初期のスタートアップを乗っ取る「招かれざるユーザー」 (Michael Seibel)

始まったばかりのスタートアップの多くは、ユーザーを1人でも多く獲得しようとします。これらのスタートアップは課題をしっかりと設定しており、そのような課題を抱えるユーザーをできる限り集めたいと考えます。しかし残念ながら、ドアを大きく開いていると、あらゆる課題を抱えたあらゆる人々がやってきます。そのうち何人かは、あなたが解決しようとしなかった課題を解決するために貴社の製品を乗っ取ろうとします。こうした乗っ取り屋はおおむね、招かれざるユーザーです。

例えば、私がベビーシッター向けUberを始めるとしましょう。ターゲット顧客は4~12歳の子供を持つ親です。これらの子供には特別なトレーニングを受けていない専属ベビーシッターが使えます。したがって、手頃なプライスポイントで多様なユーザーにサービスを提供することが可能です。さて、もし乳児を抱えた親や発達障害のある10代の子の親が申し込んできたらどうなるでしょう? 彼らのニーズからは、まったく新しい課題の数々がもたらされます。スタートアップが解決できる課題かもしれませんが、私たちの会社でなくてもいいかもしれません。覚えておいてください。1人の顧客が貴社の提供していないサービスを必要としたからといって、自分のビジネスをピボットさせる必要はありません。

彼らの課題も解決してあげてもよいのでは?

そうすべきときもあります。乗っ取りユーザーの存在により、さらに重大なニーズや大きな課題があることが実際に示されることもあります。しかしそれ以外の場合、少数のユーザーのため、あるいは最悪その特定の人々のためだけの問題を解決するよう導かれてしまいます。これではコンサルティングビジネスです。貴社がテック系のスタートアップなら、一度限りの課題を解決するようなビジネスをやるのは望ましくありません。

ではどうするか? 正解はありませんが、その新たな問題に飛び込む前に、共同創業者と以下の点について話し合ってみてください。自社で解決しようとしている課題の変更を検討すべきか? このユーザーの後ろに、さらに大きな集団はいるか? もしこのユーザーや類似ユーザーに対応したら、事業の収益構造は変わったり壊れたりするか? このユーザーに、自社ビジネスを成長させる優れた機会を見いだせるか?

Justin.tvの場合、ビデオゲーマーに対応するようピボットしたことは正解でした。ビデオゲームを配信するユーザーには、小さいながらも常に一定の需要がありました。私たちが彼らの重要性に気づくまでに4〜5年かかりました。彼らにサービスを提供しても、ビジネスのコストは大きく変わりませんでした。私たちのビジネスの大きなコストは人件費と通信回線であり、人が閲覧したりチャットしている限り、どんな映像が配信されようと関係なかったのです。また、とても興味深いマネタイズルートも開かれました。オンラインビデオの広告主は、一般的なUGCコンテンツよりもゲームプレイの中で広告を流すことを好んだのです。

ノーと言う

「この顧客へのサービス提供はやめておこう」と決断したとしても問題ありません! 良い顧客サービスとは、見込み客一人一人に対応しなくてはならないということではありません。サービスを提供できない相手に対しても常に親切に対応すべきです。しかし、他の問題の解決に注力しているのだと伝えることに後ろめたさを感じる必要はありません。彼らはなんとかなります。あなたもターゲット顧客に優れたサービスを提供できる可能性が上がるでしょう。また、特定の課題に集中することでプロダクトマーケットフィットを見つけやすくなります。

創業初期の企業は、1つの課題の解決能力を磨き上げることで、少数の人をとても幸せにすることに賭けています。近寄ってきたユーザーに貴社の製品ロードマップの舵取りを許したら、たくさんの課題を中途半端にしか解決できない悲惨な状況に陥るでしょう。
 

 著者紹介

Michael Seibel

Michael Seiebl は YC の CEO です。彼は Justin.tv と Socialcam の共同創業者であり、CEO でした。Socialcam は Autodesk に 2012 年に売却され、Emmett Shear の下で Justin.tv は Twitch.tv となり、Amazon に 2014 年に売却されました。スタートアップに関わる前、彼は US の上院議員選挙で財務ディレクターを1年勤め、2005 年に Yale University を Political Science の分野で BA を取って卒業しました。

 

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文:  Users You Don’t Want (2016)

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