スタートアップ プレイブック

原文:  Startup Playbook、著:Sam Altman、イラスト:Gregory Koberger 

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私たちはスタートアップへのアドバイスに多くの時間をかけてきました。1-on-1でのアドバイスが常に重要であることに変わりはありませんが、Y Combinator の拡大のためには、このアドバイスの最も一般的な部分を抽出してプレイブックのような形にし、YC や YC Fellowship 企業へ配布するのが良いのではと考えました。

そして、その戦略をみなさんにお渡しすべきだと思ったのです。

このプレイブックはスタートアップ企業の世界に初めて参入した人々を想定読者としています。プレイブックの大半は今までにYCのパートナーが書いたものをたくさん読んだ人にとって目新しいものではありません。目標はさまざまな著作を1つにまとめることです。

この先、どのようにスタートアップの規模を拡大するかについて述べたパートIIが出るかもしれません。しかし今回の大部分の内容は、どのようにスタートアップを始めるかについて述べています。

スタートアップとしてのあなたのゴールは、ユーザーに愛されるものを作ることです。もしそれができれば、後はもっとたくさんのユーザーを得ることができる方法を考えるだけです。

しかし、この始めの部分が肝心です。今日存在する、非常に成功している企業を思い浮かべてみてください。彼らは皆、ひとつの製品、特にその早期ユーザーたちが愛するあまり周りの人々に伝えずにはいれなかった製品からスタートしています。もしそのような製品を作り出せなければ、あなたは失敗するでしょう。もしあなたが自らの都合の良いように解釈をして、ユーザーが製品を愛していないのにそうだと考えていても失敗します。

スタートアップの墓場には、この段階をスキップできると考えていた人々の墓標であふれかえっています。

まず少人数のユーザーが愛するような製品を作ることが、大人数のユーザーが好む製品を作るよりはるかに良いのです。好き (like) から愛 (love) へと変化させるよりも、さらなるユーザーを得ることの方がはるかに簡単です。好感度の総和では差異がないとしても、です。

スタートアップを始める選択をする前に忠告しておきます。スタートアップという仕事は最悪です! YCに入った創業者たちから一貫して返ってくるフィードバックの一つは、スタートアップのための作業や起業に伴う厳しさに対する認識を持っていなかったため、彼らが想像していたよりもはるかに大変だったというものです。軌道に乗った早期のスタートアップに参加することのほうが、金銭面でははるかに良い選択でしょう。

一方で、スタートアップを始めることは、あなたのキャリアにとって実際はそれほどリスキーではありません。もしあなたがテクノロジー分野に強いならば、失敗しても雇用の機会はあるでしょう。

ほとんどの人々はリスクを評価することが、非常に不得意です。私の個人的な考えとしては、最もリスクの高い選択は、あなたが夢中になるアイデアやプロジェクトを持っているにも関わらず、その代わりに安全で簡単な達成感のない仕事をし続けることです。

スタートアップを成功させるために、あなたには、素晴らしいアイデア (と大きな市場)、チーム、製品、実行力が必要です。

パート I アイデア

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私たちがYC企業に最初に問うのは、何を作ろうとしているのか、そしてなぜ作ろうとしているのか、です。

私たちは、この問いに対する明確で簡潔な答えを求めています。創業者としてのあなたと、アイデア自体を評価するために、この質問を行っています。

創業者にとって、考えを明確にし、それを伝えることは重要です。採用や資金の調達、セールスなどでも必要になってきます。

概して、アイデアを伝えるためには、明快でなくてはなりません。複雑なアイデアは混乱した思考や問題をでっちあげているサインです。もしアイデアを初めて聞いたとき、少なくとも何人かがそれほど興奮しないときは悪いサインでしょう。

もう一つ私たちが問うことは、誰がその製品を喉から手が出るほど欲しがっているか、です。

最良の場合、あなた自身がターゲットユーザーとなります。第二の最良な場合は、あなたがターゲットユーザーについて非常によく理解しているときです。

もし、ある会社がすでにユーザーを得ているならば、私たちはそれが何人でどのくらいの速度でその数が増えているかを問います。私たちはなぜもっと早く増えないのか、解決しようとします。そして特にユーザーが本当に製品を愛しているのかを探ります。

これは通常、会社に促されることなくユーザーが友人たちに製品を使うように勧めることを意味します。私たちはまたその会社が利益を得ているのか、そしてもしそうでないのならば、何故なのかを問います。

もし会社がユーザーをまだ得ていないのであれば、仮説を検証するために最低限何が必要なのかについて考えます —つまり最上のシナリオから逆算していき、最初に始めるべき核の部分を探ろうとします。

アイデアを検証する方法として、まずは立ち上げてみて何が起こるかをみてみるか、もしくはアイデアを売り込んでみるか (例えば、コードを書く前に意向表明書を集めてみる)、があります。

前者は消費者向けアイデアの場合に適しており (ユーザーは使うだろうと言うかもしれませんが、実際は他の製品に埋もれて人目をひくことはないでしょう)、後者は企業向けアイデアの場合に有効です (もしある企業が購入の意思を表明してから、作り始めれば良いのですから)。

特にあなたが企業である場合、私たちの最初の質問は、すでに顧客からあなたが作る製品を購入する旨の意向表明書を有しているか、になるでしょう。バイオテクノロジーやハードテック企業の多数において、アイデアを検証するために、はじめに潜在顧客と話し、それから最初に手がける最小限のテクノロジー部分について考える、という方法をとっています。

ユーザーからフィードバックを得る過程で、アイデアを膨らませていくことが重要です。そしてユーザーについて、とても深く理解しておきましょう。これは、アイデアの評価の際や、素晴らしい製品、会社を作り上げるために必要となってきます。

前述したように、スタートアップは本当に大変です。時間も大変かかり、常に熱心な努力が要求されます。創業者と社員にはこれらを維持するミッションが必要です。そのため私たちは、なぜ創業者がその特定の会社を始めたいのかについて問いかけます。

私たちはまた、その会社がどのようにしていずれ市場を独占していくのかを問いかけます。このためには様々な条件がありますが、私たちは Peter Thiel のものを使います。当然私たちは競合企業に対して非倫理的な方策をとることを求めているわけではありません。代わりに私たちは、規模がどんどん拡大していくような、さらには模倣することが難しいようなビジネスを求めています。

