スタートアップの資金調達法 (Startup School 2014 #09)

 

Sam Altman
では、MarcとRonへの質問から始めたいと思います。本日の講義における最も重要な質問ですが、スタートアップへの投資を決めるポイントは何でしょうか?

Ron Conway
それについてはスライドを用意しているのですが。

Sam Altman
それでは私たちが準備している間、Marcには話を進めてもらいましょう。

Ron Conway
会社への投資を決めるには非常に多くの指標があります。私はMarcがIllinois大学を卒業する直前の1994年から投資を始め、今やSV Angelとその事業体は700社以上の会社に投資しています。700社への投資ですから、数千人の起業家と面談してきたことになります。私が起業家と話をする際には様々なことが頭に浮かんできます。今日はそのいくつかについてお話ししましょう。

起業家の評価軸

私は起業家と話し始めた最初の1分で、「この人はリーダーか?」「この人は真面目で、集中力があり、このプロダクトのとりこになっているか?」と考えます。

そして、最初の質問で必ず「なぜこのプロダクトを作ろうと思ったのですか?」と聞きます。その理由が創業者が個人的に抱えている問題に基づいており、そのプロダクトが問題のソリューションになっていることを期待しているのです。

次のチェックポイントはコミュニケーションスキルです。なぜなら、リーダーとなって人を雇い、チームを作り、プロダクトを成功させるには、自身が優秀なコミュニケーターであり、生来のリーダーである必要があるからです。

リーダーシップの特性には後に学ぶ必要があるものも含まれるかもしれませんが、まずは責任を負う立場おいてリーダーになれる能力を身に付けていることが重要です。ではスライドに戻りますが、ここからはMarcにお願いしましょう。

Marc Andreessen
今のお話には私も全く同感です。スタートアップへの投資を決めるポイントは何かという質問については、お話しできることがたくさんあります。

私たちはRonと少々違っているかもしれません。というのは、私たちはシードステージ、ベンチャーステージ、グロースステージと様々なステージで投資を行っているからです。そして、消費者向け、企業向けなど、多様なビジネスモデルに投資しています。ですので、具体的な質問に対しても細かくお答えできます。

VCのビジネス

では、2つの一般的な概念について皆さんと共有しておきたいと思います。

VCは極端な例外を狙うゲーム

1つ目は、ベンチャーキャピタルビジネスとはまさにアウトライヤー、しかも極端なアウトライヤーのゲームであるということです。既存のデータによれば、ベンチャーキャピタルを立ち上げようとする会社は年間約4,000社あります。そのうち約200社が一流のベンチャーキャピタルと目される会社から投資を受けます。さらにそのうち約15社が将来、収益1億ドル企業となります。そして、その15社がその年のベンチャーキャピタルの全カテゴリーの約97%に匹敵するリターンを生み出すのです。

つまり、ベンチャーキャピタルとは「大成功か大失敗か」の両極端なビジネスなのです。皆さんはその15社のうちの1社となるかもしれませんし、そうならないかもしれません。あるいは、200社のうちの1社となるかもしれませんし、そうならないかもしれません。

重要なことは、私たちがこれまでお話ししてきた特定の基準がどうであろうと、成功するベンチャーキャピタルはすべて極端なアウトライヤーの性質を持っているということです。

弱みよりも強みに目を向ける

2つ目は、私たちが多くの時間を費やして検討していることとして強調しておきたいのですが、私たちは相手の強み、そして弱点の欠如を考慮して投資を行っているということです。

そうした特性は明白なようですが、実際には実に微妙なのです。チェックリストで確認するのがベンチャーキャピタリストの標準的手法のようになっています。「真に有能な創業者か?はい。真に優れたアイデアか?はい。真に優れたプロダクトか?はい。真に優れた初期顧客か?はい。よし、これは妥当な案件だから投資しよう」といった具合です。

しかし、常にそうしたチェックリストを基に投資の可否を検討していると、相手は実際に非凡で特別な何かを持っていない、つまりアウトライヤーとなり得る卓越した強みを持っていないことが多々あります。

一方で、傑出した強みを持っている会社は重大な欠点を持っていることが多いのです。ベンチャーキャピタルに関する教訓の1つは、重大な欠点がある会社へ投資しなければ大きな成功を収める会社の大半を逃してしまうということです。

私たちはそうした事例に何度となく直面してきました。しかし、重大な欠点がある会社を避けていたら、大きな成功を収める会社の大半は投資対象から除外されてしまうでしょう。

例外的な強みを持つスタートアップを狙う

つまり、私たちが求めているのは、傑出した強みを持つスタートアップへの投資です。そして、ある程度の欠点はあえて許容することが重要になります。

一言で説明できるようにする

Ron Conway

このスライドについてそれほど深く掘り下げるつもりはないのですが、投資家と初めて会って話をする起業家は、その投資家に自分のプロダクトはどんなものかを、相手を惹きつけるような説得力をもって一言で説明できるように入念に練習しておくべきです。

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投資家が頭の中ですぐにそのプロダクトのイメージを思い描くことができるようにすべきです。

私が話をしている起業家の25%くらいはこれができていません。私には彼らが何をしているのか伝わってこないのです。

そうした時、年を取って気が短くなってきている私は、「もう結構です、あなたの話は要を得ません」と言ってしまいます。ですから、投資家に完璧な説明ができるようにしてください。

決断力が必要

では、二番目の項目へ移ります。起業家には決断力が必要です。前に進むには決断し続けるしかありません。優柔不断はスタートアップにとって致命的です。何をするにせよ、前進し続けるしかないのです。

採用の決断であろうと解雇の決断であろうと、迅速な意思決定が必要なのです。優れたチームを作ることが大切です。優れたプロダクトを生み出したら、次は実行力と優れたチーム作りが重要となります。

シードラウンドでの体験

Sam Altman
Parker、シードラウンドがどうだったか、資金調達ではこうすればよかったという点を話してもらえますか?

