FoundX Podcast #03「アングル」- 坂本教晃さん

 

馬田

皆さんこんにちは、FoundXの馬田です。

 

FoundX は東京大学卒業生向けのスタートアップ支援プログラムです。FoundXでは無償での個室の提供や、スタートアップのアイデア発見の支援プログラムを行っています。FoundXPodcast では起業家や投資家の皆さんをお呼びして、アイデアやノウハウに関してお話しいただこうと思っています。

 

今日はUTECの坂本さんお呼びしています。坂本さん、よろしくお願いします。

 

坂本

よろしくお願いします。

 

馬田

今日のテーマはアイディアです。投資家ならではの行動、気付いたアイディアとか。自分ではなかなかできないけれどもこれやったら弾けるんじゃないかみたいなアイデアを少し坂本さんからお伺いできればと思っています。

 

坂本さん、では自己紹介兼ねて、自己紹介とアイディアの方、よろしくお願いします。

 

坂本

はい。坂本と申します。自己紹介なんですが、私は元々経済産業省ではじめ新卒で入り、そこから5年働いて、その後実家の会社のマネジメントを一年半ほどしました。

その後留学をして、マッキンゼーで4年半働いて5年半前にUTEC、東京大学エッジキャピタルと言いますけれども、大学系のベンチャーキャピタルですね。そこに入社をいたしまして、今は主に IT とヘルスケア分野を見ております。

 

あいまいな領域の可能性

馬田

 IT とヘルスケア。今日その他にお伺いできる感じでしょうか? それも別の分野ですかね。

 

坂本

そうですね、分野別というよりも、別の軸で色々と見てることの方が多いなあというふうに思っています。

 

もちろんITの領域とかヘルスケアの領域って、領域で言っても非常に面白いとは思いますけれども、最近は「ここの領域」ってはっきり言うことが難しいベンチャー企業が増えてきてますし、領域をまたがったものや領域が曖昧なベンチャーの方が面白いかなと最近は思っています。

 

馬田

その別の軸とか間にあるベンチャーとか具体的にどういうところを今考えてらっしゃるんですか?

 

坂本

そうですね。何でこの分野というよりは、言い方難しいんですけれど…。ベンチャーの領域、今、製薬会社みたいな感じになってるかなと思ってて。

 

馬田

薬ですか?

 

坂本

薬って、10年前20年前ってブロックバスターと言われる薬がたくさんあって。高血圧とか糖尿病とか。非常に患者さんが多い疾患を対象にする薬ってのは次々と作られましたと。

 

ただなんかそれって、もうある程度掘り尽くされてですね。今ってオーファンドラッグって言われてる、希少疾患をターゲットにした、ただその領域ではニーズが深いような薬っていうものが盛んに作られるようになってきてて。それで、日本でベンチャーやるってなるとですね、どうしても、巨大なマス向けに全部取りに行くベンチャーっていうのは、ITでは結構考え尽くされてるんじゃないかなと思ってまして。

 

なので、最近バーティカルって良く言われますが、領域をかなり絞って、でも意外とみんな気づいてなかったようなターゲットにすると、凄く面白いかなという風に最近は思ってます。なのでそこの対象とするペインの切れ味の鋭さと言うか、どこまで絞れるか。逆に言うとですね、「この切り口で、このアングルできたか~」みたいなのは私は好きです。

 

具体例

 

馬田

最近、この具体例を挙げれるかどうかちょっと分からないんですが、そういう切り口ですごいよかったなって海外も含めたスタートアップとか、坂本さんの記憶の中にあったりされますか?

 

坂本

全然投資もしてない領域ですけれど、イメージしやすさで言うと、例えば、お酒が全く飲めない人向けのサービスとかでしょうか。お酒が全く飲めないって実は結構日本人だと3割ぐらいいると言われてて。アジアだと2割ぐらいいる。ただ、そこのニーズって意外と忘れ去られてて。意外とあるよねみたいな話ですとか、あと例えば日本にいるイスラム教徒向けのサービスとかですかね。

 

課題とアプローチの両方で捻る

 

実はこのアングルって意外とあるよねみたいなサービスでの切り口っていうのは、面白いなあと思ってます。ただ一方で、逆説の話じゃないですけど。課題の逆説だけだと勝ちにくいと思ってるので…。さらにもう一つぐらいひねらないと。

 

要はそこにフォーカスしましただけじゃなくてプラスアルファそこへのアプローチを技術で捻るとかしないと、うまくいかないかなと考えています。

 

なので、課題なのか、アプローチなのかどっちで捻るかって話しありますけど。私は両方をひねってる方が好きなので。難易度が高いと言われてる、両方ひねる方が好きですね。

 

馬田

両方ひねるとなかなか成功確率が低くなりそうなんですが、その辺り上手くいきそうなスタートアップと、そうじゃないところの違いって、坂本さんの目から見て何かあったりされますか?