最後に市場についてです。現在どの程度の規模なのか、その成長速度、そして何故10年間で大規模になるのかどうか、問いかけます。どうしてその市場が急速に成長しているのか、そしてなぜスタートアップとして目指すに値する市場かについて理解しようとします。私たちは、大部分の人々がまだ気づいていない大規模なテクノロジーの変遷が始まる瞬間を好みます — 大企業はそれらに取り組むのがうまくありません。そして反直観的ですが、最善の答えは小さな市場の大きな部分の獲得を目指すことです。

アイデアに関するその他の考え:

私たちは、何かの派生的なアイデアよりも新しいアイデアを好みます。ほとんどの巨大企業は全く新しいものから始まっています ((訳注:全く新しいもの以外で)唯一許される「新しい」の定義は、これまでより10倍良いものだけです)。もしあなたの他に10社ほどの会社が同時期に同様の、既存のものに似ているプランを始める場合、私たちは懐疑的になります。

こうしたものを選ぶ反直観的な大きな一つの理由として、簡単で派生的なことを行うよりも、新しく難しいことを行う方がはるかに簡単だからです。後者の場合の方が人はあなたを助け、協力するでしょう。前者の場合ではそうはなりません。

最高のアイデアは一見悪そうで実際には良いものです。だから、あなたがアイデアに関して必要以上に秘密主義になる必要はありません。もしそれが実際に良いアイデアであれば、一見、盗む価値があるアイデアには見えないでしょう。万が一、盗む価値があるように思えても、良いアイデアを持っているだけの人々に比べて、実際に素晴らしいアイデアを素晴らしい会社まで昇華させようとする人々はその何千分の1でしょう。

それに、もしあなたが何をやろうとしているのか人々に伝えていれば、彼らは手伝いを申し出るかもしれません。

あなたのアイデアを人に伝えることについていえば — そのアイデアを初めて聞いた人がとても興奮することは重要ではありますが、ほとんどすべての人があなたのアイデアは最悪だと言うことでしょう。彼らは正しいかもしれません。彼らはスタートアップの評価ができないか、もしくはただ単に嫉妬しているだけかもしれません。

どのような理由であれ他人による批判は頻繁に起こります。そのような考え方に影響を受けないように努めても影響は受けてしまうし、あなたを傷つけもします。自らに自信をつけて敵対者たちにあまり足を引っ張られないようにするのが早ければ早いほど、それだけあなたはうまくいくでしょう。あなたがどれほど成功していようと、敵対者は常に付きまといます。

もしあなたにアイデアがなくてもスタートアップを始めたいとしたら? その場合は、恐らく始めるべきではありません。アイデアが初めにあり、それを世に出すための方法がスタートアップである方がはるかに良いです。

私たちは以前、アイデアを持っていないけれども見込みのある創業チームに資金を提供すれば資金提供後に成功しそうなアイデアにたどり着くのでは、と考えて実験を行いました。

結果、彼ら全員が失敗しました。問題点の一部は良い創業者はたくさんの (大抵の場合、多すぎるほどの) 良いアイデアを持っているものだからだと思います。しかし最大の問題点は、スタートアップを始めてから急いでアイデアを思いつかなければならず、しかもすでに公式の企業であるため、アイデアを十分クレイジーにできなかった、という点でした。こうなるともっともらしくて安全な、しかし派性的なアイデアに行き着きます。これが順番を逆転することの危険性です。

そのためスタートアップのアイデアを思いつこうと、あまり躍起にならない方が良いでしょう。代わりに様々な事柄について学んでみてください。問題点や非効率な事柄、主要なテクノロジーの変遷に気づくようなトレーニングをしてください。あなたが興味のあるプロジェクトに取り掛かってみてください。少し自分の道から逸れて、頭が良くて興味深い人たちと関わってみてください。そのうちいずれアイデアが湧いてくるでしょう。

パート II 素晴らしいチーム

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平凡なチームでは素晴らしい会社は立ち上げられません。私たちが最も注視する項目の一つに、創業者の力量があります。私がレイターステージの投資を行っていた頃、創業者に雇われた社員たちの力量についても同等に注視していました。

どのような要素が偉大な創業者たるのでしょうか? その最も重要な特徴は、止められなさ、決断力、したたかさ、そして機知に富むことなどです。知性と情熱も非常に高く評価します。これらは経験よりもはるかに重要で、もちろん「X言語やYフレームワークに精通している」ことよりも重要です。

私たちが気づいた最も成功している創業者たちの特徴としてはこんなものがあります。そこで働く社員が、創業者について「彼/彼女は何であろうと必ず成し遂げるだろう」と感じるため、創業者と共に働くことにストレスを感じさせない、ということです。時には意思の力によって成功を収めることができるのです。

よい創業者は一見矛盾するような多数の特徴を備えています。重要な例のひとつとして、頑固さと柔軟さが挙げられます。創業者としては会社のコアとそのミッションについて、確固たる理念を持っていなければなりません。しかしそれでもなお、非常に柔軟で、様々なこと全てに関する新たな事柄について学ぶ意思を有していなければなりません。

最高の創業者は異常なまでに応答が早いものです。これは決断力、フォーカス、 強度、そして物事をやり遂げる能力の指標になります。

なかなか話しづらい創業者はほぼいかなる場合でも悪い創業者であると言えます。コミュニケーションは創業者にとって非常に重要なスキルです — 実際に私は、これが最も重要な、しかしなかなか語られることのない、創業者としてのスキルだと思います。

テクノロジ系のスタートアップは会社の製品やサービスを作り上げることのできる創業者が少なくとも1名と、セールスやユーザーとの対話が得意な (もしくは得意になり得る) 創業者が少なくとも1名必要です。これらは同一人物でも構いません。

共同創業者を選ぶ際は、これらの基準を考慮してみてください — それは今後あなたが下すなかで最も重要な決断の一つでありながら、しばしば全くの手当たり次第行われます。"共同創業者デートアプリ" で見つけたような赤の他人ではなく、あなたがよく知る人物を選びましょう。一緒に働く可能性のある人の誰に関しても、データが多い方がより正確に評価できます。そしてその評価は決して間違えたいものではありません。それに、いずれかの時点で、スタートアップの期待値は、おそらくマイナスになるでしょう。もし共同創業者と前からの知己であれば、その人を失望させたくない余り、そのまま立ち止まらず進み続けることでしょう。共同創業者との分裂は、スタートアップの早期の死における最も主な原因です。私たちはそのような例を、創業者同士が会社を設立するという目的のためだけに出会った場合に、何度も何度も目にしてきました。

ベストな状況は良い共同創業者と出会うことです。2番目にベストな状況は、単独の創業者となることです。断然最悪な状況は悪い共同創業者を持つことです。もしうまくいかない場合は、迅速に別れるべきです。