Parker Conrad
はい。私が携わったシードラウンドですが、資金調達という点では現在の会社は比較的スムーズに進んだように思います。実は私は現在の会社の前に起業して6年やっていた会社があり、そこでは共同創業者と私がシリコンバレーにあるほぼすべてのベンチャーキャピタルに売り込みに行きました。

実際に60社回っても答えはすべて「ノー」で、私たちは「売り込みのやり方をどう変えればよいのか?」「スライドをどう直せばよいのか?」「ストーリーをどう工夫すればよいのか?」などと模索し続けていました。

そしてある時、Khosla Venturesへ売り込みに行って、先方のある人から重要なヒントをもらいました。彼が求めていたのは私たちが用意していなかった非常に特殊な分析データでした。

「分かっていないね。君たちがTwitterの社員なら、訪ねてきて何だかんだと喋って用意してきたものをとにかく見せれば、私たちはお金を出すだろう。しかし、君たちはそうではないのだから、私たちが簡単に理解できるものを作ってこないと駄目だよ」というようなことを言われました。

しかし、その時の私は相手の人が私たちに理解してほしかったことと正反対のことを考えていました。「Twitterの社員のようになればいいんだ」と。

私が現在の会社を立ち上げた理由の1つ、あるいはZenefitsに関して非常に魅力的だと感じたことの1つは、これはビジネスになりそうだと思ったのです。私はベンチャーキャピタルからの資金調達に奔走していた2年間にうんざりしていて、自暴自棄のような状態になっていました。誰かの資金を頼りにしてはいけません。

私が立ち上げたこのビジネスは、全く資金調達をしなくてもやれそうに思えました。潤沢なキャッシュフローを生み出してくれる十分魅力的なビジネスになるかもしれないと思えたのです。

これがまさに投資家がお金を出したがる類のビジネスだったため、その後は非常に楽になりました。これは実にたやすい話に聞こえるかもしれませんが、先ほどお話ししたように皆さんに比べれば私は専門家です。しかし、私は自分が資金調達の専門家だとは思っていません。私がやっている他の仕事に比べれば不得手かもしれません。

しかし、すべてが正しい方向に向かっているビジネスを生み出し、どんな話でも聞いてもらえるTwitterの社員のようになれれば、何も問題はありません。Twitterの社員のようになれなければ、あらゆる点で自分を差別化することは非常に難しくなります。

Ron Conway
クジラのエラーメッセージがTwitterのウェブサイトに頻繁に現れることが2年も続いたのに、そのベンチャーキャピタルの社員はなぜTwitterの社員であれば、というようなことを言ったのでしょうか?

Marc Andreessen
それはそれでうまくいっていたからです。

できるだけ長くブートストラップでいること

Ron Conway
私が補足しておきたいもう1つポイントは、できるだけ長くブートストラップを続けることです。

以前、新しく会社を始めようとしていたテクノロジー業界随一の女性創業者の1人と会い、「資金調達はいつやるつもりですか?」と尋ねました。「しないかもしれません」との返事を聞いた私は「それは素晴らしい」と言いました。

ブートストラップを続けることを忘れないことです。

成功の秘訣は、誰も無視できないくらいにうまくなること

Marc Andreessen
このトピックはここで終わりにするつもりでしたが、もう少しこのトピックについて話してみたいと思います。Parkerが最も重要なことを話してくれました。それは私もお話ししようとしていたことです。

私がこれまで目にしたもの、そしてこの種のトピックについてお話しすることの中で最も重要なアドバイスは、私が不世出の天才と思っているコメディアン、Steve Martinが誰もが認める成功者となった自身のキャリアの始まりについて書いた名著『Born standing up』の中に記されてあります。

その薄くて小さな本には彼がどのようにSteve Martinになったかが記されており、その中の一節に「成功の秘訣は、誰も無視できないくらい上手くなることだ」とあります。

ある意味、今日の講義を受けてその内容をすべて胸に留めておこうとしても無意味です。なぜなら、Parkerのように行動し、とてつもない成功を収めるビジネスを生み出せば、投資家は惜しみなく出資を申し出てくるからです。

もし理論と計画だけでデータの裏付けがなければ、数多あるスタートアップのうちの1社となってしまい、資金調達ははるかに困難になるでしょう。ポジティブな表現をすれば、「誰も無視できないくらい上手くなる」ことが重要なのです。磨き上げるべきは売り込み方ではなく自分のビジネスなのです。

今まではポジティブなお話をしてきましたが、ここでネガティブな見方というべきか、教訓もお話ししておきましょう。これについて話す度に気分が悪くなりますが、今私はインフルエンザの治療で大量の薬を飲んでいるので、気にせず話を進めましょう。

資金調達は最も楽な仕事

ベンチャーキャピタルからの資金調達はスタートアップ創業者にとって最も楽な仕事なのです。エンジニアの採用と比較すれば、ベンチャーキャピタルからの資金調達の方がエンジニアを20人採用するよりはるかに簡単です。資金調達は大企業への売り込みよりも、コンシューマービジネスでバイラルによる成長を続けることよりも、広告収入を得ることよりも、起業家が今後行う仕事のほとんどすべてよりも簡単なのです。

Parkerのお話は実に正論で、資金調達が困難な状況に置かれても、資金調達の後に待ち受けていることに比べたらそれほどでもないでしょう。これは心に留めておくべき非常に重要なポイントです。

「資金調達は成功の証ではなく、会社にとってのマイルストーンでもない」と世間でよく言われていますが、これは正しいと私は思います。資金調達の成功は、今後より困難なことに取り組んでいかねばならないポイントに到達したに過ぎないのです。

Sam Altman
それに関連する話ですが、資金調達をする創業者にここを変えるべきだというアドバイスはありますか?具体的には、Marcがお金と資金調達との関係に触れていましたが。

リスクの玉ねぎ理論(キャッシュでリスクを検証する)

Marc Andreessen
資金調達と会社経営の両方の点で起業家が見逃している最大のポイントがあります。それについて十分に語られていないのは私たちにも責任があると思いますが、それはリスクとキャッシュの関係性です。つまり、リスクとキャッシュの集め方の関係性、そしてリスクとキャッシュの使い方の関係性です。

