資金調達に関するよくある 16 の質問 (a16z)

ほとんどの企業にとって資金調達とは、1億ドルのラウンドや「ユニコーン」を意味しません。それは多くの場合、不安に満ちた、孤独で苛立たしいプロセスであり、不確実性と自己不信に満ちています。巷で流れる物語とは違って、ほとんどのスタートアップにとってベンチャーキャピタルを調達することは簡単ではないのです。

起業家は査定や構造といったトレードオフを常に評価しています(それについては以前ここで書きました)。しかしこれ以外にも多くのことがあるので、以下によくある質問のリストを共有したいと思います。資金調達の現実に光が当たれば幸いです。

1. いつ資金を調達すべきでしょうか。適切なタイミングをいかに判断するのでしょうか?

資金調達は、そのプロセスを実行する準備が「完了」したときにのみ行うべきですが、それがいつ「完了」したのかを見極めるのは難しいことです。実際、準備が完了することはありません。評価額を上げるための重要なマイルストーンは常にあり、その全てに対し十分準備をする時間もありません。どこかの時点であなたは準備に見切りをつけ、実際に始めなければならないのです。

最善の手段は、次の3つの基準を満たしたときに資金調達を開始するというものです。

1) 十分なキャッシュのランウェイがあり、資金調達に柔軟性を持って対応できる。もう後が無いという状況になってはいけません。古いことわざにもあるように「必要のないときにお金を集める」のです。ランウェイ=レバレッジ交渉です。

2) 自分が受けるに値すると思うバリュエーションを得ることに必要なマイルストーンを達成している。

3) 聞き手をノックアウトできるようなピッチを提供し、ディリジェンスを要求された場合に効率的に応対するための準備が、完璧に整っている。

2. シリーズCの資金調達を行う典型的な企業はどのようなものでしょうか?また、資金調達を成功させるために達成すべき適切なマイルストーンは何でしょうか?

プライベートの資金調達ラウンドの価格設定には非常に多くの要素が入り込むため、他の企業から具体的な結論を引き出すのは危険といってもいいほどです。正解はありません。企業はそれぞれ異なり、管理チームもそれぞれ違っています。そして市場の状況は常に変化しています。

ラウンドの規模やラウンドの呼び名(シード、シリーズA、B、Cなど)に関係なく、資金とマイルストーンの調整がすべてであることを覚えておいてください。その規則を念頭に、地に足がついた行動を心がけてください。トラクションが大きければ大きいほど成長も大きくなります。

3. 特定のバリュエーションを求めるべきでしょうか?

確かに自由に価格を決められる会社もありますが、ほとんどのスタートアップにとっての現実は、市場が提供する最高のオファーを受け入れる、というものです。特定の評価額を要求することは、時にリスクの高い交渉戦略となります。もしあなたが$xの評価額を要求しても、投資家がその会社がまだ$xの価値はないと考えたためにその機会を逃した場合、低い価値評価でもう一度同じ投資家のところへ行っても、結果が変わるということは滅多にありません。

もっとも、特定の評価額を求めなくても、自分でも気がつかないうちに評価額のシグナルを送っているということもあるでしょう。起業家による「価値評価依頼」を精査する際、投資家は、提案された資金調達の規模、最終ラウンドの価格、調達された資金の総額、および調達された資金のラウンド数のような暗黙のシグナルも考慮するのです。

4. どれほどの資金を調達するべきでしょうか?

特に希釈化に気をつけるためにも、どれほどの資金を調達するかということについては、戦略的になりたいものです。したがって、次のマイルストーンと価値評価の変曲点に到達するための十分なクッションが得られるようにラウンドのサイズを設定する必要があります。

最悪なのはラウンドの間でもがく「トゥイナー (tweener)」になってしまうことです!トゥイナーとは投資家が使う専門用語で、これまでに達成した財務面や営業面でのトラクションに対して期待値が高すぎることの丁寧な言い方です。そのような状況から抜け出すためには、 (1) 期待値を低くするか、 (2) プロセスの実行を改善し、当初の期待値に成長させることの2つができます。もっともそのいずれも、資金調達プロセスの真っ只中ですることはお勧めできません。

5. どの投資家をターゲットにするべきですか?