 

坂本

我々はいわゆる、最近でいうところのディープテック領域というところに絞ってますけれども。もう ディープテックというのもかなり皆さん言うようになってきてるので、ディープテックの中でも、ディープテックかつもう一工夫というのが好きです。

 

あと、どういったところに注目をするかと言うと、ベンチャーで言うとですね、最近私は、やっぱりマネタイズを強く意識したベンチャーが好きです。これまでの数年間っていうのはある意味 KPI を作って、その KPI に沿った形で事業を成長させるって、いわゆるSaaSの勝ちパターンみたいのがあったと思うんですけど。

 

もう一つ、そうじゃないやり方で、マネタイズしながら事業を大きくするっていうのは実は古くて新しいんじゃないかと思っててですね。そこのマネタイズにこだわりながら成長を続けているベンチャーってはいくつか出てきてるので。そこは面白いかなと思ってます。

 

Day 1 からマネタイズできるビジネスモデル

馬田

最初のマネタイズってどういう風にされているんですか?

 

坂本

例えばですね、Tricogっていうインド発の、心電図 AI 解析のシンガポールの会社があります。ここの会社が面白いなと思ったのは、 データ収集をマネタイズしながら出来ていること。AI でデータをたくさん食わせて、アルゴリズム作ってって言うと、始めどうしても投資フェーズがきつい。

 

お金をたくさんかけながらデータを集めてアルゴリズム作ってってっていう形になるんですけれど、ここはですね、新興国から始めてるということと、当初は AI のアルゴリズムじゃなくて遠隔医療から入ったんですね。要は何をやってる会社かっていますと、遠隔で心電図を見ます、ということをやってるんですね。心電図からわかる病気って実は250ぐらいあるんです。

 

心電図を読み解くのってなそんなに簡単じゃないですと。特に新興国のお医者さんだと心電図よく分かりませんってお医者さん結構いますと。これを AI 解析とか遠隔でやるといいよねっていうのがもともとの会社ポイントですね。

 

まず、AIとか関係なく、遠隔診断から入って始めてるんですね。遠隔診療についてDay 1からマネタイズする。その事業を通じてデータを蓄積することによって、アルゴリズムをどんどん生成して。そしてその人間が見る部分と、いわゆるソフトウェアを見る部分っていうものの比重をちょっとずつ変えてって。今はもうそのいわゆるAI のアルゴリズムがかなりの部分も見ることが出来ています。

 

これはDay 1からマネタイズができてて、でかつそのデータに関しても買ってくるというよりは、マネタイズの過程で溜まっていくというモデル。それでこれを新興国でやってるってモデルですね。逆に言うとこの新興国で生成されたモデルって言うのが、実は先進国に行くかもしれないと。なので逆輸入みたいな形である意味データが自由な新興国でこういうことをやって、それで先進国に持ってくるみたいなモデルっていうのが実はあり得るんじゃないかなという仮説を今持ってます。

 

馬田

なるほど。じゃあ今の例で言うと、技術はもちろんひねりがあって、ビジネスモデルにもひねりがあって、開始する国にもひねりがあるみたいな。いろんな切り口でのひねりがあって、一つの有望なスタートアップになってるという事例ですかね。

 

一見ニッチでも巨大なマーケット

 

坂本

そうですね。なので、そこのまずはやっぱりどの領域を見に行くのか、そこの限定のアングルのペインの渋さというか、鋭さみたいなところは、すごい好きですね。最近見た会社で言うと、先物関連のツールを開発する会社があって。私フィンテック領域はよく見てるんですが、先物って今まで見たことなかったんですね。先物って、すぐマニアックな領域ですが、マーケットの規模も非常に大きくて。日本は世界第2位とか第3位とか言われている先物マーケットがあったり。商社が非常に強かったりですね、というところがあるんですね。

 

なので、これって先物とかやってる人って人口としてはそんなにいないけれども、実はマーケットとしてはかなり巨大であるとか、そういう話は面白いなぁと思いますね。

 

