スタートアップの科学的方法

スタートアップについて議論する際は、インスピレーションや創造性に話が行きがちです。そのため創業者は、自分たちが解決しようとしているどんな問題についても解決策を考えられると信じるようになります。しかし現実のスタートアップの運営では、創造性/直感/本能と、「仮説 → A/Bテスト → 結論 → 繰り返し」という科学的手法とのバランスをとることが求められます。

インスピレーションがあれば、解決すべき問題が見つけやすくなります。創造性があれば、その問題の潜在的な解決策に関するブレインストーミングが可能となります。科学的手法は、それらの解決策のどれが実際に顧客の問題を解決してくれるかを示してくれます。

科学的手法の実行には、測定が欠かせません。自社ユーザーの日々の行動を測定する既存の分析能力が必要となります。新たな機能を構築した際は、自社の分析システムにすぐに追加することが求められます。「こんな当たり前のことを、どうして測定する必要があるのか?」という姿勢をとっていては、こうしたことは実行できません。

多くの会社が、社内分析のみを使用するという間違いを犯しています。答えが必要なときに、データベースのクエリを書けばデータは手に入ると考えているのです。残念なことに、質問をするのが困難になるほど、質問の数は少なくなります。

しかし標準的なアナリティクス製品(YCでは、そのような製品に多数投資してきました)を使用することで、御社の誰もが(プログラマー以外も)、好きなだけ質問をし、素早く回答を得ることができるようになります。これは非常に大事なことです。私は実際に、従業員によるアナリティクス製品の使用状況を測定することは企業にとってよいアイデアだと思っています。測定作業やユーザーとのコミュニケーションにより、ヒントを得たり、創造性を発揮したり、ルールを打破したりする力が向上します。

1つの例をご紹介しましょう。私たちの会社Justin.tvで働く従業員のTim Robinsonは、リリース予定の新製品のための決済用ファネルを構築していました。決済フローのヘッダーとフッターに何を置くべきか考えていた際、私たちのウェブサイトの標準のヘッダーとフッターを使うというのが当然のアイデアでした。

しかし「こんな当たり前のことを、どうして測定する必要があるのか?」と考える代わりに、彼は、ユーザーがそのフローを通過する際に行っていたことをすべて測定しました。測定を通じて、彼はユーザーが「当たり前のように」次に進むボタンを使ってフローを移動する代わりに、ページ上部のロゴやフッターのリンクなど、あちらこちらをクリックしていたことに気付きました。

そこで、彼はそれらの部分を取り除いていきました。デザイナーはTimがサイトの美的要素を台無しにしたと言うかもしれません。しかし彼はエンジニアとして、分析により、リンクを取り除くたびに決済のコンバージョン率が向上することを見通していたのです。

「仮説 → A/Bテスト → 結論 → 繰り返し」という科学的手法を採用することで、TimはJustin.tvの収益の3分の1を生み出す製品を構築することができました。彼の仕事がさらに素晴らしいのは、当時、Justin.tvはまったくデータ駆動型ではなかったという点です。おそらくは彼の科学者としての経歴がこの手法につながったのか、あるいは単に常識だったのかもしれません。しかし、この機能がなければJustin.tvは生き残れなかったでしょう。ありがとうTim!

最良の会社(そして従業員)は、自身の意思決定の支えとして積極的にデータを利用します。彼らは、スタンダードや美的要素が不変のルールだとは考えません。製品担当者や創業者だけが問題の解決策を知っているとも思っていません。分析を実行し、聞く耳を持ち、テストする意思があれば、構築すべきものや構築する方法を自社のユーザーが教えてくれると信じています。

 

著者紹介

Michael Seibel

Michael Seiebl は YC の CEO です。彼は Justin.tv と Socialcam の共同創業者であり、CEO でした。Socialcam は Autodesk に 2012 年に売却され、Emmett Shear の下で Justin.tv は Twitch.tv となり、Amazon に 2014 年に売却されました。スタートアップに関わる前、彼は US の上院議員選挙で財務ディレクターを1年勤め、2005 年に Yale University を Political Science の分野で BA を取って卒業しました。

 

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: The Scientific Method for Startups (2016)

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