中国はグループチャット上でどのように価値を生んでいるか (a16z)

今年の4月のある晴れた日の午後に、何かすることはないかと探しながら、Gallenという愛称のひとりの十代の中国人の若者がバリをバックパッカーとして旅していました。 しかし、彼は、TripAdvisorのクラウドソーシングでの(時間のかかりすぎる)提案に頼ったり、(あまりに不正確な)地元のジオタグを求めてInstagramをスクロールしたりすることはありませんでした。彼はその代わりに、オンライン旅行提供会社のCtripによって組織されたWeChatグループを通して、近くにいる他の旅行者におすすめの情報を求めました。

この中国企業の仮想旅行管理プログラム(VTM)は、リアルタイムの接客サービスを提供するために、WeChatのグループチャットを活用しています。このグループの参加者は、時を同じくして旅行者の目的地の街にいるCtripの他の旅行者で、Ctripの販売代理人が監視しています。グループチャットによって、結局Gallenは地元の中国語の話せるドライバー付きの車を借り、連れのいない他の旅行者と一緒にバリの南海岸のPandawa Beachでその日を過ごすことになりました。

2015年初頭、「対話型コマース」がオンライン・ショッピングの未来だとして歓迎されました。当時を振り返ると、この言葉は、一般的には自動購入ボットや音声アシスタントなどに対して使われました。しかし、その後のプライベート・メッセージの高まりが示唆しているのは、グループチャットが実際に対話を商業活動に変える秘訣になり得るということです。旅行提供会社やジム、EdTechのスタートアップ、育児グループなど、中国の企業は、分野を問わず、その全てがプライベートなグループチャットを強化し、信頼、双方向性、共同社会を構築してブランド体験に持ち込んでいます。

まとまりなく拡大するソーシャルネットワークから小さな、よりニッチなグループへと回帰している転換現象は、合衆国でも益々明らかになってきています。マーク・ザッカーバーグでさえ、この春、ブログの投稿でこの傾向に言及し、認めました。「私たちは既に、プライベート・メッセージ、一日限りの物語、小さな集団が、オンラインの意思伝達の中では最速の成長領域であることを目の当たりにしている」と彼は述べています。しかし、西洋でのグループチャットが友人同士で構成されていることが最も多いのに対し、中国では企業がグループチャットを利用して、顧客関係を深めることやソーシャルコマースを促進している例が多数あります。

信頼を取引に変える

ブランドは、ユーザーの信頼がネットワークを取引のプラットフォームに変える重要な指標であることに気づきました。(AppleとAmazonがこれまで、すばやく成長して新しい収入源を得てきた1つの大きな理由です。)西洋では、企業は、セキュリティ感を強化するため、エンドツーエンドの暗号化や実名の方針などの戦略をとってきました。アジアでは、メッセージのプラットフォームは、信頼の構築のために別の種類の策略を用いています。

WeChatでは、例えば、グループチャットは口コミかQRコードでしか見つけることができません——世界的な検索の選択肢はありません。QRコードは、グループのメンバーが100人に達した時点で自動的に無効化します。 グループの規模が一旦そこまでに拡大すると、ユーザーは友人の招待のみでしか参加できません。グループは上限が500です。つまり、大規模なグループチャットでさえ社会的フィルターがあるということです。グループに参加している誰もが、少なくともグループ内のひとりと友人のような関係にあるからです。結果として、どのグループも、グループ内の他のメンバーにのみ知られている秘密であるかのような感覚になります。

安全という感覚を培うのが鍵となります。グループにユーザーの携帯電話番号を公開するWhatsAppやSignal——あるいは、現在では廃止されていますが、ユーザーの本当の身元を公開するFacebook内のチャット——とは違い、WeChatは、通称名を使用することを許可しています。ユーザーが自分の身元をどのように表示させるかを制御することができるため、そのような匿名のユーザーネームはプライバシーを守る盾の役割を果たします。(他のユーザーには見えませんが、WeChatの登録時には、電話番号と実名の確認が必要です。これにより、匿名の荒らしを抑制します。)

