セールスは聞くこと: 耳を使う (a16z)

私の経験では、悪いセールスマンは喋りすぎ、話をあまり聞きません。積極的に話を聞くことなく商談を成立できたとしても、それはただ運がよかっただけです。そのような成功は2度と起こりません。アクティブリスニングという表現は、もはや使い古された感があります。私はそれをエクストリームリスニング(究極のリスニング)と考えており、仕事の中にそれを取り入れる方法を、ここで紹介します。口は災いの元とも言いますから、話すよりも聞くことを学ぶことは、人生の役にたつかもしれません!

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画像:Zina Deretsky、全米科学財団(NSF)

以前勤めていた会社では(SuccessFactorsと言う会社でSAPによって買収されました)、営業担当者によるエクストリームリスニングを、会社全体で実施することができました。これは、製品の改善をもっとも早く、またタイムリーに届けるためのもっとも重要な情報の流れとなりましたし、また会社の1000人以上の従業員の間に強い団結力を生み出す重要な要素となりました。

営業担当者がよく聞くなら、会社全体が聞くようになる

もし営業担当者が彼らの耳をよく使うような文化を創出できるなら(そして真剣に聞いたことを学び、消化しようとする文化を創出できるなら)、それらのデータを集めることができます。さらに重要なことに、そうして集めたデータは、会社にとってもっとも重要なデータフローのひとつになるのです。ここに成功と失敗の分かれ道があります。

このデータを日ごと、月ごと、年ごとに収集すれば、営業チームを大幅に向上させるとともに、会社の戦略と競争力を詳細に伝えることができます。しかし、そのためには、営業チームが情報をやり取りするための道筋が必要です。言い換えれば、営業チームがより良い聞き手になるためには、営業オペレーション、製品管理、エンジニアリング、カスタマーサクセスとカスタマーサポート、そしてもちろんCEOやその他のリーダーシップによっても、彼らの声が聞かれる必要があるのです。

営業チームが組織的かつ親身に耳を傾け、また自らも聞かれるための実際のプロセスがあるのなら、その情報が、他のどんな情報よりも、企業の競争力と戦略を高めてくれます。

「ピッチショー」

最高売上責任者(CRO)、営業担当のVP、およびエリアセールスマネージャー、セールス担当、リードジェネレーター、セールス開発担当(SDR)などのスタッフが、彼らのターゲット顧客の前に一堂に会し、彼らの製品を20分間売り込む場面に居合わせたことがあります。彼らはいつもの台本を喋りはじめ、それからの時間の80%を、顧客に息をつかせる間も無く、売り込みを続けることに費やしたのです。

その台本は凡用的なもので、使い古された言葉で溢れており、オーディエンスを考慮に入れることのないまま、オートパイロットモードで提供されていました。しかし何よりもひどかったのは、一度も質問する機会がなかったということです。彼らは聞こうとしないばかりか、そのことに興味すらないようでした。これでは、小切手を切ったり、商談を成立させたりできる顧客ターゲットは、退屈してしまうばかりか、購入意欲を削がれてしまいます。この営業担当者は、話すのを止めて、かつてニューヨークの市長が誰彼構わず聞いていた問い(私はこれが大好きなのですが)を尋ねる機会を逃してしまったのです。「私はうまくやっているでしょうか...?」と。ですから勤勉で、実績のあるセールスマンが、最後までボソボソと喋り続ける(もちろんその売り込みには、適切で詳細な情報が詰まっているのかもしれません)のを見ることは驚きに値します。まるで台本を最後まで喋りきること自体が目標であり、それが終われば、彼らは不安から解放されるかのようです。

彼らが顧客の考えを聞くのは、ピッチの一番最後です。その頃には、顧客と一緒にアイデアを発展させ、その瞬間瞬間で学ぶ機会を失ってしまっています。最後になるまで、多くの営業担当者は、部屋にいる全員のボディランゲージを理解するどころか、観察してすらいませんでした。こうした一見不可解なボディランゲージを読み解くことは、ターゲット顧客が彼らのビジネスにおいて実際に必要としていることを知るためのヒントとなります。このことは、相手が潜在的な顧客であろうと既存の顧客であろうと、強力な関係性を築くに当たって大変効果があります。ビジネスとは儚く、変化していくものであり、その現在的なリズムに合わせていくことが求められます。もしあなたが耳を傾ければ、顧客は喜んでそれを共有してくれることでしょう。ビジネスのために6時間のフライトを耐えてきたのに、飛行機が着陸した頃には、そのビジネスの基盤とベースが全く変わってしまうような状況を、私はなんども体験してきました。もし営業担当者が、これらの変化を無視し、用意してきた台本をそのまま読み上げてしまうなら、彼らに勝ち目はないでしょう。