株に関する簡潔なコメント: 株式の分割に関する議論は時間と共に易しくなるものではありません — 早いうちに決着をつけておく方が良いでしょう。ほぼ均等に分配することが最良ではありますが、2人の創業者がいる場合にはうちどちらか一方が1株余分に所有しておくことで、共同創業者が喧嘩別れした場合に膠着状態は防げます。

パート III 素晴らしい製品

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成功への秘訣: 素晴らしい製品を持つこと。それが大企業全てにおける、唯一の共通点です。

ユーザーが愛する製品を作り出すことができなければ、あなたは最終的に失敗するでしょう。しかし、創業者たちはいつもあの手この手でごまかそうとします。スタートアップを始めると、あなたの人生においてごまかしはきかなくなります。

素晴らしい製品が、唯一、長期にわたり成長できる道です。最終的に会社が成長するためのテクニックが通用しないほどまでに会社が大きくなった際、あなたの製品を欲する人々の力で成長していかねばならなくなります。この点が非常に成功している企業を理解する際、最も重要になってきます。他の方法はありません。本当に成功しているテクノロジー関連企業を思い浮かべてみて下さい — どこもそうしています。

あなたの会社で「製品改良のモメンタム」を作る必要があります。ユーザーと話し合い、あなたの製品を使用するところを観察し、平均以下の部分を見つけ出し、製品改良を行うべきです。そしてその過程を繰り返してみて下さい。この一連のサイクルが、会社での一番の焦点であり、それによってその他全てが運営されるべきです。もし毎週5%製品を改良していくとすると、それは複利でどんどん増していきます。

このサイクルを繰り返す頻度が高いほど、通常、会社の出来は良くなります。YCの期間中、私たちは創業者たちに製品を作り上げ、ユーザーと話すようにだけ言います。このこと以外に、食事や睡眠、エクササイズ、親しい人と時間を過ごすことを除いて行う必要はありません。

このサイクルを正しく行うには、ユーザーたちとの距離を大きく縮める必要があります。文字通り、ユーザーがあなたの製品を使用する様子を観察してみて下さい。もしできるなら、彼らのオフィスに腰を下ろしてみて下さい。彼らがあなたに言うことと、実際に行うことの両方を尊重して下さい。可能な限り、創業者とユーザーの間に誰も置かないで下さい — つまり、創業者がセールスや顧客サポートなどを行う必要があります。

可能な限り、ユーザーについて理解してみて下さい。ユーザーが真に何を必要としているのか、どこにニーズがあるのか、何が琴線に触れるのか、考えてみて下さい。

「スケールしないことをしよう」がスタートアップにとってのモットーです。通常、初期のユーザーはひとりひとりリクルートする必要があります (Ben Silbermann はパロアルトのコーヒーショップで赤の他人に近づき、Pinterestを試すように頼みました)。そして、彼らが欲するものを作り出す必要があります。

多くの創業者たちはこの部分を嫌い、報道陣の前で製品を発表したがります。しかしながら、その手法では、ほぼ確実に上手くいきません。ユーザーを手作業でリクルートし、彼らが知り合いに進めたがるほどの素晴らしい製品を作ってください。

また物事を細かい部分に分け、繰り返しや改良を行う必要があります。はるか遠い先の事柄まで計画しようとしてはいけません。そして決してひとつの大きな発表の中に、全てを詰め込もうとしてはいけません。とてもシンプルな —できる限り表面積の少ない— 事柄から始め、そして考えている以上に早期に着手することをお勧めします。実際に、シンプルであることは常に良いことであり、あなたの製品や会社を可能な限りシンプルに保つように心がけて下さい。

問題のあるスタートアップに私たちが必ず問いかける質問: ユーザーはあなたの製品を1回以上使用していますか?ユーザーはあなたの製品に夢中になっていますか?もしあなたの会社がなくなってしまったら、ユーザーたちは途方にくれるでしょうか?ユーザーはあなたに言われることなく、あなたの会社を他の人に勧めているでしょうか?B2B企業の場合だと、少なくとも10の有料顧客を得ているでしょうか?

もしそうでなければそれが内在する問題であり、私たちは製品をより良くするよう、スタートアップ企業に要求します。なぜ会社が成長しないのかに関する言い訳について、私は懐疑的です — ほとんどの場合、本当の原因は製品が十分良くないからです。

スタートアップが製品をその次どうするべきか、または製品が十分良いのかわからないときはユーザーの元へ行き、実際に話すよう促します。この手法は全ての場合には通用しません —Fordに人々が要求することといえば、早い馬だったことは間違いないでしょう— しかし驚くほどほとんどの場合で通用します。さらに一般的には、社内でいかなる事柄においても意見の不一致があった場合は、ユーザーと話すのが一番です。

最高の創業者たちは時には過剰なまでに、重要でなさそうな細部にまで渡って、製品の品質にこだわります。しかしそれで上手くいっているように見えます。ところで「製品」はユーザーが会社と行う全ての形の交流を含みます。素晴らしいサポート、素晴らしいセールスインタラクションなどを提供する必要があります。

素晴らしい製品を作れなかったら、あなたを救えるものは何もないことを忘れないで下さい。

パート IV 素晴らしい実行力

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素晴らしい製品を作りあげることは必要不可欠ですが、それで終わりという訳ではありません。あなたにはまだ素晴らしい会社をあなた自身の手で作り上げるという仕事が残っています —全ての仕事をこなしてくれる「経験豊富なマネージャー」を雇うと言うファンタジーは非常に流行していますが、同時に、失敗した会社の墓場ともなっています。長期間にわたり誰か別の人にあなたの仕事を外注することはできません。

これは明白なように思えますが、あなたはお金を稼がなければなりません。ちょうど良いこの機会に、どのようにそれが上手くいくのかについて考えてみましょう。

CEOとしての唯一共通する職務内容は、その会社が確実に成功するようにすることです。たとえあなたが欠点だらけの人間で普通、CEOとして不適任だとしても、あなたのスキルを補完してくれるような人々を雇い、各々の仕事に取り組んでもらうことで、創業者としてCEOの仕事を行うことができます。上等なMBAを持った経験豊富なCEOには、あなたのようなスキルのギャップはないかもしれません。しかし彼/彼女はユーザーについて理解しようともしないでしょうし、あなたのような製品に対する直観も持ち合わせておらず、さらにはあなたほど関心を持たないでしょう。

成長

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成長とモメンタムが素晴らしい実行のためには欠かせません。成長は (「1ドルを90セントでばらまく」タイプの成長でなければいずれも) 全ての問題を解決してくれ、成長不足は成長によってのみ解決できます。成長段階ではあなたは勝利へと向かっているように感じ、みんな幸せです。成長過程では、常に新たな役割や責任が生まれ、人々は自分のキャリアが前進しているように感じます。成長が止まってしまったら、あなたは敗北へ向かっているように感じ、みんな不幸になって去っていくでしょう。成長が停滞すると人々はただ責任をなすりつけ合い、非難し合うようになります。

疲れ果てた創業者と社員たちは、大抵の場合、モメンタムの無いままスタートアップを行っています。この点が士気をくじくということは、誇張しても誇張しすぎることはありません。

素晴らしい実行のための重要な教えは、「決してモメンタムを失うな」です。しかしどうやって行うのでしょうか?