ここでフォーカスすべき最も重要なことは、企業のステージに適した投資家を見つけることです。例えば、アーリーステージの企業はアーリーステージの投資家にフォーカスすべきです。そして、もしあるスタートアップがまだ「企業構築段階」にいるのであれば、企業構築を支援している投資家をターゲットにすることにフォーカスすべきでしょう。

会社が成熟するにしたがって、いつでもレーターステージの投資家に移行することはできますが、レーターステージの投資家を呼び込んだ後で、アーリーステージの投資家に戻ることは難しいことです。

6. 「クロスオーバー」投資家とは何ですか?

クロスオーバー投資家とは、通常は投資信託やヘッジファンドなどの公開市場に投資しながら、未公開市場の企業にも投資する投資家のことです。

ますます重要性を増している投資家グループであるクロスオーバー投資家は、スタートアップにとって非常に価値のあるパートナーとなることができます(特にスタートアップがIPOステージに近づいている時)。彼らはスタートアップが上場企業としての活動に移行するのを助け、IPOのプロセスをよりスムーズにすることができます。

7. 「戦略的」投資家をラウンドに含めるべきでしょうか?

戦略的投資家とは簡単にいうと、「スタートアップに投資する企業」のことです。ここでいう企業とは、大規模で献身的な投資組織(スタートアップへの投資だけに多額の資金が割り当てられている)を持つ企業から、歴史上一度しか投資をしていない企業(バランスシートの現金をそのまま使って)までを含みます。戦略的投資家は価値あるパートナーとなり得るでしょう。

戦略的投資家の利点には、流通の拡大、暗黙の信頼性、技術の共有などがあります。逆に、他の投資家ではなく戦略的投資家を選ぶことによって、潜在的な流通チャネルを閉ざすことになってしまうかもしれません。戦略的投資家がポートフォリオ企業とどのように協働しようとしているかを理解することは、起業家がその投資家と提携するかどうかを決定する前に行うべき重要な 「リバース・ディリジェンス」 のステップです。

8. どれくらいの投資家にアプローチすべきでしょうか?厳選された少数の投資家のみにアプローチしてはいけないのでしょうか?

資金調達の際には、効率性と成功の確率を最適化することのバランスを常に取ろうとしていることでしょう。特に起業家というのは、さっさと資金調達を成功させ、ビジネスを成長させるという仕事に戻りたいと考えているわけですから、なおさらのことです。

ですから資金調達プロセスを幾度も行う、つまりまたゼロから資金調達を行う必要に迫られるほど少数の投資家にアプローチするということは避けたいわけです。そのような「逐次処理」をしたら、疲れ果ててしまいます。同時に、会社にとって最適なパートナーを特定するために必須である個人的注意を払うことができないような、大きなネットワークを構築したくもありません。

9. 投資家と話をするだけではダメですか?フルのスライド資料集を用意する必要が本当にありますか?

多くの企業(ここでも少数の著名なスターや「ユニコーン」にフォーカスするだけでなく)にとって、潜在的な投資家に強い印象を与える機会はほとんどありません。したがって、一つ一つのやりとりを最後のつもりで行ってください。これらのやりとりを大事にしましょう。

何事も運任せにしないようにしましょう。スライド資料集の準備や発表の練習、つまりスクリプトを作ることや練習に時間をかけましょう。

10. ラウンドを調達するのにどれくらいの期間かかりますか?

数日で行ってしまう企業もいくつかあります。しかし多くの企業にとって、それは何ヶ月もかかるプロセスとなります。何れにせよ、自分が想像しているよりもプロセスが長くなることを想定して準備しておきましょう。またキャッシュのランウェイを査定する際も、十分なクッションを用意するようにしましょう。

成功の確率を最大限高めるためにもっとも重要なことは、プロセスのための事前の準備に少し多めの時間を取ることです。短期間のうちに二度もプロセスを行いたくはないでしょう。実際、資金調達の成功を示す最も強力な先行指標、つまりビジネスの完璧な遂行は、投資家と話をする前に発生します。高い収益成長率と高い利益率を一貫して実現している企業では、資金調達に問題が生じることはほとんどありません。

11. 機密情報を共有することに不安を覚えています。どれくらいの情報を共有すべきでしょうか?また、いつカスタマーレファレンスを提供すべきでしょうか?

