エンタープライズ向けスタートアップの起業方法 (Startup School 2014 #12)

曲を流していただけますか。

【『Eye of the Tiger』のイントロが流れる】

気合が入るようにもう少しボリュームを上げてもらえますか?そうです、そうです。その調子です。皆さんリズムに乗って、手拍子をして。

はい、結構です、曲を止めてください。それでは講義を始めるとしましょう。ありがとうございます。

これが本日のエンタープライズソフトウェアの講義でもっとも興奮する瞬間になります。ここからは落ち着いたテンションでいきますので。入念なリハーサルにご協力いただいた皆さん、ありがとうございました。

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Box 創業者の自己紹介

私はBoxのCEO兼共同創業者のAaron Levieです。エンタープライズソフトウェア企業の始め方の講義へようこそ。皆さんこの講義を聞きに来たのですよね?合っていますか?違います?

私が今日ここに何をしに来たかと言いますと、この講義全体において話をされる方々は皆間違っていること、皆さんが本当に立ち上げるべきはエンタープライズソフトウェア企業であることを確信してもらうためです。

今回の講義を通じて、エンタープライズビジネスに携わることがとても素晴らしい理由、「コンシューマービジネスへの参入が面白い」という説が間違っている理由、エンタープライズソフトウェアを始めるべき理由を理解していただければ幸いです。

エンタープライズソフトウェア企業を立ち上げたい人はいますか?はい、分かりました。ありがとうございます。講義の最後に聞いた時に人数が減っていないことを祈るとしましょう。むしろ、それだけが今日の講義における私の目標です。

本日は3つのことをお話しします。まず、Boxがどういう会社かを簡単にご紹介します。実は私たちが会社を立ち上げた当初は、エンタープライズソフトウェアをやろうとは思ってもいませんでした。そこで、エンタープライズビジネスに目を付けた理由と私たちが現在やっていることを少しお話ししたいと思います。

2つ目は、現在ではスタートアップの参入が可能になったエンタープライズソフトウェアですが、そこで起きた変化の主な要素についてお話します。

そして最後に、皆さん自身がスタートアップとは何かを理解し立ち上げるための方法として、いくつかのパターンを見ていきます。実践的で役立つアドバイスができれば幸いです。

先に申し上げておきますと、私はここ数日喋りっぱなしで声が変になっています。3番目のアドバイスまでたどり着けるよう頑張りますので、よろしくお願いします。

Box とは

エンタープライズソフトウェアのBoxが高く評価されていることを示すデータをご紹介しましょう。

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現在Boxを導入している企業は約24万社、社内でBoxを使っているユーザー数は2,700万人以上です。これはFortune 500の99%に相当します。残りの1%はMicrosoftで、彼らはどうしてもBoxを使いたくないようです。私たちはこの点についてもう少し努力しなければなりません。

多くのユーザーが職場でBoxを利用しています。

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これらがBoxを導入している企業のほんの一部です。消費財メーカーからGeneral Electricなどの企業まで、業界は実に多岐にわたります。Stanford Health Careでは、医学部内の調査に関するコラボレーションで実際にBoxが使われています。医療、メディア、メーカー以外にも私たちがプロダクトを提供している業界は多数存在します。

Box はどうやって成長したのか

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では、私たちはどのようにして現在の姿になったのでしょうか?結果的にこうなりましたが、私たちはエンタープライズソフトウェア企業として会社を立ち上げたわけではありません。

起業は2005年でしたが、大学生だった2004年にこのアイデアを思い付きました。2004年にインターネットを使っていた人はいますか?はい、すごいですね。ミレニアル世代がインターネットを使っていたとは知りませんでしたが、さすがですね。すみません、年齢に関する冗談はやめましょう。

ここは大事なポイントです。皆さんも覚えているかも知れませんが、2004年当時はインターネットでできることは多くありませんでした。退屈な時代でしたよね?Facebookはまだ誕生しておらず、勿論Snapchatもありませんでしたから、大したことはできない時代でした。

携帯電話も持っていなかったので、15秒のメッセージや紛失した写真を送ることもできませんでした。つまり、2004年当時のインターネットはできることが少なく、いわば人の住まない不毛の地だったのです。

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ちなみに、この幸せなラクダはGoogleで、悲しげなラクダはYahoo!です。

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これが2004年のインターネットです。現在のYahoo!はその時からかなり成長しましたが、2004年半ばはまだ試行錯誤していました。そしてGoogleは世界を席巻していました。当時世界はその程度だったのです。

ファイルのシェアが難しいことに気づく

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2004年当時大学生だった私たちは、どういうわけかファイルの共有が実に困難であるということに気付きました。ファイルを共有するというアイデアは現在と同じくシンプルなものでしたが、10年前は会社間でのデータ移動は多大なコストが掛かるかきわめて難しいかのどちらかだったのです。

私は当時インターンをしていたのですが、データを扱う仕事の大半はプリントアウトされた紙をコピーしてキャビネットに入れることでした。コンピュータサイエンス専攻でないインターンの仕事はそんなものです。私はコピー取りが非常に上手になりましたが、残念ながら現代役立つスキルではありません。とにかく、ファイルの共有は本当に大変だったのです。

学校でも同じで、大きなグループで作業をしている時、ファイルの共有は厄介でした。私が進学したUSC(University of Southern California)でストレージに使えた容量は50MBでした。50MBといえばファイル1つを保存しておくのがやっとで、6か月毎に自動で削除される仕組みでした。

当時のIT企業経営者が誰だったにせよ、ハードドライブを活用していなかったことは確かです。ですから、ファイルの保管や共有はとても困難なことだったのです。では、どこからでも簡単にファイルを保管や共有できるようにしたらどうだろうか?

