住宅市場がアメリカンドリームを殺している (a16z)

自動車やiPhoneのことは忘れましょう。経済学者のEd Glaeserによれば、私たちの最も偉大な発明は都市です。人は都市に引っ越すと、アイデアを交換し、交通手段や生産コストを抑え、新たなブレイクスルーを作ります。

現在、住宅市場がその好循環の足を引っ張っています。私たちは、単純な事実として、最も生産性の高い地域に家を建てていません。かつてのアメリカン・ドリームは機会をつかもうとすることでしたが、今では、手頃な場所に引っ越すことです。

不動産は、消費者にとっては巨額の費用を伴う巨大で効率の悪い市場です。しかし、希望がないわけではありません。新たなテクノロジーによって、住宅は身近で手が届きやすく、手に入れやすいものになりました。(遠隔地に本社を建設するからではありません。)

歴史的に、人は生産性の低い地域から高い地域へと引っ越しました。それによって、全体的に収入の不平等の釣り合いがとれました。(1880年から1980年までは、一人当たりの収入は、豊かな州よりも貧しい州で大きく上昇しました。)今や、米国史上初めて、正反対のことが起きています——人は生産性の高い地域から低い地域へと引っ越しています。その大きな理由は、生活費の節約です。まさに経済コラムニストのRyan Aventが「不況への移動」と名付けたものです。

これは何を意味するのでしょうか。都会で生活をする人なら誰でも、既に本能的に知っていることです——収入格差が広がっているため、住宅は、多くの人にとって途方もなく高額なものになってきています。これは単に不満を抱える2000年代の借家人の問題ではありません。人々がかつてのように、生産性の高いに引っ越せば、年間GDPは50%上昇するかもしれません(9兆5,000億ドルの上昇になります)。

この問題は、区画割りとNIMBY(not-in-my-back-yard: 必要性は認めるが、自分たちの居住地域には立てないでほしい)主義の両方によって増幅されます。これらの要因を過小評価すべきではありません。しかし、大まかに言えば、住宅市場には2つの主要な弱点があり、ハイテクが役割を果たすのはそこです。一つ目は取引効率です。簡単に言えば、住宅の売却に伴う処理は費用がかさみ、緩慢で、面倒です。二つ目は建設の生産性です。住宅建設のための人件費は実際のところ、1960年代よりも高くなっています。

取引の効率化

テキサス州のように、活発に住宅を建設している市場では、購入と売却にかかる時間と資金はハイテクスタートアップによって減少しています。例えば、OpenDoorが消費者から住宅を購入する時は、3日以内に仲介なしで購入します。同社が消費者に請求する金額は、不動産仲介業者が何ヶ月もかかる手続きに課金するのとほぼ同程度です。同社は独自の事業モデルを用いています。住宅の査定をし、売り手に全額現金での提案をして、その住宅の利幅を上げてリストに挙げ直し、販売価格の6%から10%の手数料を確保します。

不動産プラットフォームのZillowは、一部の市場で今や住宅の販売価格に2%の払い戻しを設定しています。これは、最終的に不動産仲介業者ではなく、消費者の手元により多くの資金が残ることを意味しています。一方、住宅の所有権を共有するスタートアップ、Divvyは、数年後に購入する選択肢付きで消費者に住宅を賃貸します。この事業は、こうしなければ融資を受ける資格がないかもしれない潜在的な住宅所有者の新たなコーホートを支援します。このような企業は、より多くの人々のために、住宅を所有する方法をひねり出しています。

FlyhomesやRibbonなど、他のスタートアップは、住宅所有者が住宅を売却すると同時に新たに購入する場合の、ストレスの多い手続きを合理化する手助けをしています。売却に関しては現金払いを保証し、購入に関しては手続き完了日に柔軟性を持たせるというものです。(控えめに言っても、住宅ローン融資に間違いが起こりやすいという事実を踏まえれば、そのタイミングを完璧にするというのは難題だと言えます。)これらの企業が流動性を高め、取引のコストを抑えているので、人々はより自由に自分の好きな場所に住むことができます。

一方で、深刻な住宅不足を抱える生産性大国のカリフォルニア州のような市場では、取引効率がよいことで、価格高騰という、いくぶん予想に反する結果になっています。なぜでしょうか。取引コストが下がる場合、購入者は住宅購入のための資金をより多く手にすることになります。悪い知らせは、他の皆にとっても同じことが起きるということです。限られた住宅に対して多くの人が購入しようとすると、価格が上がるのです。

供給が限られているこのような市場で、取引効率を良くしても何もよいことがないならば、他にどのような選択肢があるのでしょうか?そこで、建設業の生産性がきわめて重要になります。

