バイオスタートアップの次の10年 (a16z)

  • ヘルステックスタートアップの命の輪---- ヘルステックのスタートアップ第一世代が学んだこと。第二世代が学んだことの違い。そして、次世代が最善を尽くすこと
  • 発見 vs 遺伝子操作---- バイオ医薬品および医療において、これらの非常に異なる二つの文化が益々衝突し、かつ、私たちを一緒に前進させることになる大きな流れ
  • 16のバイオの神話と誤解---- 現在はバイオの新世界ですが、時代遅れの考えが伝統的な技術とバイオテックの輪に固執しています。
  • 合成生物学のキラーアプリの10年---- 合成生物学が生き延びた道筋と次に起きること
  • 細胞・遺伝子治療の産業化---- これらの新たな生きた医薬品が主流になる道筋

ヘルステックスタートアップの命の輪

医療費、業務取引、受診の大半は、伝統的な開業医、病院、保険会社で生じています---- いわば、これまでテクノロジを売る相手としては非常に難しかったすべての組織です。これは2010年代はじめのヘルステック企業の最初のコホートが苦々しく学んだことでもあります。それらの買い手は技術に関して未熟だったため、一般的にスタートアップのソリューションを迅速に吸収することができず、高成長のベンチャー規模の事業モデルを支援することができませんでした。

これに対応して、ヘルステックスタートアップの次の世代は方向性を変え、消費者に直接提供するサービスとフルスタック企業(プライマリケア提供者、薬局、保険会社、予約市場など)という形で、そのシステムを中心に大きくなりました。消費者は、従来の医療体系で崩壊したもの(利用できない、不便、手が届かない)に対してうんざりしていました。そのため、アーリーアダプターは、新たな企業に自己資産から資金を提供したがっていました。待ち時間を短縮し、顧客サービスを改善するためです。このような繰延需要は、それらのスタートアップの多くが初期に急成長を経験し始めたということを意味しています。そして、多くが、驚くほどの初期ユーザーの獲得と、デジタルヘルスの空間では前代未聞の収益指標を誇示し続けています。しかし、厳しい現実として、この進展には限界があるでしょうし、これらの企業は避けられない課題に直面するでしょう。その課題とは、患者数の増加に対する自社の対応のみならず、自社製品の広がりという観点でも、本物の成長を継続することを目的とした、より大きな医療サプライチェーンへの参入です。

一方、EHRおよびその他の中核システムが現在の事業の課題を解決するにはふさわしくないという一般認識が広まるにつれ、提供者と受益者のテクノロジのインフラは著しく成熟してきています。現在の事業の課題とは、価値を基盤をする医療、医療の協調、顧客体験の向上にあります。既存大手もまた、決済モデルの改革と競争によって、財政難の転換点にあります。このことで彼らは大規模で異なる方法での刷新を余儀なくされています。ですから私たちは間もなく、ヘルステックスタートアップの第三世代の登場を目にするでしょう。その多くが、フルスタックの顧客中心主義の企業です。それらの企業は(あの第二世代のおかげで!)従来の関係者に直接販売し、提携する勇気を新たにしています。その挑戦の報酬は、大規模な成長を達成し、根底から体系を変えるというものです。

—Julie Yoo、ゼネラルパートナー


発見 vs 遺伝子操作

かつては主に学際分野と見なされていたバイオエンジニアリングは、成長しています。発見されたものではなく作られたツールや治療は、今では、単に新規のスタートアップに分け入るのではなく、すでに大きくなっている産業および主要なバイオ医薬品会社に分け入っています。それは、遺伝子操作DNAで構築された企業を取り込んで、発見という基盤に立脚した巨大組織です。

現在、文化の衝突が起きています。現在のバイオ医薬品と医療において、「古い」発見の文化(科学は新たな知識の発見〈仮説 —> 検証 —> 繰り返し〉によって動くというアイデア)は、「新しい」エンジニアリング文化(設計 —> 検証 —> 反復)と衝突しています。この衝突には、生物学的標的の特定から臨床試験の設計、さらには、私たちの医療の利用の仕方まで、万事の扱い方が含まれています。STATで発表されたこの記事では、私は、これら二つの世界および考え方が益々交差するようになっていることから、私たちが今後目にすることになる4つの大きな衝突を話題にしています。それが私たちを未来へと導きます。 バイオエンジニアリング文化の衝突へようこそ。

—Vijay Pande、ゼネラルパートナー


16のバイオの神話と誤解

テックとバイオテックは全く融合しません。少なくともそれが社会通念です。しかし、生物学、コンピューターサイエンス、エンジニアリングの世界の交差が、私たちが簡単に「バイオ」と呼んでいる新たなテック + バイオテックのハイブリッドを創出しました。世界よ、バイオを知れ。バイオよ、世界を食せ日本語訳)。

この新たなバイオの世界では、よく使われたプレイブックは時代遅れです。バイオは境界線を曖昧にし、医療業界全体の分野の区別を取り払おうとしています。この投稿日本語訳)では、私は16の長く続く神話、誤解、聖牛に取り組みます。聖牛とは、バイオテックに関して依然として従来の技術とバイオテックの輪に固執している考えです(例えば、学際的な創業者はCEOになれない!シリコンバレーはバイオテックを扱えない!など)——そして、それらがこの新たな世界についての間違った考え方である理由を取り上げます 。

