スタートアップにおけるリーダーシップ (Startup School 2019 #19)

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Ali Rowghani
皆さん、おはようございます。私はY Combinatorでパートナーを務めているAli Rowghaniと申します。皆さんの前で講義ができることを嬉しく思います。

スタートアップスクールの講義も終盤ですが、本日の内容は、ある意味で終盤にとてもふさわしいものだと言えます。なぜなら、私の講義はリーダーシップに関するものだからです。

リーダーシップは重要ですが、ここにいる皆さんにとって最優先事項ではないでしょう。スタートアップを立ち上げ、どのようなプロダクトを作るべきか検討し、Product/Market Fitや資金調達などに取り組んでいる皆さんには、喫緊の課題が他にあるはずですから。

しかし、リーダーシップは長期的には極めて重要な問題です。なぜなら、皆さんが将来、大会社を作ることに成功した場合、優れた人材をリードし、動機付けし、維持することに長けている必要があるからです。ですから、本日の講義では私の経験を皆さんと共有し、スタートアップのアーリー段階におけるリーダーシップについて考えるためのメンタルモデル形成の一助となればと思います。

経歴

ではまず、私の経歴を簡単に説明しましょう。Y Combinatorに来る前、私は2つの会社の経営幹部として合計15年働きました。1つ目が約10年間在籍したアニメーションスタジオのPixarで、最後の4年間はCFOを務めました。そして転職したTwitterに約5年間在籍し、入社当初はCFOを、後にCOOを務めました。

その間に私は、Pixar創業者のEd(Edwin) Catmullや同社CEOのSteve Jobs、Twitter創業者のJack Dorsey、Ev(Evan) Williams、Biz Stoneの3人など現役の傑出したリーダーと共に働き、その人となりを観察する素晴らしい幸運に恵まれました。そして今はYCで、CEOのPatrick Collison、Peter Reinhardt、Drew Houstonなどの傑出した創業者たち、現役の優れたリーダーたちを間近で観察する機会に恵まれています。

リーダーシップの3つの知見

そこで本日の講義では、私がキャリアを通して学んだリーダーシップに関する3つの知見を共有したいと思います。先ほども言いましたように、このテーマは、皆さんが今はまだ少人数でアイデアに取り組んでいるという場合、今すぐに関係してくるものではないかもしれませんが、皆さんの大半にとって極めて近い将来に関係してくることを願っています。

では、リーダーシップに関する3つの知見を説明していきましょう。

典型的なリーダーなどいない

1つ目は、優れたリーダーに唯一の手本というものはない、典型的リーダーなどいない、ということです。優れたリーダーとは多種多様で、性格や特徴も千差万別です。これは私の個人的体験に基づくもので、私にとっては重要な教訓となっています。

かつての私は、優れたリーダーになるために、そして人々が自分についてきてくれるためには、リーダーとしてあるべき姿、リーダーとして取るべき行動のように、リーダーシップの手本が存在すると考えていました。しかし、私が共に働き、観察してきた優れたリーダーたちは全員全く異なっていました。内向的な人もいれば外向的な人もいて、技術屋もいればストーリーテラーもいて、人当たりが良くて非常に温厚な人もいれば、感情的で少々短気な人もいて、オタクもいればクールな若者もいました。

そう考えると、リーダーが千差万別であるというのは、本質的には誰もが優れたリーダーになる素質を持っているとも言え、ある意味、呪縛から解放されるように感じます。

ありのままの自分でいること(誰かをまねようと自分を偽らないこと)

しかし、後ほどまた触れるもう1つの重要なポイントですが、優れたリーダーを目指す人、他者に支持される人物になろうとする人は、ありのままの自分でいる必要があります。自分の真の姿を偽ってはいけません。優れたリーダーになりたいのであれば、他者を模倣してはいけません。Steve Jobsを真似ることはできませんし、他者に自分をSteve Jobsのように思ってもらうことを期待しても無駄です。

数年前、Netflixの素晴らしいCEO、Reed Hastingsの発言を読んだことがありますが、彼も同じようなことを言っていました。彼曰く、CEOとしてのキャリアの最初の数年はとにかくSteve Jobsを真似ようとしていましたが、そのうちそんなことは不可能だと気付いたそうです。自分はReedでなければならない。彼をより優れたリーダーにしたのは、こうした単純な気付きでした。