環境が変化していることに気づく

それが当時思い付いたBox.netというアイデアでした。そして私たちは、ソフトウェアの世界では多くの要素が変化していることに気付きました。

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まず、ストレージコストが劇的に下がっていました。一般的に、私たちのビジネスでは1~2年毎にストレージの量が倍になり、データはハードドライブに格納されます。かつては不経済だったことが可能になり、コンピューティングコストやストレージコストが下がったのです。

次に挙げられるのは高性能のブラウザやネットワークの登場です。Firefoxが普及し始め、家庭や学校でより高速のインターネットが使われるようになりました。そして、情報の保存や共有をしたい場所が増えてきました。

つまり、これら3つの要素が出現しつつあったのです。私が何か戦術的なアドバイスをする時は、これらの要素を思い出してください。

テクノロジにアンテナを張っておく

忘れてならない最初のポイントは、変化し続けるテクノロジー要素に対して常にアンテナを張っておくことです。

基礎的な部分で著しい変化がある市場は、重大な変化が起きつつある環境です。とても幸運だったのは、クラウドでのデータ保存というニーズの重要性が高まっていたことです。コストと実現可能性は急激には改善しませんでした。

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私たちは初期バージョンのBoxを集約させてBox.netとして発売しました。「ファイル共有をごく簡単にしよう」というこのアイデアは結果的に大当たりし、私たちはMark Cubanという人物からエンジェル投資を受けました。この時は『Shark Tank』放送前でしたが、状況はよく似ていました。資金調達を受けた私たちは、「とんでもなく面白いことになるぞ」と思いました。

大学を辞めてはいけない

大学を辞めよう、ベイエリアに引っ越そう、これからすごいことが始まると、私たちはそう思っていました。しかし大学を辞めると、どなたか大学を中退した人はいますか?よかったです。辞めてはいけません。

大学を辞めるときは、「素晴らしい未来が待っている」と誰もが想像します。

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あのBill Gatesだって大学を中退したのだから、自分はBill Gatesのようになるんだ。

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あのMichael Dellだって大学を中退したのだから、Michael Dellのようになれるなんて刺激的じゃないか。

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あのSteve Jobsだって大学を中退したのだからと、皆思うのです。

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しかし、この人が大学を中退したことなんて誰も覚えていません。

つまり、大学を中退したからといって実際の成功が保証されているわけではないのです。この人も大学中退だったとは知りませんでした。中退せざるを得なかったように見えますが。彼の関係者がいたらお詫びしますが、実はこれはインターネット上で見つけた面白い画像です。

大学を中退して引っ越しをする

とにかく私たちは大学を中退することに決めて、まずBerkeleyに引越し、次にPalo Altoへ移りました。

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そして、このプロダクトを無料で提供することにし、毎月の登録者数は数十万人になりました。Box.netに登録すると、無料で1GBのストレージ容量が使えたのです。

繰り返しますが、これは2006年の話です。非常に多くのユーザーを抱えていた私たちは何をすべきか模索していました。

無意味なことをしていることに気づく

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私たちが直面したのは、まさにあらゆるスタートアップが直面する共通の問題でした。

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ビジネスモデルを見れば明らかで、消費者にとって私たちは健全な非常に信頼できる企業でしたが、実は無意味なプロダクトを作っていたのです。

帯に短したすきに長し

消費者にとってみれば、私たちのプロダクトはお金を払えばそれだけ多くの機能を搭載していましたが、大抵の消費者はそれらのほとんどを必要としていませんでした。

一方、企業にとってみれば、私たちのプロダクトにはセキュリティ面で課題が残り、会社としても企業が求めるデータの使い方を実現させる能力がありませんでした。

つまり、私たちのプロダクトは消費者のニーズは十分過ぎるほど満たしていましたが、企業のニーズを満たすには至らなかったのです。

コンシューマとエンタープライズ、どちらの道に進むべきか

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この時期の私たちは、自分たちが求めるビジネスの方向性を決める非常に大切な岐路に立っていました。どちらの道に進むべきか選択を迫られていたのです。

これは2006年前半、中盤から2006年後半のことです。私は当時23歳、共同創業者は22歳でした。創業チームにはもっと若い者もおり、全員が大学中退でした。

2006年から2007年にかけて、私たちはこれら2つの道の先にある世界は全く別ものと考えていました。

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コンシューマービジネスでスタートアップを始めれば、楽しいことばかりのパーティー三昧で、とても刺激的な日々が待っている。

一方、エンタープライズビジネスを始めれば、エンタープライズソフトウェアは世の中からとにかく嫌われていて、大規模でむしろ感謝されないモデルとの戦いが待っている。これらは私たちの想像でしたが、2つの世界のどちらかを選ばなければならなかったのです。

そこで私たちは両者を比較して考えてみました。コンシューマービジネスは一見実に楽しそうで、エンタープライズビジネスは一見実に困難で激しい競争が待っているように思えました。