私は数年前にAndy Rachleffからあることを教わり、ずっとその教えを大事にしています。それは彼曰く「リスクの玉ねぎ理論」というもので、立ち上げ初日のスタートアップについて考え得るあらゆる種類のリスクをリストアップするのです。

「創業者たちは協力して事に臨めるか?」は創業者チームに関するリスク、「プロダクトを創り出せるか?」はプロダクトに関するリスク、「機械学習のブレイクスルーか何かが必要になるかもしれない」「ビジネスの進捗に何か必要か?」「それができるか?」は技術に関するリスク、「上手く発売できるか?」は発売に関するリスク、その他に市場で受け入れられるかどうかというリスク、収益リスクといった具合です。

営業部門を抱えているビジネスの多くが直面する大きなリスクは、「売上原価を実際にカバーし得る金額でプロダクトを販売できるか?」ということです。つまり、売上原価に関するリスクです。

消費財を扱うビジネスであれば、バイラルによる成長に関するリスクがあります。つまり、初期のスタートアップにとってこのような数多くのリスクが考えられるわけです。スタートアップの経営と資金調達の考え方は同じだと思います。つまり、玉ねぎをむくように徐々にリスクを取り除いていくのです。

シードマネーを調達したら、最初の2つ、3つのリスクが取り除けます。創業者チームリスクとプロダクトリスク、そしてイニシャルリスクかもしれません。Aラウンドの調達をしたら、次の段階のプロダクトリスクや、エンジニアリングチームが出来上がっていれば、採用リスクも取り除けるかもしれません。最初の5人の顧客を獲得したら、顧客リスクも取り除けるでしょう。

このように、会社の成長と共に、マイルストーンを達成する度に、玉ねぎをむくようにリスクを剥がしていくというのが基本的な考え方となります。そして、マイルストーンを達成するにつれて、ビジネスが成長し、さらなる資本調達を正当化できるようになるわけです。

投資家には次のリスク検証とマイルストーンを話す

私たちのような投資家を訪ねてくる起業家は、「現在Bラウンドの資金調達をしています」というように売り込んできます。

投資家に対する最も有効な売り込み方は、「シードラウンドで得た資金でこれらのマイルストーンを達成し、これらのリスクを排除しました。Aラウンドで得た資金でこれらのマイルストーンを達成し、これらのリスクを排除しました。現在はBラウンドの資金調達をしており、これが現在のマイルストーンとリスクです。そしてCラウンドまでにはこうなっている予定です」というように説明することです。

そして、調達する金額と自分のビジネスにおけるリスク排除のために使う金額とを対応させます。当たり前に聞こえますが、私はそれらすべてに目を通します。なぜなら、それが資金の集め方と使い方を精査する理に叶った方法だからです。

にもかかわらず、最近は「なるべく多く資金調達したいです、立派なオフィスを建てたいです、なるべく多くの人を採用したいです」というように話す起業家がたくさんいます。彼らに幸あらんことを願いましょう。

NDA を求めない

Ron Conway
私からは戦術面の話をしましょう。投資家に秘密保持契約書(NDA)へのサインを求めることはご法度です。出会って間もなくNDA締結を求めることは「私はあなたのことを信用していません」と言っているも同然だ、と大半の創業者は理解しているので、今ではそう言われることもめったにありませんが。つまり、投資家と創業者の関係は多大な信頼の下に成り立っているのです。

私がこれまで目にした中で最大の失敗は、書面化しておかないことです。「資金調達はできるだけ迅速かつ効率的に行うべし」というのが私からのアドバイスですが、それだけに執着しないでください。創業者はなぜか資金調達の成功を個人の勝利のように自慢しますが、Marcが話したように資金調達は最も小さなステップにすぎません。これは最も基本的な段階です。資金調達は手早く終わらせましょう。

プロセスに関してアドバイスしますと、誰かに約束をしてもらった時は、自分の車に乗ったらすぐに今しがた交わした約束を確認するメールを相手に送ってください。なぜなら、多くの投資家はかなり記憶力が低く、投資すると言ったことや起業家の評価、共同投資家を見つけてあげると言ったことを忘れてしまうからです。

話したことを書面化しておくだけであらゆる論争を回避することができ、投資家が何もなかったことにしようとしたら「恐れ入ります」とメールを再送すればよいのです。メールに返信をもらっておくことが望ましいのですが、とにかく約束したことを書面にしておくことです。ミーティングではメモを取り、重要なことはフォローアップすることです。

資金調達のプロセス

Sam Altman
戦術についてもう少し話をしたいと思います。そのプロセスはどのように進んでいくのでしょう?投資家に直接メールしても良いのか、それとも紹介が必要なのでしょうか?意思決定までに投資家はどれくらいミーティングが必要なのでしょうか?適切な条件かどうかどのように確認すべきでしょうか?創業者はどのタイミングで小切手を書いてもらえばよいのでしょうか?

Marc Andreessen
6つも質問が来ましたよ。シードについて説明していただけますか?あとは私が続けます。

SV Angel の投資検討プロセス

Ron Conway
分かりました。SV Angelはシードステージのスタートアップに投資しています。私たちはスタートアップの最初の投資家になりたいのです。最近では100~200万ドルの投資を行うのが一般的ですが、以前は100万ドル止まりでした。つまり、25万ドルを投資する際にはそのシンジケートには他に投資家が5~6人いることになります。

現在SV Angelには13人のスタッフがいます。私は今はデューディリジェンスに携わっておらず、決定権も持っていません。成熟し始めたポートフォリオ企業に関する主なプロジェクトをサポートしているだけです。しかし、SV Angelには調査分析を行う包括的なチームがあります。実際に投資対象となるのは検討を行った30社につき1社ほどであり、週に大体1社への投資を行っています。