それでは、どうしたら台本どおりの売り込みを避け、部屋で起こっている様々な変化に注意しつつ、売り込みを調整し、目の前の顧客と潜在的な営業に向けてもっとも重要なポイントを伝えることができるのでしょうか?よく聞き、そして本質を突く質問をするのです。

耳を傾け、学ぶために、興味を持って質問する

営業を聞くことだと捉え直してみましょう。まず対象となる顧客のニーズを聞くことからはじめ、それから継続的に耳を傾け、いかなるサインも見逃さないような場を確保します。

どうやって「エクストリームリスニング」を行うのでしょうか?「このXデータポイントと、私たちの製品のYアウトプットをみて下さい(これであなたは絶対に幸せになります!他の誰にもできません)」という風に話すのではなく、オーディエンスに彼らの目標は何か、彼らの組織はどのように機能しているのか、あなたから何を理解したいのか、何を解決したいのかを尋ねることから始めましょう。これらのことをすでに知っていると思っていても、実際にはそうではありません。目標や優先事項は、アジェンダに合意した時点から、大幅に変更されています。お客様が直面している問題の微妙なニュアンスを理解するのに役立つような基本的な質問をして、多くのことを学べなかったことはありません。聞いている自分が恥ずかしくなってしまうような基本的な質問をしたことを覚えています。しかしそのような質問をすることで、状況を一変させ、後々になってより複雑な質問ができる流れを作り出すことができました。私たちが最初に聞く姿勢を見せたためです。そのような質問は次のような基本的なものでいいでしょう。「これまでソフトウェアのチェックにサインしていたのはどなたですか?」とか「このソフトウェアが成功すると、どうして分かるのですか?提案依頼書の内容は理解できますが、ここの社員としてあなたの心に響く、ビジネスにおいて実際に具体的で測定可能な大きな変化をもたらすであろうものは何ですか?」

言語および非言語の合図を追う

営業担当者は積極的に部屋の空気を読んで、オーディエンスから合図 (身振り手振りや部屋のエネルギーなど)を得る必要があります。特に、売り込みが手に負えなくなってきた場合はそうです。ここでは、あなたの「身体的な」本能が何かを教えてくれているのなら、それを信じる必要があります。エネルギーが足りないと感じたら、やり方を変えましょう。そのような合図は、次のような確認をする瞬間が訪れたことを伝えています。例えば、「これはあなたの組織の助けになると思いますか?」や「私たちは、あなたがたの収支報告やミッション、ビジネス上の挑戦などを読みました。その上で、この製品が、あなたの会社をこのように助けることができると考えます。どうでしょうか?」といったつかみの質問があります。また私が個人的に好きなのは、次の問いです。「あなたの会社にとって革新的な製品になるでしょうか?これをあなたの組織で効果的に使えるとお考えですか?」

私の希望は、これらの質問とは別に、単なるビジネス上の会話を超えて、相手がどのような情熱を持って仕事に取り組んでいるかについて話し合うことです。相手が、これが人生の一番大事な時のひとつであると感じるのは、どんな場合でしょうか。会社や顧客に、意義ある形で影響を与える機会を得るのは、どのような場面においてでしょうか。昇進や新しい仕事の面接で最も力を発揮するのは、この種の会話です。今でも、そんな瞬間を思い出すだけで、私は喜びのあまり笑ってしまいそうになります。なぜならそのような瞬間こそ、あなたが顧客に深い印象を残すチャンスだからです。

関心を持って質問すること、聞くこと、誠意を持って応対すること、これらなしに商談が成立するのを私は見たことがありません。これらを正しく行わないことで、多くの取引を成立させるチャンスを逃してしまっているのです。

対話をはじめる

様々な前提をクローズドにしてしまっては、ビジネスにとっても、売り込みにとってもよくありません。しかし、プレゼンテーションの最後に自由回答式の質問をたくさんすることは、多かれ少なかれ無駄であり、そこに実質的な意味や意図はありません。相手と真につながり、ともに魔法を起こすための熱やエネルギー、そして機会は過ぎ去ってしまっています。