結局のところ人は自分以外の人間にはなれません。なぜなら、人は「本物ではない」ことを見破るのが非常に得意だからです。私たちは他者が自分を偽っているのを見分けるのが非常に得意で、偽物と思われる人を支持したり信頼したりすることは、ほぼありません。このように、リーダーシップに手本などないというのがリーダーシップに関する1つ目の知見です。誰もが優れたリーダーになれる可能性を持っているわけですが、そのためには自分を偽ってはいけません。

優れたリーダー共通する3つの特質

2つ目の知見は、優れたリーダーに手本はないものの、彼らには共通して見られる3つの特質がある、ということです。優れたリーダーになりたければ、この3点に長けている必要があります。

1.思考とコミュニケーションの明確さ

1つ目の特性は、優れたリーダーは思考とコミュニケーションが明確であるということです。これは世間一般の共通認識です。他者に支持されるためには、そして自分がやってもらいたいことを他者に進んでやってもらうためには、相手に理解してもらえるよう将来のビジョンを明確に説得力ある形で伝えられる能力を身に付ける必要があります。

会社が成長するにつれて、組織が大きくなるにつれて、より巧みなコミュニケーションが必要となります。なぜなら、皆さんの言葉をより多様な人々が聞くようになっていくからです。そして、皆さんがコミュニケーションに用いるプロセスはもはや1対1ではなくなり、組織自体がスケールするにつれてコミュニケーションプロセスもスケールする必要があります。

コミュニケーションをシンプルにする

良好かつ明確なコミュニケーションに関する私にとっての最大の教訓、最も重要と思われる教訓は、優れたコミュニケーションはシンプルでなければならないということです。シンプルなコミュニケーションを行うのは実に難しく、多くの時間と準備が必要となります。

Woodrow Wilson(第28代米国)大統領を例にして説明しましょう。スピーチを頼まれた時、その準備にどれくらいかかるかと尋ねられた大統領は、「それは私にどれくらいの長さのスピーチをして欲しいかによる。10分間のスピーチの場合は2週間必要だ。30分間スピーチして良いのなら1週間あれば良い。しかし、好きなだけ話せるのなら、準備は全く必要ない。今すぐにでも話を始められる」と答えています。

元大統領の言葉は問題の本質をとらえています。シンプルでわかりやすいコミュニケーションをし、記憶に残る、反復可能なメッセージを伝えるためには、準備期間が必要です。

私にとってのもう1つのビジネス上の好例は、Jeff Bezosの例です。「Amazonのリテール戦略とは何でしょうか?」と尋ねられた彼の回答は、「リテール戦略に関する私たちの考え方には、世の中において不変の3要素がある。言い換えれば顧客は常にAmazonに3つのことを求める。より安い価格、より幅広い品揃え、より速い配送だ」というものでした。

より安い価格、より多くの商品、より幅広いラインナップ、そしてより速い配送です。消費者がこの3つの逆を求めることなど考えられない、ということでした。そして、これら3つは過去20年間のAmazonにおけるリテール戦略の柱となりました。

従業員は、より安い価格、より速い配送、より幅広い品揃えという3点の追求のために行うことは全て、長期的にはAmazonの戦略的利益となることを理解していました。これは極めて明確で、長きにわたり同社の戦略を推し進めました。

これこそが先ほどお話ししたコミュニケーションです。このシンプルさこそが、効果を生みます。では、このようなコミュニケーションができるようになるためにはどうすれば良いのでしょうか?わかり切ったことですが、簡潔なコミュニケーション能力が自然と身に付いている人もいます。しかし私は、コミュニケーションは練習によって上達すると思っています。そして、2~4人で経営している小規模スタートアップであっても、共に働く人間がいる限り、明確なコミュニケーションに取り組むことは有益です。

明確な言葉の前に明確な思考あり――時間を取って考えて書き留める

コミュニケーションを向上させるための第一の秘訣は、「明確な言葉の前に明確な思考あり」と認識することです。つまり、明確なコミュニケーションには明確な思考が必要となります。

