資金調達: a16z が起業家に伝えるアドバイス

ここのところ、(IPOを経験した)「マッスルメモリー」を持たない創業者が、資本が簡単に準備できる市場に遭遇した時に何が起きるかについて、多くの議論がなされてきました(例えばこちらこちらこちらこちらこちらをご覧ください)。

資金を調達する(さらに予算を組む)時に、より戦略的で長期的な展望を持つ方法について、私たちが創業者に話すことをさらに共有することには価値があるだろうと思いました。私たちは、下記で詳しく話を進めますが、その一方で、創業者に対する私たちの助言は非常にシンプルです——資金を調達する時にはいつでも、将来に向けて堅固な足場に立つようにラウンドを作り上げることを考えてください。これはつまり、必要な業務および財務上のマイルストーンに到達し、将来の資金調達の可能性を最大限に拡大することを目的として、資金を十分に調達し、会社を堅固な位置に付けるということです——そうする必要は生じないと考えていたとしても。

なぜなら、会社を設立するのは厳しいことだからです。バリュエーションについての最近のa16zのポッドキャストから、シリアル起業家のDanny Shaderの言葉を引用します。「野心的なことをしようとしていて……そこに到達するためにそれなりの額の資本を費やすことがわかっているなら、最後まで資金が尽きないように手を打っておきたいものです」。使い古された言葉に見えるかもしれませんが、これはマラソンであり、短距離競争ではありません。

けれどもまず第一に、なぜ資金が今すぐに、そんなに簡単に手に入るのでしょうか?

もっと大きな要因が作用していることはさておき、今すぐに資本が簡単に利用できる理由として、以下の傾向が同時並行的に見られることが挙げられます。

1. 様々な理由で、企業が上場までの移行にかける期間は長期化しています。成長のほとんどとそれに続く投資の報酬が、(公開に対し)非公開市場で実現されてもいます。

2. 企業が非上場のままでいる期間の長期化に伴い、企業ごとの調達ドルは激しく上昇しています——下記の図をご覧ください。このことで、実際のものではないにせよ、非公開市場での資金調達の認識上のギャップが発生します。

f:id:foundx_caster:20191029034209p:plain

[2000年代に企業が調達した非上場資金の合計は10億ドル単位でした(1990年代の100億ドル単位と比較)。上記の数字は集合的な資金を反映していますが、単一での資金調達ラウンドが10億ドルを超過することもよくあります。出典:Capital IQ、Pitchbook、企業提出書類]

 

3. 現在、資金調達のギャップは、ヘッジファンドや投資信託、プライベート・エクイティ・ファンドなどの従来の公開市場だけでなく、新たな市場参入者や、企業投資家やソブリンウェルスファンドなど、より大きな役割を前提とする既存の投資家によっても埋められています。

評価額と取引構成についての考え方

評価額についての最も簡単な考え方は、希薄化に対して提供される代償です。評価額が上がれば、希薄化は抑制されます。これは明らかに創業者とその他の既存の投資家にとってよいことです。

f:id:foundx_caster:20191029034327p:plain

しかしながら、いくらかのスタートアップにとって、追加の名案があります——彼らは評価対「ストラクチャ」という、さらなるトレードオフに直面します。それは、私たちに、古くからある格言を思い出させるものです。「あなたが価格を決め、私が条件を決める」というものです。

f:id:foundx_caster:20191029034457p:plain
ストラクチャとはなんでしょうか。それは条項と考えてください。タームシートの見出しの評価額の数字の下に示されています。

すべてのベンチャー資本の取引には何らかの種類のストラクチャがあります。問題は、それらの条件がさらに複雑になった場合に何が起こるのか、また将来において(よい時も悪い時も)、それらの条件が何を意味するのかということです。

ある状況下では、補足的な構成の目標は、投資家とアーリーステージの株主の両方について、従来のリスク / リワードのプロファイルを変えることにより、高い評価額に到達する、またはそれを維持することです。さらなるストラクチャの条件の例には以下のようなものがあります——