建設業の生産性の強化

カリフォルニア州の規制が一夜にして消滅したとしても、手の届く価格の住宅は驚くほどわずかしか建築されません。なぜなら、それほど労働力が不足しているからです。カリフォルニア州では現在、96,480名の労働者が年間約10万戸の住宅を建てています。マッキンゼーの報告によれば、需要を満たすには、同州は年間70万戸近くの住宅を新たに増やす必要があります。その請負にはさらに50万人の労働者が必要で、単純な事実として、そんな数の労働者はいません。

このように、カリフォルニア州をはじめとする様々な地域の不動産危機を解消するには、私たちは建設業の生産性を強化する必要があります。これを実行する一つの方法として、テクノロジーへの投資があります。低コストで住宅を供給するようなテクノロジーです。私たちは特に2つの領域で有望な進歩を目にしてきました——モジュラー住宅と俗に言うタイニーハウスです。

現在では、非常に多くの住宅が現場でそれぞれの仕様で建てられます。最近再び流行ってきているモジュラー住宅という古いアイデアは、あらかじめ工場で組み立てられたユニットを現場で完成させるというものです。結果として、平均で半分の時間と20%のコストダウンで住宅を建てることができます。Vallejoを基盤とするスタートアップ、FactoryOSは、ビルディング・インフォーメーション・モデリング (BIM)のソフトウェアを使って、住宅設計を最適化し、資材廃棄量を減らしています。FactoryOSは、電子化された設計と自動化建築によって、住宅建設のエンド・トゥ・エンドの手続きの合理化を目指しています。同社は先ごろ、ウェスト・オークランドに110ユニットのアパートをわずか10日間で、また、コストを30%減で完成させました。

FactoryOSの現場以外での取り組みの新しい代替案は、建設現場で活かされているテクノロジーです。オースティンを拠点とするスタートアップのIconは、ソフトウェアおよびハードウェアの開発により、最大で2,000平方フィートの住宅を3D印刷できるようになりました。タブレットの操作で駆動するVulcan IIと呼ばれるロボティックプリンターを使っています。ボットは、特別に調合されたコンクリートの混合物から家屋を建築します。そのコンクリートは、価格や全体の構造を犠牲にすることなく、すばやく建築できるように設計されています。Iconは、家屋の枠を組み立てるために従来必要とされた人間の労働にとってかわることにより、すばやく、かつ、従来的な建築技術の50%減のコストで建築できます。同社はいくつかの小規模プロジェクトに奮闘してきました。実際の試練は、そのテクノロジーが3D印刷の住宅を大規模に展開できるかどうかでしょう。

タイニーホームには若干、おもちゃのような響きがあるかもしれませんが、これにもまた、国内全土に手頃な住宅を提供できる可能性があります。その建物は「アクセサリー・ドゥウェリング・ユニット」またはADUとも呼ばれ、成長する都市の住宅不足の10%から30%を緩和することができます。技術面から見た場合、ADUは土地占有面積が非常に小さいので、現場以外で製造するのに理想的な建築物です。現場以外の管理された環境で製造すれば、建築過程を微調整することにより、生産性を向上することが遥かに容易になります。

事業の側では、新たなスタートアップが、ほぼ誰でもADUを追加で建てることができるようにする、新しい方法を試しています。たとえその人たちにADU建設のための時間や資金がないとしても、です。例えば、Rent the Backyardは、住宅所有者の敷地(許可付きで)に前金なしでADUを設置しています。その代わりに、同社は、その先の賃貸料の50%を受け取ります。所有者側にとってみれば、考えるべき問いは「これに10万ドルを掛けたいだろうか」というものから、「毎月、追加の収入が欲しいだろうか」に変わります。

ADUの場合は、さらに規制の面でも追い風が吹いています。先月、カリフォルニア州政府は、州全体のADUを合法化する新法案に署名しました。仮に住宅所有者の10%がADUを建てたとすると、州内で新たに90万ユニットが増えます。非現実的に聞こえるかもしれませんが、そうではありません。バンクーバーでは、例えば、住宅の優に3分の1にADUがあります。

アメリカン・ドリームの再建

イノベーションと規制の関係にうまく折り合いをつけることができたとしても、アメリカの住宅危機は一夜にして解決するものではありません。それでも、野心のあるスタートアップがあらゆる角度からこの問題に取り組んでいます——コストを抑え、生活様式のイメージを作り変え、新たな事業モデルで実験をしながら。もし成功すれば、これらのテクノロジーが役立ち、人類の最も偉大な発明である都市が、自らの成功の犠牲者にならないようにすることができます。このようなアイデアは、浸透している構造的な障害を緩和することで、機会をつかむために移動する自由を再び人々に与えてくれます。

 

著者紹介

Rex Salisbury

 

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: The Housing Market is Killing the American Dream (2019)

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