同時に、コンシューマービジネスは常に、どうやって収益を出すか、どうすればユーザーにお金を払ってもらえるかという問題がついて回ります。コンシューマービジネスで可能なのは2つのビジネスモデルだけです。自社のアプリケーションに対してユーザーにお金を払ってもらうか、アプリケーション内に広告を出すかのどちらかです。

モバイルアプリとエンタープライズソフトウェアの市場規模

では、概況を理解してもらうために最新の数字を使って説明しましょう。

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コンシューマービジネスにおいて、モバイルアプリの市場規模は年間約350億ドルです。とてつもない金額ですよね?350億ドルです。今やこれほどの額がモバイルアプリに費やされているのです。

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広告については、世界全体のデジタル広告の市場規模は1,350億ドルです。eコマースを手掛けているのでなければ、コンシューマービジネスの大半はアプリケーションの購買力かそれらの類のサービスに関する世界規模の広告を合わせた約1,700億ドルを目指すことになります。大きな数字ですから、多くのチャンスがあります。

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これに対してエンタープライズビジネスの場合、エンタープライズITの市場規模は毎年3兆7000億ドルです。サーバー、インフラ、ソフトウェア、ネットワーキング、サービス、これらすべてのテクノロジーが毎年数兆ドルに匹敵する金額を生み出しているのです。

私たちは、これら2つの市場には非常に大きな差があることに気付きました。コンシューマービジネスは消費者に月額数ドルを課金する世界です。Google、Microsoft、Appleはやがてこうしたプロダクトを無料で提供するでしょうし、Googleドライブが登場するという噂もありました。かつて開発が見込まれていたこれらのプロダクトは今やすべて実現しています。

しかし、エンタープライズビジネスの世界では企業はIT投資を惜しまず、生産性や収益の向上に努めています。つまり、価値の方程式が全く違うのです。

コンシューマービジネスでは、限られた資金をできるだけ少ないことに投入することに注力します。エンタープライズビジネスは少々異なり、「このテクノロジーで何ができるか?」「それは自分にとってどんな価値があるのか?」が問われる世界です。これは実に重要なポイントでした。

エンタープライズには面白みがない…?

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しかし問題なのは、エンタープライズソフトウェアは面白みが全くないことですよね?競争が激しく、ビジネスとして成立させるのも非常に難しいものです。朝起きてベッドから飛び出して「さあエンタープライズソフトウェア企業を作ってやるぞ、ワクワクするなぁ。」と言えるようなものではありませんでした。

その理由は実に単純明快でした。

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ソフトウェアの開発速度が非常に遅かったからです。今までのやり方を壊したくなかったのです。顧客はテクノロジーの購入に長い時間を掛けるため、セールスプロセスにも相当な時間がかかっていました。

皆、エンタープライズソフトウェアの購入はまさに数年掛かりでするものという価値観に慣れていたからだと思います。テクノロジーを現場に導入するのにさらに数年掛かる場合もあります。つまり、多くの企業では数年にもわたってそのテクノロジーが使われずにいたのです。

これは大きな問題でありながら、あまり関わりたくないものに思えました。テクノロジー自体が複雑で、どれほどの人がエンタープライズソフトウェアを使わなければならないのか分かりませんが、大抵ものすごく入り組んでいます。

何をどう考えて、デザイナーは1ページに47個ものボタンを配置しようとしたのでしょうか?皆さんも分からないでしょうが、その理由は後ほどお話しします。基本的にデザインやユーザーサービスに対する愛情や関心がないのです。とにかくソフトウェアは複雑です。そのうえ、そのソフトウェアを売る方法を考えなければなりません。

インターネットの力を称賛する者にとって、顧客にプロダクトを売るためにセールスエージェントを使うという考えは全く魅力のないものでした。世界各国で自社と顧客との唯一の接点となる人間を沢山雇う必要があるのです。皆さんが雇ったこのChuckという男性はブリーフケースを手に出掛け、多くのエンタープライズソフトウェアを顧客に売ろうとします。

ちなみに、この人がChuckです。

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これが少なくとも私たちが思い描いたエンタープライズビジネスにおけるセールスプロセスでした。Chuckは人が良さそうに見えますが、自社のソフトウェアを売るためのエージェントにすぎません。インターネットの力を使って、私たちのテクノロジーを届ける方法はないものでしょうか?

会社がスケールアップするにつれてこのようなセールスエージェントを使わなければならないのはなぜでしょうか?セールスビジネスに関して私たちが間違っていた理由は後ほどお話ししますが、私たちはセールスについて少し懸念を抱いていました。

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その上、2007年当時、私たちは投資家から「エンタープライズビジネスでは成功できない」と言われていました。

「君たち創業チームは皆20代の若者で、企業で働いたことがある者は誰もいない。Microsoft、Oracle、IBMといった企業に君たちは潰されてしまうだろう。成功など夢のまた夢だ」といった具合です。

確かに、彼らの言い分も一理ありました。私たちは経験不足で、キャリアを築き始めたばかりでした。例えば、共同創業者は13歳のように見えました。彼がどんな見た目だったかお見せしましょう。

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分かりましたか?これが当社のCFOです。29歳の時だったと思います。私たちは出資してもらった金を持ち逃げしてディズニーランドにでも行きそうに見えたのです。そんなことをやらかしそうだと投資家たちが考えなかったことに感謝しています。私だったら彼に出資するなんて想像できません。