興味深いことに、SV Angelには持ち込み案件がありません。私たちは広範なネットワークを持っているため、基本的にはその中で上がってくる案件のみ扱っています。

私たちの評価対象となるには、素晴らしい簡潔なエグゼクティブサマリーを提出してもらう必要があります。そして私たちが好ましい案件と評価した場合、実際に投票を行います。私は現在そのミーティングに参加していませんが、相手の起業家に電話をしてみるかどうか、ミーティング参加者たちが実際に投票を行って決めます。これが一連のプロセスにおいて重要な時間となります。

そして、SV Angelチームの十分な数のメンバーが興味深いと判断した場合、相手の創業者に電話連絡をする者を決めます。通常はチーム内で、その創業者の事業分野の経験を持つ者が選ばれます。

電話で話して感触が良ければ、ミーティングに進みます。SV Angelが起業家にミーティングを依頼したら、それは投資決定に向かって順調に進んでいるということです。

そして、ミーティングがうまくいった場合は、内密に身元調査を行い、その会社や彼らが目指している市場に好感が持てたら、投資の約束をします。そして次に、共にシンジケートを構成する他の付加価値投資家を探すのをサポートします。均等負担の場合には、その会社に資金を出す他の投資家も優れたエンジェル投資家であってほしいというのが私たちの考えです。

シリーズAの投資検討プロセス

Marc Andreessen
ではベンチャーステージ、シリーズAステージについて少しお話ししましょう。

シリーズAステージでは、一流のベンチャーキャピタリストが投資するのは2種類の会社に限られると言っていいと思います。1つはシードラウンドで資金を調達済みの会社です。私たちがシリーズA投資を行うのは、必ずと言ってよいほどRonや彼の仲間からシードファイナンスで100~200万ドルを調達した会社です。誤解のないようにもう一度言っておきますと、ほぼ必ずRonや彼の仲間です。つまり、シリーズAに進みたければ、まずシードラウンドで資金調達をすることです。それが一般的なプロセスです。

時にはシードラウンドで資金調達をしていない会社と出会うこともありますが、それらは過去に成功を収めている創業者の場合か、ほとんどの場合は私たちが以前一緒に仕事をしたことがある創業者の場合に限られます。

まだ公表していませんが、実は私たちは先日そうしたケースを手掛けました。その創業者が誰かは数週間後に公表される予定ですが、私はエンジェル投資家でした。2006年にはRonも実際にその会社に投資していたと思います。その会社は勝手気ままな経営をし、最終的には他の大企業に買収されました。そして現在、そのチームは新しいビジネスを始めたのです。

このような場合がシリーズAにいきなり上がってくるケースです。彼らには高い知名度と万全な計画があり、これは例外です。大抵の場合はシードラウンドを経験しています。

もう1つはすでにお話ししていることで、Ronの話とも似ていますが、私たちのネットワークを通じて年間約2,000件の紹介があります。それらの大部分はシード投資家からの紹介です。つまり、Aステージのベンチャー企業へ紹介してもらう最善の方法は、シード投資家またはY Combinatorのような組織と一緒に仕事をすることです。

最も重要な条件交渉

Sam Altman
創業者が最も留意すべき条件は何ですか?創業者はどのように交渉すべきでしょうか?

Parker Conrad
まさにMarcが先ほど話していたように、シードステージで最も重要なことは適切なシード投資家を選ぶことでしょう。なぜなら、彼らは将来の資金調達イベントの基盤となり、適切な人物を紹介してくれる人々だからです。

ただし、紹介にもピンからキリまであります。面識があまりない人物からの気のない紹介に比べ、ベンチャーキャピタリストが心から信頼し敬意をもっている人物からのきちんとした紹介の方が成功の可能性はぐっと高まります。つまり、シードステージで起業家ができる最良のことは、適切な投資家を見つけることかもしれません。

適切な投資家の見つけ方

Sam Altman
創業者はどのように適切な投資家かどうかを見分ければよいのでしょうか?

Parker Conrad
それは実に難しい問題です。YCを持ち上げるわけではありませんが、最も良い方法の1つは、YCにアドバイスしてもらうことだと思います。YCは投資家の紹介には定評がありますし、実際に起業家をリードしてくれます。

私の経験では、ベストな投資家を選ぶ彼らの鑑識眼は実に正確で、後の資金調達ラウンドにおいても最も適切な紹介をしてくれる、一番頼りになる人たちを紹介してもらいました。私が良さそうだと思ってもYCが高く評価していなかった人たちは皆、シードラウンドで役に立たない人たちばかりでした。

Sam Altman
いつかその人たちの名前を公表しましょう。

Parker Conrad
そんなことをしたら、多くの人を敵に回すことになりますよ。

時価総額の設定法

Sam Altman
交渉についてはどうですか?相手の会社を適切に評価する方法は?どのような条件にしますか?

Parker Conrad
私がスタートアップを立ち上げてシードラウンドで資金調達をした時は、資金調達についてよく理解していませんでした。それについて話し合ったことはありましたが。最初の評価額を少し上げ過ぎたかもしれません。

皆さんもご存知のように、Y Combinatorはデモデーと呼ばれるイベントを行っています。デモデーは投資先を探している投資家たちが一堂に会するものです。私は最初、1,200~1,500万ドルのキャップで資金を集めようとしました。必ずしも資金調達額イコール評価額ではないものの、両者は概ね等しいものです。その金額について皆から「どうかしている、欲張り過ぎだ」と言われました。身の程を知らないと、物事は上手くいきません。

そこで私は金額を少し下げ始め、数日後にキャップを900万ドルにしました。そしてどういうわけか、魔法がかかったように1,000万ドル以下のシードステージの魅力的な水準に合致したのです。

キャップ900万ドルのラウンドには無限に近い需要があるように思えました。キャップ1,200万ドルでは誰も投資しないでしょうが、900万ドルにしたら、1,000万ドルを集められたのではないかと思えました。そのラウンドは私がキャップを900万ドルにしてからおよそ1週間後に資金調達を達成しました。

時間と共に変動しますが、特にシードステージ企業に関しては「これ以上の金額はおかしい」と投資家が考えるレベルがあるように思います。しかし、それは重要ではありません。そして、投資家が投資をしたいと考える大まかな範囲のようなものがあります。起業家はそれを理解する必要があります。

