シリーズAの標準的でクリーンなタームシート (Jason Kwon and Aaron Harris)

YC のシリーズ A プログラムで企業と一緒に仕事をする間、私たちは一般的な問題に気付いてきました。創業者たちはどのようなタームシートが「良い」タームシートなのかということを知らない、ということです。これはもっともな話です。なぜならたいていの場合、彼らがタームシートを目にするのは、文字通りキャリアで初めてのことだからです。このことは創業者を著しく不利な状況に置きます。ベンチャーキャピタル(VC)はしょっちゅうタームシートを見ていて、何が期待できるか知っています。私たちは長年にわたり非常に多くの創業者に投資し、何百枚ものシリーズAのタームシートを見てきました。そのため、「良い」タームシートとはどのようなものなのか知っています。「良い」条件と違う条件はどこにあるのか、その相違に関して何ができるのか、そしていつ、どのように交渉することが合理的なのか。私たちは創業者がそれらを理解できるように協力しています。

優良なシリコンバレーのVCの、標準的で公平な条件を持つタームシートとはどのようなものか、以下に示しました。括弧で囲まれた項目(会社およびリードインベスターの名前以外)は常に、あるいは高い頻度で、交渉の対象となります。括弧で囲まれていない項目も交渉の対象となることがありますが、その企業や状況に特有の特性とより深く関係しており、一般的には交渉中に当事者が大きく譲歩するつもりのない項目です。

お気づきになるであろう重要な点の1つが、基準となる価格設定が記入されていないことです。シリーズAラウンドにおけるリード投資家は一般的に会社の20%の取得を希望する一方で、その価格設定は両サイドの当事者が持つレバレッジに依存しており、柔軟に増減する可能性があります。価格は重要な項目ですが、それぞれの資金調達固有の条件に左右される度合いが大きいため、標準を作ろうとするのは無理があると考えます。支配や仕組みに関する条件は、さらに慎重を要する項目です。それらは創業者にとって馴染みの薄い項目なため、混乱やトラブルの原因となりやすい傾向があります。

注意:このタームシートはどの特定のVCのものでもなく、私たちが作成したものです。ただし実質的には、最もよく目にするタームシートが反映されています。交渉のレバレッジを多く持つ創業者の方が有利となる場合があり、その反対も言えます。

こちらからWord版の書類をダウンロードすることもできます。(日本語版

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1ページであらゆることがカバーされているのを見て、驚くかもしれません※1。これまで常に同じだったわけではありませんが、ここ10年で徐々にこの形式が一般的になりました。一部の投資家が、法律用語を減らしてタームシートをもっとユーザーフレンドリーなものにしようと決めたためです。「ささいなことで身動き取れなくなるつもりはない。シンプルで、使いやすく、標準的で、すぐに締結できるものにしよう」と言わんばかりの決意です。

これにより私たちは、タームシートを理解する上で最も重要な部分を知ることができます。それは、シリーズA投資家があなたに話そうとしているかもしれないことを伝える、別の方法でもあります。契約は当事者間でリスクを分け合います。そのため投資家の求める条件には、投資家が認識しているリスクに関して多くのことが述べられている場合があります。投資家の認識するリスクは、2つの方法で現れます。

最初の方法は、支配権の関連項目に関係します。極めて標準的な条件である「議決権」の項目で、投資家が常に拒否権を確保するという訳ではありませんが※2、取締役会の構成や、取締役会の行う経営上の決定を阻止、または命令できる投資家の権利については、拒否権を確保する投資家もいます。本タームシートの取締役会構成は、創業者に優しいものになっています。なぜなら、創業者は2対1で取締役会の支配権を保持しているからです※3。シリーズAで創業者が最もよく支配権を失うケースは、2対2対1の取締役会構成にされる場合です。つまり、創業者2名、投資家2名、独立取締役1名の構成です。取締役会の支配権の喪失は、創業者が自分自身の会社からクビを言い渡される可能性を意味するため、最も重要なことです※4。創業者が一部の支配権を失う別のケースは、上に示した標準的なサンプルには載っていない条件です。それは別個の条項で示され、年間予算、役員の雇用/解雇、事業の転換、新規事業の追加などの経営上の決定に対しては、投資家側取締役の承認が必要とされる場合です。創業者から力を奪うように取締役会が構成される場合、しばしば投資家による外面的な正当化が理由となって、ガバナンスや説明責任が実施されるようになります。しかし、奪われる力が多いほど、投資家が自分の認識するリスクから離れる仕組みにしようとするのを拒否できなくなります。従って、投資家が長期にわたりあなたとパートナーを組むことを約束すると言っていたり、あるいはあなたに全てを賭けていると言っていたりしても、その後で他に要求する条件を話す場合でも、タームシートの方を信じましょう。

認識されているリスクが明らかになるその他の方法は、タームシートに標準的ではない「汚い」経済的条件が含まれているかどうかです。ここで取り上げたタームシートのサンプルは、そのような条件を含まない例であり、含む例としては参考になりません。そのような条件は、例えば次のようなものです:

  • 1倍以上の残余財産分配優先権 (liquidation preference) – 投資家は最初の投資資本以上の金額を取り戻します。
  • 優先参加権 (participating preferred) – 投資家は投資資本の償還か、イグジット利益の比例配分のどちらかを選ぶのではなく、どちらも受け取る2重取りをします。
  • 累積型の配当権 (cumulative dividends) – 投資家はその残余財産分配優先権を毎年X%で複利計算します。それにより、創業者や従業員に対する価値が生まれるまでに、クリアしなければならない経済的ハードルが上がります。
  • ワラントカバレッジ (warrant coverage) – 投資家は評価額に基づいて合意する費用負担なしに、完全希薄化後の所有権を追加で手に入れます。