最も重要な方法はそれを最優先事項にすることです。会社はCEOの判断により動きます。会社全体で最適化したひとつの指標を持つことは意味があります。そして適切な成長指標について考えだす時間をかけるだけの価値はあります。もし成長を重要視し、達成目標を設定するならば、会社の皆はそれに力を入れるでしょう。

いくつかの例を紹介します。

Airbnbの創業者たちは、達成目標を含めた成長計画のグラフを描きました。それをあらゆる場所 —冷蔵庫やデスクの上、トイレの鏡など— に貼りました。もしその週の目標数を達成すれば、良しとなります。もし到達できなければ、その事のみが皆の話題にのぼります。

Mark Zuckerbergは以前、Facebookの最も革新的な点のひとつは、成長が停滞した時に作った Growth Group の創設だと述べています。このグループは、社内で最も誉れあるグループのひとつでした (そしておそらく今現在でもそうでしょう) — 皆がどれほど重要かを認識していました。

成長を抑止する要因をリストアップしましょう。会社として、早く成長を遂げるための方法について話してみて下さい。もし制約要因が何かを認識しているならば、自然とどのように解決するかについて考えを巡らせている事でしょう。

何事でも行おうとしている事に対して、自らに問いかけてみて下さい。「これが本当に成長を最適化するための最善の方策なのだろうか?」例えば、会議に出席することは、通常その場で大量に製品を売れると見込んでいる場合を除き、成長を最適化させるためのベストな方法だとは言えません。

指標 (そして財政面) に関して極端なまでに内部の透明性を保つのは、非常に良いことです。どういった理由か、創業者たちはこれを非常に怖がります。しかし会社全体を成長に集中させ続けるのは、とても良いことです。社員たちの指標への集中の度合いと、会社の成功との間には直接の相関関係があるようです。もしこの指標を隠してしまうと、人々がそれを目的とするのは難しくなります。

指標に関して言うと、虚栄の指標 (vanity metrics) に惑わされないで下さい。最もありがちな間違いは、契約数に集中し、継続率を無視することです。しかし継続率は新たな顧客の獲得と同じくらい、成長にとって重要です。

モメンタムを保つために内部でのリズムを確立することも重要です。「ドラムビート」のような進捗を目指すべきです —社内にも社外にも話すことができるような、新たな特色、顧客、採用、収益指標、パートナーシップなどです。

挑戦的でありつつもぎりぎり実現できる目標を設定し、毎月、進捗について振り返るべきです。そして成功を祝いましょう! 戦略について常に内部で話し合いましょう。皆と顧客から聞き得たことなどを分かち合いましょう。内部で情報 —その良し悪しに関わらず— を共有すればするほど、会社は良くなっていきます。

創業者たちが嵌ってしまういくつかの落とし穴が存在します。ひとつには、会社が信じられないほど急速に成長をしているのに、全てが壊れ、非効率的であるかのような場合、誰しもがいずれ崩壊していくことを恐れます。現実には、このようなことが起こるのは稀に思えます (Friendsterが最も最近の、技術上の負債によりスタートアップが失敗した例となるでしょう)。反直観的ですが、急成長を遂げる一方で何も最適化されていない状況は実は良いことです —それを改善すればさらなる成長が見込めるのですから! 私が気に入っている投資は、急成長している一方で全く最適化されていない会社への投資です —価値が非常に低く見積もられているのですから。

関連する落とし穴に、遠い先の将来の問題まで考えることが挙げられます —すなわち、「大規模にどうやって行うか?」答えはそこまでたどり着いた時に考えれば良いことです。この問題について考えを巡らせる間に失敗するスタートアップのケースは、十分に考えなかったために失敗するケースよりもはるかに多いのです。現在の規模の10倍のスケールでどのように行うかについてだけ考えるのが、大体の目安です。最も早期の段階のスタートアップでは、「スケールしないことをしよう」を壁に掲げ、それを指針にすべきです。例として、素晴らしいスタートアップは常に、早期から素晴らしい顧客サービスを有しており、悪いスタートアップはユニットエコノミクスへの影響のみに捉われ計ることができません。しかし素晴らしい顧客サービスは早期の熱心なユーザーを生み出し、製品が良くなるにつれサポートの必要性は薄くなっていきます。何故ならあなたはユーザーが何に苦労しているのかをすでに知っていて、その分野に関して製品や顧客体験を改善していくことができるからです。(ところで、これは非常に重要な例です —素晴らしいカスタマーサポートを提供して下さい)

それには何か落とし穴があるのでしょうか? 「スケールしないことをしよう」のモットーは、最終的にお金を稼がなければならないという事実を免除するわけではありません。初期の段階で悪いユニットエコノミクスであっても大丈夫です。しかし、なぜユニットエコノミクスが今後改善していくか、正当な理由を持っていなければなりません。

もう一つの落とし穴は、パーセンテージ基準では良くても絶対値としてうまく成長しておらず、士気がくじかれることです。人間は直観的に指数関数的増加を捉えることが非常に苦手です。あなたのチームにこの事実を、そして全ての巨大企業がごく少数から成長していったことを思い起こさせてください。

最も大きな落とし穴の一つに、創業者が信じている事柄が成長を促しているものの、実際問題としては実現不可能であり、ただ無為に大量の時間を消費してしまうことがあります。一般的な例として、他企業との取引、そして「大々的なメディア発表」が挙げられます。これらに注意をして、行っても効率的にうまくいくことは決してないと理解して下さい。代わりに、全ての巨大企業が行ってきた方法で成長していきましょう —ユーザーが愛する製品を作り、まずはユーザーを1人ずつリクルートし、それから数々の成長戦略 (広告、紹介プログラム、セールスやマーケティングなど) を試し、うまくいった事柄に力を入れましょう。顧客の皆さんに、彼らのような人々はどこで見つかるのか、聞いてみましょう。