—Jorge Conde、ゼネラルパートナー


合成生物学のキラーアプリの10年

2000年から2010年まで、私たちは、初期の「おもちゃの遺伝子回路」で合成生物学の概念上の枠組みを確認しました。基本的には、細胞のタンパク質生産を有効にしたり無効にしたりする単純なツールです。多くの人が、遺伝子コードでプログラムする私たちの能力は、新製品の滝を作り、すべての産業に革命をもたらすと予測しました。人々は何年も分子を作るために微生物を利用していましたが、合成生物学に関する応用を追求した初めての大きな協調的試みは、バイオ燃料の製造でした。これは最善の応用という答えにはなりませんでした(バイオ燃料は製品としてはあまりにも安価で、成長はあまりにも困難であるなど)。2010年代はじめのバイオ燃料の失敗で、多くの会社がピボットし、香料や芳香剤などのもっと価値のある化学製品を作るようになりました。しかし、そのようなエンジニアリング生物学の化学製品の製造を応用するということに関しては、そのほとんどに悲しい真実があります。感知し、測定し、さらに反応する細胞を作るという—— 合成生物学技術が得意とする入り組んだ複雑さや全動力をそれらが実は必要としないことです。

ここ10年で、合成生物学はついに複雑さが活用できるキラーアプリを見つけました—— 細胞治療です。当初のアイデアの中には、細菌を遺伝子操作し、腫瘍を消滅させるというものや、細胞を遺伝子操作し、血流の中の糖を感知して反応することができるようにして糖尿病の抑制に役立てるというものがありました。しかし、これらの試みは、医療コミュニティからは極端に遠ざけられ、市場に出る現実的な道がありませんでした。ところが、その一方で、Carl Juneの研究所がキメラ抗原受容体(CAR)をT細胞に発現させる斬新な実験を行なっていました。これにより、遺伝子操作を受けた細胞を用いて治療するというアイデアが標準化しました。この雪解けに続き、Cell Design Labsやその他のグループが合成生物学(スイッチ、論理ゲートなど)の考え方やツールを、CAR-T治療に応用しました。 今では、遺伝子操作を受け、強力な感知および反応の能力を備えた細胞に到達する道筋がはるかに明確になりました。

CAR-T治療の癌消滅能力は、合成生物学のツールおよび技術に関する最初のキラーアプリにすぎません。最新の生物学的コンピューター処理に関しては、かつては実現しそうになかった無限の応用があります—— 損傷を感知したら自己修復ができるパターン化された素材、細胞群や分子群全体をシリコンを上回るものにするための高度並列計算、おそらく、さらには、患者が経験してきた食べ物、医薬品、運動に関する自動化された「細胞レコーダー」。私たちは、「エンジニアリング生物学」を学んだ新世代の科学者や創業者をずっと目にしていますが、これから益々多くの医療コミュニティやその他の産業が、益々多くの可能性とたくさんの新たな応用を率いて、これらの新たなツールを受け入れるのを目の当たりにするでしょう。最大の壁はもはや技術面ではありません。市場機会が高額な開発費用を正当化することのできる適切な応用方法を見つけることです。

—Judy Savitskaya、ディールパートナー


細胞・遺伝子治療の産業化

この10年は、細胞・遺伝子治療の到来の瞬間であることを歴史に刻むことになるでしょう。かつて挫折に見舞われた分野は、FDAが承認した4つの医薬品(2種類のCAR T薬と2種類の体内遺伝子治療など)によって、その10年に幕を閉じました。そして、中でも最も斬新なツールであるCRISPRは、人体の臨床試験へと前進しました。

これからの10年間は、これらの「生きた医薬品」を実践に変える黄金時代になるでしょう。細胞・遺伝子治療が私たちの治療の標準装備の一部になっているからには、私たちは、それらの全面的な産業化を目の当たりにし始めます。AIと自動化は、骨の折れる特注の設計要素(ゲノムと細胞遺伝子操作)、製造(例えばベクターと細胞)、これらの治療の提供(サプライチェーンとロジスティックス)をはるかに効果的な処理過程に変えるでしょう。細胞・遺伝子編集の「開発者コミュニティ」は、私たちの集合的なツールキットを発展させ続けるでしょう。新たな次元で、かつ、これまでは計測不可能だった正確さで、生物学に影響を及ぼし、操作することが可能になります。新たなタンパク質工学、遺伝子回路、デリバリーシステムの革新がこれらの医薬品の利用と投薬の仕方の範例を変えるでしょう。

これらの医薬品の生産インフラの成熟で、細胞・遺伝子治療は主流化し始めるでしょう。心血管疾患、神経変性疾患、固形腫瘍、ひょっとすると老化など、非常に多くの人が経験するさらに多くの慢性疾患や病気を治療します。その反面、私たちはまた、非常に特殊な遺伝子疾患を抱えている一人の患者のための「N-of-1」や精密医療の可能性も目にするでしょう。かつては技術と財政の面で不可能でした。純粋な医薬品を超えて、このテクノロジーはまた、熟してもおり、再生医療における長年期待されているイノベーションの多くを私たちが実現する助けとなります—— 臓器移植、組織再生、さらには幹細胞の遺伝子操作をして、新たな既製の細胞治療の基礎にすることさえあるでしょう。

—Andy Tran、ディールパートナー

 

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: Bio: The Next Decade (2020)

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