資本形成、小さな企業、IPO に関する意見 (a16z)

編集後記――この証言はa16zの業務担当者(兼National Venture Capital Association取締役会長)のScott Kuporが、2017年6月の投資家顧問委員会会議の内容である「資本形成、小規模企業、株式公開数の減少に関する議論」の一部として、証券取引委員会(SEC)に対して行なったものです。こちらから、この話題に関する彼のこれまでの著述を確認することができます。Kuporは、出版されたばかりの新著、Secrets of Sand Hill Road: Venture Capital and How to Get Itの著者でもあります。

 

議長、委員の皆さん、Investor Advisory Committeeの会員の皆さん、資本形成と株式公開(IPO)数の不足に関して話をする機会をくださり、とても感謝しています。

経歴をお話しますと、私はAndreessen HorowitzのCEO兼業務担当者です。Andreessen Horowitzは、IT関連を中心に投資を行う、マルチステージ型のベンチャーキャピタルです。私はまた、National Venture Capital Associationの取締役会長も務めています。 Andreessen Horowitzに入社する前は、いくつかのソフトウェアの上場企業で執行役に就いており、投資銀行家でもありました。

IPOと資本形成に関しては、注目すべき3つの関連するトレンドがあります——

まず第一に、IPOの実際の数は著しく減少しています——1980年から2000年までのアメリカ国内の平均は、年間約300件でしたが、2001年から2016年までの平均は、年間108件まで減少しました。

第二に、IPO予備軍の特徴が変化しました——

  • 「小規模」IPO——IPO時点で年間収益が5,000万ドル未満の企業——は、1980年から2000年の期間では、IPO総数の50%以上を占めていましたが、2001年から2016年までの期間では、総数の約25%まで減少しています。
  • 企業が非上場のままでいる期間は長期化しています—— 会社設立からIPOまでの平均期間は、1980年から2000年までは約6.5年です。しかし現在では、設立から10.5年以上も非上場企業のままです。

第三に、これらの変化の累積効果が、アメリカの資本市場の空洞化を招いています——他の先進諸国の1996年から2016年までの公開株式数は50%の増加を見ているのに対し、 アメリカ国内の公開株式数は同じ期間で50%減少しており、過去20年間のGDPの成長と比較して公開株式数に大きな差を生じています。

これらのトレンドにはいくつかの暗示があると私は信じています——

一つ目は雇用です。上場企業は雇用拡大に結びつきます—— 上場する会社は非上場企業に比べて雇用が45%拡大します。雇用は、当然のことながら、依然として、持続的に大きな経済成長を遂げるという目標を達成するための鍵です。特に、最新式経済の結果として、構造的失業の課題を経験している国の地域において、成長と収入のさらなる平等を達成するためには、雇用が必要です。

二つ目として、私たちは、国内に二層式の資本市場構造を作るという危険を犯していると私は思っています ——1つの層は、非公開市場に投資できる機関と裕福な個人からなる層です。彼らは、上昇する価値の大部分を手にすることになります。もう1つは、公開市場で小口投資家の基盤を構成する、圧倒的多数の国民個人からなる層です。

  • 公開市場の投資家から非公開市場の投資家へのこの資産移動の効果は、単純な例で理解できます。Microsoftは1986年に時価総額3億5,000万ドルで上場しました。現在、Microsoftの時価総額は、5,000億ドルを超えています。このように、IPO以来のMicrosoft保有の公開株は、当初投資額に1,400倍以上のリターンを享受する機会を得てきました。Amazonも同様の話です—— 1997年の株式公開時の時価総額は約4億4,000万ドルで、現在まで公開市場で1,100倍弱まで成長しています。これをFacebookの途方もない成功物語と比較してみましょう。Facebookは、時価総額約1,000億ドルで公開市場に登場しました。同社は公開市場で非常に優れた業績を上げてきましたが、公開市場の投資家に対するリターンは約4.5倍です。Facebookに投資する一般投資家がMicrosoftやAmazonの株主に匹敵するほどのリターンを得るには、Facebookは時価総額100兆ドルに到達する必要があります。これは、すべての公開株の世界時価総額の合計を優に超える数字です。
  • その資格のない国民が、いくらかの公開投資信託による非上場企業への投資によって非公開市場に参加する手段を持つ一方、その露出量は非常に限られています。非上場ハイテク企業への投資信託の投資価値の見積は、2016年で70億ドル強、あるいは、国内の投資信託資産総額の約0.05%でした。