セールスやマーケティングは悪い言葉ではないことを覚えておいて下さい。元々の製品が素晴らしくなければセールスもマーケティングも何の役にも立ちませんが、やはりこれらは成長を実質的に加速させます。もしあなたが企業である場合、これらが上達することはもはや必須事項ですらあります。

特にセールスについて怖がらないで下さい。少なくとも創業者の1人は、人々にあなたの製品を利用するよう頼み、お金を稼ぐことが得意とならなければなりません。

Alex Schultz は消費者向け製品の成長に関するレクチャーを行なっており、見る価値があります。B2B製品に関しては、ほぼ常に正しい答えは月ごとに収益の成長を追うことです。また長期のセールスサイクルは初めの数ヶ月は見苦しくなるであろうことを覚えておいて下さい (しかし時として、当初の顧客としてスタートアップ企業向けにセールスを行うことで、この問題を解決できます)。

フォーカスと強度

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経営方法に関するアドバイスを二言に凝集するなら、私はフォーカスと強度を挙げます。これらの言葉は私が知っている最上の創業者たちに真実当てはまります。

彼らは容赦がないまでに、製品と成長にフォーカスしています。彼らは全てを行おうとしていません —実際に、彼らは「ノー」をよく言います (会社を立ち上げるような、新たな事柄に挑戦したがる人々にとっては難しいことです)。

一般的なルールとして、最初の事柄に関して達成しない限り、会社を次なる事柄に取り組ませないで下さい。私が知る限り、複数の事柄を一度に始めて大企業まで成長した例はありません —彼らは一つの事柄に対して多数の心証をもつことから始まり、初めから終わりまで見届けることになります。あなたができることは、思っている以上にはるかに少ないのです。とても、とても一般的なスタートアップ失敗の原因は、間違ったことをたくさん行なってしまうことです。優先順位をつけることが、難しいけれども非常に重要です。(会社の優先順位を決めることと、あなた自身の戦略的な優先順位を決めることは同等に重要です。私が個人的に一番うまくいくと思った方法は、毎日、3個までの主要タスクと30個までの比較的重要でないタスクを紙にリストアップすること、そして全体目標について年間のToDoリストを作成することです)。

偉大な創業者たちは多数の大きいプロジェクトを行いませんが、代わりに為すことは何でも非常に高い強度で行います。物事を非常に迅速に処理していきます。彼らには決断力がありますが、それはスタートアップを行う上で難しいことです —物事を行うのには複数通りの方法があるため、また世の中には沢山の悪いアドバイスが存在するため、あなたは矛盾する沢山のアドバイスをもらうことでしょう。偉大な創業者は、それらの全てに耳を傾け、迅速に自ら決断を下します。

これは全ての事柄を高い強度で行えという意味ではありません —それは不可能です。適切な事柄を選択しなければなりません。Paul Buchheit が述べたように、10%の努力で90%の価値を生み出す方法を見つけて下さい。マーケットはあなたがどれほど懸命に働いたかは、気にかけません —唯一あなたが適切なことを行ったかを気にかけます。

製品の質にこだわることと、迅速に進めることを両立させることは非常に困難です。しかしそれが偉大な創業者たる、最も明白な条件です。

私はこれまでにただの一度も、フットワークの鈍い創業者が成功した例を見たことがありません。

あなたも他のスタートアップと違いはありません。あなたもまたフォーカスし続け、しかし迅速に動かなければなりません。ロケットや原子炉を開発する企業でさえ、それを成し遂げます。失敗する会社は、なぜ彼らは特別で迅速に動く必要がないのか、稚拙な言い訳をします。

上手くいくことを見つけた場合、そのまま続けてみて下さい。気を逸らしたり他のことをしないで下さい。手綱を緩めようとしないで下さい。

初期の成功に捉われないで下さい —ネットワーキングイベントへの参加やパネルの前での発表はたくさん行っても、見込みのあるスタートを切るための助けとはなりません。初期の成功を得ようとするスタートアップ創業者はその後、以下のいずれかの道を辿ります: 今まで行ってきたことをそのまま続けるか、もしくは「パーソナルブランド」化するための思索に時間を費やし、創業者の立場を満喫し始めます。

会議やプレス発表を断るのは難しいことです —気分は良いですし、あなたの会社のスペースでは他の創業者に注目が行くことはないのですから。しかしそれも長くは続きません。いずれ、メディアは誰が本物の勝者か気づきます。そしてもしあなたの会社が本当に成功していたら、望む以上の注目を得られることでしょう。極端な場合 —専属の広報係を従えている初期段階にいる創業者たち— には、テレビの中だけに存在しているような人々が実際に存在し、彼らはほとんど常に失敗に終わります。

長期的にはフォーカスと強度が勝ち残るでしょう。(Charlie Roseは以前、このように述べています。フォーカスと人とのつながりによって成し遂げてきた世の中での事柄が、常に自分に最後まで残る、と)。

CEOの仕事

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前述したように、CEOとしての唯一共通する職務詳細は、その会社が確実に成功するようにすることだと、私は述べました。それは正しいですがもう少し具体的に、CEOがどのようにして時間を過ごすべきかについて述べたいと思います。

CEOは、1) 会社の展望と戦略を決定し、2) あらゆる人に会社を伝道し、3) 特に自身が不得意とする分野に関して、チームの採用とマネジメントを行い、4) 会社に資金が不足することのないように資金を調達し、5) 達成目標のクオリティに関して目標を設ける、といったことを行わねばなりません。

これらに加えて、事業のうち最も好きな部分をみつけ、常に関わり続けて下さい。

初めに述べたように、非常に厳しい仕事です。もし成功した場合、それはあなたの人生のうち想像もできないくらい大きな部分を占めることになるでしょう —常に会社のことが頭から離れないでしょう。極度のフォーカスと極度の強度は、仕事と生活の調和のためには最上の選択だとは言えません。あなたは他にもう一つくらい大切なもの —それは家庭であったり、トライアスロンをしたり、いろいろな— を持てるでしょう。しかし、おそらくそれ以上は難しいでしょう。あなたは常に仕事モードでなくてはならず、例え仕事を委任することが得意であったとしても、あなたしか下せない決断が無数にあるはずです。

自分のチームや外の世界に対して、すぐに応答できるようにしなければならず、戦略や優先順位は常に確信しており、重要な事柄には常に現れ、迅速に実行しなければなりません (特に他の人が決定を待っているような決断を行う際)。また「どんな手段を使っても」という態度を身につけねばなりません —沢山の不快な苦行が待ち受けていることでしょう。もしもチームの皆が、あなた自身がこれらを行っているのを見れば、彼らも真似するでしょう。

