25万通のメールからの学び

私は毎週末、The Preparedというタイトルのニュースレターを数千人の読者に向けて送っています。私が10年間ほど働いてきたエンジニアリング・製造分野をテーマとしており、この3年半ほどで私のキャリアにとってなくてはならないものになりました。

私はこれを意図したわけではありません。これを行うことでどんなふうに友達ができたり、人に影響力を持ったりするのかなどまったく考えずにThe Preparedを始めたのです。ニュースレターの管理や執筆に必要な作業時間は、私の1週間のスケジュールの隙間時間から捻出します。地下鉄の中や、ランチ中、家族が寝た後の時間などです。私の仕事や個人ブログサイドプロジェクトがある上で、それらのプラスアルファとして書いています。ニュースレターは、これらのどれよりも、また私が毎年カンファレンスで行う全6回程度のトークよりも時間がかかります。そしてこれらすべての中でも最も一貫して、またより奥深い形で、報いが得られるのです。

以下は私がその途中で学んだいくつかのことです。

何よりも粘り強さを

私は自分には独自の見解があり、自分の情報収集は的を射ていると思いたいです。またThe Preparedがカバーするテーマには幅広さとフォーカスのちょうど良いバランスがあるとある程度確信があります。しかしこれまでの成長にとって最も重要だった要素は一貫性を持って続けることです。

最初の頃、The Preparedの送信先はほとんど0人でした。それまで私がメールを送ったことのある相手全員に送り、まだ存在すらしていなかったこのニュースレターを購読するよう勧めることも考えましたが、それよりもとにかく配信を始め、自然に育たせることにしました。このやり方は特にやりがいはなく、孤独な作業でした。でも、私のフォーマットや文体のいくつかの拙い部分を修正するのには役立ちました。そしてついに最初の購読者を得たときには、自分で獲得したように感じられました。以来、一週も休まず配信を続けています。

もちろんニュースレターのアプローチには他の方法もありますが、どのやり方を選ぶにせよ、一貫性を持って定期的に配信することを勧めます。完璧に仕上げることの価値よりも、確実に届けることの価値を大切にしましょう。きっと大きな実を結びます。

人はEメールが好き

私がThe Prepared を始めたのはちょうどSlackの人気が爆発してきた頃で、当時はeメールの死が迫っているのではないかという話題で持ちきりでした。それ以来、私は25万通程のメールを配信してきました。しかもほとんど会ったことのない人たちに対してです。そして私がわかる限り(私が予想したのとは逆に)、彼らはそれを気に入ってくれています。

結論としては、メールは人が抱える問題への効果的なソリューションであるということです。そして、それが変わりうる理由は私には考えられません。メールのユーザーベースは巨大で、文化的・地理的な境界線を越えて容易にメッセージを広めることができます。ただしメールは個人的なものでもあります。口語的なメッセージやプレゼンテーションも簡単に送れるプラットフォームであり、普段親しくしている人からのメールと一緒くたに届けられます。

端的に言いましょう——あなたが十分な数のメールを書けば、人はあなたのことをよく知ってくれます。これは財産です。無駄にしてはいけません。

視点と見解

ベン・トンプソンはすばらしいニュースレターを運営しています。でもあなたはベン・トンプソンではありません。良いニュースレターを運営することは、世界に対するユニークで貴重な視点を持つということです。記事のリストを毎週メール送信してほしいなどという人はいませんし、そこに何らか有意な価値をプラスできなければオーディエンスは育ちません。ですから新たな週を迎えるたび、あなたの主な仕事は、あなた自身の具体的にどこが面白いのかを探り特定することになります。

フォーマットについても同じことが言えますが、私の経験ではこちらはより柔軟です。ほとんどの人は(私も含め)、様々な角度のコメントが散りばめられたリンクのリストを想定します。しかしそれ以外にも、メール内エッセイアート的メール、「最近読んだ5つのこと」などの形もあります。実験するのは良いことですが、事前に最適形を決めないようにしてください。最大の効果は一貫性、テーマ、そしてあなた独自の見解に集中することからもたらされます。