残余財産分配権のマルチプル—何らかの報酬を受け取る一般株式に先立っての(従来の1.0回ではない)清算時に、 優先権のある投資家が投資の報酬を複数回(1.5または2.0回)実現できる。

シニア残余財産分配権—優先権のある新規の投資家が(アーリーステージの投資家の「パリ・パス(=同等の権利)」ではなく)、優先権を持つアーリーステージの投資家に先立って、自分の資本の報酬を受け取る。

残余財産優先分配権の参加権—優先権のある投資家が、自分の資本の報酬を実現すると同時に、優先権の一部として資本の報酬を受け取ることができる、上昇傾向の株式。

フルラチェットまたはパーシャルラチェット—優先権のある投資家が、いずれかの資金調達ラウンドが自分の投資評価を下回る価格で完了した場合に、(さらに株式を受け取って)自分の持株価格を再設定する。

返還条項—優先権のある投資家が、会社に対して、要請に応じて投資分の株式を買い戻すことを強制する権利を持つ。

上記のそれぞれに、いくつかのわずかな特徴の違いがあります。またその他の形のストラクチャもあります。(ちなみにストラクチャの反対は「クリーン」なタームシートです。この場合、投資家はさらにエクイティのリスクを取り、会社が倒産した場合の防御力が低くなります。しかし、会社が好調ならば、 創業者とスタートアップの社員とともに、完全に報酬を受け取ることになります。)

資本を調達した時に最適化の対象とするもの

バリュエーションとストラクチャの他に、資本の調達の際に考慮すべきことは多数あります。創業者がトレードオフを評価するように、単純な枠組みが、決断を2つの大きなカテゴリーに分類します——つまり、取引とソースです。

取引には、提案された取引のすべての主要な構成要素と条件が含まれます。それらのいくつかは数量で示すことができます——評価額、調達したドル、オプション・プールの更新などです。他の構成要素には数量化が難しい項目もあるかもしれません。なぜなら、すでにお話した構成条件のように、それらは確定できない将来に左右されるものだからです。

ソースには資金の提供者から提供してもらえる主要な構成要素が含まれます。例えば、企業のリソース、名声、慣例や、パートナーの経験、相互作用、そして利用できる準備資金などです。

それでは、資本の調達時に向けて創業者が最適化するべきものは何でしょうか。

それぞれの会社やそれぞれのステージが異なるため、それぞれの創業者は状況や課題の異なる組み合わせに直面します。そのため、彼らは様々なことに最適化する選択をしなければいけません。活用できる基準のすべてが数量化できたり、客観的だったりするわけではないことが問題です。現に、取締役同士の相互作用など、最も重要な基準には、非常に主観的なものも含まれる可能性があります。

短期の最高評価額を目指したくなる創業者もいるかもしれませんし、それが一部のソリューションにおいては最適な戦略かもしれません。しかしながら、その他の状況では、創業者は他の考え方を優先すべきかもしれません。例えば、自らの戦略を会社が実行する手助けとなるような、非常に特殊で高い関連性を持つ一連のスキルを備えたパートナーを選ぶことなどです。

最終的に鍵となるのは、長期にわたる十分な関係性を築くための最適化です。その手段は、創業者と一致した目標を有しており、スタートアップの潜在能力を(妨げるのではなく)実現させることを可能とするような投資をするパートナーに重点を置くことです。

この決定は、設立段階にある若い会社にとっては特に重要です。なぜでしょうか。高い評価額というハードルや投資家に強制された規制条件、問題含みの取引構成をあまりにも早く設けてしまうと、最も資金を必要とする時に、さらに資金を調達する力を妨げることにもなりかねないからです。