自身の心理状態を管理することは、非常に難しく、また非常に重要です。現段階ではありふれた文句になってしまいますが、これは本当です —感情的な浮き沈みがとても激しく、もしその振れ幅を一定の範囲内に保てないようなら、あなたは苦しむことになるでしょう。CEOであることは孤独なのです。他のCEOたちと知り合いになり、全てが崩壊しそうな時に電話できる人を作ることは重要です (偶然生まれたYCの重要な発見のひとつは、創業者たちに仲間ができたことです)。

スタートアップが成功するには、非常に長い時間がかかります —もちろん、ほとんどの創業者が当初想像していたよりもはるかに長い道程です。一夜漬けで、どうにかできるものではありません。食事をしっかり摂り、しっかりと眠り、運動をしましょう。家族や友人たちとの時間も大切にしなければなりません。そしてあなたが心底熱中する分野に取り組む必要があります —それ以外では10年間も続けられないでしょう。

常に全てが壊れているように思えるでしょう —遭遇する大惨事の、その多様性と規模にあなたは驚愕することになります。あなたの仕事はそんな大惨事を笑顔のまま修正し、全て順調だとチームを安心させることです。通常、物事は見かけよりも悪いことはありません。しかし時にはそれが実際に悪いこともあります。どのような場合であっても、ただただ進み続けましょう。成長し続けましょう。

CEOは言い訳をさせてもらえません。たくさんの悪い、不公平な事柄が起こることでしょう。しかしあなた自身、そして決してあなたのチームにこの様なことを言わせないで下さい。「ただ私たちにもっと資金があれば」や「ただ私たちに他のエンジニアがいれば」なんてことは。それを実現する方法を考えだすか、それ無しでやって行く方法を考え出して下さい。一般に、沢山の言い訳をする人は通常、成功しません。そして、その様なスタートアップCEOはほぼ常に失敗します。不公平に憤るのは1分間だけにして、解決策を見つけられるのはあなた次第だということに気づいて下さい。人があなたについて語る時、「Xはなぜかいつも物事をやり遂げる」と言わせられるように努力して下さい。

初めて起業した創業者は誰しも、自分が何をしているのか理解していません。それが理解できるようになるまで、助けを求めてください。そちらの方がうまくいきます。良きリーダーでありマネージャーであるように学ぶことは、時間を投資する価値があります。そうする上でのベストな方法は、良きメンターを見つけることです —本を読むだけではうまく行くことはないでしょう。

YCでの私たちのアドバイスの驚くべき数が、「さっさと聞け (just ask them)」や「さっさとやれ (just do it)」という類のものです。初めての創業者は、誰かから何かを得たい時や新たなことをしたい時、なにか秘訣の様なものがあるはずだ、と考えます。しかし、繰り返しますが、スタートアップでは小手先の誤魔化しは効きません。ただ率直に、あなたが求めていることを頼むようにし、そして嫌な奴にはならないでください。

自分自身のためでなく、人のために現実を歪曲することが大切です。あなたは、あなたの会社がこの10年で最も重要なスタートアップになりつつあると、他の人たちを納得させる必要があります。しかしあなた自身はうまくいかない事柄全てに対して病的なまでにこだわるべきです。

粘り強くあってください。ほとんどの創業者は簡単に諦めたり、次の製品に素早く乗り換えたりします。もし物事が概してうまくいかないときは、その問題の根源は何かを考え、必ず対処してください。成功するスタートアップのCEOでいるための大前提は、諦めないことです (しかしあなたも必要以上に意固地になりたくはないでしょう —これはもう1つの明らかな矛盾であり、判断が難しい問題です)。

楽観的であってください。世界のどこかで悲観的でも偉大なCEOがいるかもしれませんが、今のところその様な人にあったことはありません。将来は良いものであり、会社がその将来を担っているとの信条を、CEOが持っており、その考えを会社全体及ぼして行くことは重要です。これは理論上簡単に見えますが、短期間で変化して行く現実では難しいことです。長期的な視野を失わないでください。そして日毎の変化はいずれ忘れていき、月毎の進歩に関する記憶に置き換わって行くことを信じてください。

あなたの最も重要な仕事の中には、会社のミッションを定義し、バリューを定義するという仕事があります。大げさに聞こえるかもしれませんが、これは早期に行っておく価値はあります。最初に設定したものは、通常、何年後になっても効力を発揮します。そして会社が成長するにつれて、新たに入った人々はまず初めに会社のミッションとバリューを受け入れ、そしてそれを他の人々に伝えていくようになります。そのため、会社の文化的なバリューとミッションについて早い段階で書き留めておいてください。

繰り返す価値があると考える決まり文句をもう一つ: 会社を築くことは、どこか宗教を築くことと似ています。もし人々が日々行っていることを、その人が大切に思っている大きな意義と結びつけることができなければ、彼らには良い仕事はできないでしょう。この点に関して、YCネットワークの中でAirbnbが一番素晴らしい仕事をしたと、私は思います。ぜひとも彼らの文化的なバリューについて目を通してみてください。

CEOたちが度々行う失敗の一つに、新たな製品や解決策を導入するのではなく、踏みならされたビジネス分野を革新しようとすることです。例えば多くの創業者たちは、HRやマーケティング、セールス、資金調達、PRを行う新たな方法を発見しようと時間を費やすべきだと考えています。これはほぼ常に最悪の考えです。確立された分野でうまくいったことを踏襲し、創造のためのエネルギーをあなたが作ろうとしている製品やサービスに集中させてください。

採用とマネジメント

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採用はあなたが行う一番重要な仕事の一つであり、素晴らしい会社を作り上げるための要となります (素晴らしい製品と対をなす形で)。

採用について、私が一番最初に伝えたいアドバイスは、採用するな、ということです。私たちがYCで関わってきた最も成功している会社では、採用を始めるまでかなりの長い時間をかけています。従業員には非常にお金がかかります。従業員を雇うことにより、組織に複雑性とコミュニケーションのオーバーヘッドが加わります。共同創業者に言いたくても、従業員のいる前では言えないこともでてきます。従業員により、物事に慣性が加わります —チームに人が増えるにつれて、方向転換をするのが指数関数的に難しくなります。従業員数に会社の価値を求めたくなる衝動をこらえてください。

最高の人材は、多くの機会を持っています。彼らはロケットに乗りたいのです。もしあなたが何も持っていないのなら彼らを雇うことは難しいでしょう。あなたが明らかに成功への軌道に乗って初めて、その様な人材があなたの元に集まるでしょう。

