IPO が教えてくれること(と教えてくれないこと)

株式市場のことで頭がいっぱいな人は、会社ロゴが誇らしげに表示された間に合わせの発表台の後ろに関係者の一団が立ち並び、鐘の鳴り響く音に歓声を上げる場面を見るために、テレビをつけることがあります(自分の退職基金で頭がいっぱいなだけの人についても同様です)。これは非公開企業が上場し、証券取引市場で取引を開始する際のオープニングセレモニーの典型的な光景です。そこで株価の載ったティッカーテープを見つめながら、1日中ニュース報道に釘付けとなる人もいるでしょう。

もちろん、 Beyond Meat や Zoom Video Communications の売出しがそうであったように、そのような初日の株価は、IPO価格と大きく異なることもあります。しかしその初日は、会社の業績の見通しを得る上での合理的な判断材料や、信頼性のある判断材料になりうるのでしょうか?

ベンチャーキャピタリストの視点から見ると、IPOは会社の道のりの中で重要なマイルストーンとなります。しかしそれは、持続的に成功するビジネスを構築する長い旅路において始点や終点ではなく、あくまで途中であり、いわば計測所でもあります。

ではIPO価格や、株価の上下を騒ぎ立てる見出しをどう判断するのが良いでしょうか?ひとつ小さな秘密をお教えしましょう。IPOの価格設定は、サイエンスというよりはアートなのです。

このことは、関連する数字や財務分析を重視する風潮からすれば、直感に反するかもしれません。しかし、IPOの値付けは引受会社(通常は投資銀行)、株を売り出す会社、そして機関投資家の間でのそれぞれの関心事のトレードオフであるというのが現実です。市場から期待される、株価が初日に跳ね上がる「ポップ」(急騰)ですら、ある意味で値付けプロセスに織り込み済みのものなのです。

実際、私たちは最近植物由来タンパク質メーカーの Beyond Meatで最大のポップ(1990年代後期のドットコムバブル以来)を見たばかりです。その際、IPOは$25で設定されていましたが、初日は$65.75で取引を終えました。

これはどのようにして起こったのでしょうか?そしてこれらすべては何を意味するのでしょうか?まず、IPOの舞台裏で、実際何が起こっているのか説明しましょう。

正式な上場のプロセスはS-1として知られる登録書類を提出することから始まります(S-1とはSECの用紙の名称です)。実のところ、S-1は、リスク要素を含め、株式購入の判断に必要なすべての情報を見込み投資家に対して提供することを意図したディスクロージャー(開示)資料なのです。

これはまたマーケティング資料としての役割も果たし、会社と、市場での会社の役割を規定するものでもあります。なぜなら会社は待機期間中は公開プロモーションを行うことを避けなければならず、会社を代表して言って良いことと悪いことの厳しいルールに従わなければならないからです。しかしこの期間中、閉じられた扉の向こうで、会社は見込み投資家に対して会社のストーリーや財務情報に関して事前にプレゼンテーションを行なっています。

Beyond Meat が上場する前、同社は売り出す株式の総数を865万株から963万株に増やし、価格帯を1株あたり$19〜21から$23〜25へと上げました。これらの動きは両方とも、需要が非常に大きいことを示すしるしです。これらのしるしをIPO後の取引状況の予測に使うことは避けるべきですが、価格設定に関する既存機関投資家の心理を示すものとしては、興味深いものです。

期待される、株価が初日に跳ね上がる「ポップ」ですら、ある意味で、値付けプロセスに織り込み済みのものです。

発注書を片手に、引受会社(銀行)は株式を機関投資家に割り当てます。その過程の一部として、引受会社、そして会社は、これまでの経験から株を早く売りすぎることが想定される投資家へのIPOの割当を、最小限に抑えたがります。これはいつもうまくいくわけではないですが、それでも問題ありません。いくらか売りが出ることで「市場」が形成されるからです。

また、引受会社と会社それぞれにとってのモチベーションはいくらか非対称的です。両者とも公開初日や来たる日々にも盛んに取引されるよう、価格を低く設定したがります。しかし銀行は、機関投資家とも定期的に取引するため、機関投資家の不利益となるほどIPO価格を過剰に高く設定したがらないのです。他方、上場する会社にとっては、低い株価は入ってくるお金が減ることを意味します。そしてそもそも株式公開の理由は、会社を大きくするための資金(つまり、オペレーションの拡大や買収、新製品ラインへの投資等のための資金)を調達するためです。

しかしここで、ポップとティッカーテープに目が釘付けになる話に戻りましょう。IPO価格が初期でこれほど大きな幅を見せる理由は、実際に売り出される会社の株式の割合(「フロート」)の小ささによります。

帳簿の公開および四半期毎の歳入報告を要求されるという理由だけで、IPOは会社全体の株式が公開されるのだと思い込む人は多いですが、実際に売り出されるのは通常会社の10〜15%に過ぎません。限られた供給は短期間で桁外れのインパクトを与えることがあります。需要が大きいときは特にそうです。

しかし一般的には、限られた株式数を売り出す主な目的は、市場の消化能力以上の株式数で市場が供給過多にならないようにするためです。Zoom Video の場合、Beyond Meat と同様、発行株数はわずかでしたが、それを所有したい投資家が多くいました。ビデオ会議ソリューションメーカーである同社は2090万株に対し、1株$36の値を付けました。公開初日には$65で取引を開始し、一時$66もの値を付け、初日の終値は$62でした。現在では$79くらいで取引されています。

さて、「ポップ」以後のIPOの成功をどうやって測ればよいでしょうか?Beyond Meat は現在$100以上で取引されています。これは同社が得るべき金を取りはぐれたことを意味するのでしょうか?計算してみれば、同社がIPOで2.4億ドル程度を調達したことがわかります。初値($46)の値付けをしていたら、その2倍くらいの額を調達できたかもしれないし、終値での値付けだったら、もっと多かったかもしれません。しかしそうは言っても、その株価では人はそれほど投資しなかったかもしれません。

最後に、従業員やベンチャーキャピタリストのような、IPO以前の株式を所有する人々にとっては、これらのほとんどはともすれば机上の空論のように聞こえるかもしれません。なぜでしょうか?その理由は、会社の既存株主は通常、IPOから6ヶ月間「ロックアップ」されるからです。つまりその期間が過ぎるまで、株を売却できません。もちろん、最初の6ヶ月間に良好に取引される株は、IPO以前の株主が売却を始めても追加供給に耐える力があるため、その意味ではまったく現実からかけ離れた議論であるとも言えないのですが。

これらのいずれも投資アドバイスではないことは、明確にしておきます(また私の会社 Andreessen Horowitz は、ここで挙げた会社へ投資していません)。しかしこれらの最近のIPOは、株価だけで会社の成功を判断することの難しさを示しています。

私たちの視点は、長期のイノベーションと会社の構築です。IPOの舞台裏のプロセスを理解することで、私たち全員が、IPOや日々の株価のような「スコアカード」の短期的視点を超えて、キャッシュフローから製品、経済的成長やイノベーションに至る会社の健全性といった、より長期的視点へと移行できるようになることを願っています。上場する企業は非公開企業よりも採用を増やすことができるというだけではありません。IPOは一般市民に対しても、直接的に、または投資信託や年金プランを通じて、公的市場での資産形成の可能性に参加する機会を与えることができます。

有名なバリュー投資家のベンジャミン・グレアムが言ったように、「短期的に見れば市場は投票機械だが、長期的には計測機械である」ということです。

 

著者紹介

Scott Kupor

 

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: Beyond the Opening Bell: What Do (and Don’t) IPOs Tell Us about Companies? (2019)

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