アマゾンの革命的なリテール戦略?古いアイデアを再利用する (Benedict Evans, a16z)

私は時々このように思います。Jeff Bezosの机の後ろの金庫を覗くことができたなら、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のスポーツ年鑑ではなく、おそらく1985年に書かれた『小売店百科事典』を見つけるでしょう。すべてのページにPost-Itのメモが貼られ、そのメモのそれぞれが基になってチームとなり、製品となっていたかもしれません。

Amazonはあまりにも新しく、そのスピード感、規模、積極性においてあまりにも劇的であるため、私たちは彼らが行なっていることの多くが、実際には非常に古いものであることを簡単に忘れてしまうくらいです。また、私たちはこのことも忘れてしまいます。それは、私たちとともに成長し、わずかに古ぼけてしまっている既存の小売業者の多くもまた、かつては急進的で大胆、かつ海賊のような新規事業であると見なされ、その新しいアイデアで人々の怒りを買っていたことです。

この話は大量販売の始まりに遡ります。エミール・ゾラの『ボヌール・デ・ダム百貨店』は1860年代のパリにおける百貨店創業を題材とした非常に娯楽要素の強い小説ですが、Octave Mouretは、意志、閃き、天賦の才の力によって、百貨店をなんとか形あるものにし、小さなお店を全く新しい企業へと育てます。彼はその過程で、固定価格、割引、マーケティング、広告、商品化、展示、「報酬」と言われるものを創出しています。彼は国内全土にカタログを送付します。彼の会社の従業員は、彼が新しい布地を経費よりも低料金で販売したがっていることに仰天しています。「これでいいんだ!」と彼は叫びます。目玉商品は決して新しい概念ではありません。

一方、物語のもう一つの流れは、その地域にある小規模で伝統的な店の主を追っています。この主人は次々に廃業します。ゾラはそのような人々を過去の残骸であり、一掃されるべきだと見ています。彼らの運命は決まっていて、彼らはそのことを理解していない---- 確かに彼らは、Mouretの新しいアイデアに困惑し、憤慨しています。
ここに反物商Bauduの言葉を挙げます。

「あそこは物が溢れかえって、すぐに馬鹿げた場所になるだろうよ。客は迷子になってしまう。想像つかないかね?4年も経たないうちに、彼らは数字を5倍に増やすだろう…。彼らは常に膨張し、拡大する。彼らには今や1,000人の従業員と28の部門がある。その28の部門が何よりも彼を怒らせるんだ。いくつかは他を真似たものだが、残りは全く新しい。例えば、家具部門や装身具部門だ。アイデア!装身具!彼らには自尊心なんてないんだ。最後には魚でも売るんだろう」

Mouretはカタログを持っていたが、それは小売業を再び変革するためにカタログを利用したSears Roebuckのものでした。下に掲載したページは、小売業者の1908年のカタログのものです。ホワイトレーベルやプライベートレーベルも新しい概念ではありません。そして、Searsが次に市場に導入するものを決定するために、販売データを利用していたことは間違いありません。

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Sears Roebuck

Amazonは言うまでもなく現代のSears Roebuckですが、それ以上の存在です。Amazonは組織的に、しかも自尊心なく、小売業に関するアイデアを試みます。誰もがこれまで試したことのすべてを試みており、それだけでなく、それ以外に思いついたことで意味のあることはすべてを試みています。「それはいいアイデアだけど、我々はウェブサイトだからそれはやらないよ」ではないのです。

それを一番わかりやすく確認できる事実は、Amazonが物理的な小売業に移行したことです。これは自尊心や「主義」とは正反対のことです。Amazonの仕事は「ものを届けること」であって、「ウェブサイトであること」ではありません。それならば、それを実現する最善の方法はどのようなものでしょうか。他に役に立つかもしれないことは?無人会計のコンビニを作るプロジェクトはわかりやすい実験であり、今や機械学習やコンピュータービジョンがそれを機能させる方法を提供しています。(いくつものスタートアップが、それを実現させるためにすべての可能なベクトルを追求しています。)