ですから売り込みの最中に、よく注意をはらい聞いていれば、生産的な対話を行うことができます。そのような対話は、あなたと顧客を一つにし、彼らのビジネスの権利を得ることに役立つでしょう。自由回答式の質問(顧客のプランに対する回答や意見がまだ明らかに決まっていない質問)は、あなたがプレゼンテーション中にフィードバックを求めていることを示します。これは、学習するだけでなく、顧客の優先順位を尊重し、目標に向かって取り組み、提供するすべての情報を適切なものにしたいという意欲を示すものです。

最後に、これらのきっかけは、そのような顧客が持っている実際の優先事項(それは明示的に述べられている場合と、述べられていない場合があります)に向けて、あなたを方向転換させるだけでなく、非常に貴重な情報をあなたに提供してくれます。そのような情報は、あなた自身のビジネス全体の発展(プロダクトマーケットフィットを達成して間もない場合)や改善(次の手順に進んでいる場合)に繋がるでしょう。

競争的な学習文化の中にリスニングを組み込む

事実、営業の売り込みの最中に聞き、学ぶことは、取引を成立させるための単なる方法ではありません。これはあなたの企業が何を改善できるかを知る方法です。

企業の成功には、売り込みや長期的な関係性の構築と並び、価値ある洞察を得るための方法として、営業の手段と運用を確立することが重要です。あらゆる収集されたデータも、あなたの会社の文化の一部にすれば、競合他社との差別化につながることを保証します。このため、私は常に「実際の」の顧客との「実際の」通話を、現場で予定にいれていました。社内の公式機能によってキュレーションされ、私のために用意された「安全な」顧客(つまり「CEO向けにお膳立てされた顧客」)ではなく、「実際の」顧客との通話です。また、いつも「調子はどうですか?」と尋ねることに時間を使おうと心がけていました。私が受ける返答は楽しく、価値あるものでしたが、容赦ない言葉を浴びることもしばしばでした。それでも、その後には「しかし、あなたの製品は最高で、あなたはいつも私たちの話を聞いてくれます」と言われたものです。このアプローチでは、このような顧客との関係を築くことで、他の競合他社に取って代わられることがほとんどなくなります。

37億ドルという、収益の11.6倍で会社を売却する書類に署名する前の私の最後の行動は、二人の顧客と話すことでした。その段階でさえ、彼らはまだ私に容赦のないフィードバックを浴びせかけてきました...それは私にとってとても嬉しいことでした。最後の数分間までエクストリーム・リスニングを実践することは、私にとって非常に重要で新鮮な洞察を与えてくれました。

このようなリスニングを実践する3つの方法

黄金を見逃さないために

まず第一に、情報、意見、およびインテリジェンスを営業チームに体系的に要求し、受け取るようにします。これは、Eメール、メモ、Slack、ミーティングでのテキストメッセージなど、どのような形式でも可能です。それらをすぐに吸収し、分析し、場合によっては実装できるのであれば、何でもよいのです。営業担当者に必要なのは、そのためのコミュニケーションの道筋だけです。これがなければ、現実的で関連性が高く価値のある情報を文字通り大量に失うことになります。

5万人の従業員を抱えるグローバル企業の社内での私の最初の仕事の一つについてお話ししましょう。3,000人の営業担当者が現場から電話をかけてきて、私の留守番電話にメッセージを残し、仕事の初日にようやくそれを聞いたとき、何年もの間、彼らの声に耳を傾けた人が誰もいなったということがわかりました。これらのメッセージの中には、新製品についてのヒントやビジネスを加速させるであろう情報が含まれていました。この分野で生み出された素晴らしいアイデアのすべてを自分の手柄にすることはできませんでしたが、私はそれらを聞くことができ、それを組織全体の利益のために利用することができました。私は営業職ではありませんでしたが、営業職の知識が会社全体に及ぼす影響力を実感しました。

しかし実際の情報を提出し、準備に時間をかけること

真の情報を入手して共有できるようにチームをトレーニングしましょう。顧客の役に立つような形で製品が使用可能であること、あなたの製品及びこの取引が、彼らの会社のニーズを捉え、以前とは違ったやり方で前進させる可能性が高いこと、これらに注意してください。どのように実際にビジネスを変革できるかを聞き、その問題にどのように対応するべきかを深く考えます。