欲張り過ぎず必要な金額だけ調達し、とにかく資金調達を完了させて下さい。結局は、調達金額が1,200万ドルであろうと、900万ドルであろうと、600万ドルであろうと、会社の今後にとっては大差ないのです。

どの程度の株を放出するか

Sam Altman
創業者がシードラウンドやAラウンドで持分を売却する際の限度はありますか?Paulが話してくれたことの他に。

Parker Conrad
それに関するルールについてはよく分かりません。ただ注意すべきは、シリーズAに関しては特に大雑把な気がします。売却は会社の20~30%の間ではないでしょうか。それ以下になると、ベンチャーキャピタリストは価格よりも所有権にフォーカスする傾向にあります。

実際、会社が大型ラウンドで資金調達をする場合、投資家は「20%以上の所有権は譲れないが、金額は上乗せしよう」と言ってくるかもしれません。30%を超えると、資本政策表に関して不満を抱く者が出てきて面倒なことになるかもしれません。すべてはその範囲内に収まっているように見えますので、それが妥当な線なのかもしれません。

私が知っている限りでは、大抵の場合シードステージでは魔法は存在せず、10~15%が水準と思われます。ただし、これは主に私がこれまで聞いた話によるものです。

自分のモチベーションが下がり始めるのはどこか

Ron Conway
私もまったく同意見です。そしてそのプロセスを早く終えることが重要だと思います。しかし、創業者が初期段階で「所有権に関して、自分のモチベーションが下がり始めるポイントはどこか?」と自問することも大切だと思います。

ある時エンジェルラウンドで40%の希釈化が生じた会社があり、私は実際にその会社の創業者に「自分で自分の首を絞めていると気付いていますか?」と言いました。通常の会社ならその創業者の持分は5%未満になるでしょう。ですから、そうした指針が重要となるのです。

やはり10~15%が水準でしょう。それ以上ですと、創業者やチームの十分な持分が無くなってしまいます。会社のあらゆる仕事をしているのは創業者やそのチームなのですから。

Marc Andreessen
私たちなら手を引きますね。過去5年間を振り返っても、興味深い会社ながら手を引いた会社はたくさんあります。会社の資本政策表が良くない状況を示していて、他の投資家がすでにかなりの部分を所有していたら、その会社には投資しません。

以前ぜひとも投資したい会社がありましたが、私たちが話に加わった時には他の投資家がすでに80%を所有していました。それは比較的若い会社だったのですが、早くに2つのラウンドをこなして会社の大部分を売却していたのです。私たちは本当に気を揉み、心配しました。そうした構造はチームにとってもモチベーションが下がるものだからです。

最大の成功とその経緯

Sam Altman
質疑応答に移る前にもう1つ質問させてください。RonとMarcにお聞きします。これまでで最大の成功を収めた投資とその経緯についてお話ししていただけますか?

Parker Conrad
Zenefits以外の話でお願いします。

Google への投資の経緯

Ron Conway
そうですね、やはり1999年のGoogleへの投資です。あの時は天文学的なリターンを得られました。

奇妙な話ですが、私がGoogleと出会ったのはStanford大学の工学部に今もいらっしゃるDavid Cheriton教授を通じてでした。当時教授はGoogleのエンジェル投資家であると共に、私たちのファンドの投資家でもありました。私たちはファンドの投資家に対して「面白い会社が見つかったら教えてくれ」と頼んでいるのですが、この時Cheriton教授が私たちのファンドに名を連ねていたのは幸運でした。なぜなら、Cheriton教授は投資案件の獲得につながるような、コンピュータサイエンス学部の情報を入手できる人物だったからです。

ある日、私は苦手なタキシードに身を包んでVivek Wadhwaの自宅で行われていたパーティーに参加していました。皆さん、ご存じですか?Cheriton教授もタキシードが大の苦手なのですよ。その教授がタキシードでそのパーティーに参加していたのです。

私は教授のところに行って2人でタキシードについて愚痴を言い合いました。その時私は「最近、Stanford大学で何か面白いことはありますか?」と尋ねました。すると、「Backrubというプロジェクトがあって、ページランクやレリバンシー(関連性)によるページ検索をするものだ」と教えてくれました。

現在はページランクやレリバンシーなど当たり前の話ですが、1998年当時、エンジニアがページランクと呼ばれるものに基づいてプロダクトを開発するというのは当たり前のことではありませんでした。その基になっているのはシンプルなアルゴリズムで、多くの人がアクセスしたり、他のウェブサイトからそのサイトに誘導したりするような、そんなウェブサイトには何か良いことがあるに違いないという考え方です。これが関連性によって誘導されるアルゴリズムの元祖でした。

私がCheriton教授に「彼らに会いたいのですが」とお願いすると、「彼らの準備が整うまで無理だ」と言われました。私は待ち続け、5か月連続で彼らに電話をしました。

そして翌月の5月、ついに私がLarry PageとSergey Brinに会える日がやって来ました。彼らは最初から非常に戦略的でした。「Sequoia Capitalに投資の口利きをしてくれたら、あなたからの投資も受け入れましょう。私たちはSequoiaと面識はありませんが、彼らはYahoo!の投資家です。私たちは少し出遅れてしまったのですが、Yahoo!と取引をしたいのです」と言ってきました。こうして私はGoogleへの投資のきっかけを得ることができたのです。

Airbnb への投資を見逃した経緯

Marc Andreessen
私は全く逆の話を1つしましょう。それはAirbnbのケースで、私たちは彼らのアーリーステージに投資しておらず、初の大規模なグロースラウンドで投資を行いました。2011年のAirbnbには10億ドルの評価額が付いていました。Airbnbは史上最大の驚異的な成長を遂げた会社の1つになるでしょう。真の優良企業だと私は思います。これからする話は、真の天才ではない人間のストーリーとして聞いていただければ幸いです。

私たちは投資を見送りました。初期の頃、私は彼らと会ったことさえなかったと思います。あるいは、私の部下の誰かが会っていたのかもしれません。私は先ほど、ベンチャーキャピタルとは完全にアウトライヤーのゲームであると言いました。

