バイオが世界を飲み込む - Biology is Eating the World (a16z)

今、生物学が経験的な科学から工学的な分野へと移行し、新しい時代の幕開けを迎えようとしています。何千年にもわたって人工的な方法で生物学を制御したり、操作したりしてきましたが、いよいよ自然界による機械を利用して、生物を設計し、スケールアップし、変容させるために、生物学の工学的な手法が使われ始めたのです。

私たちが生物学の技術を駆使することで、病気の診断、治療、管理の方法を根本的に変えることができます。最初の大きな飛躍は1980年代初頭に行われた組換えDNA技術と最初のバイオ医薬品です。今日では、CRISPRや遺伝子回路などの現代的なツールによって、新しい化学物質やタンパク質を作り出すように設計されたバクテリアから、がんを攻撃するように設計された細胞まで、生物学をより正確かつ高度にプログラムすることが可能になりました。「プログラム可能な医薬品」(遺伝子、細胞、微生物、さらには私たちの健康そのものを改善するモバイルアプリやソフトウェアの形で)の爆発的な増加は、今日、私たちをこれまで以上に医療の聖杯である治療法に近づけてくれています。

これらの新薬は、自然界でプログラム可能なエンジニアリングシステムであるため、創薬と開発は、オーダーメイドなものから反復的なプロセスへと移行していきます。私たちは、ある特定のターゲットのために分子を設計するのではなく、多くの将来の医薬品を構築できるプラットフォームを設計することができるようになりました。ソフトウェアのアップグレードと同様に、プログラム可能な医薬品は、次の世代に向けて医薬品を改良することを可能にします。例えば、CAR-T細胞を設計した新しいバージョンは、前のバージョンよりもさらに洗練されています。また、これらの医薬品のモジュール化された側面は、レゴブロックのように共通のコンポーネントを再利用することで、新しいアプリケーションの構築が容易になることを意味しています

今後は、すべての治療法が分子であるとは限りません。すでに今日では、糖尿病や行動障害のような複雑な慢性疾患を管理するための治療法がダウンロードできるようになっています―そしてこれらは既存の医療よりもずっとよい可能性すらあります。これらの複雑な症状に対しては、ソフトウェアこそが生体機能へ影響を与えるために最善の方法となるかもしれません日本語訳)。このようなデジタルヘルス治療法は、患者さんの状態を改善するだけでなく、治療を重ねることで、それ自体がどんどん良くなっていく可能性を秘めています。今や生物学は進化するだけでなく、私たちの治療薬も進化しています。

これらはすべて、これまでにないデータを生成する能力と、それを理解するための洗練された計算ツールによって支えられています。生物学は信じられないほど複雑で、人間の頭では理解しきれないほどかもしれません。AIを搭載したプラットフォームは、これまでノイズのように見えていた点と点を結びつけ、新たな発見を生み出し、発見の本質を変えてしまう可能性を秘めています。これにより、新しい治療法や次世代の診断法が開発され、がんなどの病気をより早く、より早く発見できるようになり、病気が始まる前に病気を止めることもできるようになります

しかし、私たちが病気になったとき、私たちは医療制度に頼ることになります。私たちは今、医療へのアクセス、支払い、提供の方法などの医療システム全体が、テクノロジーによって再構築されているというユニークな時期にいます誤ったインセンティブや透明性の欠如など、これまで医療制度の変化を阻む要因となってきた力学が変化しつつあります。そして患者はついに医療システムにおける強力なステークホルダーになりつつあります。医療は病院の4つの壁の外に押し出され、地域に根ざした場所で、あるいは自宅で、あるいはバーチャルで、どこにいてもケアを提供するための新しいモデルが日々生まれています。

これらすべての分野において、テクノロジーは摩擦を減らし、自動化を導入し、費用対効果の高い臨床サービスを提供するための新しい方法を可能にしています。この市場で成功する製品やサービスを構築するためには、現在存在する複雑な医療バリューチェーンを深く理解し、そこに対してどのように統合するかを常に考えなければなりません。しかし、支払いモデルの革新とヘルスケアの定義の拡大により、システムのギャップが明るみにでつつあり、それらは新しいスタートアップによって独自のやり方で埋められるかもしれません。今後、ヘルスケア市場の支配的なプレーヤーは、テクノロジー企業を中核とした企業になるでしょう。ソフトウェアは、いよいよヘルスケアを食べていくことになります。

生物学はもちろん、人間の健康や病気に影響を与えるだけではありません。進化、複製、創造という他に類を見ない能力を持つ生物学は、地球上で最も先進的な製造技術の一つです。食品、農業、繊維、製造業、さらにはDNAをベースにしたコンピュータを使えば、ソフトウェアそのものまでもが、生物学によって変貌を遂げています。今日のバイオは、50年前の情報技術と同じように、私たちの生活のあらゆる場面で活躍することになるでしょう。ソフトウェアと同じように、そしてソフトウェアと同じだからこそ、生物学もいつかはあらゆる産業の一部になるでしょう。

このような次世代の企業は、それぞれの分野で深い専門知識を持つ、学際的な知識を持つ新世代の起業家によって築かれることになります。未来のバイオ企業は、消費者向け企業、エンタープライズ向けスタートアップ、FinTechなど、他の分野の先人たちから学んだことを取り入れていくでしょう。そのため、この分野の投資家にも、創業者と同様に、深い専門知識と経験を持ち、学際的であること、また、従来の分野や業界のラインが変化しつつある中で、創業者をサポートするビジョンを持つことが必要であると考えています。私たちは生物学の世紀に生きており、生物学は今まさに世界を食べています (biology is eating the world)。

 

著者紹介

Jorge Conde

Jorge Conde は Andreessen Horowitz のジェネラル・パートナーとして、生物学、コンピュータ・サイエンス、エンジニアリングの各分野で投資をリードしています。

Vijay Pande

Vijay Pande 博士は、Andreessen Horowitz のジェネラル・パートナーで、バイオファーマとヘルスケアへの投資に注力しており、Apeel Sciences、Asimov、BioAge、Ciitizen、Devoted Health、Freenome、Insitro、Omada、PatientPing、およびRigetti Computingの取締役を務めています。また、スタンフォード大学のバイオエンジニアリングの非常勤教授でもあり、化学生物学、生物物理学、生物医学の各分野で挑戦的な問題に取り組む Pande 研究室の顧問を務めています。

Julie Yoo

Julie Yoo は、Andreessen Horowitz のジェネラル・パートナーとして、ヘルスケア・テクノロジーへの投資をリードしており、ヘルスケア・システムへのアクセス、支払い、体験の方法を近代化する企業に焦点を当てています。

 

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: Biology is Eating the World: A Manifesto (2019)

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