ピッチの主役は起業家(あなた)ではなく「聞き手」です

 

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起業家のピッチを聞いていると、起業家の方が自分が話したいことを話したり、まるで自分が主役かのように話しているようなケースに遭遇します。

しかし情報提供や説得を行うようなコミュニケーションにおいては、ほとんどの場合、聞き手が主役です。「聞き手に行動を起こしてもらう、考えを変えてもらう」ことが話者の目的だからです。

たとえばセールスを行うときは聞き手が主役です。なぜならセールスパーソンは、聞き手がプロダクトやサービスを買うかどうかの意思決定をするための情報を提供しているのであり、意思決定の主役は顧客だからです。

スタートアップのピッチにおいても同様です。投資家向けピッチであれば投資家が主役です。ピッチイベントであれば、意思決定をする聴衆や審査員が主役です。聴衆の意思決定を手助けするために、ピッチという形で起業家は情報を提供しています。

確かに話者はその喋っているトピックについて、その場で最も詳しい人かもしれません。しかしあくまで主役は聞き手であり、話者は助言者という立ち位置であることを忘れないでください(教師もそうです)。

こう考えると、どのような情報をピッチで提供するべきかが少しだけ見えてきます。

ピッチをする前に考えるべき4つのこと

スタートアップのピッチに限定して考えてみると、聞き手のことを考えたときに考慮したほうが良いことがいくつかあります。

一つは相手を知ることです。事前知識としてどの程度の知識を持っているか、何がゴールでどういう動機でその場にいるのかを知らなければ、その人たちを効果的に動かすことはできません。プレゼンに慣れている人達が、参加登録者のことを事前にしきりに聞きたがるのはこれが大きな理由の一つです。たとえばピッチの場合、聞いている人たちはその領域の初心者と考えたほうが良いでしょう。なので専門用語などは極力省くようにしたほうが良いケースが多くなります。

二つ目は、Call to ActionやAskを設定することです。聞いた後に、どういう行動をしてほしいのか、聞き手に伝える必要があります。たとえば投資が欲しいならはっきりと「資金を調達して、このようなことをしたいと考えています」と書き、コンテストで優勝したいなら「優勝賞金を使って、こういう次のステップに進みたいです」と書いてみましょう。ピッチスライドの最後のCall to ActionやAskを書いていないケースはなぜか多くあります

三つめは、ピッチのフォーマットに従うことです。フォーマットに従うことで、聞き手が聞きやすい構成にできます。たとえば、筆者(馬田)が昔作ったシード向けピッチテンプレートも参考にしてみてください*1。これは Y Combinator のものをベースに構成したテンプレートで、比較的シンプルかつ抜け漏れのない構成になっています。

最後に、言葉を明確かつ簡潔にすることです。多すぎる情報は相手に伝わりません。私もブログやスライドで苦労します。しかしそれを考え抜く価値はあります。

フォントサイズは28pt以上、できれば 36 pt 以上にして、あえて大きめの文字に制限しましょう。そうすればメッセージを簡潔にせざるを得なくなります。なお、フォントが大きくて一枚のスライドに入りきらないので複数枚のスライドにする……ということはないようにしてください。

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「相手のことを知る」「Call to Action や Ask を設定する」「ピッチのフォーマットに従う」「言葉を明確かつ簡潔にする」の四つのポイントを踏まえながら、ぜひピッチを構成してみてください。そうすることで、聞き手の意思決定を助けられ、あなたのほしい成果が得られるはずです。

まず第一歩として、ピッチテンプレートのスライドをダウンロードしてみて、文字だけで一度自分のアイデアを構成してみてください。テンプレートに文字を入れていくだけでも、思考の整理も進むはずです 😀

 

著者情報

馬田隆明

東京大学 FoundX ディレクター。University of Toronto 卒業後、日本マイクロソフトでの Visual Studio のプロダクトマネージャーを経て、テクニカルエバンジェリストとしてスタートアップ支援を行う。2016 年 6 月より現職。 スタートアップ向けのスライド、ブログなどの情報提供を行う。著書に『逆説のスタートアップ思考』『成功する起業家は居場所を選ぶ』。

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