アウトライヤーに関する重要なポイントの1つは、しばしば彼らのアイデアは率直に言って実に馬鹿げて見えることです。他人が自分の家に泊まれるようにするウェブサイトなんて、馬鹿げたアイデアを書き出すリストがあったら、断然トップにくるでしょう。次に馬鹿馬鹿しいアイデアは、他人の家に泊まるためのウェブサイトです。Airbnbはこれらの酷いアイデアを見事に融合させたのです。

ご存知のとおり、彼らは不動産販売に関するまったく新しい方法を開発し、膨大なスケールの世界的現象を生み出しました。私たちが彼らのアイデアを初期分析で却下したことは事実で、数字を見る限り私たちが間違っていたことは明らかでした。そして顧客の行動からも、私たちが間違っていたことは明白でした。

私たちの会社の哲学の1つは様々なステージへの投資ですが、それは失敗した時にそれを正し、初期の失敗を後に挽回できるようにするためです。もう1つ言っておきたいことは、評価額が高くなってから投資した理由は、その時までに創業者のBrian Chesky、Joe Gebbia、Nate Blecharczykと知り合っていたからです。

情報通の私の友人は、「人はキャリアを重ねていくとどんどん大きな仕事をするようになり、ある時点で非常に大きな仕事をする。その時、仕事と共に成長する人もいれば、半分の人はその波に飲み込まれてしまう。それはある程度見分けることができる」と言っていました。人が冷静な判断力を失うポイントがあります。これは急成長を遂げハイパーグロース企業となった会社に起こる問題の1つですが、Airbnbは経営経験のない非常に若い創業者の典型的事例でした。

彼らはこのグローバルに展開している巨大企業をどう率いていこうとしているか?私たちはこれまでも、そして今も一緒に仕事をする度に彼ら3人に大きな感銘を受けています。彼らは成熟し、成長を続けています。彼らは成熟するにつれ判断力が増し、成長するにつれより謙虚になっているように見えます。このビジネスが成長していきそうなことだけでなく、彼らが何かの事業を生み出し、実に素晴らしい方法でそれを運営していける面々であることに私たちは実に感心させられます。

共同創業者全員が有能であること

Ron Conway
「なぜAirbnbがそれほどの優良企業になると思うのですか?」とよく聞かれます。変な話ですが、私たちはAirbnbに夢中なのです。というのも、3人の創業者は各々が他の2人と同じくらい有能だからです。これは非常に稀なケースです。

2人の創業者がいるGoogleのケースでは、一方がもう一方よりもわずかに優れていますね、勿論彼はCEOですから。どんな会社にもCEOがいます。なぜこんな話をしているかと言いますと、会社を立ち上げる時、自分と同等かそれ以上に優秀な人を見つけて共同創業者になってもらう必要があります。それができれば、成功の確率は天文学的に高まります。これこそAirbnbがあれほど早く大きな成功を収めた理由です。

これに当てはまらないのがFacebookのMark Zuckerbergです。彼は優れたチームを持っていますが、Mark Zuckerbergはまさに彼1人で会社を率いています。これがアウトライヤーです。つまり、会社を立ち上げる時は並外れて優秀な共同創業者を見つける必要があるのです。

Q&A

Sam Altman
では、質問のある方はどうぞ。

Q
常識的に考えれば、資金調達をするのは資金を必要としているからというのは明白です。しかし、常識から外れてみると別の理由も耳にします。実際、「大規模なイグジットのため、最悪の場合はアクハイヤーを実現させるため。あえなく失敗して何も残らないよりはマシだ」という話も聞いたことがあります。このような考えはどこまで正しいのでしょうか?

Ron Conway
優れた人脈と投資先の事業分野に関する優れた専門知識を持つ投資家を見つけることができれば、金銭以上の大きな価値をもたらしてくれるでしょう。皆さんが探すべきはそうしたタイプの投資家です。

Marc Andreessen
その質問に対する答えはイエスですが、ある意味それは重要ではありません。なぜなら、ネガティブな状況に合わせてそうしたことを計画することはできないからです。つまり、それは明らかに起業家が望んでいないシナリオなのです。質問に対する回答はイエスですが、これは意思決定プロセスにおいてそれほど役立たないでしょう。どの投資家から資金調達をするかという問題には役に立つかもしれませんが、資金調達をするか否かの問題にはさほど役立たないでしょう。

Q
資本集約的なビジネスを立ち上げようとする時、モチベーション低下の対処に関するアドバイスはありますか?ソフトウェアやバイラル以外のスタートアップもあると思いますが、資本集約的な会社の創業者がすべきことは何でしょう?

Marc Andreessen
私が先ほどお話ししたリスクの玉ねぎ理論、そしてリスクとキャッシュの関係性をよく思い出してください。つまり、会社が資本を調達するほど、起業家は会社経営に何が必要になってくるのか、マイルストーンとリスクをどのように想定するか、ということをより真剣に考える必要があります。

その場合、非常に緻密な行程表を作っておかなければなりません。なぜなら、リスクは非常に大きくなってあらゆることが悪化してくるからです。Aラウンドで何を達成できるのか、Aラウンドでの資金調達の成功とはどのようなものか、ということについて綿密に考えておく必要があります。Aラウンドで資金を調達しすぎると、Cラウンドの時には累積希釈化がかなりのレベルに達してしまうため、面倒なことになるでしょう。

ですから、各ラウンドについて緻密な計画を立て、できる限り正確な金額を調達しなければなりません。さらに、投資家にリスクとマイルストーンについて説明する時は、相手に対してできる限り純粋、公正であり、かつ正確に説明する必要があります。

ちなみに、これは重要なポイントです。この質問をされた方に感謝します。これはParkerが話していたように、私たちの会社に来る人がTwitterかPinterestか、そのようなものを開発し、バイラルによる成長があり、まさに流行っていて成長しそうな場合、「お金を出しましょう」「投資させてください」といった具合に話は簡単です。

