長期保有株主を優遇する議決権行使制度と、コーポレートガバナンスにおいて何がフェアなのかについての再考

民主的な政府であろうと企業であろうと、どんな組織においても最も困難な問題の1つが、短期的な利益と長期的な目標との間のバランスをとる方法を考え出すことです。一部の企業(特に創業者が率いる製品中心のハイテク企業)にとって、ソリューションの1つは、2つのクラスからなる株式構造(デュアルクラス)を用意する、あるいは、階層化した株式構造を創出することでした。これにより、創業者とその他の内部の人間が、他の株主よりも高い比率の議決権を手にしています。現在、国内の市場資本総額の11%が2つのクラスの株で構成されており、そこには過去2年間で上場した多くのハイテク株も含まれています。

理論的には、高比率の議決権付き株式によって、株主は会社に関する長期的な理念に対する執行権を守りつつ、市場や活発な投資家などからの短期的な圧迫を矮小化ないし無視することができます。しかしながら、実際にはそのような株は効率が悪く不正確なツールであり、こと企業の投資と統治に関して、その存在は持てる者と持たざる者の間に恣意的な境界を作っています。創業者や現行の経営陣、ベンチャー資本家が会社の新規株式公募の時点で高比率の議決権の付いた株を受け取ることがよくあります。これはつまり、公平であろうとなかろうと、IPO後の株式購入者のコーポレートガバナンスに関する発言権が弱められるということを意味します。

しかし、経営陣の利益と株主の利益を一致させ、(内部の人間ではない)株主のクラス全体の権利を奪うことなく、長期的な決定権を促進することができる、より確実な方法があったとしたらどうでしょうか。ここで保有に基づく議決権の登場です。どのような投資家でも(創業者、組織、個人のいずれであっても)、株を長期に保有するほど議決権の力を増すことができます。

保有に基づく議決権によって、すべての株主は、コーポレートガバナンスにおける発言権を大きくする機会を平等に手にすることができます。すべての長期投資家は(企業と株主との間で「長期」の定義に関する同意を得た上で)、戦略と経営の決定においてより重要な位置を占める権利を手にします。一方、短期投資家はその戦略に賛成できないのならば、自分の株を売却することによって単純に行動で意志表示するでしょう。保有に基づく議決権を採用するにあたり、会社と株主は、より高比率の議決権付き株式に対応する保有期間を決める必要があるでしょう。 例えば、最初はすべての株について、取得時点で1株あたり1議決権を付けることができます。その後、例えば、2年間の保有で1株あたりの議決権を1.5倍にして、さらに、保有期間が追加されるごとに1株あたりの議決権の割合を高くすることができます。投資家が自分の株を売却する場合、新たな株主については1議決権 / 株から始まり、新たな保有期間が始まります。株主が念頭に置いているあらゆる目標を達成するために、規則を工夫することができます。その際、おそらく最初の計画(また、それ対するあらゆる実質的な修正)の承認には、株主の大部分の合意が必要になるでしょう。

究極的には、保有に基づく議決権によって、すべての人の利益が一致します。市場で株を売却する経営陣は、時間の経過とともに影響力を失い、より長期に株を保有している機関投資家はさらに強力な議決権を持つことになります。このやり方は、一部の投資家が反対している2階級構造よりもはるかに民主的です。

保有に基づく議決権は新しいアイデアではありません。1980年代に敵対的買収活動が高まる中で、企業は望まぬ進展を阻止するため、全く異なる議決権の機構(2階級構造や保有に基づく議決権など)を検討しはじめました。 しかし証券取引委員会は、その区分にかかわらず株主から権利を奪うような試みを懸念し、1988年に19 c-4法を制定することによって、どちらの機構も法律で禁じようとしました。19 c-4法は証券取引所に対し、どのようなものであっても、既存の株主の議決権を減じる動きをした企業の上場や株取引を禁止しました。

2年後に裁判所がこれを撤回しましたが、証券取引委員会は証券取引所に対して、不均衡な議決権の基準を禁止するため、上場基準を修正するように働きかけました。興味深いことに、2階級構造は、IPO以前に採用された場合に限り、取引所の規定を生き延びましたが、これに対して「時間で区切った議決権計画」は、規定によって名指しで禁止されました。多くの人がこれを、保有に基づく議決権に対する禁止であると解釈してきました。

これらすべての動きが、全体として、保有に基づく議決権を上場市場から外してきました。しかし、物語は終わっていません。証券取引委員会は、最近になって、新しい上場株取引所である長期証券取引所(LTSE)の申請を承認しました。これは、本部をカリフォルニア州置く唯一の長期証券取引所であり、同州は、多くの技術革新と経済成長を生み出しています。 [私たちはLTSEに投資しています。] 他にも特徴はありますが、その中でもLTSEの上場規定は特徴的です。すべての株主が、保有に基づく議決権を持つことができます。したがって、この取り組みの有用性が市場において試されるのを、私たちは目の当たりにしようとしています。

それぞれの株主の株式保有期間を正確に追跡するシステムが存在しているのかどうかなど、保有に基づく議決権についての疑問は依然としてたくさんあります。しかしこれは、保有に基づく議決権が機能するのか否か、また、どのように機能するのかを考えるために私たちが必要としている実験です。統治モデルや実験の種類が豊富であるほど、合衆国の資本市場の長期的なリーダーシップ、統合、活気を守る能力も向上するでしょう。

 

著者紹介

Scott Kupor

Scott Kupor は Andreessen Horowitz のマネージング・パートナーで、当事務所の運営全般を担当しています。2009年の設立以来、Andreessen Horowitz に勤務し、3名の従業員から150名以上の従業員へ、また3億ドルの運用資産から100億ドル以上へと急成長を遂げてきました。

 

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: Tenure Voting and Rethinking What’s Fair in Corporate Governance (2019)

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