルームの鏡に貼りました。

Airbnbのような事業で成長を始める方法は、市場の中で最もホットな部分集合に焦点を当てることです。そこから成長を始めることができれば、他の部分にも広がっていきます。私がAirbnbに最も需要がある場所を尋ねると、彼らはニューヨーク市だと答えました。そこで彼らはニューヨークに焦点を当てました。そして彼ら自身(日本語訳:スケールしないことをしよう)が実際にホストを訪問し、リスティングをより魅力的なものにするための手助けをしました。その中でも特に重要だったのが、より良い写真でした。だからJoeとBrianはプロのカメラを借りて、ホストの場所自体の写真を撮りました。

これは、単にリスティングが良くなるだけではありませんでした。それはまた、彼らのホストについての彼らを教えてくれました。初めてのニューヨーク旅行から帰ってきたとき、私はホストについて驚いたことは何かと尋ねたところ、一番驚いたのはホストの多くが自分たちと同じような立場にあることだと言いました。この数十年で最悪の不況で、ニューヨークを真っ先に襲ったのです。Airbnbが間違いなく人々に必要とされていると感じることで、Airbnbの創業者たちの使命感に拍車をかけることになりました。

2009年1月下旬、Y Combinatorに参加して約3週間が経過した頃、彼らの努力は成果を見せ始め、数値は上昇していきました。しかし、それは成長なのか、単にランダムな変動なのかどうかを確認することは困難でした。2月までには、それが本当の成長であることは明らかになりました。2月の第一週には460ドル、第二週には897ドル、第三週には1428ドルの手数料を稼いでいました。彼らは離陸したのです。ブライアンは2月22日にメールを送ってきて、ラーメン代稼ぎに達したと言い、最後の3週間の数字を教えてくれました。

「来週に向けて、何を準備するべきかを分かっていますよね」と私は返信しました。

Brian の返事は7つの言葉でした。「スローダウンするつもりはありません (We are not going to slow down.)」

 

 

著者紹介

Paul Graham

Paul は Y Combinator の共同創業者です。彼は On Lisp (1993)、ANSI Common Lisp (1995)、ハッカーと画家 (2004) の著者でもあります。1995 年に彼は Robert Morris と最初の SaaS 企業である Viaweb を始め、1998 年に Yahoo Store になりました。2002 年に彼はシンプルなスパムフィルタのアルゴリズムを見つけ、現在の世代のフィルタに影響を与えました。彼は Cornell から AB を、Harvard からコンピュータサイエンスの PhD を授けられています。

 

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: The Airbnbs (2020)

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