しかし、さらに興味深いのは、小売店の実店舗であるAmazonの四つ星店の存在です。現在、ニューヨークとカリフォルニア州バークレーにあり、サイト利用者が高評価をつけた製品しか売っていません。私はTwitterで冗談をつぶやきました。そのような店舗はまるで、非常に賢い人々が実際に店舗に足を踏み入れることなく、Google Street Viewを見ただけで設計したかのようです。認知的不協和があります—— 製品の選択は完全に無作為であるようにみえます。炊飯器やハリー・ポッターのレゴセット、クッション、ルンバ、ボウル、樹木に関する本 . . . 何の脈絡もありません。(ゾラの作中人物、Bauduの言葉、「彼らには自尊心なんてないんだ!」)

もちろん、時には、「脈絡がない」というのは正しい反応です(何にせよ、Fire Phoneを思い出してください)。しかし、賢い人々が無意味なことをする場合は、注意深く目を向ける価値があると言えます。これは新たな発見モデルでしょうか。購入に関する人々の考え方を変える別の方法?そう、それは別の実験です。

このすべてが私に思い起こさせるのは、初期のGoogleの物語と、同社がいかにして第一原則からすべてを考え直したかということです。他の皆がすでに学んだ教訓を学ぶことになったので、それが単なる苦痛に満ちた時間の浪費だったこともありましたが、その結果として、GmailやMapsを生むこともありました。

依然として実験が進行中である場合もあります。AmazonはなんとかAlexaを5,000万軒以上に配置しましたが、それがどのような戦略価値をもたらすかははっきりしません。しかし、既に手にしている事業の上にあぐらをかき、誰かが新しいことを試しているのを見ているよりは、実験をして選択の価値を手にする方がよいことです。

その一方で、Amazonがロジスティックスのモデルを中心にして、店舗からドローン倉庫のあらゆる種類のロボットまで、できる限り多くの実験を行なっているように見えるのは興味深いことです。ただし、四つ星店舗の小規模な実験を例外として、購入体験を中心とする実験はあまり行なっていません。結局のところ、歴史的に見て、百貨店は利便性や価格と同様に、楽しみがすべてです。彼らは「買い物に行く」ことの意味を変え、小売業を余暇活動に変えました。

これはAmazonモデルにおいて常にギャップとなってきました。人々が欲しいと自覚しているものを見つけてそれを届けることを非常に効果的に行なっていますが、人々にとって未知のものを提案することは苦手で、特別なものを必要とする製品に関しては悲惨です—— 子供の靴をサイズで見つけようとするだけでも。

これは、この事業モデルにつきものです。無限に拡大し、無制限の種類の製品を扱うようになって、Amazonはすべての製品について、程度の差こそあれ、商品のロジスティックスを同一のものにしなければいけません。それはAmazonがこれまで決して超えたがらなかった一線です。Amazonは「拡大の可能性がない」ことはしません。それでも現在、オンラインで楽しく買えないものはないと私たちは知っていますが、すべてがその商品モデルに該当するわけではないでしょう。ですから、それがAmazonの自尊心を試す本当の試練かもしれません—— Amazonが私たちに、ただの購入ではなく、買い物体験を提供する方法を創出することはできるのでしょうか。

 

著者紹介 (本記事投稿時の情報)

Benedict Evans

Ben はテック系企業に投資をする、シリコンバレーのベンチャーキャピタルである Andreessen Horowitz ('a16z') に勤めています。彼は何が現在起こっているのか、そして何が次に起こるのかについて考えています。

Ben のブログはこちら、毎年のプレゼンテーション、人気のウィークリーレターポッドキャストでの超早口、そして Twitter での独り言もあります。

 

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: Amazon’s Revolutionary Retail Strategy? Recycling Old Ideas (2019)

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