素晴らしい人々にはいくつもの選択肢がある一方で、偉大な会社を作るためには、素晴らしい人材が必要です。これを繰り返して言う価値はあります。株式、信頼、責任について寛大でいてください。あなたが手に入れ難いと思う人材を追い求めることを厭わないでください。あなたが雇うべき人々は、彼らが望めば自ら会社を立ち上げることができる様な人々だということを覚えておいてください。

会社が採用をする体制に入ってから (すなわち、Product/Market Fit が時間を無限大に伸ばしても成立するようになってから)、あなたの時間の25%ほどを割くようにしてください。少なくとも創業者のひとり、通常はCEOが採用に関して得意にならなければいけません。それはほとんどのCEOの時間を最も使う活動になります。皆がCEOは採用に時間をかけるべきだと言いますが、実際は素晴らしいCEO以外はそうしていません。そこには恐らく何かがあるのでしょう。

あなたが採用する人材について、決して妥協しないでください。皆それを知っているにも関わらず、必要に迫られて皆ある程度は妥協してしまいます。皆、それを後悔し続け、そして時にはそれは会社の危機をもたらします。良い人物も悪い人物もどちらも影響力があり、そしてもし会社の採用を平凡な人々から始めれば、平均は普通上昇することはありえません。早期に平凡な従業員から始めた会社は、ほぼ常に回復することはできません。あなたの人に対する直観を信じてください。もし疑念があるなら、答えはノーです。

慢性的に悲観的な人は雇わないようにしましょう。彼らは早期のスタートアップが欲する人材にマッチしません —世界中が毎日あなたの失敗を予測しており、せめて社内ではその逆だと信じて一致団結する必要があります。

いずれの役割に関しても、経験より素質を重視してください。元々の才覚と、仕事をやり遂げてきた実績を探してみてください。あなたが好感を持つ人物を探し求めてください —あなた方は今後膨大な時間を、そしてしばしば緊迫した状況で、共に過ごすことになります。あなたが知らない人々に関しては、フルタイムで採用する前に、一つのプロジェクトに共に取り組んでみるようにしてください。

良きマネージャーとなれるように投資してください。この点はほとんどの創業者が苦手とするところで、確実に反直観的だと言えるでしょう。しかし、これに得意になることはとても重要です。この部分に関して、あなたを助けられるメンターを見つけてください。もし上達することができなければ、従業員たちを次々と失っていくことになるでしょう。そして従業員を維持できないようであれば、あなたが世界一のリクルーターであったとしても関係なくなります。良きマネージャーであるための原則のほとんどは既に扱われていますが、ひとつ、私が議論していない点は「ヒーローモードに入らない」ことです。初心者のマネージャーのほとんどが、多かれ少なかれその犠牲者となり、全てを自ら行おうとしてスタッフに時間を割かなくなってしまいます。これは通常、惨事で終わります。このモードに入りたくなる全ての誘惑に抗ってください。そして、機能するチームを作るために、多少のプロジェクトの遅れは容認してください。

マネジメントについて言えば、全員が一箇所のオフィスに居られるように努力してください。どういう理由か、スタートアップはこの点についてよく妥協します。ほとんど全ての最も成功しているスタートアップは、皆が同じ場所にいるところから始まりました。大きな企業では、遠方からの仕事の方が機能することもあるかもしれませんが、スタートアップにとっては大成功へとつながる要因とはなり難いです。

最後に、解雇するときは速やかに行いましょう。理屈としては皆がこの事を知っていますが、実際誰もそうはしません。しかし何れにせよ、私は伝えておくべきだと考えました。さらに、たとえどんなに仕事ができようとも企業文化の毒となるような人は解雇してください。企業文化は、あなたがどんな人物を雇うか、解雇するか、昇進させるかによって決まります。

私のブログ記事にさらに詳しく記載されています

競合

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競合に関する簡潔なアドバイス: 競合はスタートアップではありもしない幽霊のような話です。初めての創業者たちは、競合が99%のスタートアップが失敗に終わる理由だと考えます。しかし99%のスタートアップは、他殺ではなく、自ら死を選んでいます。その代わりに、会社内の問題について悩んでください。もしあなたが失敗した場合、その理由は恐らく、素晴らしい製品もしくは素晴らしい会社を作れなかったからでしょう。

99%の場合、競合相手については無視するべきです。彼らが大量の資金を調達したり、メディアで評判になっていたりするとき、特に無視をするよう心がけてください。競合相手については、実際の出荷された製品であなたを打ちのめさない限り、心配しないでください。プレスリリースはコードを書くよりも簡単で、それは素晴らしい製品を作るよりはるかに簡単です。Henry Fordの言葉を引用すると、「恐るるに足る競合相手とは、あなたのことは全く気にも留めず、常にひたすら自らのビジネスを改善していく者である。」

全ての巨大企業は初期に、あなたが直面しているよりはるかに最悪な競合相手からの脅威にさらされてきましたが、それでもなお現在、立派になっています。いつでも常に反撃することはできます。

利益を生む

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そう、利益を生むことについてです。どうやって行うか考える必要があります。

簡潔に述べると、あなたが製品やサービスを提供するためにかかった費用よりも、人から高いお金を得なければなりません。どういうわけか人々はいつも、製品を提供するためにかかったコストについて考慮に入れるのを忘れてしまいます。

無料製品の場合、ユーザーの購入による成長を期待することはできません。これは、広告支援型のビジネスでは本当に難しい事です。あなたは人が喜んで友人に勧めるような製品を作る必要があります。

生涯顧客価値 (LTV) が1000ドル以下の有料製品の場合、一般的にセールスコストを賄うことはできないでしょう。SEO/SEM、広告、ダイレクトメールなど、多様なユーザー獲得方法を試して見てください。しかし3ヶ月以内に顧客獲得単価 (CAC) を回収できるように努めてください。生涯顧客価値 (LTV) (あなたの会社への純益) が1000ドル以上の有料製品の場合、もし簡単に営業することができればダイレクトセールスのコストをまかなえるかもしれません。しかしLTVが5000ドルあたりかそれ以上出ない限り、うまくいかないかもしれません。どのような手段がうまくいくか知るために、自ら製品を売ってみてください。"Hacking Sales" は大変役に立つ本です。

いずれにせよ、「ラーメン代稼ぎ」—すなわち、創業者がラーメンを食べて生きていけるのに十分なお金を稼ぐ— をなるべく早く実現できるよう、目指してください。そこまで行き着けば、あなた自身で将来をコントロールでき、投資家や金融市場のきまぐれに左右されることはなくなります。