しかし、「私はこんなすごいアイデアを持っていますが、その実現には3億ドル、今後5年間で5ラウンド程度の資金調達が必要です」と言ってきた場合は別です。大成功を収める可能性がないとは限りませんが、Twitterではありません。私たちはそのような話にも乗るかもしれませんが、チームのオペレーショナルエクセレンスの方がもっと重要なことです。

オペレーショナルエクセレンスがあることを伝える方法の1つは、綿密な計画を立てることです。「誰も無視できないくらい上手くなることだ」というSteve Martinの話を思い出してください。計画は緻密に練り上げるべきです。

Ron Conway
資本集約的なビジネスの場合、ベンチャーキャピタル以外にもお金を借りる方法があります。

Marc Andreessen
立ち上げ当初はベンチャーデットを使い、後にファイナンスリースを利用する方法もあります。しかし、ここでもやはりオペレーショナルエクセレンスがあることが前提となります。負債による資金調達をする場合、会社の経営に関する綿密な計画が必要となります。

なぜなら、借入をしても、返済条件を反故にして会社を失うのは実に簡単だからです。これは針に糸を通すような困難なプロセスなのです。第二のSnapchatを生み出すよりも高度なレベルの経営管理が求められます。

Q
この投資家は避けた方がいいといった、何か兆候のようなものはありますか?

Ron Conway
私がお話しした適切な投資家の逆の場合と思えばよいでしょう。起業家の会社の事業分野に関する専門知識もなく、事業開発やシリーズAの資金調達のために起業家に紹介できる人脈もない投資家がいたら、そうした人からの資金調達は避けるべきです。特に、金儲けしか考えていない投資家には要注意です。そうした連中はすぐに見抜けるでしょう。

Marc Andreessen
良い質問が出ました。これは重要な話に繋がりますね。会社が成功している場合、少なくとも私たちが投資したいと思える会社が大きなフランチャイズ企業になろうとしている場合は、10年、15年、20年と付き合っていくことになります。

10年、15年、20年というのは米国人の平均的な結婚年数より長いのです。これはすごいことですよ。特に会社の取締役に就任することになるような主要な投資家の選択は、自分の結婚相手を選ぶことと同じくらい大切なものです。きわめて重要です。

そうした投資家たちは、起業家が人生を共にし、パートナーとし、頼り、大きなストレスや不安を抱えるような立場や状況に置かれても、長期間向き合っていく人たちなのです。

これは私がいつもしている重要な議論なのですが、理解される時もあれば理解されない時もあります。何もかも上手くいっている場合は、投資家がどんな人間であろうとかまいません。

しかし、常に万事順調ということはほとんどありません。Facebookのような大成功を収めている会社や、現在とても成功していると思われている大企業は皆、そこに到達するまでに幾度となく困難に遭遇しているのです。ストレスを感じるような取締役会やディスカッション、会社の将来がかかっている深夜のミーティングでは、全員が一丸となって、目標を同じくし、同じ方向に向かい、共通の理解を持ち、適切な倫理観を持ち、今後直面する困難に耐え得る持久力を備えている必要があります。

皆さんもいずれ分かると思いますが、初めて起業する創業者と起業2回目の創業者との大きな違いは、困難を一度経験した起業2回目の創業者は大抵このことをより真摯に受け止めています。誰をパートナーにするかということは、非常に大事なことなのです。

これはまさに結婚のようなもので、配偶者を選ぶ時と同等かそれに近いほどの時間や労力を費やす価値があるということです。自分のパートナーになる人のことを良く理解するためなら、多大な時間を費やす価値があります。これは評価額が500万ドル上がったとか200万ドルの小切手を獲得したなどという話よりはるかに重要なのです。

Ron Conway
SV Angelは、起業家への投資は人生への投資だと考えています。ですから、私たちの選択が正しければ、私たちはその起業家が立ち上げるすべての会社に投資していくつもりです。起業家になった者は生涯にわたって起業家です。私たちは実際、投資は結婚であると考えています。

Parker Conrad
私は投資家との初めてのミーティングでは常に、「この人を尊敬できるか?この人から多くを学べるか?」と考えます。というのも、ベンチャーキャピタルと会う時、「この投資家は理解が遅い、分かっていない」と感じられる場合もあるからです。

一方で、ミーティングの中で自分のビジネスに対する多くの有意義な話を聞くことができ、投資の話がまとまらなくても「この人とのミーティングは実に有意義な時間だった。自分がすべきことや進むべき方向がより明確になった」と感じられる場合もあります。これが、今後数年間を見事に表した縮図のようなものです。

「何としてもこの投資家に会社へ加わってほしい」と思った時は、たとえ相手が小切手帳を持参していなくてもかなり好ましい兆候でしょう。そうでなければ、それは良くない兆候です。

Q
時間、資金あるいは有望な投資先の欠如など、投資する件数に制約はありますか?

Ron Conway
SV Angelは週に1社への投資を行っています。13人のスタッフではそれ以上は無理です。ですから、週に1社が限度です。

Marc Andreessen
Ron、もし二倍の時間があれば投資件数は倍になりますか?

Ron Conway
私はそうは思いません。私は既存の会社の付加価値を高めることをより重視しています。SV Angelは競合に関する方針を書面化しています。それでも競合が発生してしまう場合がありますが、それは主に一方の会社が業態変更をした場合です。

私たちは通常、直接競合している会社には投資しません。もし投資する場合は他方の会社、または両方の会社にそのことを開示します。そして私たちはそもそもその会社のプロダクト戦略をよく知らないということに留意します。おそらく開示できるほど十分な情報は得ていないと思いますが、競合に関する方針は信頼という非常に重要な言葉についても言及しています。

つまり、互いに信頼がなければ最初からぎくしゃくしてしまうということです。SV Angelでは、創業者と投資家の関係は信頼に基づいています。投資家を信頼できない場合は、一緒に仕事をすべきではありません。