まずやるべきなのが、スケジュールを空けて考えるための時間を確保し、自分の考えをメモし、それらの考えをより明確な形で表現する方法を模索してみることです。そして、自分のコミュニケーションについて構想を練り、練習します。

これは、ある程度の従業員がいる、少し大きめの規模の会社においてより有効かもしれませんが、いずれにせよ従業員の前で話す場合、即興ではいけません。事前に準備をし、内容を書き留めておくようにしてください。会社の規模がある程度大きい場合は、少人数を前にした練習を行い、コーチングを受け、フィードバックを受けてください。これらのことは全て、より良いコミュニケーションを行うために役立ちます。そして、これを今すぐ始めない手はありません。それほど根本的なスキルです。

さて、ここまで説明してきたことですが、優れたリーダーは皆異なりながらも、共通して3つの基本的特質を備えていて、その1つ目が明確な思考と言語でした。

2.人を見る目が優れている

2つ目の特質は、優れたリーダーは人を見る目も優れている、ということです。

なぜこれが重要なのでしょうか?なぜ、あなたは人を見る目に優れている必要があるのでしょうか?組織が成長し、スタートアップが成長していくと、従業員はやがて20~30人の規模になっていきます。その過程では、従業員を採用したり昇進させたりして、社内のリーダーや、マネジャー、取締役、そして将来的にはヴァイスプレジデントなどのポストにつかせる必要が出てきます。

社内のリーダーとして誰に権限を与えるかの判断は、会社の命運に重大な影響を及ぼします。そして、権限や権力を委譲する相手に関する判断を間違え続ければ、皆さんの権威やフォロワーシップ、皆さんに対する信頼も失われていくでしょう。権限を与える相手は将来的に皆さんの分身になるため、誰に権限を与えるかについて最良の選択をする必要があります。

では、こうした判断力を向上させるためにはどうすれば良いのでしょうか?先ほどと同じように、他の人より優れた判断力、高いEQ(Emotional (Intelligent) Quotient:心の知能指数)が元々備わっている人もいるでしょう。繰り返しになりますが、これも皆さんが今いる段階より少し先の話になります。

採用の時には多くの人と会う

私ができる最善のアドバイスは、従業員の採用をするようになったら、多くの人々と会うように心掛ける、ということです。そのために多くの時間とエネルギーを費やすべきです。採用する見込みがない人とも会おうとする必要があります。なぜなら、優れたリーダーとはどんな人物か、優れたエンジニアリングマネジャーやセールスリーダーとはどんな人物かなどを理解するうえで重要だからです。

彼らの仕事や経歴、どういう経緯で現在の立場に至ったかについて話を聞いてみましょう。彼らが取ったリーダーシップ手法の中で、有効であると思うものとそうでないものについて尋ねてみましょう。こうした勉強のためのインタビューは、皆さん自身や、皆さんの物事や人物の良し悪しに関する判断力を養うために役立つでしょう。

こうしたことを時間の無駄とは思わないでください。皆さんの多くには、初めてシニアレベルの人を採用する日がいずれ訪れるでしょう。CFOを採用した経験はまだないでしょうが、手抜きをせず、人と会って自分の直観を磨くことに時間をかけてください。

採用プロセスは学びのプロセス

もう1点お話ししておきたいのは、会社が大きくなり始めると、間違いなく皆さんは多くの人材を募集し、雇用する必要が出てきて、その中には成果を出せない人も出てくるということです。

採用プロセスは一瞬一瞬が学びの時間であると理解し、採用した人物の人柄やその人物を採用した理由、採用時の成功点と失敗点、オンボーディングの状況や社内でのキャリアについて入念に調べてください。社内の人材の開発や権限移譲に関する自分の判断についての内省を心掛けてください。

3.個人としての高い誠実性とコミットメント

さて、優れたリーダーに共通して見られる特質の3つ目です。それは、個人として高い誠実性とコミットメントを持っていることです。

これは、自身という枠を越えて、より重要な物事を優先させ、視野の狭い個人的な利益の外にあるものにモチベーションを見出すことを意味します。えこひいき、利益相反、不適切な言葉、不適切な労働関係など、リーダーとしての信用や信頼性を損なう行動を避けることを意味します。