さらに、早期の金融ラウンドで合意に達した条件は、次の金融ラウンドにおける条件交渉のための出発点になる傾向にあります。それに続く投資家は自然に、少なくとも同じ条件を望むでしょう。(シリーズA、B、C、さらにはCラウンドにおいてでさえ)アーリーステージのディールストラクチャを考慮しないと、資本政策表や「誰が何を所有しているか」という事柄が複雑になります。

すべてが好調ならば、さらなるストラクチャの下降は制限されます——会社は成功している巨大事業へと成長し、創業者からスタートアップの社員、投資家まで、全員が勝利します。

問題は、計画通りに物事が進まなかったり、予想以上に時間がかかったりした時に何が起こるかということです。他の誰かが競争力のある製品を発売し、同業他社がその空間に足を踏み入れる決断をして出だしが遅れ、キーとなる社員が会社を去るなどします。至極妥当な理由によって、物事が辿る経路が変化する可能性もあります。例えば、思い切り行動したいと思っている、成長が予想よりも早い、初期の顧客の支持がすばらしい、長期に渡り、よい位置に私たちを立たせてくれるような非常にすばらしい人々を何人か雇用する機会がある、など。(その意味では、資本を費やすことは悪いことではありません。私たちがかつて主張したように、潜在的エンドユーザーのさらに大規模な市場があるため、現在のスタートアップには、より大きくなる機会があります。)

予想外の理由によるものであれ、計画された、妥当な理由によるものであれ、市況とは無関係に、会社はさらなる資金の調達を必要とします。妥当な条件の組み合わせを、正しい評価額で、妥当な資本の提供者から手にするのが本当に重要になるのは、この時点です。

創業者は、これらすべてにどのようにして取り組むべきでしょうか。

鍵となるのは、競争環境を創出することを目指した資金調達過程の実行です。

投資家が競い合えば、創業者が最高の条件の組み合わせを手にする傾向が高まり、よりよい組み合わせが選択対象となります。彼らは交渉においてすべてのレバレッジを手にしています。創業者が考慮すべき代償は、資金調達によって事業に集中する時間が減ることが、事業に対して著しく否定的な影響を与える可能性です。そのため創業者は、次の二つの間で均衡を取らなければなりません。つまり、時間の浪費がないように、取引を行う可能性が非常に高い資金提供者のグループに焦点を絞りつつも、競争環境を創出するため、十分に大規模な資金提供者のグループを標的とする必要があります。

創業者は、万全を期し、単なる最高の評価額ではなく、最善の条件にするため、潜在的な投資家の間に競争を育むべきです。なぜなら、潜在的な投資家は互いに競合し、より高い評価額や、会社にとってより好ましい条件(もしくはその両方)を提示することで、取引を勝ち取ろうとするからです。(ちなみに、やり手の投資家は、競争を避けたがることもあります。最初に競い合って価格を付け、取引を構成し、創業者がよりよい提案を探さなくていいようにします)。

注意してください。企業が一旦、タームシートに署名すれば、他のすべての潜在的な投資家は脱落します。レバレッジは自分たちから奪われ、投資家へと移ります。この時点での取引または交渉の未完了は、起業家を不利にすることがあります。以前に興味を持っていた人々が、取引が完了していない理由として、デュー・ディリジェンスの間に何か否定的な材料が発見されたと想定するからです。

* * *

最近、私たちの経営パートナーであるScott KuporがThe Wall Street Journalで、定義上、起業家とはリスクをとる人々だと述べました。彼らは自分の事業の見通しに関して、楽観的であるべきです……そうでなければ、会社の設立に伴う闘いを生き抜くことはないでしょう。

けれども、あなたの事業の景気が悪化した時には、少しの計画が大いに役立ち、確実に持ちこたえることができます。ですから、どのような代償を、どのタイミングで払うのかについて、慎重に考えてください。

 

著者紹介

Jamie McGurk

Steve McDermid

 

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: Raising Capital: This is the Advice We Give Our Founders (2014)

FoundX Review はスタートアップに関する情報やノウハウを届けるメディアです

運営元