10万人の従業員と1万人の営業担当者と会って仕事をした結果、私が最も感銘を受けた営業担当者は、会社の全体的な財務状況、公的および私的なビジネスの実際の問題、最新の雇用者と彼らの適性などを理解していた人たちでした。このような準備をすることで、導入を検討している顧客に、製品に関する優れた質問をしやすくなります。私の以前のセールス担当VPの一人が言っていましたが、ミーティング前の準備で、勝敗の80%は決まるのです!これにより、あなたは歓迎され、潜在的な顧客の話を素早く聞くことができるようになります。顧客は、あなたを信頼してくれます。なぜなら彼らはそうすべきだからです。というのも、あなたは顧客のビジネスニーズや最新の事情を調べており、顧客とその時間を尊重していることは明白だからです。

Steve Jobsの振りをする必要はない:素晴らしいプロダクトマネージャーがすること

最後に、その情報を処理し、活用することで、より競争力があって、より優れた製品を構築しましょう。新しい企業では、何が正しいかを100%知っていると思っている新参者がいることが多いでしょう。これは、教育水準が高く、非常に知的なプロダクトマネージャーによくみられる心理です。彼らは1人で部屋に座り、開発すべき適切なプロダクトを決定し、決断します。残念なことに、この種のプロセスは、顧客への販売が遅すぎることは言うまでもなく、経営陣や顧客にとっても非常に不明瞭です。

これらのPMの多くは、それがたとえ善意であっても、「私は、Steve Jobsのようなものです。彼らが何を望んでいるかを言う必要はありません。彼らが何を望んでいるかを知っているからです」といった信念を持つ傾向にあります。しかし実際のところ、私たちの大部分はSteve Jobsではありません(Steve JobsがいわゆるSteve Jobsになるまでに、30年以上もかかったということを、彼らは言いません)。多くの人は、自分がSteve Jobsであるという神話に固執しますが、それはある次元において、彼らが他人の話を聞くのを避けているからだと言えます。他人の話を聞くのは難しいことです。言うまでもないことですが、何もインプットせずに、自分のやり方で物事を進めるのは難しいことではありません。信頼され、献身的で、積極的に話を聞いているセールス・フォースからのフィードバックに耳を傾け、それを戦略に組み込んだとしても、あなたの創造性やビジョンは、なんら害を受けません。あなたのプロジェクトは、まだ構築過程にあります。話を聞くことで、あなたをそれをより良いものにしているにすぎません。

インプットをいつ、そしてどのように受け入れるかは、あなたが決めることです。すべての営業担当者からのすべてのフィードバックと情報、およびすべてのやり取りを受け入れ、実行する必要があるという意味ではありません。実際、行動を起こさないことが、正しい行動であると判断する場合もあります。プロダクトマネージャーが私のところに来て「私は現場から1200時間聞いてきましたが、その情報は受け入れません。これについては別のビジョンを持っており、その理由は次のとおりです。」と言えば、私はそれを喜んで受け入れます。やるべきことをやっているのが前提ですが、こうしたプロダクトマネージャとしての計算されたアプローチは、説得力と信頼性を持って明確に表現されていれば、実際に会社全体を元気づけることができ、ロードマップに信頼を与えることができます。

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最後になりましたが、これら全てには人間関係上の美点があります。常に耳を傾ける営業チームと組織の文化を創造することは、敵対的な「私たちと彼ら」という力学を、あなたの製品を販売する人々により大きなオーナーシップ、目的、そして充実感を与えるものへと変えてくれます。それは、コインで動く歯車を、コア戦略における欠かすことのできない一部分へと変え、より良いフィードバック、より良い方向性、より良いフォーカスという好循環を生み出します。また、開発チーム、製品チーム、エンジニアリング・チーム、カスタマー・サポートも強化されるでしょう。なぜなら営業チームは、私たち全員が必要とするデータと洞察を得ているからです。彼らは、何が機能し、何が機能していないかを実際に知っています(ですので、もはやそれを推測したり、独力で学ぶ必要はありません)。もしそれを取り入れるプロセスがあれば、会社全体が一つとなることができるはずです。魔法が起こるのは、まさにそのような瞬間なのです。

 

著者紹介

Lars Dalgaard

 

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: Ears: Use Them (2017)

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