エンタープライズ向けに行くことを覚悟する

そこで私たちはやるしかないと腹をくくりました。このビジネスに全力で取り組まなければならないと思いました。

そして、スケールや消費者体験、当社のDNAをエンタープライズビジネスに活かせるかやってみようということになりました。私たちは実に幸運でした。ある投資家と出会えたのです。

彼は投資家としてのキャリアは浅かったのですが、エンタープライズビジネスには変化が起きていて、それを私たちがうまく利用できると信じてくれました。

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そこで、エンタープライズビジネスを手掛けるのなら、エンタープライズビジネスに参入するのであれば、全く異なるルールで戦う必要があると私たちは考えました。

この時代にソフトウェアの複雑さをどう変えられるか?この新しい時代にきわめて時間の掛かるセールスプロセスを変えられるか?テクノロジーを提供するのにこれまでのような遠回しのプロセスを経るのではなく、ユーザーや顧客へどのように直接アプローチすれば良いか?ただRFP(提案依頼書)プロセスに従うのではなく、ユーザー本位のデザインをどう作り出すか?

私たちはエンタープライズビジネスにあてはまるあらゆる要素を検討し、すべての点に関してではなかったものの、従来とは正反対のことをやろうと決めました。より新しく、より優れたソフトウェア企業を作ることができるテクノロジーの世界に起きている変化を見つけ出そうとしました。

これが私たちが下した決断で、8年前に選んだ道であり、私たちがエンタープライズビジネスにフォーカスしている理由です。

繰り返しますと、現在当社のプロダクトを導入している企業は24万社ほどあります。その理由は、私たちはビジネスモデル、ソフトウェア、そしてソリューションを世界で1つの特定バージョンで機能するように設計したからです。やがてその1つのソリューションが大当たりとなったのです。

私たちの会社が属する世界で起きている変化についてもう少し説明しましょう。皆さんがエンタープライズソフトウェア企業を作るのなら、自身が持っているテクノロジーに基づいたものにすることを強くお勧めします。これこそ私たちが決断をした理由であり、この問題に取り組み始めた方法だったのです。

エンタープライズのすべてが変化し始めている

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エンタープライズビジネスに関するすべてが、そして必然的に企業が使うソフトウェアがまさに過去5年間で変化しています。エンタープライズソフトウェア企業を立ち上げる好機があるとしたら、企業に起きている変化の度合いという観点から今がその時と言えます。

幾つかの例で見ていきましょう。

クラウドへの移行

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1つ目は、大半のアプリケーション企業はクラウドに移行しています。そして最大の変化は、ビジネスマネジメントの会社を立ち上げようと、ビジネスインテリジェンスの会社であろうと、コンタクトマネジメントの会社であろうと、10年、15年前までは個々の顧客が存在する場所でアイデアを実現させなければなりませんでした。

販売相手である顧客の数や自分がいる地域にかかわらず、それぞれ自前のデータセンターを用意せざるを得ませんでした。これがオンプレミスコンピューティングの欠点でした。各自がすべての作業を行うため、かなりの冗長性が生まれ、エンタープライズソフトウェアの提供や開発に関するプロセス全体を減速させていたのです。

そこで突如現れたのが、いわゆるSalesSource.comやAmazon Web Servicesのようなクラウドです。なぜ複数のサーバーを導入したい顧客が、アプリケーションと同じように、自らサーバーを導入し、データサーバーでデータを管理し、セキュリティやネットワーキングを設定して、6か月後に開発者がそれらを組織で使用できるようにする必要があるのでしょうか?従来のこのようなやり方は現代では無意味になったのです。

何万というサーバーを集約させてオンデマンドにすれば、ユーザーが好きな時に好きなだけ利用できるようになります。これがまさしくクラウドコンピューティングの定義で、昨今のCIOや大企業は皆これを活用しています。

これは今ではごく当たり前の話で、皆さんが会社を作る際に自分でサーバーを購入することはないでしょう。GoogleやYahoo!などのリモートサーバーを利用するでしょう。しかし、企業にとっては数十年かけて築いてきたインフラをクラウドに移す必要があります。これが実際に起きている大規模なシフトです。

世界は高コストのコンピューティングからより安価なオンデマンドコンピューティングに移行しています。そこでスタートアップを始めるメリットは、顧客に同じ軋轢を経験させずに新たなテクノロジーを提供できることにあります。コンピューティングがより安価になれば、新たなソリューションの採用は容易になります。つまり、参入障壁がぐっと緩和され、スタートアップにとっては好都合となったのです。

カスタマイズから標準的なソフトウェアへの移行

世界はカスタマイズされたプラットフォームから標準的なソフトウェアに移行しています。これまではソフトウェア自体のみならず、あらゆるカスタマイズ、あらゆるカスタマーエクスペリエンスを自ら構築しなければなりませんでしたが、現代の顧客は自前のプラットフォームを開発せずにプロダクトの表面的なカスタマイズで対応できることを理解しています。

従来のエンタープライズソフトウェアは世界の上位5千~1万社にしか売れませんでした。なぜなら、それらの大企業だけがテクノロジーを導入するためのあらゆる要素、すなわち人材、インフラ、予算を持っていたからです。