三つ目は、上場企業の数がここ20年間の下方軌道を維持し続けるならば、世界の金融活動の中心として、長期にわたって収めてきた合衆国の時価総額の成功が、危機に晒されるということです。

残念ながら、データは明瞭ですが、私たちがなぜこのような状況に至ったのかは、それほど明瞭ではありません。

次の内容が、3つの主要な要因についての私の見解を示しています——

第一に、現在の資本市場では小型株企業になることに利益はありません。Order Handling RulesやReg ATS、Decimalization、Reg NMSの全体的な効率目標は賛美に値しますが、この市場効率の影響は、小型株企業に偏っています。そのため、売買高や流通株数は減少します。スプレッドが縮小したので、小型株での取引が利益を生まないものになり、値付け業者の経済力は消滅したも同然です。売り手の調査は、従来は取引のスプレッドで資金調達をされていましたが、これも姿を消しました。さらに、Global Research SettlementとReg FDは、証券アナリストの役割の変化に貢献してきましたーー事業の経済性および、買い手に関するアナリストの役割の両方の面において。かつてこの領域を専門としていた投資銀行にとっての経済的課題は、このようにして増え、今見られる合併の誘因となりました。

結果として、小型株の流通市場は決して流動的ではありません——

  • 大型株企業には証券アナリストが12人いますが、これに対し、平均的な小型株企業には2人しかいません。小型株企業の少なくとも29%にはアナリストの報告はなく(大型株企業では1%)、
  • 小型株企業の浮動株総数としての1日平均売買高は、大型株企業よりも40%少ないのです。

したがって、当然のことながら、機関投資家が小型株企業の株主に占める割合は27%に過ぎず、これに対し、大型株企業の株式の81%は機関投資家のものです。

このようにして、小型株企業となる会社は、中型株企業や大型株企業になるまでは、上場するのを嫌がります。彼らは、非流動的な取引環境で行き詰まることを恐れており、公開市場で追加資本を調達することが困難になるか、あるいは、買収のために株式の流通を利用することが困難になっています。その両方が事業拡大にとって極めて重要であることは珍しくありません。

第二に、会社が流動的な取引環境を享受する大型株企業であったとしても、長期的成長目標と、公開市場における短期的投資家の増加傾向との兼ね合いを取ることが困難なことが挙げられます。上場企業になることの重圧が重すぎる場合(そして未公開市場での資本調達がすぐにできるなら)、企業はできる限り非上場のままでいることを単純に好みます。これらの企業は、最終的には上場します。しかし株式公開の時期は遅くなっており、そのため、公開市場の投資家へのリターンはひかえめなものに留まります。

  • 投資家の平均的な持ち株保有期間が1960年から2016年までに、8年間から8ヶ月間に減少しただけでなく、1990年代半ばまではほとんど存在しなかったアクティビスト・ファンドが、今や運用資産で1,000億ドルを優に超えています。こうした事実が、国内の公開株式数の50%の減少と合わさり、短期的圧力が会社に及ぼす可能性のある影響を、何倍にも増幅させています。
  • 私の考えでは、実際に上場した企業において、企業のデュアルクラス(トリプルクラスの例もあります)の議決権構造が同時多発的に増加するのを私たちが目の当たりにしてきた理由は、まさにこれです。ハイテク企業の事業が製品サイクルを特徴とすることを考えれば、短期主義は極めて難しい状況を生み出します——つまり、製品サイクルがますます短期化しているため、研究開発に継続的に投資する必要性および / または買収の必要性がかつてないほど切迫しています。これらの両方の活動がEPSを短期的には希薄にし、そのため、短期またはアクティビスト志向の投資家の怒りを買っています。私がここにいるのは、デュアルクラスの株式を擁護するためではなく、むしろその再燃が、長期の投資家よりも短期の投資家の動向に有利に働く市場構造の変化の直接的な結果であるという、私の見解を述べるためです。