ベンチャーキャピタルの世界は、信頼と評判の上に建てられています。VC企業にとってもっとも重要なことは評判であり、その評判を傷つけるもっとも簡単な方法は、信頼関係を尊重しないことです。そのため、質の高いベンチャーキャピタル企業は、個人情報の機密性を尊重します。

十分な情報を事前に共有せず、タームシートに署名するまでそれを待つことの潜在的リスクの1つは、投資家が署名後に考えを変える可能性があるということです。このシナリオを回避するには、事後のシート署名をコンファマトリー(ディスカバリーではなく)ディリジェンスだけにしておくということです。同時に、甘い考えでいてはいけません。意図せずとも、情報が漏れることもあります。ですから、常識の範囲内で相手を信頼するようにしましょう。

12. 投資家にはどのような財務モデルを提供すべきでしょう?

すべての企業は、何らかの財務モデルまたは財務予測を使用する必要があります。たとえあなたの企業がまだアーリーステージにいたとしても、キャッシュバーンを理解し、資金調達のタイミングを最適化するためには、何らかの形で予算を管理する必要があるのです。

キャッシュバーンを理解することは、財務モデルの最も重要な要素の1つであり、キャッシュバーンの健全なモデルには、ヘッドカウントに基づく詳細な支出が含まれます。収益創出の段階に入った企業にとって、収益のユニット・レベルの作用因を理解することも重要です。正確さは必ずしも精度の指標ではないことを覚えておいてください。

13. エクイティではなくデットを調達すべきでしょうか?

適切に利用すればデットは大きな資金源となり得ます。デットは総資本コストを大幅に削減し、財務面での柔軟性を大幅に高めることができます。

しかし、デットは賢明に使われるべきです。なぜならデットは最終的に返済する必要があるからです......。返済しないことの結果は深刻です(すなわち、破産です)。忘れてはならないのは、デットはエクイティの代替ではなく補完であるということです。

14. ラウンドを調達するためにアドバイザーを利用するべきでしょうか?

投資銀行や他のタイプのアドバイザーは、特にレイターステージで、資金調達の際に大きな価値を加えることができるでしょう。このようなアドバイザーは、ディリジェンスと準備の多くを前倒しすることでプロセスを合理化し、会社の経営により集中できるように助けます。また、より幅広い投資家層へのアクセスを提供するのにも役立つでしょう。

とはいえ、すべての企業がアドバイザーを必要としているわけではなく、アドバイザーを採用するかどうかの決定は、それぞれの状況の中で行うべきでしょう。たとえば、魅力的な評価価値で複数の未承諾タームシートを受け取っている企業は、アドバイザーの支援なしで投資家を選ぶ余裕があるのです。

15. 幾らかのセカンダリストックを売却すべきでしょうか?

アーリーな企業が株を売却することは、潜在的な投資家にとって、売却する株主からの否定的なシグナルと解釈されてしまうことがあります。投資家は、次のように考えます。彼らが知っていて、わたしが知らないことは何か?その会社は、すでに十分に評価されているのか?

しかし、株式を売却することで、一部の従業員の家計をやりくりしなければならないというプレッシャーが軽減され、従業員がより長く会社に専念できるようになる可能性もあります。ここでお答えしたすべてのことと同様に、この質問に対する答えは、それぞれの企業に固有の一連の要素に依存します。例えば総所有権の何パーセントが売られているか、会社はどのステージにあるのか、予測可能な収入源が確立されているか、などです。

16. プロセスを実行しても資金を得られなかったり、市場の状況が私にとって不利になってしまった場合、どうしたらいいでしょうか?

資金調達の成功が保証されるということはありません。ですから、いつでも代替案を用意しておくようにしましょう。

代替案には、例えばインサイダーからブリッジを行ったり、デットラインをタッピングしたり、現金支出を減らすなどがあります。大きく言えば、代替案を持っておくことで、資金調達のプロセスにレバレッジをもたらすことができるのです。

 

著者紹介

Steve McDermid

 

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: 16 Common Questions About Fundraising (2015)

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