しかし現在では、まさに社員2人の会社もBoxの登録が可能ですし、当社は社員数30万人以上のGeneral Electricとも取引をしています。つまり、現在は大企業だけでなく世界中の中小企業にもサービスを提供できるようになり、狙える市場が拡大しているのです。それがエンタープライズビジネスに参入する大きな経済的魅力です。

プラットフォーム自体はよりグローバル化しています。当社の顧客は会社立ち上げから数週間で海外展開しました。従来の形態の会社だったら、海外に展開するのに数年は要したでしょう。

モバイルへの移行、ユーザー主導モデルへの移行

最後に、もっとも大きなシフトはモバイルデバイスです。iPhone、iPad、Android、タブレットなどのITモデルはよりユーザー主導になっています。

これは実に重要な点です。ITの世界では、既存企業が優勢になるのが一般的です。なぜなら、既存企業はIT企業やそのCIO、社内で支出決定権を持つ人々と既に関係を築いているからです。

ユーザー主導モデルでは、ユーザーが独自のテクノロジーを選んでいます。ユーザーはセールスチーム向けに、マーケティングチーム向けに、財務チーム向けに独自のテクノロジーを選び、それらのユーザー向けにソフトウェアを開発することが可能になります。つまり、ユーザーはテクノロジーを選ぶことができ、私たちはより高度なコントロール、より高度なセキュリティ、より高度な拡張性を必要とする企業にプロダクトを売ることができるようになったのです。

つまり、モデルとしてはビジネスソフトウェア企業と同じながら、企業への売り込み方は今やエンドユーザー経由になっています。これらがいわゆる質的な変化です。

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それでは量的な変化についていくつか説明しますと、今や世界には約20億台以上のスマートフォンが存在し、あらゆるITモデルを変化させています。なぜなら、10年前なら企業向けのテクノロジーを管理するには自社ビル内でコンピュータネットワークを管理する必要がありました。

しかし、数十億台のスマートフォンが普及している現在では、いつでも、どこでも、あらゆるネットワーク上でコンピューティングを管理できるのです。これはソフトウェア企業で特に顕著です。なぜなら、既存企業でネットワーク上でのデータ管理やデータの活用を促進するテクノロジースタックを開発している会社はないからです。つまり、スタートアップにとって非常に大きなチャンスが生まれたわけです。

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世界のインターネット利用者は約30億人に上ります。

すべての業界が変化している

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これはすなわち、すべての企業が顧客にプロダクトを提供する方法を変更しているということ、各業界が変化しているということを意味します。

エンタープライズで革命が起こる機会は2つ

エンタープライズビジネスでテクノロジー革命が起きる機会は2つしかありません。

1つ目は原材料が変化する時で、コンピューティングコストが下がって集約化が進むとオンデマンドでの利用が可能となります。2つ目は、企業が狙っているユーザーがその企業のプロダクトで新たな体験を必要としている時です。

その一例を紹介しましょう。皆さんはひとたびキャンパスを離れれば、UberかLyftのようなものを使っているでしょう。配送業者や運送業者にとってUberは大きな変化をもたらす存在です。「Uberはどのような影響を及ぼしているのか?」「Instacartはどのような影響を及ぼしているのか?」「Lyftは自分のビジネスモデルにどのような影響をもたらすのか?」ということを理解しなくてはなりません。

企業がそうした変化に直面している世界では、企業のビジネスモデル開発やこうした混乱の時代への適合をサポートする新たなテクノロジーが必要となります。

各業界向けのソフトウェア企業が始まる

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これは、業界向けのバーティカルなソフトウェア企業を始める絶好の機会となる理由でもあります。

現在はどの業界もビジネスモデルやテクノロジーに関する混乱の中にあります。これは、各業界はそうした状況の克服をサポートしてくれるスタートアップのテクノロジーを必要としていることを意味します。

幾つかの例を挙げて説明しましょう。

小売業界

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小売業界には、オムニチャネルやマルチチャネルコマースという構想があります。これはオンラインや携帯、または実店舗と、場所を問わず買い物をし、自宅まで商品を届けてもらうというものです。

大半の既存企業のテクノロジーはマルチチャネルコマースに対応する力を持っていません。準備もしていません。それではより適切な情報やインテリジェンスを使って、時と場所を問わず買い物をしたいと考える消費者に到底対応できません。つまり、世の中のあらゆる小売業者は、ユーザーの小売体験を向上させる新たなテクノロジースタックを必要としているのです。

ヘルスケア業界

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医療業界では、あらゆる医療機関がより個人に特化した体験、より予測的な体験を提供する方法を模索しており、個人に合わせた医療の提供が必要となっています。医療のビジネスモデルは、手術や健康診断が中心ではなく、顧客が健康であること、健康であり続けることから報酬を得るように変わってきています。そして突如として、あらゆる医療機関が医療体験を提供するテクノロジーを必要とするようになったのです。

医療機関には遠隔医療の提供や、融通の利かない病院環境ではなく、より地域に密着した医療提供が求められています。新たなユースケースが生まれつつあるのです。医療機関が相互に連携されれば、医師がより良い判断を下せるようになります。そのためには、これらのビジネスや業界を促進させる新たなエンタープライズソフトウェアが必要となります。

メディア業界

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メディア業界を例にしますと、テレビや音楽、映画であろうと、直線的なプログラミング、直線的なサプライチェーンのビジネスモデルから、映画が作成され3か月劇場で上映されると、その後はオンデマンドで楽しめるiTunesやその他のプラットフォームにシフトします。インターネット利用者が30億人に達する世界における配信方法は変わりつつあります。