馬田

なるほど。やはり、ファウンダーの方が先物取引で何かずっと仕事されてたんですか?そのスタートアップは。

 

坂本

そうですね。やっぱりそこのアングルの深さとかってなると、全員である必要はないと思いますけれども、そこのペインの深さを知ってるって意味で言うとそこの業界にどっぷりいた人っていうほうがいいかなと思ってます。そこの競争の少なさ、逆に先物を知ってる人って、かつベンチャー企業を起こそうと思う人って限りなく少なくなっていくので。そういった領域、とにかく競争したくないんで、競争しないところって考えると、そういう領域ってのは非常に面白いかなと思っております。

 

馬田

なるほど。業界の人数が少ないけれど、業界のマーケットは大きくて、しかもその人がベンチャーマインド持ってれば行けるかもしれないと。

 

坂本

その通りですね。そう思ってます。

 

最近でいうと、 estie という東京大学経済学部発のベンチャーに投資をさせていただきましたけど、これは不動産テックの会社です。不動産テックって言うとですね、ほとんど住宅向けのサービス、これはデータが非常に取りやすいってところがあると思うんですけれども。

 

estie っていうのはオフィス不動産関係のサービスをやっててですね。いわゆる、事業所の方が新しい オフィスを探す際に見つけるためのツールとかっていうのを提供してる会社です。

 

東京って実はオフィス不動産の規模で言うと、マンハッタンの1.5倍とかロンドンの何倍とかシンガポールの4倍とかあって。世界で実は一番大きいオフィスマーケット、都心5区と言われてるとこだけでそれぐらいあるので。非常に巨大な不動産マーケットがあります。これをやってる会社の社長はもともと三菱地所でまさにオフィス不動産やってた方です。ここのアングルは結構面白いなと思ってて。

ところで、三菱地所って新卒が最も辞めない会社らしいんですよね。

 

馬田

そうなんですか。(笑)

 

坂本

ランキングが出ててですね、最も辞めないと。やっぱりホワイト企業でも非常に良い会社なんでやめにくいと。

 

やっぱ不動産のオフィスでですね、総合職で入るような人ってなかなか辞めないので。そういう人が起業をします、かつ面白いアングルですっていうだけで、かなり競争というかですね、やる人が少ない。また、ペインの深さもよくわかってるので。そういうとこはすごい面白いかなと思ってます。なのでちょっと変わった視点をかなり深掘りするというのがいいんじゃないかなと思ってます。

 

馬田

なるほど。では、変わった業界でベンチャーマインドを持ってる人がいたら、是非相談に来てください、ということでしょうか。

 

坂本

そうですね。変わった業界の方がいいです。

 

テック系スタートアップは Day 1 からグローバル

馬田

今回いろいろご準備いただいてきたということですが、他に何か喋りたいアイデアとかあれば是非お願いできますか。

 

坂本

最近は本当にディープテックの業界って、特に国をまたぐことが非常に多いなと思ってまして。我々もその最近ロボット関係で投資をしましたけれども、それは東欧の技術を使って日本のマーケットに展開をするですとか、あとイギリスのケンブリッジの技術を使って日本のメーカーと協業するとか。

 

本当に、テクノロジーは元々そういうものかもしれないですけど。ベンチャーの文脈でも非常にボーダレスになってるなということを強く思います。なので、ディープテックって言われた時に、本当に国の境とかっていうのが溶けてきてるなあというところを最近強く思うので、一つの領域が面白いと思ったらもうこれはもうたぶん、各国の当然技術全て調べて、その上で今どこまでこの技術がいってるのかっていうのは、今簡単に調べられる時代なので…。

 

そういう観点で、国とか関係なくですね一つの領域面白いと思ったら、調べると本当に一気にわかるので。そういう感じでやるとよりリッチな感じになるんじゃないかなという風に思ってます。

 

馬田

逆に日本の起業家がそういうグローバルマインドを持つことに関してはどうでしょうか。坂本さん的にもっと持って行った方がグローバルにいった方がいいのか、もしくは最初はニッチなマーケット日本から始める方がいいのか?ケースバイケースだとは思いますけれども。

 

坂本

私いわゆるテクノロジー系のスタートアップで、グローバルマインドを持ってない起業家にあったことがないです。もうそれは逆に所与としてあって。

 