もう1つの信頼確立の方針は、メッセージの切断です。WeChatやWhatsAppのグループチャットの新規参加者は、それより前のメッセージを閲覧することはできません。これは既存のグループメンバーにとっては、ある種のプライバシーを提供します。

ブランドがユーザー間にひとたび信頼を築いたなら、このようなソーシャルネットワークを強化して、様々な領域で新たな収入源へと結びつけることができます。

接客サービス

顧客サービス・チャット・ポータルは既に現代のECサイトで人気があり、第三者のソフトウェアで簡単に実装できます。しかし、メッセンジャー・アプリのグループチャットは従来の顧客サービスをクラウドソーシングの接客サービスに変えました。Ctripの仮想旅行管理者はほんの一例に過ぎず、2017年に1,000万の旅行、2018年には1,400万の旅行に利用されました。

VTMのグループチャットにおける一般的な接客への要求には、空港送迎、ドライバー、ツアー、スパ、レストランの予約があります。グループチャットの力学によって、Ctripは、より高額なサービスを売り、関連情報を共有することができます。その状況は、商業活動というよりは共同社会の感覚の方が強く感じられるものです。加えて、中国人旅行者は、二か国語サービスの販売代理人を利用する安心できる特典を手にしています。2018年のラスベガス銃撃事件の時、CtripはVTMを使ってラスベガスを観光している顧客の居場所をすばやく突き止め、翌日の帰国便を提供しました。

f:id:foundx_caster:20191031031255p:plain

旅行者が、どの電気プラグを使うのかをCtripの販売代理人に尋ねています。

 

f:id:foundx_caster:20191031031322p:plain

別の顧客が、地元のタクシーの選び方をCtripの販売代理人に尋ねています。代理人は、写真付きで返信し、認可されたタクシーと無認可のタクシーとを見分ける方法をグループに教えています。

 

f:id:foundx_caster:20191031031458p:plain

旅行者の電話を盗まれたとの報告に、Ctripの販売代理人が応対し、地元警察に連絡する方法を指導しています。 

授業

学校での授業やそれ以外の授業でも、学生の活動や仲間同士の動機付けのためにプライベートなグループチャットを利用できます。AI主体の英語学習アプリであるLingochampはレッスンの補完としてWeChatのグループチャットを利用しています。学生は、コースの購入時に、教官と約100人の仲間の学生たちのいるWeChatのグループに招待されて参加します。教官は、新たな活動を毎日割り当てます。模擬面接の実施や歌詞の研究、Word Snake(下記の画像)などの教育ゲームをするなどです。このようなグループは、そうでなければマンツーマンの個別指導アプリになっていたものに社会的要素を与えるだけでなく、コースの範疇を超えて学生同士の結びつきを促進しています。

f:id:foundx_caster:20191031031704p:plain

Lingochampの販売代理人が、Word Snakeというゲームを英語を学ぶ中国人学生の間に紹介しています。

 

同様にして、テクノロジー主体のジムのネットワークで、6,000万ドル以上のベンチャー資本を調達してきたSupermonkeyは、グループチャットを活用して、ジムに通う人同士のオフラインでの人間関係を構築しています。ユーザーがSupermonkeyのトレーニングクラスに登録する時、彼 / 彼女はインストラクターのWeChat連絡カードを受け取り、クラスのチャットグループに追加されます。そこでは、Supermonkeyのインストラクターが、ソーシャルメディアに乗せられるようなクラス写真や栄養管理のヒント、再生リストなどを共有します。また学生は、踊りに行く計画を立てたり、次のクラスの席を転売したり、チャットをしたりと、相互にやりとりを行います。 Supermonkeyは、月会費や年会費が不要なため、顧客確保に関しては、このような「オンライン・クラスルーム」のグループに依存しています。

f:id:foundx_caster:20191031031802p:plain

ジムに通う人は、Supermonkeyのグループチャットで写真を投稿したり、クラスのパスを再販したり、メッセージを送ったりします。

 

