私は数ヶ月前にスタートアップを対象に、個々の顧客が様々なことをどうやって彼らに要求するかについて話をしました。彼らは窮地に陥ったように感じていたようです。その理由は、自分たちが意図的に行なっていることが会社の成長に寄与しないことでした。その一方で、顧客の多様な期待に応えることにより、会社は一貫した製品を目指して進化しなくなり、製品をカスタマイズすること以外の時間が消えてなくなってしまうことに気づきました。
これはアーリーステージにいる企業にとっては自然に起きる緊張状態であり、この状態から抜け出すのは驚くほど困難です。その理由の一部としては、私たちがユーザーを満足させる話をする場合に、あまりにも単純明快に話すことが挙げられると思います。たった1つのものを構築することで、すべてのユーザーを満足させることはできないでしょうし、どのユーザーを満足させるにしても、最初から正確に正解を当てるのは稀なことです。創業者は、そうするのではなく、ユーザーが望むものに対して自分たちが構築し、支援できる最適化を継続的に行う必要があります。
私はこの最適化を、3つの不確定要素にそって運営するものとしてとらえています---- カスタマイズにかかる費用、満足度の創出、そのカスタマイズをサポートするための費用です。会社を潰してしまうほどの人事や損害による支援費用を発生させないようにしつつ、できる限り多くの顧客を満足させるカスタマイズのレベルを見極めることが目標です。この曲線は常に少しずつ違いが出るものですが、次のような傾向があります。
物理的なサービスを提供する事業のアーリーステージにおいては、この解決をすることは最も困難です。一般的にそのような企業は、サービスの納品を完全には制御できないため、直面する顧客満足の条件には最も大きく幅が出ます。このことで、顧客の大きな怒りを買い、費用のかかる変更を要求されるのです。会社の顧客数がそれほど多くない場合、怒っている顧客は誰でも世界の終わりであるかのような感覚を覚え、その結果、創業者はそのようなユーザーすべてを満足させようとします。そうなると、持続不可能なプロセスや製品のカスタマイゼーションが生まれてしまいます。もっと難しいのは、自分が実際に望むユーザーの満足度を高めることを念頭に置きつつ、どのカスタマイゼーションが可能であるかを見極めることなのです(注1)。
生粋のソフトウェア事業もこれと同様の決断プロセスを必要としますが、彼らの場合は、構築したものに関する制御がより簡単で、より狭い幅の経費を前提として事業をしています。変更と経費を秤に掛けて考える場合に活用できるのが以下のヒエラルキーです。
- システムの致命的な不具合は常に修正されるべきです。これはカスタマイゼーションではありません。
- ソフトウェア性能に関するカスタマイゼーションは、人の手によるプロセスを含むカスタマイゼーションよりも構築が容易です。
- 人の手によるプロセスを構築する必要があるなら、後でソフトウェアに継承できるものを構築してください。
- 人の手による新たなプロセスを構築する必要のあるカスタマイゼーションは、後でソフトウェア処理への変更が可能であれば大丈夫です。
- 新たな役割に迅速に振り替えることのできない人員の雇用を必要とするカスタマイゼーションは危険です。
- 巨額の資本的支出が前もって必要なカスタマイゼーションは、一般的に悪いアイデアです。
- 熟慮し、まずは代替案を試すということがなければ、人員と資本的支出が必要なカスタマイゼーションは、ほとんどの場合はよいアイデアではありません。
- 企業顧客は、カスタマイゼーションの開発と支援に対して頻繁に資金を提供することになります。彼らにこれについて尋ねてみてください。
ユーザーを満足させるために何を構築すべきかを決定する際、創業者が間違いを犯すことは常です。これは大抵の場合は大丈夫です。ユーザーが実際に望んでいることや自分たちの製品がどうあるべきかを学ぶ方法の一つだからです。
最大の危険は、排除することが困難な巨額の経費をかけることです。これを行うことで、会社は失敗、または極端なピボットへ向かうことになります。これだけが損害を増やさないものというわけではありませんが、実際にはもっと危険です。なぜなら、創業者は自分たちがずっと正しいことをしていると思っているからです。「ほら見て!」と彼らは言います。「私はユーザーを満足させているんだ!」彼らは経費のことは考えておらず、ある日、目が覚めて、自分が会社を破滅させるユーザーを満足させていると気づくのです(注2)。そうなったら引き返すのは大変です。満足している顧客を失望させることの感情の重みは、非常に力強い慣性を持つものだからです。 その運命を避けるための唯一の方法は、今日たまたま目にしているユーザーではなく、多くのユーザーを満足させることを自分の目標として認識することです。
注
1.これは重要です。会社のサービスを利用する人々を獲得すれば、実際に自分たちが望まない顧客またはユーザーを確実に獲得することになるからです。それは顧客が口汚いからかもしれません。または顧客があなたに支払いをしたがらないからかもしれません。そのようなユーザーにサービスを提供しない決断をしても構いませんが、あなたがユーザーに対して誤った期待を持っているという理由で、実際のユーザーの基盤を無視したり、あなたが嫌な奴になったりしないようにしてください。↩
2.地獄への道は善意で敷き詰められている、など。↩
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この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: The Customization Curve (2017)