これらは全て、典型的なベンチャーリスクを軽減する仕組みです。その方法とは、直接的に投資家の潜在損失レベルの底を引き上げるか、あるいは間接的に成果として上がる利益を搾り取るかのどちらかです。つまり投資家は「自分のお金を失うことを心配している」と言っているようなもの、とも言えます。またそれは、物事が上手く行っていない時に彼らがとるかもしれない行動を示す予兆にもなります。彼らは創業者が会社を売りたくない時に売るように迫ったり、リスクを取るべき大事な時にリスクを巻き戻させたりするかもしれません。良い投資家はむしろ評価額の交渉によって、経済的リスクに対応するでしょう。さもなければ、標準的な条件を出すことで満足します。彼らは、ベンチャーにおける本当の利益は仕組みによって作られるものではないことを知っているからです。本当の利益は長期的な価値を作り上げることで生まれるのです。そして彼らは、その目的であなたに力を貸す自らの能力に自信を持っているものです。

覚えておくべき最後のポイントは、あなたがシリーズAで使う書類は、将来の資金調達ラウンドにおける条件の基礎や前例になるということです。優れた基礎は、次回のタームシートや資金調達ラウンドを素早くシンプルなものにします。将来の投資家が、同じ分かりやすい条件で取り掛かることができるからです。基礎が良くできていないと、将来の資金調達が複雑なものになります。例えば、将来の投資家が同じように仕組みに重きを置いた条件を求めたり、新しい投資家が投資の前提条件として削除を望む条項の取り消しを、既存の投資家が拒絶したりする事態が起こり得ます。不利な条件を巻き戻すのは容易ではなく、大抵の場合不可能です。

とは言え、大事なのはクリーンな取引をすることであり、完璧な取引をするために多くのことを繰り返して交渉することではありません。シリーズAの交渉で有利な条件を勝ち取ったという理由だけで、長続きする企業を作った人はこれまで1人もいません。また、例えあなたが全ての条件を適切に決められなかったり、望む方法が手に入らなかったりしても、契約締結の権限は常にあなたが持っています。契約さえすれば、あなたが作り上げる価値が次善の条件を凌駕したり、今後の交渉に対するレバレッジを確立できたりする可能性があります。だから、最終的な目標を見失わないでください。さっさと契約をまとめて、仕事に戻りましょう。

 

注記

1. 優秀な投資家の一部は未だにもっと長いタームシートを送っていますが、それはその延長で最終的な書類にしようとしている訳ではなく、この段階でもう少し詳細まで掘り下げることを優先しているためです。最終的な書類はタームシートを基に作成される、もっと大幅に長い(100ページ以上)、拘束力のある契約書です。これに全ての当事者が署名して締結します。この段階で、タームシートでは明確にされていない事柄がはっきりと取り決められますが、いくつかの追加的要点の交渉も行われるのが一般的です。また、ここに示したタームシートのいくつかの場所で、特定の条件を「標準的な」と言い表しています。それは曖昧で回りくどいように見えるかもしれませんが、タームシートではしばしば、特定の条件をそのような方法で表現します。それが本当に意味することは、それらの条件について書類で書かれていることに関し、スタートアップやベンチャーの仕事に特化した弁護士の間で慣例が存在するということです。そのため、あなたの弁護士(および投資家の弁護士)がその表現の意味を正しく把握しているか確認するようにしましょう。

2. この項目で最も影響力の強い2つの投資家の拒否権は、条項(ii)および(iii)で取り上げた資金調達に関する拒否権と、条項(vii)における会社の売却に関する拒否権です。それらの条項の具体的な意味合いは表面的には明らかでなく、また大部分のタームシートが同じような専門用語を使ってそれらの拒否権を定めているため、触れておきました。

3. その2つの席は、創業者が暗黙のうちに支配します。なぜなら、2人の取締役は普通株の過半数によって任命され、一般的に当該過半数は長期にわたり創業者が支配するからです。さらに創業者に優しいタームシートにおいては、それら2つの席は創業者自身が(個人として)任命する場合もあります。

4. 従業員として会社をクビになることで取締役会からも創業者が排除されることになるかどうかは別の問題であり、それは資金調達関連書類で交渉された内容に左右されます。創業者が自らの議決権を取締役の任命に投票する権利は、当該創業者がその時点で会社に雇用されていることを必要条件とするようなケースもあります。何に関してであれ、あなたの投票する権利に条件が付される場合は常に弁護士と相談し、それらの条件が問題となるさまざまなシナリオや、投資家があなたに害を与える可能性がある方法について、確実に検討するようにしましょう。

 

これは法的な助言ではありません。

この原稿について意見をくれたCarolynn Levy、Jon Levy、Nicole Cadmanに感謝します。

 

著者紹介

Jason Kwon

Jason Kwon は YC Continuity の General Counsel です。Y Combinator に入る前は、Jason は Koshla Vetures での Assistant General Counsel でした。またその前は、Goodwin Procter の弁護士でした。過去には、彼はいくつかのスタートアップでコーダーであったり、プロダクトマネージャーを務めていました。

Aaron Harris

Aaron は YC のパートナーです。彼は Y Combinator から投資を受けた Tutorspree の共同創業者でもあります。Tutorscpree より前に、彼は Bridgewater Associates で働いており、分析グループのプロダクトとオペレーションを管理していました。また Harvard で歴史と文学に関する AB を取得しています。

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。なお、この情報は 2019 年のシリコンバレーでの状況であり、日本で必ずしも一般的なものではありません。
原文:  A Standard and Clean Series A Term Sheet (2019)

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