繰り返しますが、コンテンツやデータ、情報のこうした大規模なシステムの移行を促進するプラットフォームを持っているメディアネットワークはありません。

私は昨日ロサンゼルスでとあるメディア会社とミーティングをしていたのですが、その会社は主に予測的アナリティクスを活用してインターネットユーザー30億人のうち、映画を観に行く可能性がある人の人数を予測しています。

彼らは特定のカテゴリの映画に興味を持つ30億人の映画ファンへのアプローチ手法を解明しています。つまり、映画会社は突如として、映画の制作、公開、配信に関してビッグデータやビジネスインテリジェンス、マーケティングが必要となったのです。

これこそ2つの業界が融合し、あらゆる新しいソフトウェアが必要になる場面です。ありとあらゆる業界がこうした変化を経験しているのです。

各業界でのテクノロジの要素

各業界について「今後数年でビジネスモデルを変えるような根本的なテクノロジー要素は何か?」と考えてみることが必要です。そうすれば、そのような経験を促進させるためのソフトウェアが必要になることが分かります。例えば、水の将来を考えてみてください。そこでカギを握るのは何でしょう?何らかのソフトウェアだということは明らかです。

基本的に世界のあらゆる会社にあてはまることですが、ちなみにStanford大学に在籍する利点はテクノロジーを学べることです。私たちはテクノロジー業界というと1つの業界の話と思いがちですが、実際には各業界にテクノロジーの要素が存在しているのです。

テクノロジーに精通しておらず、データを活用して新たなツールを使いこなす能力がない企業は、これからの世の中で生き延びていくことはできないでしょう。しかし、今や企業はテクノロジー業界と連携することでこうした状況に対応しようとしています。

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企業が自ら専門知識を身に付けようとするのではなく、企業がよりスマートに、より速く業務をこなすためのテクノロジーを高度なセキュリティの下で活用するために、今後5~10年間で多くのパートナーシップが生まれるでしょう。これはそうした環境における個人の働き方だけでなく、最終的には企業のビジネスモデルも変えるでしょう。これが2つ目の話となります。

どうやって始めるのか?

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では、皆さんが起業する際に役に立つ幾つかの実践的なアドバイスをしましょう。正直に言いますと、私のアドバイスの大半は思い返せばこうだったというものであって、今後こうなるであろうというものではありません。

しかし、過去を振り返ると正しかったことをお話しすることはできます。会社はこう作るべきという確定的な話をするのは難しいです。皆さんがこれらすべてを理解されることはないかもしれませんが、エンタープライズソフトウェア企業を立ち上げる、または立ち上げを検討している際に見分けるべきパターンの理解にはなると思います。

テクノロジーの破壊が起きている場所を見つける

まずはテクノロジー破壊が起きている場所を見つけることです。これはコンシューマービジネスでもエンタープライズビジネスでも同じです。この後のお話はエンタープライズビジネス寄りの内容ですが、この点についてはテクノロジー企業を立ち上げようとする場合全般に非常に重要となります。

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現在物事が行われている方法とそれを行うのにどのような方法が可能かとの間に大きなギャップがある場合、それを生み出している新たな技術、または根本的なトレンドなどの大きなトレンドを見つける必要があります。私たちのビジネスを振り返りますと、ストレージ価格が下落し、インターネットが高速化され、ブラウザが改善されている一方で、私たちは未だに非常に複雑でかつ煩雑な方法でファイルを共有していたということが大きなギャップでした。

可能なことと現在行われている方法との差が一番大きい時が、問題を解決するための新たなテクノロジーを開発する機会となるのです。企業にとってみれば、コンピューティングコストの急激な下落がデータの管理方法をいかに変化させているかが問題になります。

ビジネスの観点からは変化のために何をすべきでしょうか?経済的または技術的な理由で10~15年前は不可能だったことが今や可能になっています。たまに1990年代や1980年代のテクノロジーに関する新聞記事を見ますと、現代で実現しているあらゆることは、10年、20年、30年前に試みながらも、コストが掛かりすぎる、使用に全く適さない、それを可能にする実現技術がないという理由から実現しなかったテクノロジーの再現であることが分かります。

PlanGrid の例

5年、10年前には不可能だったものが現在は非常に実用的になっているコンセプトの例をご紹介しましょう。

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PlanGridという会社があるのですが、どんな会社かご存知の人はいますか?なるほど、いいですね。あなたは建設業界の関係者ですか?本当ですか?素晴らしい。それはどういうことでしょうか?

Q
PlanGridのことですか?それとも建設業界のことですか?

Aaron Levie
建設業界です。

Q
私は工事現場で働いています。ビルを作っています。

Aaron Levie
それは実に素晴らしい。PlanGridは、建設プロジェクトの管理、設計図へのアクセス、そして建設プロセスに関するあらゆるデータの管理を可能にするモバイルアプリケーションです。

この会社は、建設業界では設計図のプリントアウトに毎年4兆ドルが費やされているということ、設計図の変更があれば非常に広範な請負業者と作業員のネットワークのすべての階層において共有しなければならないことを知りました。それがどんなに些細で軽微な変更であってもです。

そこで彼らは突如、iPadが設計図やコンテンツを格納する完璧なフォームファクターであることに気付いたのです。これは、設計部門以外はハイテクに無縁と思われている建設業界全体に波及し得るものでした。変化に乏しい建設業界において、どうすればデータコラボレーションの問題を解決し、シームレスで使い易いテクノロジーを開発できるでしょうか?