オーディエンスを育てる

The Preparedを構築する3年半の中で試したすべてのことのうち、最もオーディエンスの増加に貢献したのは質の高いコンテンツでした。

ここでの明らかなサブアイテムは、あなたが注目を得たい会社について書くことです。これは成功が保証された戦略ではありませんし、アップル特集号を発行したからと言ってapple.comドメインのアドレスからの登録が殺到するなどと思ったらその期待は裏切られるでしょう。しかし、普段あまり取り上げられない会社を狙い、あなたが本当に面白い内容を書けるのなら、そのリターンは何倍にも膨らむでしょう。

理想的には、あなたの読者自身も専門家であることが望ましいです。あなたがカバーする業界で働く購読者を持つことは非常に貴重なことです。

さらにもう一歩——手の届く存在でいることです。これを覚えておいてください。あなたが書く内容は読者の受信ボックスに送られます。またあなたが書く内容は読者の関心を引くものであることが前提です。オーディエンスから学び、可能な限りオーディエンスから手の届く状態でいましょう。私自身は気前の良いポリシーを設定していますが(求めてきた人にはコーヒーを奢ることにしています)、最近は積極的に時間を設けないとなかなか実行できません。でも後悔したことはありません。

読者ベースを拡大するためにThe Preparedのプロモーションをやってみようと、小さな広告キャンペーンを軽く行ってみたこともあります。その効果は、業界内での私の認知度度向上のための様々な試みの中では霞んでしまうような小さなものでした。こうした認知度向上のための試みには、カンファレンスでの登壇、同業者との関係維持、尊敬すべき仕事をしている人に突然メールを送ることなどが含まれます。つまり言い換えれば、オーディエンスは自ら獲得するものです。そしてすべての人をネット上で獲得できると思わないようにしてください。

思想的リーダとしての人生

まずはこの点をクリアにしておきましょう:思想的リーダーになるという考え自体、下品な考えです。でも、だからと言って思想的リーダーになりたいと考えてはいけないわけでもありません。

他の世界と同様、ネットで何かのテーマについて書く唯一の人間でいることは、そのテーマで何かを行っている唯一の人間であることとほぼイコールであると言えます。専門家として見られることは権威があるように見えることであり、権威があるように見えることは積極的に発言すること以外のほぼ何物でもありません。そしてもしあなたが、頭が良く、率直で、自分の視点を形成する時間を少し持てば、「ふーん、ニュースレターを配信してるんだ」と言われることと、実際に業界への影響力を持つことの間には、思うほど違いはないことがわかるでしょう。

もちろん私は少し皮肉を込めて言っています——私は思想的リーダーになりたいなどカケラも思いません。BMW 7シリーズに乗った、タンニングスプレーの嘘っぽい日焼け肌の不動産屋と同じくらい、なりたくない人種です。The Preparedは私が何らかの影響を与えたい業界や会社への独自のリサーチに基づいて育てたものです。私はトレンドを察知できる人間として見られるよりも、自分で何が起きているかの事情を知ることをはるかに重視し続けます。

それを踏まえた上で書きますが、The Preparedの一回毎の費用対効果は私が過去5年間で行ってきたすべてのことの中でも最も大きいものです。これはセルフプロモーションの話ではありません。業界とメディアの間に身を置くことで、私は市場の力を独自の視点で理解する力がつき、顧客や競合他社、協業会社との繋がりができました。また過去3年半にわたり毎週日曜に私の考えを書き続け、積極的に発言してきたことで、他の時間にやっている仕事に対する人々の態度も変化してきました。

ニュースレターの運営はイノベーティブなことではありません。珍しくオフだった週末の終わりに、購読者の期待に応えて気の利いた内容の定期配信をやり遂げることは難しいこともあります。でももしあなたに言いたいことがあり、業界に影響を与えたいのなら、これは莫大なレバレッジをもたらします。そしてあなたの足跡を残し続けようとする中で、最終的には非常に貴重なネットワークが形成されることでしょう。

 

著者紹介

Spencer Wright

 

記事情報

この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: Lessons From a Quarter Million Emails (2017)

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