授業を基盤とするプライベートなグループチャットはまた、合衆国の事業の間で広まっています。Lambda Schoolは前払いの費用なしでオンラインの技術訓練を提供しているサンフランシスコのスタートアップで、Slackを利用しています。Lambdaの学生は、アプリを使って、プロジェクトに一緒に取り組み、仲間の学生や管理者に質問をすることができます。他のLambda SchoolのSlackチャンネルはコーディングのレッスンを超えた長期的価値を加えるよう意図されています。学生がオフラインの関係を構築するのを手助けする州規模のグループがあります。#career_helpは職業の助言を受けるためのものです。#hiredと呼ばれる、お互いの動機を高めるためのグループでは、学生が自撮り写真や内定書を投稿します。共同創業者のAusten Allredが、Lambda SchoolがSlackチャンネルを何に使っているのかと質問された時に、「文字通り、すべてのために」と答えたことは偶然ではありません。

相談と商業活動

買い物客を説得して実店舗での購入の決定をしてもらうには、販売担当者が非常に効果的です。同様の体験をプライベートなグループチャットを経由して家庭に持ち込む方法を探っている企業もあります。Kidswantは、ベンチャー資本で5,500万ドル以上を調達しており、母子に重きを置いた電子商取引会社の小売店で、中国に250以上の実店舗を開いてきました。この会社は、6,000人以上の保育コンサルタントを雇用しており、その多くが元看護師か、専門の元保育士です。これらのコンサルタントは、自分の時間を店舗での仕事の時間とプライベートなグループチャットでオンラインで質問に答える時間とに分割していることがよくあります。店舗のコンサルタントは、買い物客をKidswantのグループチャットに追加することができ、親はプライベート・レッスンの予約をしたり、授乳から小児マッサージまで、幅広い話題の質問をすることができます。このアプリは、近くの店舗のWeChatのグループを勧めるため、オンラインの買い物客は、近くの他の親たちとつながりをもつことができます。コンサルタントはまた、チャットグループ内で販売促進リンクや製品評価を共有することができます。

f:id:foundx_caster:20191031032010p:plain

Kidswantのコンサルタントが、グループチャットの中で、乳幼児への固形食導入に関する助言をしています。

 

同様に、Ctripの従業員が、VTMのチャットグループで、空港送迎や中国語話者ドライバー、ボートレンタル、日帰り旅行の手配などの購入を促進しています。

f:id:foundx_caster:20191031032047p:plain

中国におけるこの形態のチャット関連の商業活動の典型的な存在はPinduoduoかもしれません。これは、一緒に取引をするユーザーの人数が多いほど商品単価が安くなる集団購入事業です。2015年に設立されて現在では上場企業になっており、1月あたりの活動的なユーザーは3億6,600万人です。Pinduoduoの劇的な成長は、WeChatのグループチャットを強化したことによるものです。低価格を確保するため、ネットの人々が友人や見知らぬ人と買い物グループを作り、取引を共有しました。中国の電子商取引におけるPinduoduoの急速な成長は、特にグループチャットの共有が購入体験の一部となる場合における、バイラルループの利点を証明しています。

「対話型コマース」の次の局面

これまでのところ、チャット・ボットからスマートスピーカーによる買い物まで、対話型コマースの既存のモデルのほとんどは、合衆国では大きな期待に答えることに失敗しています。しかし、その理由は、私たちが依然として次世代のテクノロジーを手にしていないからではなく、私たちが商業活動を個人の経験として、あまりにも狭義に捉えているからです。事業で設定されたグループチャットは、必ずしも取引のような感覚である必要はありません。ユーザーにとって、そのようなチャットは、マンツーマンの販売の売り込みというよりはむしろ、趣味のグループのように感じられるものです。それらのグループは、共同社会やクラウドソーシングによる知識を有機的な方法で提供すると同時に、その背後にあるブランドが信用を築き、製品を販売する手助けをすることができます。

※追加取材はAvery Segalによるものです。

 

著者紹介

Connie Chan

 

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: How China is Cashing in on Group Chats (2019)

FoundX Review はスタートアップに関する情報やノウハウを届けるメディアです

運営元