そのためには、市場における変化をうまく見つけ、それら2つがどう融合するかを理解しなければなりません。そこで、このチームは素晴らしいスタートアップを立ち上げ、彼らが開発したプロダクトは見事に建設業界を席巻しています。それはまさにこの方が証明してくれています。ありがとうございました。

意図的に小さく始める

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エンタープライズビジネスに関する次のポイントは、意図的に小さく始める必要があるということです。

これはどういうことかというと、ユーザー主導の概念を持つエンタープライズビジネスのあらゆる会社により当てはまることですが、他の既存プロダクトのギャップを埋めるようなプロダクトの開発という、言わば自然な糸口を見つける必要があります。何か時間を掛けて考えていたことが企業構造における重要なプロダクトに成長するのです。

ですから皆さんは、些細な問題に着目して極上のユーザーエクスペリエンスを提供しよう、ビジネスモデルを変革しよう、以前問題だったことをごくシンプルなものにするための新たなテクノロジーを開発しよう、という気持ちで始めましょう。

最初は小さなことをしているように感じられるかもしれませんが、まず中小企業を目指し、それから上級市場に参入するかもしれません。取るに足りないようなユースケースからスタートして拡大できるかもしれません。

しかし、それでもあえて小さく始めるのです。なぜなら、常に完全なソリューションを提供しようとする既存企業には対抗できないからです。ですから皆さんは、完全なソリューションに潜んでいる重大なギャップを見つける必要があるのです。

そのギャップは顧客が信頼できるテクノロジーで問題を解決したいと望んでいるものです。時間がたてば、顧客の数やユースケースを拡大していけるでしょう。

Zenpayroll の例

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その好例がZenPayrollです。ZenPayrollはStanford大学の卒業生が数年前に立ち上げた会社です。彼らは、中小企業における給与の支払いが複雑かつ非常に面倒なプロセスであることに目を付けたのです。中小企業はデジタル化を重視していない同じベンダーを何十年も使い続けています。支払明細をメールで受け取ったり、給与をグラフ化したものを見たりといったこともできませんでした。給与支払は非常に複雑なプロセスで、データが全く活用されていなかったのです。

そこでZenPayrollは、人を雇って給与を支払うというもっとも面倒なこと、つまり給与支払管理プロセスにフォーカスしようと考えました。今ある構造の多くをそのまま利用することになりますが、それらをとことんシンプルなものにしようとしたのです。彼らはやがて上級市場に参入し、新たなサービスも提供できるでしょう。

すると、この市場の既存企業はZenPayrollのような会社を見て、「中小企業だけを相手にしている小さな会社じゃないか。一体彼らに何ができる?」と言ったのです。

しかし、これはスタートにすぎません。そうした糸口を見つけるにつれ、市場にフィットするにつれて時間と共に拡大を繰り返し、さらなるサービスと能力を開発していくのです。彼らは新たな会社を立ち上げ、そのビジネスが台頭する適切かつ絶好の機会を見つけたわけです。

非対称性を見つける

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次に、非対称を見つける必要があります。経済的合理性がない、前代未聞だ、または技術的に不可能といった理由で既存企業ができない、またはやろうとしないことをする必要があります。2つの例で説明しましょう。

既存カテゴリを狙う企業向けのソフトウェアを作ろうとする場合は、どちらかというとパッケージ志向のアプローチとなります。しかし、私たちはプラットフォームに依存しないテクノロジーを開発する必要があります。パッケージ開発者は何でもかんでも盛り込みたがりますが、これは垂直統合においてより価値が高まります。

しかし、それとは異なるアクセス、つまりあらゆるプラットフォームで機能するテクノロジーを生み出す必要があるのです。そうすることで、多種多様な顧客と取引できるようになります。

言わば様々な種類のプラットフォームと同盟関係を築くようなもので、これは既存企業では技術的に実行不可能なことなのです。なぜなら、彼らのアーキテクチャや基本要素となるビジネスモデルはこれに対応していないからです。

もう1つのポイントは、経済的に実行可能なことを目指すことです。既存企業のコスト構造を研究し、彼らのビジネスモデルにおいて重要であるがゆえに値下げできない部分を見つけ出すのです。あるいは、これまで誰にも見い出されていない独特またはユニークな顧客から利益を得る方法を見つけ出せれば、他社には決して真似できないビジネスを確立できます。

Zenefits の例

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Zenefitsという会社があります。彼らは小規模なスタートアップにおけるあらゆる福利厚生や人事情報の管理をサポートする人事管理ソフトウェアを扱っています。このソフトウェアを重視していない可能性がある立ち上げたばかりのスタートアップへ直接課金するのではなく、ソフトウェアを利用する能力に対し料金を支払う保険会社からの手数料を収益とすることに目を付けたのです。

顧客自身からZenefitsへの支払は発生しません。Zenefitsのプラットフォームは保険会社からの収益で成り立っており、彼らは他のソフトウェア企業が考えることも、取り組むこともしなかったビジネスモデルを生み出したのです。同時に彼らは、従来イノベーションがあまり見られなかった中小企業向け医療や福利厚生というカテゴリに一石を投じたのです。