コミットメントとは、他者を鼓舞する形で自分の仕事を生涯の使命とし、それに全身全霊で取り組むことを意味します。こうしたリーダーの姿を目にした人々は、敬意を払い、それを支持します。

透明性テストを自分に課す

では、これを身につけるにはどうすれば良いのでしょうか?私からのアドバイスはシンプルで、自分自身に透明性テストを課すようにすることです。

透明性テストとは、あなたのプライベートなコミュニケーションや他者に対する行動が全て社内にトランスペアレントであった場合、つまり、あなたの発言や行動の全てが皆に見えてしまった場合、その中に恥ずべきものがあるか?と考えてみることです。

当然、誰でも過ちを犯しますが、それを繰り返すことは良くありません。そして、自身の誠実性や、誠実性に関する印象を損なうような過ちは最悪です。ですから、これはリーダーとして非常に重要な特質だと思います。

信頼がリーダーシップのメトリクス

では、リーダーシップに関する知見の3つ目に移りましょう。1つ目は、リーダーとは皆異なっていて決まった手本はない、ということでした。2つ目は、そうした中でも、リーダーにはコミュニケーション、人を見る目、誠実性とコミットメントという3つの共通した特質が見られることでした。そしてリーダーシップに関する知見の3つ目は、優れたリーダーであるかを評価するためには、その人が同僚、部下、関係者などとの間にどれだけの信頼を生み出せているかを測るのが一番だ、ということです。

信頼とは、リーダーシップの成功を測るメトリックであり、この場合の信頼とは360度の全方位からの信頼を意味します。私は、どのような組織であれ、リーダーの仕事とは信頼関係を構築することだと考えています。従業員や投資家、顧客、ユーザーなどとの信頼関係の構築です。そして、信頼関係の構築には芸術的側面と科学的側面の両方が必要となります。

信頼を得るためには正しい判断を下し続ける

信頼の科学的側面は実にシンプルで、自分のビジネスにおける実証的問題について正しい判断を下すことです。このプロダクトを作るべきだ、この顧客に販売すべきだ、この方法でプロダクトを市場に出すべきだと予測を行う場合、時間が経つにつれてその選択が正しかったか間違っていたかが明らかになります。

ここで間違った選択より正しい選択のほうが多ければ幸いです。なぜなら、間違いを重ねていると他者からの信頼が失われるからです。例えば、「2+2は?」という問いに対して、常に「5」という答えが返ってくる人がいるとします。その人がこの世で最も信用できる、倫理感あふれる人物だとしても、数学が絡む話に関してはその人を信頼することはないでしょう。これが信頼の科学的側面です。これを理解している創業者は多いと思います。

問題に対して共感や判断力を見せる

そして、信頼関係構築の2つ目の側面はどちらかというとアート的です。これは問題に直面した時に、タイミング良く、共感や優れた判断力を見せられることです。自己中心的、利己的になることなく、自分自身よりも大きなものを求めて努力できることです。芸術的側面での信頼関係構築は当然、細心の注意を要するデリケートなテーマですが、先ほど説明しましたように、練習を通じて上達する可能性はあります。私は常にこの点を心に留めておこうと心掛けています。

皆さんは、これから大会社を作り上げていくリーダーの卵とも言えます。そんな皆さんとのお別れにあたり、アドバイスを贈りたいと思います。

自分自身の道のりを一歩ずつ歩んでいく中で、常にリーダーとしての信頼性を最適化するよう心掛けてください。この先、皆さんは多くの難しい決断を下すことが求められるでしょう。社員を解雇せざるを得ないこともあるでしょう。顧客に対して、自らの過ちを認めざるを得ないこともあるでしょう。相手の意見やアイデアに賛同できなくて「ノー」と言わざるを得ないこともあるでしょう。自身が直面するあらゆる困難を、リーダーとしての信頼性を高める機会、信頼関係構築の機会と捉えるようにしてください。

そして、一方の進路を他方の進路と比較して評価する際は、自分のリーダーとしての信頼性を高めるのはどちらの進路かを自問し、必ずそちらの進路を選ぶようにしてください。それがここを卒業する皆さんに贈る最後のアドバイスです。

皆さんの幸運と成功を祈っています。本日ここで講義ができたことに感謝しています。ありがとうございました。

 

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: How to Lead (2019)

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