第三に、上場企業であることの経費はかなりのものです。私はこの話題に関して明確にしたいと思います。なぜなら、とても微妙な問題であると思うからです。サーベンス・オクスリー法が上場企業に必要な経費を著しく上昇させ、その他の調整経費についても何年も強制してきたことは紛れもない事実ですーー例えば、給与規定や、紛争鉱物開示規則など、より自由度の高い代理権規則と関連した経費などです。しかし、これらの多くが投資家の保護と資本形成の促進というSECの2つの命題を反映しています。そして私は、その命題を固く信じています。

ですから、1つの目標をもう1つの目標よりも優先するべきであると主張しているのではありません。そうではなく、調整経費への万能の取り組みが必要だと提案したいのです。それは、そのような経費に見合う会社の財源についての検討や、暗黙の資金調達のトレードオフとは別の取り組みです。これらの資金は、もしそうでなければ、まず間違いなくそのまま会社の成長に当てられるか、あるいは、研究開発に投資される可能性のあるものです。そして、限界領域では、上場の決断はこのトレードオフを取り込んだものでなくてはいけません。この問題が最も深刻になるのは、小型株企業のIPO予備軍のプールにとってです。収益が拡大した時に、それらの経費を合理的に定期返済することが可能になるまで上場を延期する可能性がより高いからです。

学際的な研究は、完璧さを追求して、他の潜在的な理論にも目を向けます。小型株企業の IPOと、より一般的なIPOの両方の衰退を説明する理論です。

例えば——

  • 何年もの間に規模の経済が高まったために、小規模企業は、上場企業として危険を冒して大会社に挑むよりも、自社を大会社に売却するだろうと主張する人もいます。しかしながら、もしこれが主な原因なら、新会社のベンチャー・キャピタルの資金調達率の本質的な減速が、より一般的に見られるようになっているはずです。実際は、私たちが目にしてきたのはその反対の状況です。少なくとも私の事業においては、規模の経済が影響した結果として、新会社を始めて既存の大会社の支配に挑もうと決断する実例を私たちは目にしていません。
  • その他に、別の種類の規模の経済が機能していると示唆する人もいます——それは投資信託業界の規模の経済です。実際に、投資信託は規模を拡大してきており、1990年からの成長は70倍で、運用資産は16兆ドルに達しています。そして、ドルはさらに一流基金に集中しています。投資信託が大きくなることで、2つの理由により、大型株、つまり、流動性の高い銘柄に注力するよう動機付けられます——(1) 流動性の罠に怯えることなく、株式の売買ができる必要があります。また、(2) 彼らは(「多様性のある」投資信託を望むなら)法律により、会社の浮動株の10%を超えて保有してはいけません。ですから、私は、これらが本当の問題であると固く信じている一方で、これらの問題の元凶は流動性であり、また、少なくとも小型株企業のIPO問題への取り組み方に関しては、流動性が最終的なソリューションを指し示していると考えます。

これらすべての状況を踏まえ、改善するために、私たちに何ができるでしょうか。

様々な要因が影響している状況下では、改善への包括的な取り組みが必要とされていると私は信じています。さらに、前述の通り、改善の検討のすべてがSECの投資家保護を中心とする2つの命題と合致すべきだと信じています。

私は、この組織が、JOBS Actに関して積極的に成果を挙げたことについて、賞賛したいと思います。下調べや、秘匿扱いでの書類提出、拡大した規制条件が、公開市場への進入路を改善してきたことは間違いありません。

しかしながら、今こそ私たちは、次のような市場構造の問題を考えなければなりません。つまり、これらの企業が実際に進入路を出た後の「公開市場のハイウェイ」のあり方に影響を与える問題です。

特に、私は、委員会で次の点を検討することを提案します——

まず、私たちは、小型株市場における流動性を高め、それにより、より大きな組織的支援をその末端市場にもたらすために、すべての道を探る必要があります。その中でも、委員会が検討すべき事柄だと私が考えるのは ——