クレイジーな例外を見つける

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次に、顧客のエコシステムの中で一般的には異端ながら合理的なアウトライヤーを見つける必要があります。つまり、ビジネスやビジネスモデル、業界の外れにいる顧客を見つけ、その顧客の特質を把握する必要があります。彼らを自社プロダクトのアーリーアダプターとして活用するのです。

Paul Grahamが書いたある素晴らしい記事に「未来に生きて、そこで欠けているものを生み出すこと」というものがあります。そうすることで、現在起きている破壊のトレンドやパターンを簡単に見つけ出すことができます。

同じことが仕事においても言えます。未来を見据えて働く顧客を見つけ出せれば、彼らとの協働を通じて未来に欠けているものを見つけることができるでしょう。それでは、これから姿を現わそうとしている新しいユースケースをすべてサポートできるテクノロジーをどのように開発すればよいのでしょうか?

Skycatch の例

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業務用ドローンを扱っているSkycatchという会社があります。当初この会社は異端児扱いされていましたが、今では建設や農業で彼らのドローンがデータ収集や様々な環境のモデリングに利用されています。つまり、Skycatchは業界で最先端にいるあらゆる企業を探し出し、何がユニークなのか、その事業運営の何が新しいのかを見つけ出しました。そして、そうした多くのアーリーアダプターと連携して、初の業務用ドローン会社という独自のプラットフォームを確立したのです。

ですから、皆さんは自分たちの市場について考察してみてください。そして市場の最先端にいて、テクノロジーを先取りしている顧客を見つけてください。そのテクノロジーを活用して特性を発揮させ、彼らと協働しながら自社プロダクトを進化させていくのです。

顧客の声を聴く

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顧客の声に耳を傾けるべきですが、それは必ずしも彼らの言葉どおりのプロダクトを作るということではありません。これはエンタープライズソフトウェア開発において実に重要な特徴です。顧客からは沢山のリクエストが寄せられます。

私たちの仕事はそれらのリストを絞り込んで最終的なプロダクトにすることにあります。これは、顧客のリクエストどおりのプロダクト開発はしないという意味ではありません。顧客の問題に耳を傾け、それに基づき顧客にとって一番適切でもっともシンプルなソリューションを開発することが私たちの仕事なのです。これがまさに私たちがすべきことです。

Palantir の例

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Palantirは顧客でさえどう質問したらいいか分からないほど複雑きわまりない問題をシンプルなソリューションにスケールダウンさせている好例です。

カスタマイズするのではなく、モジュール化する

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必要なのはカスタマイズではなくモジュール化です。

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つまり、あらゆるカスタムテクノロジーや顧客のバーティカルな体験をソフトウェア自体に組み込むのとは対照的なプラットフォームを作るのです。

顧客のバーティカルな体験を提供する1つの方法として開放性とAPIについて熟考することです。プロダクトに直接組み込むのではありません。

ユーザーにフォーカスする

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常にユーザーにフォーカスすることです。

エンタープライズソフトウェア企業を立ち上げる魅力は、現在では消費者情報を軸にしたプロダクト開発ができることです。

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それにより導入がより容易になり、プロダクトがバイラルする可能性がはるかに高くなるでしょう。組織への売り込みもより容易になります。

プロダクト自身で売れるようにする

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消費者のDNAをプロダクトに反映させることを常に意識し、自社プロダクトが自然に売れるようにする必要があります。

しかし、それはセールススタッフが不要という意味ではありません。これは実に重要なポイントです。顧客にプロダクトを届けるためにはインターネットに関するあらゆること、ユーザーに関するあらゆることを活用する必要があります。しかし、顧客にプロダクトを理解してもらうためや、競争的な勢力図やエコシステムの中で顧客を導くためにセールススタッフが必要となるでしょう。

つまり、その分野に特化したセールススタッフを雇い、彼らにセールスの立場で顧客への導入をサポートしてもらう必要があります。しかし、セールススタッフをプロダクトの代わりにしてはなりません。優れたプロダクトを生み出せないハンディキャップにしてはいけません。重要なのはプロダクト作りなのです。

Mixpanel の例

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Mixpanelという会社は、最初は開発者経由で売り込み、そして最終的にはより社内の事情に通じたセールスプロセスを経てプロダクトを導入してもらう手法を採用しています。

おすすめの書籍3冊

最後に、私がお勧めする本を3冊ご紹介しましょう。

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『Crossing the Chasm』(邦題:『キャズムVer.2増補改訂版 新商品をブレイクさせる「超」マーケティング理論』)、『The Innovator’s Dilemma』(邦題:『イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』)、『Behind the Cloud』(邦題:『クラウド誕生 セールスフォース・ドットコム物語』)です。この3冊全部を熟読すれば、他者より抜きんでることができるでしょう。

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今がソフトウェア企業の立ち上げに絶好の機会であることをお伝えする本日の講義はこれで終わりとなります。皆さんのご活躍を祈っています。

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なお、もし成功しなかったら私たちの会社は従業員を募集しています。あともう1つ、どうか私と競合する立場にはならないでください。私にはすでに多くの競争相手がいますので。私たちの会社に来てくれるか、自身で会社を立ち上げるかのどちらかであることを願っています。

ありがとうございました。

 

 

 

 

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: Lecture 12: Building for the Enterprise (2014)

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