皆がエンジェル投資のべき乗則を理解していると主張しますが、実践している人はごくわずかです。私が思うに、それは、3xのリターンと300x(または3000x)のリターンの違いを概念化するのが困難だからです。
たったひとつの最善のエンジェル投資で、その他のすべての投資を合わせたよりも、より多くの資金を手にすることは珍しくありません。したがって、真のリスクとは、その他のすべての会社に関しては確実に資金を取り戻そうとするものの(または一部の人が要求するように、資金投資額の 2 倍になることの保証を獲得するものの)、そのかわりに傑出した投資を逃してしまうことなのです。
しかしそれでもエンジェル投資家は、「ダウンサイドリスク」を軽減するために、わずらわしい条件を要求し続けます。これらすべてが創業者をうんざりさせ、インセンティブの配置を誤らせ、投資家が最善の取引に投資できる機会を損ないます。なぜなら、通常の場合、それら最善の取引をめぐる競争は激しく、また有能な創業者は投資家の経歴を参考にするからです。だからエンジェル投資家は合理的な価格 [1] で投資を行うことに注力したり、その他のどの条件でも「勝利」したりしようとすることを避けたほうが、ずいぶんとうまくいきます。
より多くの投資家は、ダウンサイドリスク [2] ではなく、アップサイドリスクについて考えるべきです。つまり、皆が期待するような収益を与えてくれるような会社に投資する機会を逃してしまうリスクのほうを考えるべきでしょう。
[1] 価格について言えば、(投資家がダウンサイドの条件を重視し過ぎることに相当するものとして)創業者が犯す間違いは、高い金額を得ることを重視し過ぎることです。私は、多くの創業者が高値にこだわることでよい投資家を締め出し、会社の状況を悪化させ、1年後にはダウンラウンドに直面するのを目のあたりにしてきました。これらすべては、彼らが自分の会社の希望価格を高くすることに取り憑かれていたことが原因です。私が思うに、そうなることの理由は、それが創業者同士の競争を成り立たせるような量的な基準となるからです。
[2] 注記として、私の考えでは、ほとんどの人が持っている投資リスク/リワードのトレードオフに関する直感は概してひどいものです--これは非上場企業に限ったことではありません。CNBCにチャンネルを合わせる度に(ありがたいことに非常に稀なことです)、崩壊が迫っているといった話をしているように感じます。世界の終わりは一度しか来ません。月曜の朝である可能性は非常に低そうです。けれども、我々は生まれつきダウンサイドリスクを重視するようにできているように思えます。CNBCの視聴者は、現金の蓄えを確保し、パニックが起きる度ごとに自分の株を売却しないようにした方が、うまくいくでしょう。
著者紹介 (本記事投稿時の情報)
Sam Altman は YC グループの社長です。彼は Loopt の共同創業者兼 CEO でした。Loopt は 2005 年に Y Combinator に投資され、2012 年に Green Dot に買収されました。Green Dot で彼は CTO を務め、現在は取締役です。Sam は Hydrazine Capital も創業しました。彼は Stanford でコンピュータサイエンスを学び、その間 AI lab で働いていました。
記事情報
この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: Upside risk (2013)