Marc Andreessen
質問の本題に戻りましょう。これは私たちの会社で最も話し合われていることです。つまり、一流のベンチャーキャピタル企業における主な制約は機会費用の概念です。これは、何かをすることは非常に多くの別の何かができなくなるという意味です。「ある会社に500万ドル投資したが上手くいかず、お金が無駄になった」という場合の損失を懸念しているわけではありません。なぜなら、そうした損失を埋め合わせてくれる成功企業にも投資しているからです。

私たちが注視すべきコストは、すべての投資において会社経営に関する2つの意味合いがあります。1つは競合に関するルールです。私たちの会社は、ベンチャーおよび成長ラウンドにおいて競合している会社には投資しません。1つのカテゴリーにおいて1社のみに投資することを方針としています。

つまり、Myspaceに投資していたら、1年後にFacebookが登場したとしても、私たちはFacebookに投資しません。してはいけないのです。投資をする度にそのカテゴリーにおけるさらなる投資はできなくなるわけです。

そして、投資先の性質は社内の議論においても非常に複雑なトピックです。私たちが理解しているのは既存の会社だけで、まだ設立されていない会社については何も分かりません。成功することのない、立ち上げ間もない会社に投資してしまえば、後に成功する会社が現れたとしてもどうすることもできないのです。

2つ目は、ゼネラルパートナーの時間と余力に関する機会費用です。付加価値という概念に話を戻しますと、私たちはゼネラルパートナーの会社ですので、正式なパートナーがいます。1人のゼネラルパートナーが取締役として就任できる取締役会の数は最大で10~12です。

これはチケットのようなものと考えて下さい。投資をする度に、そのチケットに穴を開けます。開けられる穴の数には限りがあります。開けられる穴をすべて開けてしまえば終わりで、それ以上の投資はできなくなります。これがまさにベンチャーキャピタルの仕組みなのです。

1つの見方としては、ゼネラルパートナーが座っている取締役会の席は会社にとっての資産と言えます。ゼネラルパートナーたちは機会があれば投資先の取締役に就任しますが、投資をする度に就任できる取締役会の数は1つずつ減っていきます。つまり、会社が新たな取引を行う能力が減っていくわけです。

私たちが行う1つ1つの投資により、競合している会社が投資対象から外れるだけでなく、時間的余裕がなくなることで他の取引もできなくなるのです。これは私が先ほどお話ししたことにつながっていきます。

「この会社は実に魅力的だ。ベンチャーキャピタルからの投資も間違いなさそうだ」と判断した会社になぜ投資しなかったのでしょうか?私たちのキャパシティが無限であれば投資したでしょう。しかし、競合する会社に投資しないという方針に妨げられたため、あるいはゼネラルパートナーがこれ以上投資先の取締役に就任できないため、より良いビジネスチャンスに対応できないといった理由から見送られることが多いのです。

Q
起業家が見せることができるプロダクトを持っていない場合はどのように投資の可否を決めるのでしょうか?何を基準に判断するのでしょうか?

Ron Conway
通常は創業者とそのチームを見て決めます。というのは、私たちはまず人に投資するのであって、必ずしもプロダクトのアイデアに投資しているわけではありません。プロダクトのアイデアは変わることが多々あります。ですから、私たちはまずチームに投資をします。創業者の誰かに成功実績がある場合を除き、起業の初心者たちの場合には評価は相応に低くなる傾向にあります。

Marc Andreessen
私たちの場合、計画以外に判断材料がない場合は、過去に一緒に仕事をしたことがある創業者、あるいは非常に有名な創業者への投資となることがほとんどです。消費者向けのウェブ企業やモバイル企業の立ち上げが前提のような話になっていますが、世の中には企業向けソフトウェアやSaaS、アプリケーション会社など、他のカテゴリーも存在します。

MVPがない、新規開業である、Aラウンドでのプロダクト作成、といったことは多々あります。MVPを作ることに意味はありません。なぜなら、顧客はMVPを購入するのではなく、実際に使い始める際には機能が完備されたプロダクトを必要とするからです。会社が最初のプロダクトを作るためには500万ドルから1,000万ドルを調達する必要があります。私たちが投資するのはすでにその金額を調達している創業者であることがほとんどです。

Q
理想的な取締役会の構成はどのようなものでしょうか?

Parker Conrad
当社の場合は幸いにして、私と共同創業者、そしてAndreessen Horowitzからのパートナーの3人です。このような構成であることで不安は取り除かれ、信頼が若干高まると思います。誰かがやってきて「君は大会社のCEOになってくれ」と言われ、その人の独断で自分が解雇される不安はなくなります。

しかし大抵の場合、信頼に値するパートナーたちと働いていれば、問題にならないでしょう。取締役会で採決を行う事態まで進むことはほとんどありません。そうした事態となったら、その時点ですでに見えないところで何かが破綻しています。

ベンチャーキャピタルが持っている力の大半は取締役会の構成と無関係です。創業者が投資家の承諾なしに借入や会社の売却などができないように、融資ラウンドでは保護条項が設定されています。

取締役会の構成はさほど重要ではありません。創業者として私が知ったのは、会社が順調な時、創業者は投資家に対して絶大な力を持っているということです。「これが私のやりたいことだ。会社としてこれをやるべきだ」と創業者が言えば、取締役会の構成もラウンドに設定された保護条項も一切関係ありません。

良い投資家であろうと良くない投資家であろうと同じで、「ぜひあなたがやりたいことを実現させましょう」となります。彼らはロケット船に便乗して恩恵を享受したいのです。そして事態が悪化した場合は、創業者が自分たちのためにどんな保護条項を設定していようと関係なくなります。

Marc Andreessen
会社が窮地にある場合、過去のラウンドがどんな条件だったかは重要ではありません。それらはすべて再交渉で見直されるからです。私は20年間取締役会に名を連ねていますが、重要な採決に直面したことは一度もありません。採決は一度もありませんでしたが、議論や論争は多々ありました。そして、最後にはいつも明確な結論が出ていました。大抵の場合は満場一致で、具体的なことではなく大まかな内容に関する決定だったと思います。

Sam Altman
本日はお越しいただきありがとうございました。

 

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: Lecture 9: How to Raise Money (2014)

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