会社のキャッシュフローを執拗なまでに監視してください。信じられないかもしれませんが、知らぬ間に資金が尽きてしまう創業者たちを何度も目にしてきました (そして、Paul Graham のエッセイをぜひ読んでください)。

資金調達

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ほとんどのスタートアップは、いつかの時点で資金調達を行います。

必要な時に、もしくは好条件で入手可能な時に、資金調達に走るべきです。質素な感覚を忘れず、お金をつぎ込むことで問題を解決しないように注意してください。十分な資金がないことは悪い場合もありますが、十分すぎる資金がある場合はほぼ常に悪いことです。

資金調達を成功させる秘訣は良い会社を持つことです。創業者が過剰にプロセスを最適化させようとするその他物事のほとんどは、その時間の5%ほどの意味しか持ちません。投資家たちは投資するしないに関わらず、この先大成功を収めるであろう会社で、外部資金でこそ急成長する会社を探しています。「大成功」の部分が重要です —なぜなら投資家の運用益は成功の度合いに依存するのですから。もし、投資家が、あなたの会社は100%の確率で1億ドル規模の会社に成長するが、それ以上に成長する可能性は無いと考えたとすると、彼/彼女がたとえ非常に低い査定額であっても投資することは恐らく無いでしょう。どうしてあなたは大成功をつかめるのか、常に説明してください。

投資家は次なるGoogleを見逃すのでは無いか、そして後から省みて馬鹿げたものへ投資して損をするのではないかという二重の恐怖により常に動かされています。(いくら最高の会社であっても、両者を同時に恐れます。)

会社が資本を集めるに足る状態でない時に、資金を募ろうとすることはよくない考えです。評判は地に落ち、時間も無駄になります。

資金を集めようともがいて、士気をくじかれないようにしてください。最高の会社の多くがこの部分で苦労をしています。なぜならそういった会社は概して初めは悪く見えるからです (そして、ほぼいつも流行ではないもののようにみえます)。投資家たちがノーと言った時は、ノーの部分は信じて、その理由は信じないでください。「イエス」以外の全ては「ノー」であると覚えておいてください —投資家たちは「もしかしたらイエスかも」と聞こえるように「ノー」と言う才能の持ち主です。

並行して資金調達のための話し合いを行うことが重要です —お気に入りの投資家リストを順に試していくような真似はやめましょう。投資家たちを行動に移させる方法は、他の投資家が好機を奪ってしまうかもしれない恐怖です。

資金調達を必要悪であり、可能な限り迅速に終わらせるべき事柄だと捉えてください。中には資金調達を気に入ってしまう創業者たちもいますが、これは常々よくありません。創業者のうち1人のみが資金調達を行うのがベストです。そうすれば、会社が急停止するような事態は避けられます。

ほとんどのVCは大抵の産業界について知らないことを心に留めておいてください。指標はいつも最も説得力があります。

状況は変わりつつありますが、残念ながらほとんどの投資家は (Y Combinator は有名な例外ですが)、共通の知人からの紹介がない限り、あなたを真剣に扱ってはくれないでしょう。

明快な説明を心がけ(複雑な言葉遣いはラウンドを重ねるごとに物事を悪化させていきます)、しかし特にバリュエーションに関しては過剰に最適化させないように心がけてください。バリュエーションは、争うことのできる量的な値であり、創業者たちは最高のバリュエーションを狙うのを好みます。しかし、中間のバリュエーションはあまり意味を持ちません。

初めての小切手を手に入れることが一番難しいので、それを獲得することにエネルギーを集中、つまり、あなたの会社を一番愛している人に注意を集中してください。常に複数のプランを持ち、うち1つは何も資金を調達できなかった場合とし、利益に応じて柔軟であってください —もしさらなる資金を良い用途に投入できるのならば、そしてそれが合理的な条件で手に入るのだとしたら、ためらわず獲得してください。

セールストークが上達する秘訣は、話を可能な限り明快で容易に理解できるようにすることです。もちろん、最も重要な秘訣は実際に良い会社を持っていることです。セールストークに何を含むべきか、様々な意見があると思いますが、最低限必要なものは、ミッション、課題、製品/サービス、ビジネスモデル、チーム、市場と市場の成長速度、そして財務状況です。

資金調達では、投資ラウンドを重ねるごとにハードルがどんどん高くなることを心に留めておいてください。シードラウンドでは説得力のあるプレゼンターであれば難を逃れることができても、それではシリーズAでは通用しないことに驚かないでください。

良い投資家は、大きな価値を与えてくれます。悪い投資家は、大きく価値を減少させます。ほとんどの投資家はその中間に位置し、価値を与えることも減じることもありません。少額のみ投資する投資家は、通常、それ以上のことをあなたのためにしないでしょう (つまりはパーティーラウンドに気をつけてください)。

素晴らしい取締役は、ユーザーの次に最上の外部強制力となります。そして外部強制力はほとんどの創業者が考えている以上に価値があるものです。積極的に関わろうとする素晴らしい取締役を得ることができるなら、低いバリュエーションでも容認して受け入れてみてください。

Paul Graham によるエッセイが、世に出ているものの中で、資金調達に関して最も良く述べていると思います。戦略上の要点としては、機関投資を調達する場合は通常、Delaware C Corporationとなる必要があります。そのため、そのように法人化することがベストです。

終わりに

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少なくとも1000人がそれぞれ、同様の素晴らしいアイデアを持っていることを心に留めておきましょう。そのうち1人が実際に成功します。違いは実行力に帰結します。それは過酷な仕事であり、皆が「アイデア」を「成功」へと変換させる他の方法があればと願います。しかし誰も未だそれを思いついていません。

だからこそ、あなたには素晴らしいアイデア、チーム、製品、そして素晴らしい実行力が必要です。簡単ですね! ;)

このプレイブックに考えを提供してくれた、Paul Buchheit、Erica Carpenter、Brian Chesky、Adam D’Angelo、Paul Graham、Drew Houston、Justin Kan、Matt Krisiloff、Aaron Levie、Gabriel Leydon、Jessica Livingston、Dustin Moskovitz、David Rusenko、そして Colleen Taylorに感謝します。

 

著者紹介 (本記事投稿時の情報)

Sam Altman

Sam Altman は YC グループの社長です。彼は Loopt の共同創業者兼 CEO でした。Loopt は 2005 年に Y Combinator に投資され、2012 年に Green Dot に買収されました。Green Dot で彼は CTO を務め、現在は取締役です。Sam は Hydrazine Capital も創業しました。彼は Stanford でコンピュータサイエンスを学び、その間 AI lab で働いていました。 

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文:  Startup Playbook

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