まず日本マーケット固めて出ましょうっていうのはどっちかって言うとto C のコンシューマ向けのサービスは非常にそのマインドが強いかなと思いますけれども。テクノロジー系の人たちは、みんなDay 1からグローバル意識している人が多いなという感じがします。

 

馬田

Day 1からグローバルで、Day 1からマネタイズ。

 

坂本

そうですね。それぐらいの意識があったほうが他とやっぱり同じ事やるとなかなか難しいと思うので、それぐらい違う観点でやれると面白いかなという風に思ってます。

 

ディープテック領域の変化

馬田

例えば5年とか10年を見て中でディープテックの業界はどう変わってきたとかとか、坂本さんのご意見や感想とかがあったら教えてだけますか。

 

坂本

そうですね。私は5年半前にUTECに入ったんですが、多分その時すでにUTECにはペプチドリームっていう成功した投資がありました。多分この10年間で上場したベンチャー企業の中で一番高い時価総額です、今なら七千億くらいだと思いますけど。

 

それが出たのがやっぱ2010年代前半だったと思うんですけど。そこからの今までのこの5年間っていうのは本当に大きく変わったのかなと思ってます。その時価総額見てもやっぱり上位には、ずらっとテクノロジー系のディープテックのスタートアップが並んでますし、その意味で言うと投資家の環境も、スタートアップの環境も、5年半前とはお金のつき方も全く比べ物にならないと思いますし、そこはあの非常に良くなってるんじゃないかなと思います。

 

あと、ディープテックで言うと、技術を深く理解してる人じゃないと分からないというマインドで言うことだけじゃなくて。研究者の方と一緒に起業をするビジネスサイドに強い方。先ほど申し上げた、例えば産業界のペインに非常に詳しいかた。ていうのがテクノロジー系のスタートアップを成功させる上には絶対に必要だなというのがだいぶ広がってきたのかなと思ってます。

 

その意味でもあディープテック系のスタートアップってのは、今後も非常に大きくなる可能性を秘めてるなという風に思ってます。

 

テクノロジが世で活かされる社会を作る

馬田

ありがとうございます。そろそろ時間になりつつありますが、もし最後に何かあれば。

 

坂本

ベンチャーキャピタルっていうと、なかなか周りにいないので、ちょっと敷居が高いかなと思う一方で、UTECの場合やっぱり大学にあるって言う事もあってですね。大学発のスタートアップを出すこと、資金を出す出さないにもかかわらず、我々は使命として、テクノロジーが世に出ることのお手伝いを、ベンチャーキャピタルの観点からお手伝いが出来ればなというのは常に思ってます。

 

敷居は実は全然高くないので、ぜひご連絡いただければ、私も基本的にはご連絡いただければ会わせていただくようにしてますので、ぜひ気軽に言っていただければ嬉しいです。

 

我々はお会いしてから投資に至るまでをすぐ決まるケースもありますし、そこからずっと壁打ちをして2年3年一緒にやってっていうケースもありますので、気軽に門戸を叩いていただけると嬉しいなと思ってます。

 

馬田

ありがとうございます。坂本さん、今日は本当にありがとうございました。

 

坂本

ありがとうございました。では。

 

馬田

FoundX Podcast、 今日はこれにて終了させていただきます。ご視聴ありがとうございます。

 

今回のゲスト:坂本 教晃さん

東京大学経済学部卒業後、経済産業省入省。2008年経済産業省退官、コロンビア大学経営学修士(MBA)。McKinsey&Company を経て、2014年8月にUTEC参画。

経済産業省では、中小企業金融円滑化関連法案や家電リサイクル法の法案作成業務や未踏ソフトウェアプロジェクトに従事。退官後、アパレル流通のファミリービジネスに参画し、新規事業立上げ及び事業整理を実施。

McKinsey&Company では、日本・東南アジア・欧州を中心に製薬、医療機器、自動車、ハイテク、消費財、金融機関等の業界各社に対し、営業・マーケティング、SCM、M&Aに関するプロジェクトに従事。UTECではこれまで株式会社自律制御システム研究所/ACSL(2018年12月東証マザーズ上場:6232)等の監査役を務めた。

 

株式会社東京大学エッジキャピタルについて

株式会社東京大学エッジキャピタル(UTEC)は、東京大学が承認する「技術移転関連事業者」として、ベンチャー企業を通じた大学の「知」の社会還元に向けて、優れた知的財産・人材を活用するベンチャー企業に対して投資を行うベンチャーキャピタルです。

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