  1. 呼値刻み (tick-size) の試験運用の継続的な取り組み。私たちは、小型株式売買時の価格増加分を抑えることができれば、十分な流動性を手にし、資金の移動に関する機関投資家への税金を軽減することができるかもしれません。
  2. 機関投資家の基盤を支えるために、調査と値付けの活動の魅力を高める方法を考えましょう。その中には、これらの活動を経済的に支援する仕組みもあるかもしれません。それらの仕組みは、直接的な金銭的リベートの形式を取るかもしれないですし、査定過程を経由する資金調達の形式を取るかもしれません。それだけでなく、Global Research SettlementやReg FD、その他の統制規則の要素が、小型株企業関連のこれらの活動への銀行の資金調達に阻害要因を作り出していないことを確認する必要もあります。
  3. 少なくとも新規発行の小型株に関して、一時的に取引場所の数を少なくすることで断片化を抑え、流動性を改善することができないかを検討しましょう。
  4. 新規発行に関連して、場合によっては限られた期間において、私たちはここでも、多様性のある投資信託のために集中資本制限を押し上げることを検討すべきです。投資信託が新規発行株式でわずかに大きなポジションを維持することを可能にすれば、投資信託の経済的な報酬を増加することになります—— 銘柄の実質的な上昇は基金の業績全体にかなりの影響を与える可能性があります。
  5. 小型株市場に適用する際に空売の法則を吟味し、特に新規発行を中心にして、その法則に修正を施すかどうか—— 売買高の上限の引き上げ、または、開示条件など——を審査しましょう。

次に、委員会で新しい仕組みについて検討すべきだと私は信じています。その仕組みとは、短期投資家の重圧と、長期投資に注力したいという多くの上場企業の経営陣の願望との兼ね合いを図るものです。提案には次のものがあります——

  • 保有に基づく議決権。この仕組みでは、投資期間に応じて議決権を与えられます。すべての投資家は—— 単に経営陣だから、元のIPOの投資家だからではなく——自分の投資期間に応じて議決権の威力を高めることができます。短期トレーダーである投資家は、長期の株式保有を選択した投資家よりも、運営への影響力が小さくなります。完全開示を追及するため、私の会社は、長期的動向に報酬を与える他の取り組みに加えて、委員会とともに現在これを探求している新規設立会社のエクイティ投資家となっています。
  • すべての株式の本質的な売持に関して、機関投資家向けに開示要件が強化されたことにより、透明性が高まり、短期の重圧が軽減しているかどうかを委員会は検討すべきです。

第三に、委員会は、現行のすべての統制条件の経費の包括的な審査を行い、経費が様々な規模の発行者に及ぶ経済的影響を判断し、より厳格な費用便益の枠組を設定するべきです。この枠組みの下では、限界トレードオフの新規発行者と既存の上場企業が、会社の成長への投資と統制条件に適っている資金との兼ね合いをうまく取ることが必要になります。繰り返しになりますが、私の発言のいずれも、厄介な要素から資本市場の安全な機能を保護するという中核的な信条を軽視すべきであるということを示唆するものではありません。むしろ、私たちには、洗練された枠組みが必要なのです。つまり、IBMに適用されているのと同じ名目上の統制費用を、時価総額10億ドル以下の会社に適用すると不釣り合いになるという認識に立脚した枠組みです。

まとめとして、私は委員会に以下の見解を提示します——

  • IPOの全体的な減少と多様なIPOの変化という二重の現象に関するデーターー小規模から大規模まで——は現実的で否定しがたいものです。世界的な金融市場における私たちの競争力と、雇用拡大、経済成長、経済的平等の拡大を実現する国家としての私たちの能力は、このトレンドの結果として、危機に瀕しています。
  • 非公開市場は、資本市場の様々な構造上の課題に鑑みて、自ら問題の解決にあたっています——企業は非上場期間を長びかせ、資本を公開市場の外で調達し、非公開取引によって流動性を求めています。その結果、株価上昇の恩恵はすべて、これらの非公開企業が享受しています。
  • ですから、行動を起こすのは今です。アメリカの資本市場の構造が包括的に変化するためには、このトレンドを覆さなければいけません。

お時間をいただき、ありがとうございます。私はいくつかの提案を試みましたが、決してこれらがすべてではありません。この領域での取り組みを継続するという委員会の決定に際し、お役に立つことができて嬉しく思います。皆さんのご意見をお待ちしております。

 

著者紹介

Scott Kupor

 

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: On Capital Formation, Smaller Companies, and IPOs (2019)

FoundX Review はスタートアップに関する情報やノウハウを届けるメディアです

運営元